◎恐話百鬼夜行 第二十四夜

164 2005/08/18

◆『出張怪談忌憚』       投稿者:I・Tさん 職業:サラリーマン 年齢31歳

 長期出張でビジネスホテルに5日も泊まっていると下着の替えも乏しくなってきたので、コインランドリーで洗濯をすることになった。全自動の洗濯機にいれてる間にラーメン屋で夕食をすませたが乾燥機で乾かす間は外が雨が降っていることもあり、コインランドリーに置きっぱなしになっている、俺は静かに古い雑誌を読んで時間をつぶしていた。

 近所のおばさんと思われるひとが服を乾かしにやってきた。おばさんも、乾燥機を待つ間暇だったんだろう、聞きたくもない話を一方的にしてきた。慣れない長期出張で会社以外の人間と話すのは久しぶりだから相づちを打ちつつ時間を潰す事にした。

「あら、一番右側をつかっているのあなた?いやだ。知らないの?知らないから
 使えるのよね。知らないなら、知らない方がいいのよね。
 でも…結局知ることになるんだったら、知っておいた方が良いわよね。

 そこの一番右側の乾燥機ね。事件があったのよ。私もね、本当ならここに
 来たくもなかったのよ。酷い事件だったから。
 あら、本当に知らないの?ニュース見なきゃ駄目よ。
 え!出張で来ていてこの辺の人じゃないの?そう、今日で5日目。大変ね。
 でも、一年近く前の話だってよく覚えておかないと大変な目に会うわよ。
 きっと、今晩大変なことになるわよ。」

 おばさんは、まるで初めての生き物を見るように見詰めながらまた話し出した。

「そこでね、育児ノイローゼっていうの?あれ。そういうのってよく聞くでしょ。
 私も始めての子の時たいへんだったのよ。うち子がね、今日洗った服を明日着たいって
 ゴネたので本当は来たくなかったけどここに来たのよ。
 で、なんだっけ。そうそう、育児ノイローゼ。
 若い奥さんがね、このコインランドリーの上のマンションに住んでいたのよ。
 ここの上、マンションになっているでしょ。よく見て御覧なさい。結構良い場所に
 あるのに人があまり住んでないのよ。明かりがあんまり点いていないでしょ。
 あの事件からなの。住んでいた人がバタバタって引越していちゃったのよ。

 旦那がね、こっちに転勤になって、子供が生まれたばかりだったけど子供をつれて
 引越してきたの。友達も出来なかったみたいだし、実家も遠いのでその辺から
 おかしくなったみたいね。旦那も転勤になったばっかりでしかも、子供が出来たんで
 無理して頑張って残業ばっかりみたいで。

 それで、ある日奥さんついに切れたらしいの。お風呂に子供を入れた後、髪が乾かない、
 乾かないってここまでやってきてその一番右側の乾燥機に子供をいれたのよ。
 不幸なことにそのとき誰もいなかったのよ。30分ぐらいして学生さんが
 洗濯に来たらしいの。そしたらね、乾燥機の前で『乾かない、乾かない………』って
 つぶやいている奥さんを見つけたの。
 そして、乾燥機がゴロンゴロンってものすごい音がしてるので覗いたらしいの。
 そして、彼は乾燥機の窓の中でゴロンゴロンってものすごい音をさせながら
 回っている赤ちゃんを見たのよ。」

 だんだんおばさんは興奮してきたらしく身振り手振りが大きくなってきた。丁度その時、幸いにも乾燥機が終わりのブザーを鳴らした。これで解放されると。

「あっ!帰るの?そう。洋服も乾いたみたいね。早く開けたら。大丈夫よ。
 ここでは、なにもないわよ。ここではね。

 実はね、ここからは噂なんだけど。
 そこでね。その一番右側の乾燥機で乾かした服を着て寝るとね。
 枕元に立つらしいの。
 その奥さんが、『乾かない。乾かない・・・。』ってつぶやきながら枕元で
 じっと見つめてるらしいの。本当かしらね。

 でも、その服を着て寝たらきっとわかるわよ。今晩にでも…。」

 うるさいおばさんだった。きっと時間つぶしの鴨にされたのだろう。
 おばさん連中の噂にすぎない。よくある怪談話の一つだろう。

 けど、今夜は寝るのがちょっと怖い。かなり癪ではあるが。

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