◎恐話百鬼夜行 第五十三夜(中)

243 2006/08/31

◆『おじゃま道草』              語り部:読み人知らず 職業:???

 起きるなり、彼は、
 「ああーーっ、疲れた。おれ、うなされてなかった?
  揺すったでしょ。分ったんだけど、夢がさめないんだ。
  これで4回目かな。同じ夢見たのは……、
  2階じゃ見たことなくって、いつもここで寝た時にだけ見るんだ。
  おれ、何か寝言を言ってた?」
 と、目をこすりながら、一気に話しました。
 「うん、うん、、っていってたよ。」
 船井さんが答えると……
 「そうか? おれ、うんう………って………
  自分では首を振ってたつもりなんだけどなぁ……。聞いてもらえる?」
 そう言って、馬場君は夢について語り始めました。

 馬場君が見た夢の要旨は次のとおりでした。
 「気がつくと、座敷に座っている。広い座敷で、30畳ほどはある。
  電燈もなく、造りも古い。時代劇のセットのようである。
  しばらくすると、少女が現れる。5・6才で、可愛らしい。
  赤っぽい振り袖を着ている。七五三参りに行く姿のよう。髪もキチンと結ってある。
  時代劇でなら、武家の娘という役がら。

  少女が、
  『おにいちゃん、あそんで。』
  とせがむ。遊んであげたいが、
   <自分はここを動いてはならない。動くと帰れなくなるかも知れない>
  という不安感がある。
  そこで、少女に、
  『外で遊んできなさい』
  と勧める。しかし、聞き分けない。
  『あそんで。あそんで。』
  と、繰り返しせがむ。しかたがないので、
   <少しだけ、この場所で……>
  と思うと、それを察したのか、少女はニコッとして、持っていたお手玉を差し出す。
   <さて、どうしようかな。>
  そう考えながら、受け取ろうとする。

  と、その時、座敷の奥の方から、
  『遊んでいてはイケマセン』
  という、母親らしき声が響く。その途端、少女の笑顔は消える。
  蒼白となり、自分(馬場君)の陰に隠れようとする。
  『呼んでるよ。行かないと叱られるよ』
  と言うと、少女は、おびえ始め、今にも泣き出しそうである。

  そしてついに、
  母親が座敷のはずれから姿を現す。和服を着込み、すらっとしている。
  初めは、遠くではっきりしないが、近付くにつれ、綺麗な顔だちであることがわかる。
   <優しそうな母親じゃないか>
  そう思って、後を振り向くと、少女は消えている。
   <あれ?>
  不思議に思いながら、母親の方を向く…………先ほどの顔だちはかき消え、
  なんと般若になっている。

  恐怖に捕らわれ、
   <にげなきゃ、、>
  そう思った時、夢からさめる」

 馬場君が話を終えた時バンドのメンバーが2階から降りてきました。ライブの打ち合せに皆で出かけるそうです。腰をあげて、私たちも帰る支度をはじめると…天井から……いや、2階から、タッタッタ・・・と誰かが走り回る様な足音がしました。全員聞こえたようで、一瞬、皆動きを止め、顔を見合せました。
 「聞こえた? これで2度目だな?」
 今、2階には誰もいないよなぁ。
 馬場君が言うと、メンバー全員がうなずきました。茅野君がすかさず、
 「大人だと、ドスッドスッという足音になるから、あれは、子供だな。
  実際、2階で子供が走り回ると、あんな足音になるよ。」
 とコメント。しばらく皆沈黙し次の音を待ちましたが、もう足音は聞こえませんでした。皆が出かけ、私たちも帰路につきました。

 自宅へ戻ると、写真などをもとに、背後関係を見てみました。

 1階を歩き回っている「本体」(何であるかは伏せておきます。土地へ縛られてますが、出張して動く事もあるので迂闊に波長があうと危険ですから)は、千数百年前の怨霊です。本来は、この土地のものでなく、因縁を背負った不幸な一族に執り憑いた状態できた悪霊のようです。一族を惨死に追込みながら、強烈な結界を創り出して、自らを土地に呪縛して、しまった形となりました。負の結界は、その吸引力により、捕まえられるものは何でも取り込んでしまいます。写真の中には犠牲となった浮遊霊などが多数みられました。そしてその中に、決定的な取り込みがあります。

