◎坂道と曲がり角 5万HITお題雑文
199 2005/11/23
◆楓香様改め野花様よりお題提供
:題 名「坂道と曲がり角」
:書き出し「もう覚えていない。」
:途 中「@花の名前を3つ以上入れること(そのうちひとつは「秋桜」)
「A「飛行機」「ボール」という単語をどこかに入れること」
:締 め「そして、みみずくが啼くだろう。(少しだけ改変しました。)」
:方 向 性「ほのぼのした、もしくは優しい印象のものに。」
「もう覚えていない。」私は笑いながら彼に言いました。
彼は困った顔したあと急に私をお姫様抱っこして小高い丘の上に連れて行きました。
そうして彼は、私に、とても人懐っこい笑顔をしながら、こう言いました。
「なんて嘘つきなお姫様だ。罰として私の妻に娶ってあげよう。
こんな可愛いうそつきな奥さんを娶れるのはきっと僕だけだよ。」と。
私は嬉しくて嬉しくて、彼にぎゅっと抱きつき頷いて、こう言いました。
「よろしくお願いします」と。
そして嘘吐きお姫様と優しい王子様は、めでたく結婚したのでありました。 おしまい。
「ねぇねぇどうして嘘吐きなのに、結婚しちゃったの?嘘吐きはいけないんだよぉ〜?」
と息子のケンは興味津々に聞いて来ます。寝ないといけない時間はもう過ぎてるのに。
「なんでかな?きっと可愛い嘘が王子様にとって、素敵だったからじゃないかしら」
私はケンに優しく、布団をかけて電気を消しながらそう言いました。そして、おやすみのキスをケンの額にしてケンの部屋を出ました。ケンは納得がいっていないみたいでしたが、この気持ちが解るにはきっとあと10年くらい必要だと思っています。まだまだこの子には沢山経験をつまないときっと解らない話だと思います。お姫様の気持ちと王子様の気持ちが解る頃には、きっと素敵な男性になってる事でしょう。今からとても楽しみにしています。
そう思いながら昼間、ケンが遊んだボールを私が転がして遊ぶのが寝る前の日課です。
私がケンと出会ったのは5年前の秋です。秋桜が咲き乱れる小川に架かる橋の袂でした。私のいる地方では戦争が激しく、近隣の村人達は全て安全な場所に引っ越していきました。私の村に住んでいた住人達も引っ越していて今ではこの村に残っているのは私だけでした。私の父は代々この村で生まれ生きて守ってきた村長です。そんな父は昨年、天寿を全うし、天に上りました。
ケンは小さな篭に大事に毛布に包まれてスヤスヤと寝息を立てていました。私はこの子を拾い父に見せ母親代わりになる事を告げました。父は無理だと言いましたが、こんな戦争の真っ只中に、戻すなんて出来ないと訴え、めでたくケンを息子として引き取とりました。
ケンの笑顔はとても可愛く父も直ぐにメロメロになりました。戦争はその2年後に、終結しましたが、村人達は戦争の不安か、別天地で住み易いからなのか、戻ってきません。
ただ私の村の地はとても栄養に富み、農作物を作るにはとっても適しています。お陰様で自給自足の生活をしていても全然困る事はありません。そして私は思いました。この自然が沢山残された土地で静かにケンの成長を見守って独り立ちできるまで育てようと。
ケンはいろいろな事に興味を持ちいつも質問ばかりしていました。飛行機が頭上を通ればあれはなに?なんて聞いてきたり、何故秋になると山は赤くなるの?とか、キンモクセイの匂いはなんであんなに良い匂いなの?などなど。私の知らないことまでも、五月蝿いくらい聞いて来ました。でもそうやって質問されるたびに、私はケンがすくすくと育っていいるのだと思い、とても嬉しい気持ちで一杯になりました。親バカかも知れませんがそう言う事で喜びを感じてしまうのです。
年月が巡り、季節が巡り、それから12年経ちました。ケンは17歳になりました。体も大きくなり昔は出来なかった、羊の世話や屋根の修理なんか簡単に出来る様になりました。たくましくそして、優しい青年になったのです。私の自慢の息子です。
太陽の日差しも和らぎ、サフランが咲く、ある日。ケンは一人の女性を連れてきました。名前はリンと言っていました。遠い遠い村に住みたまたま都までケンが買い物をしに行った時に出会ったと、言っていました。とても可愛らしく静かで、でもとても真っ直ぐに物事を見詰めるしっかりした目をした女性でした。そして私はケンに、どうやって知り合ったの?と聞いてみました。すると、
「彼女に嘘をつかれたのがキッカケだったんだ。」とテレながら言いました。
私はいったいどう言う事なの?と続きを聞かせて欲しいと言いました。二人を居間に呼び暖かい紅茶に一つ二つほどジャーマンカモミールを浮かべたものを一緒に飲みながら、聞き入りました。ケンが言うにはこんな感じだったそうです。
リンは街角で、山や野原で摘んだ花を売っていたんだ。僕はたまたま小銭を持ってたので母さんの為に花を買おうと、リンに声をかけたんだ。そして売ってる花の中で一番綺麗な、ピンク色の孔雀草を選んでお金を渡したんだ。でもたまたま、その花の値段より多くお金を渡してしまったらしい。リンはお釣りを渡そうとして用意していたのだけど、リンの靴を、見たらとても汚れていて破けていたんだ。だからお釣りを受け取らず、立ち去ろうとしたらリンはこう言ったんだ。
「私は貧乏なんかじゃない!本当は大金持ちなの!ほら!あそこにお城が見えるでしょ?
