5月号

今月のテーマ:女性とホルモンと病気


 女性の病気には、ホルモンの分泌と密接に関わっているものがあります。ホルモンの中でも、女性にとって特に大切なのは、卵巣から分泌される2種類のホルモン、卵胞ホルモン(エストロジェン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)です。卵胞ホルモンは女性ホルモンとも呼ばれ、「女性」を「女性」らしくするためには、なくてはならないホルモンです。一方、黄体ホルモンは妊娠と深いかかわりを持っています。まず、この2つのホルモンについて理解しましょう。

卵胞ホルモン(エストロジェン)

 卵胞ホルモンは思春期以降分泌が活発となり、乳房がふくらみ、丸みを帯びた体型になるのは、卵胞ホルモンの働きによるものです。つやつやした髪や、しっとりとした肌をつくったりする働きもあります。卵胞ホルモンは子宮にも働きかけ、内膜を厚くして、受精した卵子が着床しやすくします。これは月経とも関わってくる重要な働きです。
 他にも精神活動を活発にしたり、コレステロールの増加を抑えて動脈硬化を予防したりと、多くの働きをします。卵胞ホルモンの分泌は、成熟期をピークにしてそれ以降は少しずつ低下し、更年期を迎えると、分泌量はわずかになってしまいます。

黄体ホルモン(プロゲステロン)

 女性の生理周期の中で、排卵が起こると、卵胞は黄体という組織に変化し、黄体ホルモンを分泌します。黄体ホルモンの第一の役割は、卵胞ホルモンによって増殖した子宮内膜に作用し、受精卵がさらに着床しやすい状態にすることです。
 受精卵が着床し、妊娠が成立すると黄体ホルモンはそのまま分泌され続け、子宮内膜の状態を維持するよう作用します。一方、受精卵の着床がなく、妊娠が成立しない場合、約2週間で黄体は退縮し、黄体ホルモンの分泌もストップします。そして、子宮内膜は剥離し、子宮の外に押し出されます。これが月経です。また、黄体ホルモンは体温調節中枢に作用して、体温を高くする働きをもっています。

更年期障害とホルモン

 更年期は、女性の一生の中で性成熟期から老年期への移行期と位置付けることができます。閉経の前後数年(40〜55歳頃)の期間で、卵巣の機能が衰え始めて女性ホルモンの分泌量が激減し、妊娠しにくくなったり、月経が不規則となり、ついには停止します。女性ではこの時期に間脳‐下垂体‐卵巣系に顕著な変化が起こるため、種々の自律神経失調症がみられることがあり、これを更年期障害と呼びます。
 更年期障害は、更年期に現れるいろいろな不定愁訴であり、成因には自律神経性と心因性があります。不定愁訴としては、ほてり、のぼせ,発汗、冷え性、頭痛、めまい、耳鳴、不眠、しびれ、知覚鈍麻、肩こり、腰痛、頻尿、疲労感、食欲不振 など多岐にわたります。いずれも自覚症状のみで他覚所見がみられないことが特徴です。自分はこんなにつらいのに、周囲になかなか理解してもらえないといういらだちを患者さんは訴えます。内科や神経科などで症状を訴えて、検査をしてもはっきりした原因は見つかりません。そうしたときに更年期障害を疑って、それに応じた対処をしてもらえれば速やかに症状が消失するのですが、対症療法のみだとすっきりと症状が消失しないことがよくあります。

骨粗鬆症とホルモン
 骨は毎日少しづつ作られ、また、少しづつ壊されています。作られる骨の量より壊される骨の量が多くなると骨粗鬆症になります。実際には、様々な要因が重なり合って骨粗鬆症が発症すると考えられています。女性は50歳前後の閉経期から、卵胞ホルモンが著明に低下します。卵胞ホルモンは骨の形成を促進し、また、骨の減少を抑制する作用があり、卵胞ホルモンの低下が骨粗鬆症の発症に関与していると考えられます。その他の原因として下記のようなものがあげられます。

・カルシウム摂取不足:日本人は欧米人に比し牛乳や乳製品の摂取量が少なく、骨粗鬆症の原因として重要です。
・ビタミンD不足:ビタミンDには腸からのカルシウムの吸収を良くし、また、腎臓から尿としてカルシウムが体外に失われるのを防止する働きがあります。日光不足などでビタミンDが不足します。
・運動不足:運動は骨を刺激し、骨の形成を刺激します。年と共に運動量が低下すると骨粗鬆症の原因になります。また、骨粗鬆症による骨折のために運動量が低下すれば、悪循環に陥ります。

高脂血症(高コレステロール血症)とホルモン

 成熟期に分泌される卵胞ホルモンは、コレステロールを低下させて動脈硬化を予防するホルモンでもあります。どの国でも、女性が男性より長生きするのは卵胞ホルモンによるのではないかという人もいます。このホルモンが更年期から低下し始め、閉経をむかえると極端に減少します。その結果、更年期以降の女性のかなりの方に高脂血症が見られることになります。日本人の50歳以降の女性で、肉食中心の人はあまりいません。コレステロールが高いというと、すぐ食事を問題にしますが、その前にこうしたことを知っておく必要があると思います。高脂血症を改善する薬は近年目覚ましい進歩をとげ、検査値にあわせて使用することで確実にコントロールすることができます。この病気は自覚症状がなく、それでいて、心筋梗塞や脳硬塞といった怖い病気の原因になりますので、コレステロールの異常を指摘されている方は、医師に相談することが重要です。

ホルモン補充療法とは?

 女性ホルモンの急速な低下に起因する身体状況の様々な変化に対し、最も有効な治療手段として近年、ホルモン補充療法が注目をあつめています。この治療は、卵胞ホルモンや黄体ホルモンを、錠剤として毎日規則正しく服用するものです。更年期障害の治療目的では閉経後1〜5年程度行なえば必要がなくなることが多いようです。更年期障害のうち、ほてり・のぼせ(hot flush)、発汗、頻脈、泌尿生殖器委縮にはホルモン補充療法の効果が高く、不眠やうつ症状に対しては30−50%程度の有効性があるといわれています。長期投与により、骨粗鬆症の予防、高コレステロール血症の改善、心筋梗塞などの動脈硬化予防効果があります。
 長期(10−20年以上)にホルモン補充療法をおこなうと子宮体癌(子宮内膜癌)や、乳癌の発生頻度が若干増加するとの報告があり(逆に減少するという報告もある)、年に1度、子宮癌、乳癌検診を受けることが必要です。ホルモン補充療法は欧米では、閉経後、女性の3割が行っているのに対して、日本ではようやく知られるようになったというのが現状です。

(2000年5月)

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