◎恐話百鬼夜行 第三夜
049 2004/07/17
◆樹海の霊
私がまだ専門学校モドキにいた頃の話です。
友達Sと私の暇な時間を埋めるべくドライブをしに静岡の方まで出向いていました。お互いかなりの暇人だったため車中での会話は始終、くっだらない駄洒落やら彼女が出来たら〜とか他愛ない話で盛り上がっていました。もうそりゃ〜そこら辺にいる女子高生に負けないくらい激しく、きゃっきゃらきゃっきゃら騒いでいました(苦笑)
ふと看板を見ると樹海に差し掛かっていました。お互い少し霊感が強かったため、引き返すかどうか話したのですが、まぁ平気だろうという話で纏まり、そのまま両脇を樹海で囲まれた県道を走っていました。
樹海の中腹まで差し掛かった時、車内は重苦しい雰囲気に包まれました。
(やばい…きた)私は運転するSに合図を送ろう思い視線を向けたのですがSも同時に私に視線を向けてきました。お互い同じタイミングで気付いたようでした。
S「乗ってきちゃったね…」
私「うん…来ちゃったね…」
二人は無言になりました。しばらくすると、今まで重苦しい雰囲気がだんだん悲壮感漂う雰囲気に変わってきました。
私「何か訴えたい事があるのかもしれない。聞いてみる?」
S「それしか方法無いみたいだな…」
どうしました?と心の声で話そうとした瞬間、私達の頭に少しぼやけた感じの映像がダイレクトに送られてきました。
仲の良い家族。小さな女の子と父と思しき人と2人で家の庭らしき所で微笑ましく笑いあっていた。女の子はブランコに乗り父が映写機で撮影(映写機が出てきた時点でかなり古い記憶である事は解りました)。女の子は何故か見ず知らずの私に向かってニコニコしながら楽しそうに話しをし、ブランコをこいでいた。そんな風景だった。
私達はこのビジョンから、この霊はこの家族の母であると思いました。何故なら女の子と父らしき人の姿を誰かの体に入り込んで見ているような感覚に成ったからです。
私達は、あー幸せな家族団欒の風景なんだと思いました。しかし急に場面は変わります。
激しく私とその父が罵り合い、女の子はひたすら泣いてる。そして私の手は近くにあった花瓶を持ち、その父の頭めがけて振り下ろした。その感触も音もはっきりと私は感じた。それから何度も何度も花瓶を叩き付けた。血まみれの手を見、私は顔を覆い泣いた。そして泣いている女の子に気付き近づき抱きしめ、何を思ったのか震えながら女の子の首に手を…。
「やめろ!!!」私とSは同時に叫びました。しかし映像は止まりませんでした。
…ぐったりとする女の子。私は二人を車に移し、走り出す。どこに行くのだろうと思っていたが、だんだん記憶に新しい風景が見えてくる。そうその車は今、私達が走っている県道に向かっていた。そして樹海のある県道に到着し私は家族を抱え、樹海の深い方へ深い方へと入って行った。これは無理心中の記憶の映像でした。
私「この人は悔いているんだね…。」
S「そうだね…。」
Sの言葉が終わるか終わらないかの時に頭の中に声が響いてきました。
本当に仲の良かった家族だった。私はとても幸せだったのよ。娘も元気に成長し、主人も惜しみない愛情を私と娘に注いでいた。でも、主人は愛人を作り妊娠させてしまったの。主人は私達をおいて、出て行くと言ったわ。離婚したいと切り出されて言い合いになったの。刺激の無い生活に飽きた、お前とは既に終わっているんだと罵られ、その瞬間私は頭が真っ白になって、気付いたら花瓶で主人の頭を殴り撲殺していた。信じていたのに裏切られたショックだったと思う。しばらく私は呆然自失だった。でも娘の泣き声で我を戻し、このままでは娘が独りになって不憫だと思い、そのまま殺め、私も死のうとここまで来たの。でも本当に幸せだった。大切な時間を沢山過ごしたわ。掛け替えの無い大切な時間が沢山あったの。私は酷い事を…。
彼女の後悔の念は痛い程伝わってきました。そして知らず知らず私達は泣いていました。彼女は続けてこう言ってきました。
ごめんなさいね。あなた達が楽しそうだったから、昔を思い出してしまって…。
私「いつまでもこの土地にいちゃ駄目だよ。」
S「大丈夫。ちゃんとあの世で罪を償えば新たな道を歩けるはずだよ。」
ありがとう…
S「きっと娘さんも待っているよ。」
私「こんなに悔やんでいるのなら娘さんにもきちんと伝わっているよ。」
聞いてくれて本当にありがとう…。
そして車内を包んでいた雰囲気が軽くなり彼女が出ていった事が解りました。私達はしばらくそのあとも泣いたままでした。
彼女は、明るくはしゃいでいる車を見つけては自分の犯した罪を告白し、回っている幽霊だったのかもしれない。
樹海を通る際には決して慌てませぬ様、努々お気を付け下さいませ。