 ある時、気が狂った住人がいてとんでもない大変な事をしでかしてしまいました。屋敷を増改築する際に、道祖神が邪魔になり、なんと石仏を井戸に投げ込んでしまったようです。現代ならまだしも、普通の昔の人がそんなことをするはずはありませんから、余程、狂った状態だったのでしょう。オマケに、その井戸は、その後に、そのままの状態で、埋められてしまいました。榎本君が、神仏の罰かも知れないと言っていましたが、正にその可能性は、大です。「本体」を核とする結界内で、井戸の石仏が新たな強い核と化し、いわば、二重のブラックホールを形成していることになります。

 例の少女は、これらの吸引にひっかかってしまった、もっと新しい一族のひとりです。
 今から百数十年前のものだと思われます。母親が怨霊にやられたため、苦しい目にあったようです。病気になり、他の場所で亡くなりましたが、念だけはここに残りました。
 例の猫は、その娘が可愛がっていた猫です。

 いずれにしても、浄化できるような代物ではありません。1日も早く、転居すべきです。私は、電話で馬場君にその旨を伝えました。しかし彼等は転居の際に持ち金を使い果たしたらしく、すぐには越せない、とのこと。彼等も、重なる不穏な現象に嫌気がさしていたが、お祓いなどでおさまるのならば…と思って私に相談をもちかけたもようです。

 私が…………
 「だめだ……。」
 と告げると、
 「そうか、やっぱりね………。」
 と納得し、出来るだけ頑張りバイトして金貯め急いで転居する事を約束してくれました。

 その後2ヵ月ほどで、彼等は転居に至りますが、その間に随分と失うものがありました。霊障が原因の、人間関係のもつれです。

 さて、私たちの方ですが、やはり霊障を免れる事は出来ませんでした。翌日の晩、榎本君から連絡がありました。次の様な内容です。

 あの後、バイト先へ行くと……………師匠が彼の顔を見るなり………
 「どこ行ってきたの!」
 ときつい口調で言った。そして、彼を本堂へ連れて行くと……
 「祓うから、そこへ座って。自分の背後は見えにくいものだからなぁ。」
 といって、除霊をしてくれた。
 浮遊霊がついてくることはよくあるが、普通は寺に居るうちに自然に落ちてしまう。
 わざわざ祓ってくれるのは、めずらしいことである。その後………
 「かなり危ないことに関わってるね。やめなさい……。」
 と言うので、預っていた写真をみせ、知っていることを話した。

 師匠の鑑定の結果は……
 「お地蔵さまが、抜魂をしないまま捨てられ、埋っている。
  その下には水脈があり、お地蔵さまは泥にまみれている。
  その結果、この土地には仏罰がくだっており、その後、性質が逆転して
  怨霊の住み家と化した。また、惨殺された者がおり、その殺傷因縁が凄じい。
  意識を飛ばしただけで、その怨霊が斬りかかってくる。
  ある部屋にお札が貼ってあるが、まったく効果なし。
  命懸けで対峙すれば、怨霊はなんとかなるかもしれないが、
  仏罰の方は手の施しようがない。ここに関わるのは命を捨てる様なものである。
  自分なら、頼まれても絶対に拒否する。
  出てきたもの、憑いてきたものを祓ったり、追い返したりすること、即ち、
  除霊は可能だが、浄霊は難しい。ましてや土地の浄化などとんでもないことである。
  そっとしておくしかない。障らぬ神に祟りなし。
  一日も早く手を引かないと、命にかかわる。
  日本で有数の祈祷師であっても、現状では無理だろう。
  そこ一帯を穿くり返して、整地する覚悟があれば、可能性が見えなくもないが……
  それにしても、わざわざ命をかけて浄化するメリットが見当たらない。
  それに、この土地がそのようになってしまったそもそもの原因は、
  日本史以前にまで遡る。もちろんそれを調べる必要性はない。
  この様なスポットは所々に存在するので、気をつけよ。
  しかしながら、この様な土地に引き摺り込まれたのには、やはり、
  何等かの因縁がある。部外者にとっては、考えようによってはいい経験だが、
  当事者つまり住人にとっては、死への誘いである。
  因縁を自覚しないと、またどこかで引き寄せられるであろう。引っ越しの際には、
  すべての家具に荒塩をふり、出来るだけ早期に、除霊の祈祷を受けなさい。」

 というものである。死人がでない内に、手を切ったほうがよい。榎本君は、この他にも、自分の考えなどを教えてくれました。

 この内容は茅野君にも伝えました。そして、もう行くのはよそう……という話になったのですが…実際には、問題が持ち上がり、1週間後、もう一度だけ足を運ぶことになります。
それはさておき………しばらくは、悪影響が続きました。

