◎せつないけど少しぬるく 1万HITお題雑文
094 2004/12/19
◆miim姐様よりお題提供
:題 名「せつないけど少しぬるく」
:書き出し「こんな夢を見ました。」
:途 中「一度やってみたかった」
:締 め「ぼくはどこへ行くのだろう」
こんな夢を見ました。
水を入れるだけで勝手に増えるワカメの開発して大儲けした夢。
世界中ではまだそれは開発されておらず、まして考えさえ生まれてなかった状況だった。
しかしもちろんその開発の裏には涙ぐましい努力と、聞くも涙、語るも涙の情事が…もとい、事情が沢山あった。
ぼくは増えるワカメの開発を意欲的に取り組む22歳。22歳と言う若さでなかなか取得できない食品生産博士号をとった若草布雄(わかくさ ぬのお)。
もちろん当時はワカメが最大の恋人。来る日も来る日もワカメが増える事ばかり考えて、実験や開発していた。
ところでどうして増えるワカメを作ってみたかった?それはそれは、楽しいから!
だって増えてしまうのですよ!見ている前でボウル一杯にぞわぞわ〜ぞわぞわ〜ってまるで生物のように!まぁワカメは植物だから、生物と言って全然問題ないのだけど。まぁとにかくワカメが増える様を見たい!それの思いだけが、僕を突き動かしているのだ!え?おかしい?狂ってますよ?上等です!見て御覧なさい!今までの偉人を!
ライト兄弟は空を飛びたいと言い鉄の箱…もとい!飛行機を作った!しかし回りからは奇異の目で見られ馬鹿にされていたではないか!
石川啄木なんてなんて「ぢっと手を見る」事ばかりしていたから、学生時代のテストの時、カンニングしていたと勘違いで停学になったじゃないか。
ビルゲイツなんて、ビル建てないで窓ばかり作っていたではないか!きっと従業員に、なんであの人は窓ばかり見ているの?窓際族になりたいのかしら?なんて噂があったとかなかったとか。まぁお陰で、ウィンドウズなんて言う変わったプログラムが出来たのだけどね。
キューリー夫人なんてキュウリみたいな名前なのに、なんだっけ?そうそうラジウム!ラジウムを見つけたではないか!寝食を忘れて!きっと近所のおばさんに、キュウリなのに何か化学的な事をしているのよ!何で畑仕事しないのかしら?!と罵られたに違いない!
どうだ!こんなに変わった偉人がいる中で、ぼくの研究は全然変わっていないだろう!
しかも!食料が増えるのだぞ!食物繊維がたっぷりだぞ!お通じにもいいんだぞ!血液にもいいんだぞ!ワカメの味噌汁なんて、胃ガンを抑える働きがあるらしいぞ!だから毎日飲め!おひたしも美味い!う〜んおいしん坊ばんざい!ん?話がそれたな。
まぁとにかく水さえあればワカメが沢山増える!携帯に便利!きゃ〜〜〜おもしろい!だから決してぼくの発明は全人類にとって無駄じゃないはずだ。
しかしたまにめげる時がある。いくらお湯をを注いでもシワシワカチンコチンのままだったり、増えたはいいがそのあと溶けたり…。自暴自棄になり酒をかっ食らう日々もあった。
そんな時、いつも増入水美(ますいれ みみ)が優しくぼくを包んでくれた。水美は肉親の不慮な借金の返済のために遠い田舎から出稼ぎに来ていた20歳。水美は少し病弱でそのせいでなかなかバイトや仕事に就けなかった。
ある時、うちの大学で一般人の研究補佐バイトを募り、数名集まった人中に水美がいた。水美にぼくは一目惚れをしてしまった。まぁたまたまバイトを雇う面接官で好き勝手にバイトの子を選べる権限がぼくにあったと言う偶然があったのも嬉しい誤算だったんだけど。
さっそく水美にはぼくの研究している「増えるワカメ製造研究」のスタッフになってもらった。もう気持ちは毎日ドキドキで夢のような感覚に包まれながら、研究で行き詰った時、水美の笑顔で何とか乗り切ってきた。
やがてぼくらは恋に落ちて一緒に研究を成功させようと誓い合った。ふざけた研究理由は食料危機に瀕している国に輸出する事に変わって言った。
しかし研究を始めて4年…そろそろぼくの研究は暗礁に乗り上げまくりで、研究費も大学から少しずつではあるがカットされ始めた。この研究さえ成功すれば、食糧事情に乏しい国々にも食糧援助が格安でできるのに…。そして蛇足だけどそのワカメを使って水美に美味しい味噌汁を作ってもらいたいと言う邪推もほんのちょっぴりあった。けどもう難しい…ぼくの気力は4年と言う歳月に侵食され、風前の灯だった。
水美は言う。
「お願い、夢を諦めないで。もうちょっとできっと出来るわ。あなたしかこの研究を
成功させらないの。あなただけにこの研究の成功の先の光を見る事が出来る唯一の
人なのよ。お願い諦めないで。」
しかしもうそんな優しい水美の応援はぼくを動かすまでの力にはなっていかなかった。ぼくはもう最低な事を水美に言ってしまった。
「こんな研究はきっと誰かがやる!ぼくには成功の先の光なんて見る権利はないんだ!」
水美はそれでも必死にぼくを引き止めた。「うるさい!」そう叫んでいた瞬間、ぼくはぼくはぼくは、、、水美を平手で叩いてしまった…。
水美は無言で研究室を出て行った。
ぼくは水美に一番最初にこの研究の成功を伝え、そしてぼくの胸の中で燃える結婚の二文字を水美へ伝えたかったのではないか?そして一緒に世界中を回り救済活動をしていこうと話していたのではないか?
