◎恐話百鬼夜行 第四十五夜
233 2006/08/31
◆『ポニーはどこよ!!!』 投稿者:E・Sさん 職業:大学生 年齢18歳
俺の恐かった体験。
というか、心底びびった体験。
その日、友達が俺の家に泊まりに来て、飯喰った後、だべって時間を過ごしてた。そして深夜2時頃だっただろうか。俺たち二人はバイクの話をしていて、ブランキーのベンジーのバイクを見るために、プロモーションビデオを再生していた。
俺の家は賃貸なのだが、3階建ての建物の二階、三階に住んでおり、二階に玄関があり、部屋の中に三階への階段が通っていた。
基本的に人に貸すためのものではなく(一階がある事務所でその従業員用)、一戸建てに近い変わった物件だった。近くには飲食店しかないため、夜は音を気にする事もなく、いつでも大音量で音楽かけたり、騒いだりしていた。
だから、その時のビデオも大音量で見てた。
すると、急に、
「ピンポンピンポンピンポーン!!」
とチャイムがうるさく鳴らされ、そしてなにやら大声でわめいている。
俺はびっくりして、「うわっ、苦情だ…」と思い、リモコンの消音ボタンを急いで押し、二階に駆け下りた。
しかし、それまで二年ほど住んでたが、音で苦情が来たことはなく、それどころか、友達などの俺が招いた人以外の人がチャイムを鳴らして訪れたことはなかった。
それは、この住所が「○×ビル」という名前なのに三階建てでビルっぽくなく、しかも、一回に事務所があるため、事務所と関係なく住んでる俺を部外者はスルーするためだ。
(引っ越した当時は、郵便局員も俺宛の手紙を届けられなかったほどわかりにくい。
NTTの受信料、新聞勧誘も来た事ない)
だから、あまりにめずらしいチャイムに、しかも深夜2時頃だったので、小心者の俺は、ビビリにビビッていた。
「すいません!音がうるさかったですか!?」とか、既に謝りながら階段を下りて玄関に向かうと、鍵をかけてなかったドアから、女の顔がのぞいていた。
俺は、勝手にドアを開けてこちらを向いている女に一瞬たじろぎ、凍った。
その女は、二年住んでて見た事の無い顔で、しかも恐ろしい風貌だった。顔はガリガリで痩せこけ、すごくケバイ化粧が何日も経ってはげた感じで、目の下には見たことが無い程の深い“くま”がある。全身真っ赤なワンピースを着ていて、黙ってこっちを見つめていた。
俺は、苦情と思っていただけに、この辺の人、両隣の人を想像していたため、「こんな人いたっけ?」と思いながら、「音…のことですよね?」と聞いた。すると…
「あんた誰!!?ポニーは!?ポニーはどこよ!!○×▽★〜××!!」
と訳の解らない事を大声で怒鳴りだし、俺は俺であまりに動揺して「俺は俺の家です、」とか答えてしまってた。女は、「ポニーがいるんじゃないの!かくまってるんでしょ!」と叫び、話が意味わからんので、俺は「知りません!!」とか言って、ドアを無理やり閉め、鍵をかけた。友達が三階から降りてきて、何があったかを話していると、ドアの向こうで、ガチャンガチャン!ガンガンガン!!という音がする。
さっきの女が郵便ポストで壁を叩いているのだ。しかし、俺の家の玄関のドアには、ドアスコープが無く、具体的に何をしているかはわからない。しかも、玄関は建物の影に隠れた階段を上ったところにあるので、窓から確認することも出来ない。ドアを、もう一階開ける勇気のない俺らは、「警察呼ぶ?」とか話してたが、地上への階段の灯りを消して待つ事にした。
しばらくすると、女はハイヒールの音を鳴らしながら階段を降り、今度は俺の家の建物の前に座り込んで、なにやら独り言を言っている。そして、それを窓から隠れて見ている時に気づいたのだが、女は幅30cmぐらいの、小さなバッグを持っており、中を覗いている。そして、覗く→立つ→わめく→座る…を繰り替えしている。
俺は、その麻薬中毒のような風貌と意味不明のサイコさにビビッて、心臓がまだドキドキしていた。そして、友達とどうしようか話しながら、変なことをしないか観察していたが、ちょっと目を離した間に、女の姿は消えていた。びっくりして、階段にまたいるのではないかと思ったが、意を決してドアを開けてもいなかった。
友達は、その後落ち着くと寝てしまったが、俺は心配で寝れなかった。そして、4時頃、流石に疲れて寝ようと思った俺だが、その前にゴミを出しておこうと何故か思い、ゴミ袋を持って外に出た。外はまだ暗い。道に出て、左右確認したが、誰もいない。ゴミ捨て場は、左側20mぐらいの場所だ。そこにゴミを出し、振り返った時、俺は凍りついた。
さっきいなかったあの女が俺の家向こう(右側)10mぐらいの所に向こう向きで立っていたのだ…!そして、すこしずつ俺の家から離れるようにふらふら歩いている。
俺は、本当にこの女が恐ろしくなっていた。突然消えたり、現れたり、それは数秒の間の出来事だった。気味悪く、心臓が高鳴ったが、幽霊だとか、そういうものだとは、その時はまったく感じなかった。
ふらふらと、離れていく女を見て、「今のうちに家に入ろう…」と思ったが、目が覚めてしまい、もう友達も寝てるから、今帰ってもきっと不安なだけだ。と思い直し、後をつけて大丈夫だと確認してやろう。と、なぜか思った。
4時頃であたりは暗く、人の気配はまったくしない。すごい慎重に、20mぐらいあとをつけていく。女は、2年住んでた家の近くなのに俺が知らない道のほうに行った。知らない道だから、先がどうなってるか解らず、つけにくい。小刻みに曲がり角がある小さな道を、女はふらふら、ゆっくりと歩いていく。そして、あるまがり角を曲がった時に、俺もあとについて曲がると、曲がってすぐ突き当たりのT字路になっていた。
「ど、どっちに曲がった?」と思ったが、T字路に出てみた。
そのT字路は今までの小刻みに曲がってた道とは違い両方ストレートに長く伸びていた。しかし…女はどこにもいなかった。
急に後悔の念にかられるとともに、静寂の暗い夜道で、急に全身に視線を感じた。全身に寒気が走り、「やばい」と直感的に思った。嫌な想像が頭をよぎり、周りを見回した俺は、全速力で来た道を走り家に向かった。つけられてる気がして、後ろを振り返りながら、俺はすぐには家に入らず、そのまま知ってる場所にたどり着くと遠回りをしつつ走り続け、家に戻った。何かを振り切ろうとしたんだと思う。
その日は、無論寝れなかった。その後、さらに2年程そこに住んだが、その女を見ることは二度と無かった。
あの女の探していたポニーは見つかったのだろうか。