◎恐話百鬼夜行 第四十六夜

234 2006/08/31

◆『睨む霊』          投稿者:F・Rさん 職業:京舞子 年齢25歳

 21歳の時に彼氏と同棲をしていたマンションでの話です。

 その頃、新しい職場と不慣れな家事を続ける毎日に疲れてたのか、彼氏との喧嘩は毎日のように繰り返されていました。

 幸い彼は暴力を振るうような人ではなかったのですが、何を話しても聞いてはくれない、私は無言の空気に耐え切れず、喧嘩しては近くの公園に出て行く。1時間ほどすると彼氏が迎えに来る。こんなことをダラダラと続けていました。

 初めは口喧嘩だったものが、だんだんと私はヒステリックに声を荒げるようになり、物を彼氏に向って投げつける。鏡割る、CDデッキ壊す。部屋は荒れ放題になっていきました。
 自分で言うのもなんですが私はキレイ好きです。荒んだ部屋は本気で嫌なんです。が…、無気力、ゴミをゴミ箱に入れることすらダルく感じていました。

 「もぅ限界だ…」2人ともが感じたことだと思います。

 彼氏の帰宅時間もだんだんと遅くなっていきました。
 そんなある日、1人部屋にいた時です。
 起きていても喧嘩するだけだしさっさと寝てしまおうと、ベットに横になりました。

 少しすると、耳元で男の人の声が聞こえました。
 「彼氏?」と思ったけれど、玄関の開く音も聞こえていない。彼氏よりもっと低い声…、それに声が近すぎる…。耳に密着した状態で発する声、とでも言いましょうか…、頭に響くような…。生々しく覚えてる、その声は「頑張れ…」と言ってるように聞こえました。

 …いったい何を頑張れば……。

 掃除?それとも喧嘩するなってこと?
 幸い、その時は、金縛りなどにもあっておらず、あまり恐い感じがなかったのです。

 気の持ちようでしょうか、翌日、掃除をして、私には珍しく食事を作り彼氏の帰りを待ちました。

 少し気持ちを切り替えたからといっても、事はそんなに順調に運ぶはずもなく、どうせ、喧嘩になるんだろう…、そう思ってました。それでもなんとか大きな喧嘩もなく久しぶりに平穏な日常が戻ってきました。

 それから少しして、彼氏が会社のミーティングで遅くなる日がありました。また1人で、部屋にいた時、ゾクッするような視線を感じ、その感じる方向を見ると…。

 髪の長い女性が、私を見下ろしていました…。
 視線が、視線が外せない…。
 睨みつけられたまま後ずさりも出来ない。金縛りでした

 …音が聞こえ、彼氏が帰宅したのが解りました。その瞬間、私の体を束縛してた金縛りが解け、彼氏に無我夢中で駆け寄り、「今、女が…」と話し出そうとしたら、先に彼氏が私の話を遮る形で話し出していました。

 「オレも2日前に、そこに座ってる髪の長い女を見た」
 彼氏が指差した先は、さっき私を見下ろしていた女性がいた場所です。

 気になった彼氏は、出来るだけ早く帰宅をしてくれたみたいでした。彼氏が、帰ってきてくれなかったら私は、どうなっていたのでしょうか…。

 マンションの住人の方とも少しあり、マンションを移ると喧嘩はなくなっていきました。
 彼女は誰だったのか、なぜ現れたのか。喧嘩の原因は彼女だったのか…。そしてその前に現れた「頑張れ」と言う声の主も解りません。もしかしたらこの彼女が現れるから頑張れと言ってくれたのか、それともそうじゃないのか…。

 それと喧嘩が多かったのはいつもイラついていた私に彼女が同調したのか…。
 今でも分かりませんが、私はもうあのマンションには2度と近寄りたくありません。

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