◎明日は明日の風が吹く 1万HITお題雑文

098 2005/01/23



 ◆ちなつ様よりお題提供
 :題  名「明日は明日の風が吹く」
 :書き出し「どうすればいい?」
 :途  中「夜明けの光」
 :締  め「そしてドアを閉じたのさ」


 どうすればいい?今僕は、最後のゲームをどう勝ち越すかを狙っていた。たった五枚のカードで、妹の未来が決まる。
 カードが手の中で踊る。いや、手が震えカードも震えていると言った方が正解か。
 持ってるカードはスペードの10/J/Q/K。そしてハートのA。つまりストレート。

 『この勝負に勝たなければ、妹の命はない。』
 
 ここは東京都新宿区歌舞伎町の地下100mの位置に作られた地下カード賭博場。
 5枚のカード。賭博。ストレート。
 もう解るだろう。僕は今、ポーカーをしている。回りはヤクザとディーラー(場の親)、そして数人のプレイヤー。もちろんそのプレイヤーの中に僕はいる。

 9戦目を終えアクティブ・プレイヤー(現在、ゲームを降りていない人の事)は僕だけだ。
 僕の回りにはヤクザの拳銃の凶弾で殺されたプレイヤーが6人、ディーラーが9人。転がっている。最初に出会った、あのおっさんは9回目で死んだ。

 さて、たかだかポーカーでなぜ死人が出るのか?答えは簡単。このルールを見たらね…。
 @一回のゲームは10回戦。A負けたら殺される。B10回勝ち抜けば4千万の報酬。

 一度始めたら10回戦終わるまで途中下車は出来ないと言う訳だ。もちろん勝ち抜けば、金は手に入る。そしてプレイヤーを勝たせてしまったらディーラーは殺される。そしてディーラーもプレイヤーも素人。どちらも生きるか死ぬかのぎりぎりの瀬戸際で戦う。
 そして死んだものは闇の臓器売買ブローカーに体を提供する。そうしてヤクザに作った借金を清算すると言うわけだ。つまり、殆どの参加者は、ヤクザから借りた金の返済の為に参加している。しかし中には生きるか死ぬかの緊張感を味わいたくて参加する狂人もいる。

 そしてそれが、今僕と対峙している、最後のディーラーだった。きっと奴はストレートフラッシュを持っている。間違いないだろう。余裕の表情がそう物語っている。そうなると僕が手に入れなければならない役は、最高の役ロイヤルストレートフラッシュしかない!僕は意を決して、ハートのAを捨てた。こい!来るんだ!スペードのA!

 …ん?どうして僕がこの危ないゲームに参加しているのか?
 それは妹の心臓移植手術をするための手術代が欲しいから。妹は生まれつきに心臓の疾患を患っていた。今4歳。本来なら元気に幼稚園で駆けずり回っているはずの年。しかし妹はそれが出来ない…。
 両親は1年前、突然の事故で亡くした。僕たちはある親戚に預けられたが厄介者の様に扱われていた。毎日毎日ボロ雑巾のような仕打ちを耐えていた。しかし心臓を患っている妹はそんな生活の中で安心して生きていけるわけが無い。嫌な生活が心臓に負担をかけ、とうとう先週、大きな発作を起こし入院してしまった。しかもICU(集中治療室)に。
 親戚はこのまま生かされてたらあまりにも不憫だから、自然死させたいと医者に涙ながらに訴えた。でもそれは建前だ。本当は僕たちに一銭もお金を使いたくないだけなんだ。

 僕は妹を救いたかった。手術には2千5百万は必要だと医者から聞いた……………。
 自然死が決行されるのは明日。
 確かに親戚の財政だって苦しいだろう。でも簡単に答えを出すなんて…親戚のそんな姿を見た僕は荒れ、街中で暴れた。

 たまたま通りかかったヤクザと肩がぶつかり喧嘩に…。もちろん負けた。当り前か…。だって僕はまだた高校生。そして事務所に連れて行かれリンチをされた。ボロボロだった。
 そこに男性が、僕と別な意味でヤクザに両脇を抱えられながら事務所に連れてこられた。ヤクザに借りた金を納金日に渡せなかったらしい。ボコボコにされながらヤクザが言った。
「オイ!コラァ!!金が返せないんだったら、死ぬか生きるかのゲームするかぁ!?
 いいぞぉ〜このゲーム。勝てば4千万。負ければ死。お前の借金は2千万。
 勝てば一気に金持ちだ。どうだ?やるか?ん?…はよ答えんかい!ごらぁ!!!」