あそこに住んでいるのよ!見た目だけで哀れまないで!」
僕は哀れんでいたんじゃなく、ただ靴があまりにも破けていて足から血が滲んでいたから新しいのを買って欲しいと思って…と言ったら余計ブリブリ怒ってしまって。僕はなんだかいけないことを言ってしまったのではないかと、凄く後悔して慌てて逃げてしまったんだ。でもそれから何回かその都に行って顔を合わせるうちに、少しずつ話すようになったんだ。
「だから最近お花を飾る様になったのね?」と私が言うとケンは照れながら頷きました。
そして会う度にリンは、花を売っていろいろ学んで許婚である王子様に相応しいお姫様になるのとか、わざと汚い格好をしてあの城のお姫様と周りの人に解らないようにしているのとか、実は先月に黄金の国ジャパングに行き、手に持ちきれないほどの黄金を貰って帰ってきたのとか、次から次へと僕に話を聞かせてくれたんだ。僕は世の中に身分を隠しいろいろ学ぶ人がいるんだなぁと思った。そして僕は、いろいろ学んで素敵なお姫様になってね。と応援したんだ。心から。
そしたら急にリンは僕を避けだしたんだ。それからは声をかけてもあまり、話もしてくれなくなって…。僕はリンに何か悪い事を言ったのかと悩んだ。それから数日後、リンが、
「ごめんなさい。明日王子様と結婚する事になったの。もうあなたと仲良く出来ません。
ごめんなさい。そしてさようなら。もう会えない…」
僕はそう言われ初めて、リンの事が好きだと解った。僕はリンが花売りを終るまで遠くで待って帰り道にリンの所に向かったんだ。もちろんお城のほうに向かって。そしたら…城と逆の方にリンが歩き出したんだ。暫く坂道を下り曲がり角を行くと小さな小屋が。そこに、リンが入っていった。もしかして身分を隠す為小さな小屋に入ったのかと思った。そこで、僕はその小屋の扉を叩いた。リンは扉を開いて僕の姿を見ると、泣き出してしまった…。
「ケンにこんな姿を見られたくなかった…。私がお城のお姫様じゃないって知ったら
もう私に笑いかけたり、楽しく話をしてくれたり、会ったりしてくれなくなって
しまうのではないかって…。私を嘘をついていたの。ケンに嫌われたくなかった…。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
僕はリンに言ったよ。リンがお姫様だから話したんじゃない。例え、お姫様が嘘だったとしても健気に頑張って花を売り続けるリンが素敵だったんだ。そこが好きだったんだって。
だから僕は都に行くたびにリンの仕事を手伝ったり遊んだりしていたんだ。
そして、どんどん仲良くなっていくたびに、僕はリンと毎日でも一緒にいたいと思う様になったんだ。
母さん…実は先週、僕はリンにプロポーズしたんだ。
「どうりで顔つきが優しくなったと思った。毎日なんだかぽわ〜んとしてたし。
母さんね、ケンに好きな人できたって解ってたわ。おめでとう、ケン。」
ケンはもう顔がまっかっかでした。
「野暮ったい事聞くけどどんな風にプロポーズしたの?リンさん聞いても良いかしら?」
リンさんも顔をまっかっかにしながら小さく頷いてくれました。
新しい靴を買ってリンの所に行ったんだ。今履いているその白い靴。リンは白が似合うと思ってさ。そして白い靴を履いたリンを小川の見える小高い丘まで連れてった。そこで僕が言ったんだ。
「うん。白い靴似合ってる。これでもう足を怪我しなくてすむね」
って。そしたらリンなんていったと思う?
「足なんて怪我してたかしら?もう覚えてないわ。だってお城に帰れば新しい靴が
沢山用意されてるもの。」リンは悪戯な笑顔を浮かべて僕にそう言った。
でもとても嬉しそうだったんだ。とても可愛かった。僕はその言葉達を聞いて体が勝手にリンをお姫様抱っこして小高い丘の上で踊った。何故か解らないけどそうしたかったんだ。無性にそうしたかったんだ。そしてリンに僕はこう言ったんだ。
「なんて嘘つきなお姫様だ。罰として僕の妻になってもらおうかな。こんな可愛い
うそつきな奥さんを娶れるのはきっと僕だけだ。結婚しよう、リン」と伝えた。
リンは僕にぎゅっと抱きついてこう言ってくれたんだ。
「よろしくお願いします」と。
そうして二人は私に全てを話し、手を握り合って微笑みあっていました。
私は、とても嬉しかった。5歳の頃に読み聞かせた本の意味を心で理解していたことに。そして一人の女性を深く愛し守ろうと決意したケンの心の真っ直ぐさと、リンさんのケンを見詰める優しい眼差しに。こんな二人にどうしてダメと言えるでしょう。私はおめでとうと言って二人を抱きしめました。私の胸の中に暖かい光が満ちました。
その時です。
さっきまで雨が降ってた空から雨雲が消え日が射し始め虹が架かりました。
外では小鳥達が囀り、遠くから鼓笛隊の音楽が聞こえて来ました。
きっと遠い村で祭りが始まっているのでしょう。
まるでこの二人を祝福する為に音楽が奏でられてると感じます。
二人はしっかりと抱き合い、日に反射してキラキラ光る小川を見詰めました。
さらにこの地方では、とても珍しいみみずくの啼き声が聞こえてきました。
やはり祝福されるべき二人だと私は心からそう感じました。
小川のせせらぎも、虹も、風の吹く音も、全てが二人のために聞かせてくれています。
二人はきっと、永遠に愛を交わし、幸せな世界を築いていくのでしょう。
私は私の頬に歓喜の涙が零れるのを止められませんでした。
そして、二人を祝福するかのように、またみみずくが啼きました。