◎恐話百鬼夜行 第三十八夜

226 2006/08/17

◆『誰がお姉さんの足を…』   投稿者:U・Bさん 職業:弁護士 年齢41歳

 私がまだ10歳位の頃に体験した話を投稿します。霊とか妖怪とか、そういう類いの話しではありません。現実によく起こっているかもしれない不可解な不幸です。そして、実際に起こっても、あまり知られない話だと思います。あと「体験した」というより「遭遇した」と言う方が正しいかもしれませんね。

 状況は詳しく思い出せませんが、その頃、小学校は夏休みだったと思います。私は友人の一人に、キャンプに誘われてました。でも実際は友人の母親に誘われていたんです。詳しく聞くと、いろいろな地域の子供が集まり、キャンプをする企画という感じでした。親は同伴せずに、大人2人と大学生のアルバイト5、6人位が同伴するらしいとの事。滞在期間は、5泊6日だったと思います。

 子供だったので無頓着でしたが、今思えば単なる夏休み向けの商売ですね。その時は私はあまり乗り気ではありませんでした。それは他の子と、そのキャンプの日に遊ぶ約束をしていたからでした。
 キャンプに誘ってきたその友人は、内気で友達も殆どいない子でした。たまたま転校生という共通点で、その友人とはたまに遊んだりしていたくらいの仲でした。たぶん親が内気な性格を直そうとしていたのでしょうね。私は渋ってましたが、私の母(単純)が説得されてしまいました。そして私も行かなくてはならない雰囲気になりました…。まぁでも、実際に行けば子供なんで、嫌でも何時の間にか楽しくなりますから、なとなく観念してキャンプへ行きました。

 そう言えば肝心のキャンプ地は覚えてませんでした。ごめんなさい。ただあの時は、後をボーっと付いて歩くだけでしたので…。ほらあんまり乗り気じゃなかったし…。でも確か、新幹線に乗ってバスに乗って…気が付けば山。そんな感じだったんです。だけど結構、長旅だったかもしれませんね。朝に出発して到着した頃は薄暗くなってましたから。それとも、目的地までの移動の間に、幾つかの観光地を見学したせいでもあるかな?

 時間も遅いせいか、初日は民宿に泊まりました。そこで自己紹介や今後の予定などがありました。子供は男女合わせて25人は居たと思います。大学生のお兄さんお姉さん達も結構面白い人達で、皆すぐ打ち解けました。(そこで知ったのですが、アルバイトの人達は皆、同じ大学だったみたいです)でも、何人かは打ち解けられずにいましたね。その中には私の友人も入ってました…。相変わらずな感じです。まぁ、私も内心は無理に和気藹々とした、雰囲気は好きではないのですが。

 次の日からキャンプが始りました。なんの捻りも無い基本通りのキャンプ。キャンプで、やりそうな事は大半やったかもしれない。今も記憶にあるのは肝試しや花火、あと夏祭りもありました。まぁ、平々凡々なキャンプでした。

 しかし4日目に事件が起こりました。誰かがキャンプ場近くの湖で溺れたらしいのです。私達は湖で遊んでから、休憩していた時でした。他のキャンプ客などもいますので、辺りは少し騒然としました。私達も近くへ行ってみると、男の人が抱えられていました。
 その人は同伴してた大学生の一人だったので少し驚きました。だって私達から見たらその大学生達は何かあったら私達を守ってくれたり助けてくれたりする存在だろうし、なにより溺れるなんて、大人のする事じゃ…。と、当時は思っていたんです。

 救助した人はたぶん、キャンプ客のおじさんでしょうか。すぐに救助されたらしいので、大学生は混乱はしてた様子でしたが、意識は失ってませんでした。無事でホッとした私達も「お兄さん大丈夫?」とか声をかけてました。しばらくして同伴者のおじさんおばさんが、「何があったん!?」と駆け付けてきました。溺れた大学生も落ち着いてきたみたいです。
 少し間を置いて、震えながら口を開きました。その時は周りの皆は、無事な大学生を見ていたので、内心は安心していました。しかし、それが間違いだったようです。

 溺れた大学生   「誰かに足を引っぱられた…」
 救助したおじさん 「うーん…草か何かに引っ掛かったんだろうね」
 溺れた大学生   「いや、あれは人の手でしたよ。凄い力で引っぱられましたし…」
 同伴のおじさん  「うーん、おかしな話しだな…」
 同伴の大学生   「けど、草に引っ掛かるってありえますかね?」
 同伴のおじさん  「まぁ、無事だったんだから、それで良いじゃないか?
           (救助したおじさんに向かい深々と)本当に有難うございました」
 救助したおじさん 「まぁ、パニックになってたんでしょうね」
 溺れた大学生   「…蹴りましたし……」
 同伴のおじさん  「えっ?」
 溺れた大学生   「足を引っぱられたので、夢中で蹴ったんですよ」
 同伴のおじさん  「何を?」
 溺れた大学生   「…あれは……」
 同伴のおじさん  「……ちょっと〜君、点呼を取ってみてくれないか?」

 そして私達は点呼を取られました。

 どうやら私含め子供達は、全員いました。「子供達は全員いますよ〜」と点呼を取った、お兄さんが言いました。
 少し経って「F子は?」とお姉さんが言いました。
 「あれ?F子がいないぞ」
 「F子〜!何処にいるんだ〜!?」
 「F子さ〜ん」
 (F子とは同伴していたアルバイトのお姉さんの事です)
 大人達はF子さんを探しました。私はその時には薄々気付いていましたけどね…。多分、皆も気が付いていたと思います。確か女子の2、3人が悲鳴の様な声をあげました。当然、皆も女子の指差す方を見ます。
 「なんだあれは!?」
 「人じゃないのか!?」
 「人が浮かんでるぞ!!」
 湖の中心の方に、水面に対してうつ伏せになった人が見えました。浮かんでると言っても背中まですっぽり水が被さってます。水が透き通っているので見えたのでしょう。微動だにしない所を見ると既に死んでたのでしょう。おじさんや、お兄さん達が救助に向います…。

 同伴のおばさんが「向こうに行ってましょう」と、子供達を離れた場所に誘導しました。なので引き揚げた所は遠い場所からしか見えませんでした。人工呼吸やマッサージもしてたみたいです。そして思ったより早く救急車が来ました。しかしすぐには運びませんでした。それを見てた友達が「やっぱ死んじゃったんだ」と言いました。こうしてキャンプは当然、打ち切りになりました。

 他のキャンプ客の会話が耳に入ったのですが、女性は頭から、血を流していたそうです。溺れたお兄さんが蹴ったのは、お姉さんの頭だったのでしょう。あと人工マッサージの際に胸骨か肋骨かを折ってしまったらしいです。それ以前に死んでたのでしょうが、後味の悪い話ですね。帰り道のバスはシーンとしてました。小雨が降っていて、空はどんよりと曇っていたのがさらに強い印象を与えていましたね。

 思い返してみれば、お兄さんが溺れかかったのは、足を引っぱられたから、ということで納得できますが、じゃあ、お姉さんは一体…。でも実はあの湖の深さ、あまりないんです。溺れるような場所では絶対にないんですよね…。だって10歳の私の、腰くらいの深さしかなかったんですよ。と言う事はF子さんが足を掴んでいたのならば地面すれすれまで潜ってたのかな?あと、それ以前に近くにいた人が気付きそうですが…。音もなしに沈んだという事でしょうか?考えてみると不可解な点が多いんですよね…。

 思い出しながら書いたので長くなってしまいました。
 今でもあの事故は私の中では不可解な事故です。

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