 私の自宅で最も頻繁だったのは、弟の部屋です。
 誰も居ないはずなのに、人の気配がする。ぼそぼそと話し声が聞こえたこともあります。何等かの関連がある浮遊霊のようでした。電灯をつけたり「帰れ」と念じたりするとすぐに消えました。週に1、2度そんなことがありました。また、私が行(読経)をしていると、背後に気配がする…。しかも鳥肌が立つような気配がする…ということが数回ありました。これは「本体」(親玉)でなく、付属霊(手下)のようです。気合いを入れて行を続けるとその内に消えました。
 お帰り願っただけで、決して浄化しようとしたわけではありません。この様な付属霊だけなら、なんとかなるのですが、手を出すと芋蔓式に出てきますから、いずれ「本体」と接触しかねません。浄化などとんでもないことです。

 悪影響は茅野君にも及びました。
 彼が仕事から帰って、うとうとしてると、自分が畳の上に座ってる感じがしたそうです。いやーな感じだと思った時、周りの様子が見えてきました。どうも馬場君が語った夢の中に出てくる、あの座敷のようです。
 茅野君は、少女が現れ、やがて恐ろしい母親が出てくることを予想しました。
 ところが…その気配はありません。これは夢だから覚めなくては…しばらく、そう考えているうち………。ついに………座敷の奥の方から、近付いてくる足音が聞こえてきました。般若面の母親か……。彼は筆舌し難い恐怖感を覚えたそうです。しかし………。
現れたのは母親ではありませんでした。
 「・・・・!」

 この時点で、茅野君は「それ」が「本体」であることを知りませんでした。でも彼は見てしまったのです。「それ」を……。それは「それ」はだんだん近付いてきました。彼は恐ろしさのあまり、
 「神よ仏よ…………
  ……………………お爺ちゃん!」
 と助けを請いました。
 「うわっ・・・・!」
 危機一髪、祈りは通じたようです。彼はなんとか夢から覚めることができました。

 茅野君はすぐに私に連絡をくれました。聞いてみると………。
 彼が話す、特に「本体」の描写は、私が想像していたものよりリアルでした。
 (その描写については、記述を控えます。ご容赦ください>ALL)
 私が………
 「「それ」が「本体」だよ。」
 と伝えると、彼は、、
 「げ!!例の斬りかかってくるヤツ??マジかよ〜。」
 と、しばらく絶句してしまいました。
 でも有難いことに、彼がこの夢を見たのはこれっきりです。

 私の見解と茅野君の描写を合せると……。
 オソロシイ……今でも、思いだしたくないくらいです。
 (実は、、私自身が書くのを嫌がっているのです、、、m(__;)m)

 悪影響は、身体にも現れました。

 私自身では、妙に肩が重い、指先が痺れる、などの症状がでました。
 もちろん、透き通った「お客さん」がその原因です。普段ならば、弾き飛ばすし、乗ってきても振り落してしまうのですが、仕事帰りに電車で居眠をしていたり、疲れてうとうととしてる時を狙ってくるので、つい背負ってしまいます。このタイプは浮遊霊ばかりなので、落とすのは簡単…とは言っても、落とすまでは、吐き気を伴った肩こりに悩まされます。
 この肩こりが元で、体調を崩してしまうと、ヤツらの思う壷ですから、健康管理には妙に神経質になってしまいました。また、めったに遭わない金縛りにも、その当時だけは続けて2、3度見舞われました。

 弟の大輔には昔痛めた腰の傷みが復活しました。10年以上前の症状の再発です。彼には元々ある因縁がありその影響で腰痛を患ったのですがヤツらはそこにつけこんできました。弱点をつつき回すのは、ヤツらの常套手段です。腰が痛いと言う大輔をうつ伏せに寝かせ、腰を診ると、そこだけが吸熱されていました。
 「お客さん」を祓い落とし、気の通りを促すと、傷みが消える。数日するとまた痛みだすので、自宅へ戻って、私に気の流通を修復させる。つまり、しばらくは痛んだり直ったりの繰り返しでした。これは、皆があの土地と縁を切るまで続きました。…しかしながら彼は、その事をきっかけにして、自分の弱点と因縁をはっきり認識したようです。それ以来、彼はたいへん謙虚なものの考え方をするようになりました。

 さて、茅野君ですが………。
 怖い思いをしたわりには、影響が最も軽かったようです。
 軽い肩こりと鼻づまりで済みました。彼には強い守護の力が働いているためです。

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