◎恐話百鬼夜行 第三十七夜
225 2006/08/15
◆『嫉妬の炎』 投稿者:T・Tさん 職業:薬剤師 年齢30歳
ずっと胸の内にしまっておくべき話しです。でも吐露させて下さい。私一人の中で抱えるにはあまりに恐ろしく、そしてあまりにも奇妙でグロデスクなあの思い出を、匿名と詩仙庵と言うこの空間にて浄化していただきたく、メールしました。
これは私が中学生だった頃の話です。
当時女子の間で“こっくりさん”とかラジカセで聞く怪談話がとても流行っていました。勿論私もそういう事が大好きな女の子でした。そして怪談ものを楽しむグループには必ず、なんちゃって霊感少女(今の言葉で言うと、オカルト系不思議ちゃん?)が一人はいるもの。私達のグループにも漏れなくその霊感少女がいました(仮にS美としますね。)。怪談ものの話をしていると必ず、あの天上の隅に浮遊霊がいるだの、あ!今貴女の横を狐の神様が走り去っただの、よく言っていたものでした。
しかし私達は全員彼女が嘘を言ってる事を知ってました。何故なら私のおばあちゃんが、S美が言うには30年前に亡くなっていて、私の守護霊になっていると平然と言ってのけたからです(母方、父方の両方のおばあちゃんは当時、生きてます。)。まぁでも酷い嘘を言うような悪質な子ではなかったので私達は当時、生暖かく見守ってました。根はとても優しい子だったんです。
怖い話も大好きだけれど、それ以上に恋愛話も大好きだった私達。中学2年ともなれば、それはそれは男子生徒達のだれそれがかっこいいだの、あのクラスのダレダレがダレダレと神社の裏でキスしていただの、もう普段おすまししている私達がキャッキャ娘に大変身。
もちろん人の噂ばかりではなく私達の間でも正直に暴露なんかしたりして。あの頃は名前出すだけでもとても幸せな気分になれました。
さて、恋愛話に無縁な霊感少女S美もお年頃。どうやらお目当ての男子生徒がいるらしく私達にどうしたら付き合えるのか?とかどう告白すればよいのか?なんて事を何度も何度も聞いてきました。あ、S美が恋愛話に無縁なと書きましたが、それは見た目云々の話では、ないんです。逆に見た目だけを言えば、校内で1位2位だと言われるほど、とても美人さんだったんですが、ほら霊が見えるだの何だのと常に霊感系の話しをしてしまう彼女に誰もが寄り付き難い感じになっていたんです。綺麗すぎな上に霊感と来れば、それはちょっと恐い感じをもたれても仕方が無いですよね。
ある日、私達にS美は「明日の放課後に柔道部の(仮にA君とします。)に告白するね。」と言ってきました。私達はどよめきました。何故なら当時は美男子でだけどガタイもよく、とても優しく、これまた学校で1位2位な男子生徒だったからです。結果は見えてましたがしかし美男美女カップルが生まれたらなんだかとても嬉しいじゃないですか?だから目一杯応援していました。
でもやはり…結果は駄目でした。S美が霊感少女である事と、A君は三年生で受験勉強の追い込み時期がS美の恋の幕を引きました。がしかしS美はへこたれませんでした。何度もアタックし、朝早く起きてお弁当を作って渡し、帰りは校門の傍でA君の帰りを待ったり、多分、これ以上A君に付きまとってしまったら今で言うところのストーカーと、言われてもおかしくないほどS美はガンガンアタックしていました。
綺麗な女の子が哀願するように何度も何度も愛を告白してくる。その気が無くても男性としては、とても心が惹かれてしまうもの。ついにA君はS美の告白を受けようとした。が、しかしその時たまたまA君と同じクラスの女の子(仮にB子)がA君に声をかけてきました。その日、日直だったA君が帰りのゴミ捨てを忘れ帰ろうとしていた事に気付いたB子が声をかけに来てくれたしい。
でも、今まさに告白を終えて。A君の返事を(しかもかなり良い感じの)貰う瞬間に現れたB子は、S美にとっては本当に最悪な存在。そして何思ったのかS美はなんとB子もA君と付き合いたくて、邪魔しに来たと勘違いし、怒りは一気に破裂した。
「貴女なんかにA君は渡さない…」
S美の顔は赤く紅潮し、目が釣りあがりまるで般若のような表情に。そしてまるで地獄の底から響き渡るような、それでいてとても冷たく冷酷な声で声でもう一度、「貴女なんかにA君は渡さない…」そう言い終わるやいなや、S美はA子に飛び掛かっていました。A子の髪を掴んでは振り回し地面に倒し、今まさにS美の蹴りがA子の顔面に入ろうとした瞬間!
