◎イタイタニック
121 2005/04/14
今日は、映画でも史実でも語られなかったタイタニックにまつわる、ある男の5年前の、イタイ、アナザーストーリーを雑々草稿をお読みになっている読者の人にそっと教えよう。
え?いらない?まぁまぁ、そう言んと聞いて行きなしゃれって。>どこの方言だよ(苦笑)
事の起こりは甲斐君(専門学校もどきの同期:名前は(仮名))が仕事が決まり一人暮らしをした事がきっかけだった。甲斐君は、いつも「たまには遊びに来い、たまには遊びに来い」と電話をするたびに何回も誘って来た。
まぁなんだ、新天地でまだ友達が出来ないとか彼女がいなくて寂しいなどの、理由がある訳だ。もちろん男も彼女が居ない。
…時期は冬になったばかり。誰かにかまってもらいたい季節な訳である。しかしなかなかお互いの予定が合わず、最終的にはイブの日に泊まりに行く事が決定したのである。二人で「この日に外に出るとカップルばっかりで、むかつくから丁度良い日だね」なんてお互い、彼女居ない寂しいさで出来た傷を舐めあうように愚痴らしきものを吐いて、スケジュールが決まったようなもんだけど。
まぁ彼女が居ないとこういう運命に、なってしまうのさ。ふっ。>悲しすぎるぞ(苦笑)
甲斐君の家に着いたのが19時頃。そしてお腹すきまくっている二人はそそくさと夕食を準備し、そして飯でも食いながら映画を見ようと言う事になり、甲斐君が押入れの中から、そそくさとビデオを取り出しセット。おもしろいぞと念を押して食事の机に戻ってきた。
そしてここからがイタイ話の始まりである。前フリ長すぎ(苦笑)
始まると何故かレオナルド・ディカプリオやケイト・ウィンスレットやら、巨大な船や、氷山などが画面に現れだした。もう聡明な読者ならお気づきだろう。
甲斐君が見せてきたのは、そうジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」だった。
そしてそれをイブに、男二人で見ると言う事らしいのだ。皆様いったいこれは解釈すればいいのでしょうかね?普通じゃありえない構図ですよ?男二人でイブにタイタニック。
何が悲しくて男と二人、しかもカップルが燃えまくるイブの日に、上下巻と言う巨大な、およそ4時間も使って見ないといけない代物を見ないといけないのだろうか。
甲斐君よ、恋人が居なくて寂しくて君は壊れてしまったのかとその男は問うた。
返ってきた答えは「まぁ良いじゃん。素敵な映画だよ見よ」などとのたまったのである。いやタイタニックにケチを着けるつもりはない。まったくない。この映画は好きだよ。凄く好きだ。しかしイブの日に男二人でと言うちょっと異常に寂しいその構図がその男を、困惑させたのである。だってタイタニックはカップルで見るとより深く愛し合える恋愛悲恋映画なのだよ。まるでこれを見て、二人で熱く男の一人暮らしの寂しくもさい部屋で抱き合おうではないか!愛を深めようではないか!と言われているようだった(笑)
しかし目の前に飯が湯気を立てて置いてある。ケーキがある(クリスマスだけに(苦笑))。移動移動でろくに飯が食えなかったその男は夕飯を食うために、例え後でナニが起こっても良いから食べようと決心したのである。>まぁ男は食意地が張っているわけだ(苦笑)
そして4時間後…甲斐君とその男は号泣していた。甲斐君と間違いを犯して泣いている訳じゃない。タイタニックの映画の素晴らしさとストーリの悲恋さに泣いた。食後のケーキを頬張りながら。そう言えばその時のケーキは甘いはずなのに何故かしょっぱかった…。
ポーカーの場面。自殺を止める場面。船の先頭で女性を支える場面。追いかけあう場面。
ダンスを踊る場面。女性の絵を描く場面。寒い車庫の中で抱き合う場面。
濡れ衣を着せられる場面。氷山にぶつかる場面。囚われた男を救い出す場面。
どんどん芸術的な場面が繰り広げられていた。何度も場面が思い出された。
二人は肩を震わせ2時間ほど泣いた。しかし、泣き始めてから1時間を経過した頃には、映画で泣いていたはずなのに、イブの日に男と二人でタイタニックを見ている状況に、泣き始めていたのだ。
そして空しいと言う感情をはっきり認識した日でもあるのだ。二人は静かにそれぞれ用意した床に入り、灯りを消した。そして甲斐君は暗闇の中でため息混じりにこう言った。
「来年はなんとか彼女見つけて楽しいイブをお互い過ごそうな…。まさかタイタニックで
こんなに気持ちが沈むなんて知らなかったよ…すまん」
男は静かに言葉を返した。
「そうだな…もうお互い、イタイ思いをしないように、男を磨こうな…。気にするな」
そして夜は静かに更けていった。
これが映画でも史実でも語られる事がなかったタイタニックのアナザーストーリー。
イタさ満載のアナザーストーリー。彼女の居なかった時の切ないラブストーリー。
5年前の若気の至りが生んだ、誰も知らないアナザーストーリー。イタイタニック。