 僕は一瞬にしてこれしかない!と思った!
「おい!そこの腐れヤクザ!てめぇ本当にそんなゲームがあるのか?」
 ヤクザはしかめっ面しながら、
「あ?てめぇ今なんて言った?」
「いいからあるのかないのか答えろ!!」
「あ、あ、あるがどうした、ごらぁ!!」
 ヤクザは僕の腹を思い切り蹴った。
「げへぇっ。。。ハァハァ…俺を、俺を出せや!!出してくれたら、勝った時の金の内、
 1千万はくれてやる!俺には今、3千万必要なんだ!!!」
「…本気か小僧?負ければ死ぬんだぞ?ガキの遊びじゃねぇんだぞ!」
「それぐらい解ってる!妹の手術代が必要なんだ!それに俺が勝たなきゃどのみち妹は
 助からない!どうせ助からないなら俺も一緒に死にたいんだ!
 いいから、俺を参加させるのかさせないのか、答えやがれ、この外道がぁ!!」

 ヤクザはしばらく僕の顔、いや目をしげしげと見詰め、思い切り僕の顔を殴った。
「…参加しろ。ただし勝った時には1千万、負けた時はお前の内臓、もらうからな。」
「好きにしろ…」
 僕は先ほど殴られまくった、おっさんと一緒に会場に向かった。
 そして妹を助ける為、この命を賭けたポーカーを連続9回勝ちそして生き残った。

D=ディーラー=奴 僕=P(プレイヤー) Y=ヤクザ
D「おい、わっぱ。よくもまぁ9回も残れたものだな。」
P「五月蝿い。早く最後の一枚よこせ。」
D「そう焦るなって。だからガキは青いんだよ。」
 たぶん奴は僕の心を揺さぶってカードの交換をさせないように仕向けているのだろう。
P「いいから早くしろ!!」
D「がなるな!このびちグソがぁ!!俺はなぁ、もうこの世界で76勝してんだ!
  てめぇとは格が違うんだよ、格が!」
P「じゃぁ77人目はお前に決まりだな。」
D「このやろう!」
 そう言って手を上げようとした瞬間、ヤクザが奴のこめかみに銃口を突き付け言った。
Y「いいから早くやれ。もしかしてお前年端も行かないこのガキに怖じ気付いたのか?」
D「そんな事ある訳が無い!こんなわっぱに負ける気がしねぇ!」
Y「なら、早くカードを配れ。」

 チッ…。と奴は小さな舌打ちをし、僕にカードを配った。

 この一枚で僕の命運は決まる。手元にある同じ数字ならワンペア。数字が続かないスペードならフラッシュ。数字が別マークでAならストレート。
 そして…スペードのAなら…僕が待ち望んでいるロイヤルストレートフラッシュ。

 この1枚で決まる。僕の心臓は激しく高鳴る。まず間違いなく奴には聞こえているかもしれない。手には汗が生まれ、目は忙しなく震える。この一枚だ。この一枚で妹が助かるかもしれない。カードを開くその瞬間がやけに重たくやけに長く感じる。早く開け。早く開け。思いとは裏腹に指が震える。手を引っ込め落ち着くために、一回目をつぶり、深呼吸する。回りの音が静かになる。一瞬にして僕は暗闇に入り込んだ。生きるか死ぬかの闇。

 僕は今一人だ…心が孤独に占領され始めた。
 怖い怖い怖い…。喉の奥がどんどん乾いていく。血が下がっていく感覚がはっきりと感じる。…死…冷たい銃口が僕に向いている…。死ぬのか?死んでしまうのか?
 …妹を助けられずこのまま…。…妹?妹?妹!そうだ!今病院で妹は戦っているんだ!不治の病と闘っているんだ!!