S美の体が中を舞い地面に転がったのでした。そうA君が後ろからS美を捕らえA子から遠ざけたのです。そしてびっくりしながらS美はA君を見上げました。
「なんで!!なんでそんな泥棒猫を庇うのよ!!!その女はこれから始まる
私達の大切な時間を邪魔して壊そうとしているのよ?!私達が付き合う事に
嫉妬して邪魔してきた最悪な女なのよ!!!!!!!!!!」
はっきり言ってもう狂ってしまっていたのかもしれませんS美は。それほど熱くA君を、心から思っていたのかもしれない。でもしかしそれにしてもB子を倒して蹴ろうとした姿は普通の女子学生のそれとは余りにも違った雰囲気を出していました。
そしてA君が言いました。
「さっきまでは付き合おうと思ってた。俺も受験受験で机に齧りつくことしかできなく
何の為に生きているのか解らなくなっていたから。そんな時、お前が毎日毎日、
俺を思っていろいろしてくれて、本当に嬉しかったんだ。
でもでも…お前、恐いよ…。人間じゃないよ…。」
そう言いながらA君はS美が恐くて泣いているB子にかけより抱き締めるように立ち上がらせた。大丈夫か?と優しくB子の頭を撫でながら。
その時です、私は絶対に今の現代では有り得ない事を見てしまいました。
抱き上げて立ち上がろうとするB子とA君の姿に(多分これは想像ですが)B子とA君が、寄り添い微笑みあう幸せな姿を映し描いたんだと思います。それはS美にとってとても辛くA君の傍には私が一番ふさわしいと思っているからこそ絶対に思い描きたくない姿。でも、それを思い描いてしまったんです、S美は。
「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
S美が叫んだ、その瞬間でした。
S美の額がカッ!と光ったその刹那、なんと全身が青い炎に包まれ燃え出しました!
音も無くただゴォ〜!っと立ち上がる青白い炎!S美は叫びながらヨタヨタA君の傍へと歩いていきます。大きく開いた口からも炎が溢れ、両目からも炎が溢れ、どんどん肉体が、グズグズになっていく!A君もB子も、いったい何が起こったのか解らないと言う感じで、ただただ燃え上がるS美を怯えながら見続けるしかありませんでした。
しかし不思議だったのが、A君に突き出した両手の手首の先は炎に包まれることが無く、S美が青白い炎に崩れ去った後でも、まるでまだ生きてるかのような綺麗な手だけが残って落ちていました。普通に考えると炎に包まれたのならば全身が燃えるはずなのに…。
ちなみにその瞬間を私は見ていました。物陰から。悪いとは思っていたのですが、やはり告白するS美がもしフラれて戻ってきた時に少しでも慰められるようにと、物陰に隠れて、いたんです。しかしまさか…まさか燃えてしまうなんて…。
その後、警察や救急車などが慌ただしく来たり、私は見てた事を正直に話たりしましたが信じてもらえず、S美の死は自分で何かの薬品を使って燃やした自殺と言う事に。
でもね、私ははっきり見たんです。
S美が叫んだ瞬間に、S美の額が光りそこを中心に燃え上がったのを。そこには薬品とか燃やす何かがあったとか到底思えませんでした。俗に言う人体発火現象と言った方が絶対にしっくりくると思うんです。しかもその発火の原因は嫉妬であると…。
もう10年以上も経っている事なのに、その瞬間のS美の断末魔の声が未だに、私の耳に残りと、何回も何回も思い出させるのです。そう、目を閉じると今もなお…
「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
カッ!ゴォ〜!
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さぁ、今年も今宵から「恐話百鬼夜行」の、はじまりはじまり。
まさに嫉妬の炎と化してS美はA君に思いを見せた。でもしかしそれはただ見せるだけにあらず、T・Tさんのようにきっと今もなおA君の耳と記憶と目にはくっきりと映し出しているのかもしれませんね。
人の思いは時に天をも揺るがす悪魔や、または誰かを助ける神へと変化する。
もしかしたらこの恐話百鬼夜行に出てくる幽霊達もまたいろいろな願いや恨みによって、現世をさまよいもがいているのかもしれない。
ほらすでに、貴方の後ろには、青い炎に包まれた女がじっと睨んでいる…。
ああ、どっとはらい…。どっとはらい…。