◎愛し愛されるには

041 2004/06/29



祝5000HITお題雑文  ◆ちなつ様よりお題提供

 :雑文挿入指定「東京恋愛専科」「または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」


 知っているだろうか?東京のどこかの片隅にに恋愛の悩みや愚痴、相談を受け付ける専門の病院がある事を。24時間受付で、治療費は、患者が恋の悩みを解決した時、または新たな道を踏み出した時の晴れ晴れとした笑顔だ。一切利益を求めない現代の駆け込み寺。

 そこが東京恋愛専科総合病院。

 今宵もまた心の痛みを引き摺って生きる患者が一人、診察室へと足を運んぶ。

 彼の名はA(仮)。最近大切な彼女を失って生活も仕事も寝食もままならないと訴える。

 さらにA曰く、
「私は毎回毎回なんとか彼女は出来るものの、いつも大切な時に、大切な事を言えないでいる愚かな彼氏にしかなれない。愛想つかされては、あれよあれよという間に独り者。先生、なんでこんなになってしまうのでしょうか?」と。典型的な駄目駄目人間である。

 医師曰く、
「何回も恋愛してきているのにどうして今まで経験が生かされないのか、自分なりに整理し改善点を見つけて日々の生活に浸透させているのかね?毎回毎回が新たな恋、新たな考えは良しとしよう。しかしだ、恋愛だけではないが何事にも経験則が必要なのだよAさん。あなたが、例えば鍵を開けるプロだったとしよう。でも、一回も鍵を開けた事が無ければプロとは言えない。例え何回も鍵を開けてきたとしても、それを覚えていなければまたプロとは言えないでしょう?恋愛も同じです。人を愛する事を何回も経験していれば、方法や愛し方が違えども愛するという気持ちは自分の中で形になる。形になれば相手に伝わる。もしかしたらAさんは今まで本気で誰かを愛したとこはないのでなかろうか?」と。

 Aは考え込んだ。そしてふと何かを思い付いて話し始める。
「私は確かに先生のおっしゃる通り、もしかしたら人を愛した事が無いのかもしれません。肉欲に溺れ、または誰かが傍にいるだけで一人の寂しさを忘れられる、そんな心地よさに酔っていただけなのかもしれません。でも、一人は寂しいし、誰かが傍にいてくれないと私は駄目なのです。だからきっと私は一人になると、獲物を探す獣の様に新たな恋人を見つけようとするのかもしれません。常に世界の中心で愛を叫んでいるのかもしれません。」

 医師は少しの間、沈黙した。そしてふいに、
「Aさん、いつも別れはふいに訪れてきませんでしたか?」と聞いてきた。

 Aは素直に頷いた。
「何時の間にか、まるで交通事故に遭うように。毎回疑問符しか頭の中に残りません。」

 医師はやはりというような顔で、
「でしょうな。恋に落ちるのも終わるのもカウンターパンチの様なものかもしれない。突然の衝撃で心も生活も何もかも一変して混乱してしまう事は誰にでもある。しかし混乱ばかりしていては待っているのは別れだけでしょう。そしてまたは恋は言ってみりゃボディー・ブローなのかもしれない。ボディーへの攻撃は後からじわじわと効いてくる。つまり付き合っていけば自分とは違う生き方・違う価値観・そして認めようとする心、自分には無いものがじわじわと染み入ってくるもの。それらを受け入れる余裕を持つ事、それこそが愛するという事ではないだろうか?」

 Aは疑問が晴れたような顔でこう言った。
「なるほど。自分だけの我が侭や想いだけでは、一方通行であり、それは確かに愛する事にはならないですね。つまり相手を労り思いやる気持ちが足りなかったのですね?先生!」

 医師は頷きながら、
「そうかもしれないな。相手を考えられない人間が、大切な人を守ったり寄り添ったりは出来ないだろうし、自分本意では何も生まれはしないだろう。」

 Aは続けてこう言った。
「では、私はこれからどうしたら良いのでしょうか…?」

 医師はすぐさまこう告げた。
「それは私に聞かないでおくれ。もし知っていたら私には今ごろ奥さんと子供がいて、仕事から帰ったらきっと、家で待ってくれているはずだ。」と。

 Aは納得したように
「だからこんなにも的確に私の事が言えたのですね。」

 Aも医師も苦笑いを零していた。そうして何かを掴んだかのように顔が晴れ晴れとし、Aは診察室から出ていった。そして一人になった医師は溜め息交じりにこう曰く、
「本当は私こそ誰かに見てもらいたい。とほほ」

 ここは東京恋愛専科病院。愛に傷つき、迷う人が集まる病院。
 それは患者でも医師でも例外なく、愛に悩んでいる者の集まりであった。

 愛とは不可思議で悩みが尽きないものである。
 悩みを越えれば、もっと素敵に愛し愛されて生きていく事が出来るのかもしれない。

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