◎CHERRY

116 2005/03/23

 約6年。私はタバコを愛用してきてた。
 最初は仕事上でのイライラを紛らわす為のどこにでもあるような理由から。

 キャスターからはじまり、マルボロ、そしてJokerへと移り変わり最後はこの題名のCHERRY。この煙草はおよそ3年吸い続けていた。

 初めて開封すると、さくらんぼの甘い香りを楽しめるタバコだった。そしていつのまにか時間潰しや人との会話の無音の時の逃げ道にと用途は増えていった。そして本数が増えた。たまたま私の回りにはタバコを吸う人間も多かった。まぁ類は友を呼ぶ。まさにそれ。
 母親が吸っていた。兄が吸っていた。会社の同僚が吸っていた。

 ただ不思議な事にタバコを吸っている人からよく、タバコは辞めた方がいいよと、何度か言われる事が多かった。やはりお互い吸っているだけあって強く言われる事は少ないけど。だから私は吸っている人に言われても説得力ないよなどと笑い話にさえしていた。これが、ニコチンの成せる技なのかもしれない(苦笑)

 しかしもうそろそろタバコを手放しても良いと思えた。もう紫煙による心の隙間を埋める行為は必要ないと思えたから。

 「タバコは体に悪いからやめたほうがいいよ…」この一言で私は辞めようと思えた。

 確かに何回かいろんな人に言われてきた言葉。でもいつもどこか他人事の様に、聞いてる自分がいた。そしていつも、いつかねとかそのうちね。これも良くある流し方。そうやってのらりくらり交していた。

 しかしやっぱり違ったんだよね。よくある言葉なんだけど重みが違ったんだよね。だからもうその言葉だけで充分、心が満たされたから、タバコからさよならしてもいいかなって。

 でもね、たとえ辞めると言って直ぐ辞められないのがニコチン中毒者の性(苦笑)だからと言って少しずつ減らしてくなんてまどろっこしい事は持続力のない如月にとっては逆効果。では諦めるのか?いやいやそうじゃない。ここは如月の性格を逆手にとってみよう。
 如月の性格は常に何かをする時にはけじめや儀式を必要としている。だからそこを上手く使ってタバコからさよならする。

 今日はそんなはっきり言って自己満足な儀式を行ったので雑文にして書いてます。
 まぁ雑文にする事によって宣言するってのも効果があるし。
 >自分を追い込むタイプなので(苦笑)

 どうか最後までお付き合いして頂けたら幸いでございます。

 部屋は暗くした。テレビは点けない。音楽もかけない。携帯の電源も切った。
 ただ窓から入る大きな店のイルミネーションのせわしない光の輪舞だけが部屋を照らし、もう誰も如月の世界に入れない。そんな少し孤独チックが風情がいい。重い雰囲気がいい。そして厳粛な雰囲気が、6年間連れ添った連れ合いから旅立つにはちょうど良い。

 タバコの箱から1本だけ取り出す。じっくり眺め、これが最後なんだと思いながら、鼻に持っていき嗅ぐ。うん。いつも通りのさくらんぼの匂い。そして少し昔の記憶を思い出す。

 友人とマックの片隅で人生に付いて語り合った時に燻らせた事。
 真友の墓前で真友と心の中で語りあった時に燻らせた事。
 遠出したその先で無事到着できてよかったと安堵した時に燻らせた事。
 何度も生まれては消えていった恋愛の節目節目に燻らせた事。
 詩仙庵が完成しここから始まるんだと希望と決意と共に燻らせた事。
 毎週の詩仙庵の詩の更新を終えた時の達成感を味わいながら燻らせた事。
 酒を交しながら詩の話しや詩への探求を熱く語り合った時に燻らせた事。
 大切な決意の日の前の晩、震える自分をしっかりしろと叱咤叱責しながら燻らせた事。

 少しセンチな気分だ。だからそんなセンチな気分を消す為に、おもむろにガスライターを付ける。これはたまたま友人からもらったもの。

 ジュッとタバコが泣く。別れたくないと訴えるかのように。そしてまず一息。
 煙は今まで一度も鼻から出さなかった。カッコ悪いと私は思っていたから。だから、その風習は変えない。静かに口から吐き出す。紫煙と白煙が混ざり合い綺麗な雲を生み出した。

 何度も先端を見詰め、何度も吸い口に口付けを交し、何度も灰を灰皿に落とす。
 約15分の連れ合いとの無言の会話。永遠の別れを惜しみそして新たな未来に歩き出した自分にエールを、を繰り返していた。これでいい。これでいいと何度も思い描く。

 ぎりぎりまで語り合った連れ合いは疲れ果てていた。静かにゆっくりと連れ合いの体を、灰皿に押しつける。亡骸はなんて儚いんだ。とても軽い。なかなか煙が止まらないところがとても後ろ髪を惹かれる思いだった。

 そして喫煙は終わった。そうこれが最後の喫煙。
 私は一気に立ち上がり、玄関と窓を全開にして連れ合いの忘れ形見を外に流した。窓から抜けていく連れ合いを見送りながら電気を点けテレビを点け携帯の電源を入れた。

 そして私は静かにタバコをゴミ箱へ旅立たせたのさ。
 「今まで傍にいてくれてありがとう。」そう呟きながら。
 そしてタバコからの別離の儀式は静かに終わった。

 今日から如月、タバコからさよならです。

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