 その瞬間、夜明けの光が世界を照らすように僕の心を明るく照らしだした。そして広がるある光景。それは妹の笑顔だった。あの愛らしい笑顔。くるくると良く動く瞳。淡い桃色の頬。僕にとって今、妹が全てだった。僕の心音が緩やかになる。そうか…僕一人だけじゃない。今、妹も病院から僕を守ってくれている!今ここでカーを見ずに逃げ出すなんてありえない!開け!その最後のカードを!!!僕しか妹を守れない!!!開け!!!!!

「showdown(ショウダウン=勝敗を決めるためお互いのカードを比べる。)!!」

 一瞬にして僕の回りで起こっているガヤガヤとした音が耳に入ってくる。光が目に入ってくる!負けない!絶対負けない!そして僕はカードを見た。
 見た!見た…見た…見…………………………。一気にからだの力が抜け肩が落ちる。

 奴はそんな俺を見て勝ちを確信したように笑い、ハートのストレートフラッシュが揃ったカードを投げて見せてきた。
「悪かったなぼうず。賭けの世界の神は俺に微笑んだみたいだ。ま、仕方がないな。
 さっさと内臓をさばいてこいや。」

 僕は顔を上げ「ありがとう」と言って微笑んだ。奴は「狂ったか?」と言って笑った。

 一枚一枚、僕はカードを広げていく。
 スペードの10/スペードのJ/スペードのQ/スペードのK…
 奴は、まさか!まさか!と言うような顔で開いて行くカードと僕の顔を交互に見始めた。
 そして最後の一枚…。僕は声に出しながらカードをパタンと開いた。

 「スペードのA。」

 奴は「嘘だろう…」と言い顔が引きつった瞬間、ヤクザに頭を撃ち抜かれた。空しいまでに銃声が会場を駆け巡る。

 僕は体の全ての力が抜けてしまった。勝ったのか?勝てたのか?ああ、勝ったんだ。僕は勝ったんだ。妹を助けられる!これで妹は助かる!泪が零れた。ただただ泪を零した。

 そして僕をリンチしたヤクザが賞金の入ったジェラルミンケースを抱えてやってきた。
「良かったな。まさかお前が勝つなんて。とりあえず1千万は引き抜いた。
 中身を見て残りを確認しろ。」
 僕はゆっくりとケースを開ける。確かにある3千万。偽札でもなく、少なくもなく。
「妹は助かるなぁ。まぁそれだけ沢山の命を使って来た甲斐があったってもんだ。
 まぁ所詮クズの命だ気にするな。おっと、勝利者には似合わない祝辞だったか。」
 そう言ってヤクザは笑いながら帰っていった。

 そうだ…このゲームは、沢山の命の犠牲の上に輝いて生まれた勝利だ。僕は間接的とは言え、人を殺してしまったんだ。妹を助けたいと言う事を隠れ蓑にして僕は人を殺した…。

 殺してしまったんだ………。

 それからどうやって僕は妹のいる病院に行ったのか覚えていない。でも気付いたら僕は医者に直接お金を渡し「妹を頼む。手術をすぐにしてやって欲しい」と言っていた。そして僕は妹の部屋へ向かった。

 妹の部屋の前に着いた時、妹の前から永遠に消える事を決めた。
 このまま何人もの命を犠牲で得たお金で救った事を妹に黙っている事は出来ないから。彼等にも肉親がいて生活があって…そう言う事をすべてなしに、喜ぶなんて今の僕には出来ない。そしてそう言う事を聞いた妹だって明るく生きていけないと思う…。だから消える。

 だけどどうしても最後に妹の優しい顔を見たかった。
 そっと病室のドアを開け、妹のいるベットに向かった。妹はすやすやと優しい寝息を立てている。僕はそっと妹の頬に触れ、優しい温もりを感じた。妹はきっと僕がいなくても生きていける。うん。生きて行くだろう。

 こうやって触れられるのは今が最後なんだと思えた時、頬に涙が一筋の道を作った。
「幸せになれよ。僕みたいに汚れちゃいけないよ。何があっても負けるな。僕は傍に
 いないけどいつでも見守っているからね。」

 この寝顔を見れただけでこれから先、何があっても僕は一人で生きていける。
 明日は明日の風が吹くしね。そう思いながら妹の幸せを願った。
 そして病室から出て後ろ手でドアを静かに閉じたのさ。

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