◎苺な話し

120 2005/04/10

 あのね、僕ね、えっとね、明日ね、東京にね、苺の雨がね、降るってね、昨日の夜にね、知らないね、お兄さんからね、優しくね、聞いたのね、だからね、明日はね、ちゃんとね、傘をね、持たないとね、びしょびしょにね、なってね、僕ね、風邪をね、引いちゃうのね、そこんところね、よろしくね、知らないお兄さん。


 ある晴れた日にこんな文章が頭の中を駆け巡っておかしくなりそうだった。全ての文節に「ね」が付いていく。「ね」と言えば、私の中学時代の理科を全般に教える先生が、全ての言葉の最後にやはり「ね」を付ける先生だった。だから植物の事を教える授業の時、悪童が「ね」の数を正の字で数えてみたら一授業中、軽く400を越えていたみたいだ。

 「この木の根のね、産毛みたいなね、場所から水をね、吸い上げてね、栄養や水分をね、
  取り込んでね、根としてのね、役割をね、果たしているんだよね。」こんな感じ。

 数を付けている事を知っていた私達は、笑いを堪えるのが大変だった事を記憶している。しかしどうして冒頭の様な文章が頭の中を駆け巡ったのだろう…。小さい子に会った訳じゃないし、かと言って中学時代のその先生に会った訳でもない。先生の話しだって上の話しを思い出すまでまったくもって忘れていたくらいだから。しかしこのまま放置するのもなんか勿体無いので続きを書いてみるとする。はっきり言って構想も何もない。勿論オチもない。ただ思い付いた事を繋げて書いてみる。


 私はその子の頭を撫でながら、明日は苺の雨が降るんだね。そりゃぁ大変だ。練乳片手にイチゴ三昧の日になりそうだね。ねぇボクはイチゴ好きかい?と、聞いた。

 うんとね、僕はね、苺よりもね、葡萄が好きなのね、だからね、本当はね、苺よりもね、葡萄の雨がね、降って欲しいんだよね。

 そうか、ボクは葡萄が好きなんだね。お兄さんも好きなんだよ、葡萄。特に小さい葡萄。けどさ、いったい誰に「明日は苺の雨が降る」って聞いたんだい?良かったら教えてくれるかな?お兄さんもちょっと興味があるんだ。

 えっとね、うんとね、誰にもね、言わないでね、約束だからね、絶対だからね、もしね、言ったらね、お兄さんがね、苺にね、なっちゃうからね、約束ね、シーね。秘密ね。

 解ったよ、誰にも言わないからね。約束約束。

 じゃぁね、言うね、えっとね、えっとね、えっとね、お兄さんがね、言ったんだよ。

 え?私が?

 お兄さんがね、昨日の夜ね、言ったんだよ。

 その瞬間その小さな子は煙に包まれてしまったんだ。私は慌ててその子がいた場所に手を伸ばしてみるが全然触れない。ついさっきまで頭を触れる距離にいたのに。不思議だった。でも何故か消えてしまう事は悲しくなかった。それが当たり前だと、思っていたんだよね。

 そしてその煙が晴れた跡には、小さな苺がちょこんと落ちていたんだ。だから私は無性に何故か思い切り食べたい衝動に刈られてしまったんだ。もしかしたらその苺は小さい子の、体なのかもしれないのに、でもどうしても食べたくて食べたくて、どうしようもなくなってしまったから、つい、口にほうり込んで食べてしまったんだ。

 その後なんて残酷な事を私はしてしまったんだろうって思っていたら、何故だか体がどんどん小さくなっていくんだよ。不思議だった。見ていたものはすべて上に上がっていって、視線の高さが変っていくのが解ったんだ。あれ?あれ?って焦るんだけど、でも仕方がないのかもしれないと何故か途中で諦めていたら、知らないお兄さんが近寄ってきたんだ。

 でもね、何かね、話し掛けなきゃね、いけないとね、思ったらね、お口がね、勝手にね、動いてね、そのね、お兄さんにね、話し掛けてね、いたんだよね。

 あのね、僕ね、えっとね、明日ね、東京にね、苺の雨がね、降るってね、昨日の夜にね、知らないね、おじさんからね、優しくね、聞いたのね、だからね、明日はね、ちゃんとね、傘をね、持たないとね、びしょびしょにね、なってね、僕ね、風邪をね、引いちゃうのね、そこんところね、よろしくね、知らないお兄さん。ってね。



 そんなこんなで、今、目の前にマルエツで買った苺に練乳かけて食べてます。なんだか、苺を見ていたら、冒頭の文章の話しが一気に思いつたので書いてみた。何気なく何気なく。

 不思議だね、苺をね、見ていたらね、こんなね、話しがね、思い付くなんてね、変よね。

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