◎醤油ご飯VSソースご飯A

128 2005/05/17

※前回までのあらすじ※
  病院食が如何に味が薄く、如月が如何に濃い味好き派なのかを熱く叫びそして濃い味を
  堪能する為醤油ご飯を開発。同時期にAと言う男がソースご飯を開発。
  欧米と東方の味のしょーもない対決が今、始まる!!


 如月は朝食を食べていた。醤油ご飯を作り、朝食としてはまともなハムをおかずにして。朝にハムが出るなんて1ヶ月に1回あるかないかの貴重なおかずなのだ。如月はハムの淡いしょっぱさを堪能しながら醤油ご飯を頬張っていた。

 食堂の空気がいきなり張り詰める。張り詰めた空気の中、如月は慌てる事無く醤油ご飯のお椀から顔をはずし顔を上げた。そこにはAがいた。そうあのソースご飯を開発したAだ。
 以降Aをソース男としよう。ちなみにソース男は別の階の病人である。

 ソース男は如月に敵意をむき出していた。左手にご飯の入ったお椀、右手にソースを持つ姿で充分それは分かった。如月はそれに呼応するようにご飯と醤油を自分の目の前に置き、他の物を傍らにおいやる。臨戦態勢である。何の?言わずもがなだろう。これは醤油ご飯とソースご飯の生き残りを掛けた戦いなのだ。生半可な気持ちでいたら潰されてしまう。

 ソース男は徐に、お前が醤油男か?と聞いてきた。どうやら醤油ご飯の噂は患者の中で、かなり有名になりつつあるようだ。勿論それはソースご飯も同じである。如月はそうだと、頷く。それから数分睨み合いソース男は自分の住処(自分の入院している階)に帰っていた。多分今日は、敵情視察とソース男の存在の誇示しに来たと言った所だろう。

 ここで説明しよう。本来食事中には例え自由に歩き回れる病人であっても部屋かもしくは病室と同じ階の食堂で、食べなければならない決まりがある。それは階によって食べ物が、違っているので、食べたくても食べられない病人への病院からの優しい気配りである。
 だからもし、他の階の病人が他の階で食事を取る事は絶対しては行けないタブーなのだ。

 だから如月は出遅れた。何故ならソース男はわざわざ、ご飯とソースを持って敵の陣地に一人で乗り込んできたのだから。もしかしたら回りの人間に殴られるかもしれない。または看護婦さんに拉致られて、食堂から病室での飲食になる罰を受けるかもしれないのだ。だがしかしそんな事を全くおくびにも出さず堂々と乗り込んで来た。ある意味「漢」である。

 無論それは、ソースご飯は敵の陣地でさえ揺るぎ無いほどの素晴らしい食べ方だと、誇示した事にもなるのだ。だから如月は一歩出遅れたのだ!しかしソース男の方法はまだ甘い。如月はその部分を見抜き、夕ご飯の時に実践した。

 それはこうだ。
 如月は普段通り食事用のトレーに夕食達を乗せ席に着かずソース男のいる階へ移動した。そしてそのままソース男の前の席に座り込み夕飯を取った。しかしご飯には決して手を付けない。おかずとか味噌汁とか御新香なんて物を全部平らげた。看護婦さんは私が混ざって、食べているのに全く気付かない。多分よそ者がわざわざ違う階で食事をするなんて、いくら決まり事を立てていても、それを侵す病人なんていないだろうと思っていたからだろう。
 そこがソース男のが気付かなかった点である。しかしそれだけでは「漢」とは言えない。如月がご飯を最後まで取っておいたのは無論、醤油ご飯が素晴らしいと流布する為だ。徐に食べ終わった食器たちをどかし、ドカンとご飯の入ったお椀を目の前に置く。そして醤油を取る。大きな動作でだ。病人達は如月の行動に目を見張る。当り前だ。この食堂は、ソースご飯の縄張りなのだ。そんな所で醤油を振り回せば嫌と言うほど注目は集まる。まぁそこが狙いなわけだが。

 如月はソース男の前で、まるでピアノを弾くように、もしくは舞台で舞うように、醤油をご飯に掛けて絶妙のタイミングとテンポでご飯を掻き混ぜていく。食堂には仄かに醤油の、暖まる香ばしい匂いが広がっていく。
 ソースご飯が主流な住人達は嫌悪感を抱く事無く匂いを嗅ぎ出した。宣伝効果はばっちりである。これも狙いだった。ソース男はここまでせずに、ソース男と言う人物だけを如月の階の住人達に示しただけだが、如月は、如月と醤油ご飯を示した訳だ。これで朝の出遅れは取り戻せたであろう。しかしこれだけでは生ぬるい。漢たる者なら何か傷を背負ってこそ、漢と認められるのだ。

 如月が傍にいた看護婦さんににっこり笑って、初めましてと言った。そうつまりそれは、自分がよそ者であるよとばらした訳だ。看護婦さんは初め訳が分からない顔をしていたが、状況が飲み込まれたらしく、他の看護婦さんを呼びに行った。回りはざわつく。当り前だ。自分からペナルティーを取得しに行ったようなもんだ。しかし如月は勝ち誇って笑った。
 ソース男よ、ここまでしてお前の開発したソースご飯の味を誇示できるか?と。如月は、できる。それだけ醤油ご飯に心血を注いできたからな。ふっ。と。

 看護婦さんに引きずられながら、ソース男に向って如月は不敵な笑みを浮かべ続けた。
 しかしその後1週間は病室で一人寂しくご飯を食べていた事は言うまでもない。

 だがソース男はこんなことで引き下がるはずも無い。奴は今、如月と醤油ご飯の存在に、追いつめられた手負いの狼。最後の力を振り絞って途方も無い攻撃を如月に仕掛けてきた!

                        醤油ご飯VSソースご飯Bへつづく!

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