◎恐話百鬼夜行 第三十夜

170 2005/08/28

◆『心霊ストーカー』      投稿者:T・Sさん 職業:学生 年齢22歳

 幽霊を見たり、心霊体験をしてしまう体質の人にも、その感じ方にはいろいろなタイプがある。なんとなく気配を感じる人、霊の姿をはっきりと、実際の人と変わりないように見えてしまう人。そして自分は眠りにつくと霊感のスイッチが入ってしまうタイプである。
 夢と現の狭間での邂逅。果たしてそれは現実なのか、妄想なのか。真実は誰にもわからないが、私にとって紛れもないリアルでノンフィクションな体験のを綴っていきたいと思う。

 それは私が高校生のときの、ある夜のことである。引っ越したばかりの新しい家、それまで布団で寝る生活をしていた私は、未だ慣れないベッドの上でなかなか寝付けないでいた。

 そして1時間近くが経ち、やっとのことで眠りに落ちそうになったその刹那、体が急に、動かなくなり、それに反比例し意識がはっきりとしてきた。いわゆる「金縛り」にかかってしまったのである。しかし小学生のころから金縛りにはよくかかっていた私は、又いつものことかと、まだそれほどの恐怖も感じずにいた。

 しかし、その日の金縛りには、なにかいつもの金縛りとは異なる違和感があった。そして部屋の雰囲気にも異変を感じた。誰かがいる気配がする。体が動かないだけならまだしも、そこに誰かの気配があるということはかなりの恐怖であった。それが一体誰かということも気になったが、それを確認する勇気をもてなかった私は、硬く目を閉ざし早く気配が消えることを祈っていた。

 気配はおよそ十数分で消え、金縛りも解け、部屋はいつも通りの無機質な雰囲気を、取り戻していた。一安心した私は「こんなこともあるんだなぁ」と思いながら全てが嘘であったかのように再び眠りについた。このときはまだ、「こんな経験はきっとこれっきりだろう」と、そう思っていた。

 その夜からおよそ数ヶ月、週に2〜3回のペースで私は同じような経験を繰り返すことになる。突然金縛りにかかり、そして人の気配を感じる。その気配は私に何かをするわけでもなく、ただ部屋の隅のほうでじっと私を見ているだけなのだが(もちろん私は、目を開けていないのではっきりした事は判らなかったが)、そんな事が何度も何度も繰り返されると、流石に精神が疲弊してくる。一つ判った事は、いつも感じる人の気配はどうやら同一人物のようだった。

 そしてその夜もまたいつものように金縛りにかかり、また同じ気配を感じたのだが、その日は気配の位置がいつもと違う。普段は部屋の隅の方から感じていたそれが、その日は私の背中のすぐ近くから感じられる。だんだんと近づいてくる。そしていつもただ見てるだけのその気配が、左の肩甲骨の下辺りから私の体の中に入ってきたのである!

 体中に電撃が走る。頭の中で声がまるで山彦の様に響き渡り、それを聞くことが怖かった私は「うわぁぁ!!」と声にならない声をわめき散らしていた。

 自分の自我や意識と言うものははっきりしていたため、体がのっとられた訳ではなさそうだが、動かない体、全身の痺れ、頭の中を響く声。私はこの時ほど、時間が早く過ぎ去ってほしいと思ったことはなかった。そして数十分後、実際にはもっと短かったかもしれない。私の中に入り込んでいた何かが背中からふっと抜けていき、金縛りも解けたが、しばらくはまだ肩甲骨のあたりがジンジンとしびれていた。

 その霊は一体、私に何を望んでいるのだろうか。只遠くで見ているだけかと思っいたら、いきなり体の中に入ってくる。次こそは勇気を振り絞りその姿を見ようと心に決めていた。

 そしてその時がやってきた。又いつものように部屋の隅っこから感じる人の気配。そしてちょうどその方向を見て寝ていた私は恐る恐る目を開いた。そこに居たのは、眼鏡をかけた中年の優しそうなおじさんだった。白くもやっとてしていた姿ではあったが悲しそうな瞳でこちらを見るその姿は今もなお鮮明に焼きついている。

 それは成仏することができず、わたしに救いを求めにきた霊なのだろうか。その日から、私はせめてもの供養にと、毎日仏壇にお水をあげるようにしている。それ以来その霊が私に訪れることはなくなった。

 それは彼の気配を感じ始めてから実に半年以上の月日がたった時のことである。

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