◎恐話百鬼夜行 第二十九夜
169 2005/08/25
◆『最期の声』 投稿者:S・Iさん 職業:学生 年齢21歳
これは、私の友人のそのまた友人から聞いたS君の話。
S君にはもう4年付き合ってる彼女がいた。でも最近は仲があまりよくなく、よく周りの人達に相談していたそうだ。多分倦怠期とかそう言う類のもだと思う。何度も喧嘩しては、彼女が帰ってしまったりS君が帰っていったり。殆どが言いたい事を伝えきれない喧嘩を、毎回していたらしい。周りはあまりにも複雑で話を聞いてやる事しか出来なかったらしい。
夏の、それも特別暑い日にそのS君と彼女が久々にデートに行ったんだ。S君は仲直りのチャンスを伺ってたんだけど…やっぱり上手く思いを伝え切れなくて彼女は何時ものように怒って、大喧嘩。道行く人が振り返るほどの大声だったらしい。
S君も最初は仲直りがしたくて一生懸命堪えてたんだけど…………ついに我慢が出来なくなってそのまま別れ話に進展してしまった。S君の本心は全然別れたくなかったけど、売り言葉に買い言葉。つい、はずみで…
「勝手にしろよ!!」
それから何日間か経ったある日、S君は彼女の事をやはり、どうしても忘れられなくて、電話しようかどうしようかと悩んでた。でもあんな別れ方で捨て台詞も言ってしまったし…煮え切らない思いを何度も巡らせては携帯をいじることしか出来なかった。すると
「♪〜〜〜〜♪♪〜♪〜〜♪♪〜♪」携帯電話が鳴った。
『この音楽は、、、、、!』S君の彼女からの電話の着信音は指定してた音楽だったから、直ぐに彼女だと気付いてS君は急いで電話を取った。
「もしもし、Y子…か?」電話の向こうは『ザーーーーーーーーーー』って音しかしなく無音が続くばかりだった。もしかしたらY子が話し出せずに受話器を握っていたらと思うと切る事が出来ずに暫く待った。それから30秒くらい経った時、彼女の声が聞こえてきた。
「……………う…………S………?」
本当に小さな声だった。なんとかS君はY子と話がしたく、て大きな声で何度も何度も、「Sだけど!Y子か?」って叫んでた。そしたらまたまた小さな声で、
「……うん…あ……あたし…………だよ」
弱弱しい声だった。とても尋常じゃない雰囲気が受話器から伝わり「何かあったのか?」とS君は聞いた。そしたら暫く無言の後…
「ごめんね……事故っちゃった………………」
彼女がそう言った。S君はびっくりして、「どこにいるんだ!?Y子ッ!大丈夫か!?」でも、彼女はまるでS君の声が届いていないかのように、
「ごめんね………ごめんね……………大好きだよ、大好き」
そう言って切れてしまった。S君は急いで彼女の家に向かおうとしたその時、今度は家の電話がなった。もしかしたらY子が改めてかかってきたのかと思い「もしもしY子!?」と叫ぶようにY子の名前を連呼した。
するとその電話の相手はY子の親だった。
「あ……すいません」とS君が謝るとY子の父親が「ああ………実は………………」
血相を変えたS君が向かった先、それは都内のある病院だった。そこにはY子が眠るかの様に病院のベットに横たわっていた。冷たくなったY子にS君は抱きつきひたすら泣いた。周りが心配してS君の肩を触れるもそれを振り払い、泣き喚いていた。
あとでS君がY子の両親に話を聞いたところ、Y子が亡くなった時間は午前2時38分。その時間に何となく覚えがあったS君は、携帯の着信履歴を見てみた。するとその時刻は、Y子からS君にかかってきた最後の電話、午前2時38分の着信と同じ時刻だった。
きっとY子は最期のお別れを伝えたくて来た…と、暑い夏の日になると懐かしむかの様に今でもS君は静かに淡々と話しているそうです。