でも水美はその日から研究室に顔を出さなくなった。仕方が無い事だけど…。一人でぼくは黙々と失敗の連続しか出来ない研究結果を繰り返すしかなかった…。薬品も間違いない。お湯も純水を使っている。ワカメも利尻…いったい!何がいけないだぁ!
理論上では100%増えるはずなのに…。
1ヶ月経ったある日。とうとう大学側からの資金は数万円になってしまった。事実上資金打ち切りの秒読みは刻一刻とカウントダウンされ始めていた。ぼくは頭を抱え、座ったまま、うとうとしていた。誰かが肩を触る。こんな寂れた研究室に来るのは、資金を止めてやると息巻いている学長くらいだ。とうとう資金打ち切りの話しか?
しかし顔を上げ後ろを向くと、そこには水美がいた。夢じゃない。空想でもない。幽霊でもない。本物の水美だ。ぼくは一瞬固まったあと、水美を抱きしめて大声で泣いた。手を挙げてしまった事を謝り、挫折しそうになった今までの経緯。資金打ち止めの話。どんどん、水美と会えなかった日の日常を、とめどなく溢れる涙とともに話しまくった。
水美はぼくの頭をなで、こう言った。
「私も寂しかった。あなたに会えない日々が凄く辛かった。でも、あのまま一緒にいたら
お互いがダメになっていたと思うの。でね。私もあれから一人でちょっとずつ
研究していたの。やっぱりあなたとの夢を途中で投げ出しくなかったの。」
ぼくは嬉しくてさらに泣いた。水美は話を続けた。
「でねでね、やっと答えがわかったの。実は前から一度やってみたかった方法だったの。
試してみたら大成功だったわ!!」
ぼくは目を丸くした!この4年、どんな方法を試しても上手くいかなかったのに…。ぼくは冷静を装いつつ、水美に聞いた。それは一体どんな方法だったのかと。すると
「水よ水!今まではずぅぅぅぅぅぅぅぅっと、純水のお湯でやってたでしょ?
急激に熱するからワカメが溶けたり、固いままだったり。でも水だと、きちんとゆっくり
水分を含んでぞわぞわ〜ぞわぞわ〜っと増えたわ!」
ぼくはすぐに食べれるよう増やしたそばから使えるために、お湯しか使ってこなかった。それが仇だったとわ!!なんで気付かなかったのだ!!!!
でも水美の深い愛で研究は成功した。
一緒に研究を重ねて気持ちも重ねてきた水美のお陰だった。そうしてぼくは大学と食品会社と政府に実験の概要とデモンストレーションを何回も見せて他国に輸出できるようになった。言うまでもなく、ノーベル食物賞を受賞し、大金持ちになって、そして、水美を妻に迎えた。
そうして思う。
こんな幸せがぼくに舞い降りるなんて。
これが成功の先に見える光なのかと、改めて知った。
とまぁ、こんな夢を見て涙流しながら目覚めたわけだけど…。
増えるワカメって…若草布雄って…増入水美って…。増えるワカメや若草布雄はどうでも良いとしても水美は素敵な女性だったなぁと。ってかどういう日常送ったらこんな夢を見れるのだろうか。やっぱりどっか頭がイッちゃっているのかもしれない。まだ肉とかなら大好きだから夢に出てくるのは解るけど、増えるワカメって…。
もしかしたらもう常人の思考とか感覚とか、飛び越してしまっているのだろうか。
ってか方向性が解らないよ。この先、ぼくはどこへ行くのだろう?