◎一発芸伝説 1万HITお題雑文
090 2004/11/10
◆雲井薫生様よりお題提供
:題 名「一発芸伝説」
:書き出し「スライディング!如月八雲です」
:途 中「V字バランス!如月八雲です」
:締 め「開脚後転!如月八雲です」
スライディング!如月八雲です!背番号∞の如月八雲の放ったスライディング式バナナシュートで今、決りましたぁ〜!しかもロスタイム終了3秒前に勝ち越しゴ〜ル!!なんと、あの何でもできちゃう如月八雲が今回はサッカーの世界に飛び入り参加!さらに如月の生息地川崎の川崎フロンターレに電撃参戦!今年久し振りにJ1に戻ってきた川崎フロンターレ、如月のスーパーテクニックにあやかりJ1のTOPに今年こそは躍り出るのか〜〜!!
…ジリリリリリリリリ!♪♪♪♪♪ガバッ!…なんだもう朝か…しかも夢か…だけどすげぇ夢だな。俺がJリーガー?無理無理。見よ!妊娠6ヶ月を思わせるこの腹を!見よ!ダックスフントの様なこの短い大根足を!こんれじゃ絶対慣れるはずはない、あはははは…>少し悲しい;;
…そう言えばそろそろ「忘年会の」時期だなぁ。毎年毎年みんな面白い出し物やるんだよなぁ、すげーや。とブツブツ独り言を呟きながらネクタイを締める如月。
ここで説明しよう!「忘年会の」とは、如月の通っている会社で、年に一度忘年会と称し、一番面白かった芸をした者に賞金25万円を与えられる特殊な行事である。
そこでは、お涙頂戴もの観劇や腹芸・水芸・二人羽織りなど古いものや漫才など毎回、みんな至高を尽くした芸が披露される。そして社長が腹を抱え笑い絶賛された芸をした者には、25万円が出されると言うからみんな本気モード。バブルが弾けて給料も賞与も下がったこの時代、僅かな労力で手に入れる25万円は美味しい話なのである。だが誰もが目をぎらつかせながら腕を磨き挑戦するが、なかなか賞金を手に入れた者はいない。当たり前である。社長はあまり笑わない事で社内では有名な事実なのだ。しかし25万円を夢見て挑戦する者は後を絶たない。誰だって年末はリッチに過ごしたいのだ。如月もその一人である(苦笑)。
パンを齧りながら会社に向かう。電車の中で、去年は水芸、一昨年は芸能人のモノマネ。どれもだめだったなぁ…今年は電撃ネットワークばりの肉体酷使お笑いでもしようかな…いやいやだめだだめだ。年末に病院で入院して冬休みを棒に振るう訳にはいかないし。など過去を思い出している時、頭上でひらひらと動く物を見つける。それは中吊り広告だった。そこには、中刷り広告の中で笑っている鞍馬種目の銅メダリスト鹿島選手が目に付いた。
如月の頭の中に一瞬雷鳴が轟いた!鞍馬?あ・ん・ば?鞍馬!!これだ!これしかない!まだ社員誰も体育会系の出し物はやってない!25万円を手にするにはこれしかないのだ!
そう思った如月は今まで大事に溜めてきた有給60日を全て消化する事を決心した。会社に着くや、上司の席に突進した!上司は、鼻息ブホンブホンな如月を見て目を丸くしてた。
「部長!お話があります!」「な、なんだね?」
「実は昨日世界1周旅行が当たりました!着きましては60日ほど来週の頭から有給を
遣わせて下さい!遥か遠くにいる両親に世界を見せてあげたいのです!いいですね?
いいですよね?仕事は全て片付けますから!文句無いですよね!!部長〜〜!!!!」
「あ、うお…う、うん。い、いいよ(タジタジ)両親に素敵な世界を見せてあげなさい。」
よしこれでまずは一安心だ。さすがに忘年会2ヶ月前に、出し物の為に休む奴なんていやしないから絶対バレル訳ないだろう。と言うかバレてはいけないのだ!インパクトが大事なのだよ。真似されて陳腐化されたら一瞬のおじゃんだ!
如月は馬車馬の如く日々の仕事を片付け毎夜有給休暇日まで鞍馬の練習に明け暮れた。そしてその後約2ヶ月、有給を消化しつつ有名な体育を専門にしている大学に赴き、トレーナーに講師を頼みながら鞍馬を極めていった。それはもう県大会にまで選ばれる程の勢いで。
あっと言うまに2ヶ月が過ぎ、時は忘年会。如月は男性用レオタードに身を包み忘年会の会場に颯爽と現れた。上司はまたもや目を丸くした。そして恙無く飲めや歌への狂乱が始まり社員のボルテージはどんどん上がる。如月は勝利を確信している為、さらに血圧があがり、鼻血が出そうだった。
そしてとうとう忘年会の出し物披露のプログラムが読み上げられた!
プログラムナンバー7番 如月 八雲 芸は「鞍馬」 どうぞ〜。
会場は、お〜と声が上がる。これは狙った通りだ。誰が酒の席で鞍馬なんかするもんか。このインパクトが大切なのだ!手に滑り止めの石灰を塗り舞台袖から走り込んだ!
走った速度を殺さない様にしつつ、鞍馬の取っ手に手を描け、まるで走っている馬に飛び乗るように如月は跨った。足をブルンブルン振り回す。ダックスフントの様な短い足でも綺麗に円を描けば、歓声も上がる。社長なんか目が釘付けだ!そうそうこの熱い視線が集まれば集まるほど25万円は如月の物になるのだ!お前ら見て驚け!歓喜し畏怖しやがれ〜!!
そして第一の見せ場が近づいた!如月はこれでもかと言うくらい大きな声で叫んだ!
「V字バランス!如月八雲です!」
鞍馬の取っ手を両手で持ち逆立ちの格好になる。そこから両足を高く伸ばし、そのまま足をV字に広げ、ピタッと止めた!何も自分の名前を言わなくて良いと思うのだが何故か妙に受けてどっかんどっかん笑い声が起こった!しかも社長も笑いながら両手を叩いている!
決まったな。これで俺の優勝は間違いない!
立て続けに「新竜巻旋風脚」「横式高速回転地獄車乱舞」「振り子螺旋」「翼式OHK」「天翔ける龍の閃き的俊足3回転捻り」「グーグーガンモアタックキック」を優雅にそして強く激しく、時ににこやかに時に厳しい表情で決め、優勝への階段を如月は目指した。
とうとう、最後の大技を出す瞬間が迫ってきた!如月はこの大技を練習では一度も成功させてはいない。しかし25万円だ!ここで諦める訳には行かない!
一瞬動くのを止め呼吸を整える。観客達も最後の大技を出すと解ったのだろう。一斉に観客は如月に視線を注いだ!
汗が一滴落ちる。
その刹那!空中に高く飛びあがり背中をのけぞらせ、如月は腹の底から叫んだ!
「うぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜きっちり見やがれえええええぇぇぇぇぇぇ〜!
…シリ…リ…ジリリリリリ♪♪♪♪♪ガバッ!何とそこは何時もの如月の部屋だった…。しかし叫びは止められなかった!
開脚後転!如月八雲です!…………………………………………………全部夢かよ!!」