◎恐話百鬼夜行 第五十三夜(下)

244 2006/08/31

◆『おじゃま道草』              語り部:読み人知らず 職業:???

 で……最後のお呼出………。馬場君宅へ2回目に行った1週間後のことです。私の自宅へ茅野君が寄っている時に、大輔が榎本君を連れて帰宅しました…。当然、榎本君を囲んだ、「お化け屋敷からの撤退」という臨時作戦会議になりました。

 結論は、
 「影響下から離脱したら、綺麗さっぱり縁を祓い落とす」ということです。
 そして、もう関わらないぞ………と決心した時……電話が……鳴りました…馬場君からの連絡でした。
 「状況が悪化したのですぐに来てくれないか。
  家の中の様子も不穏だし、バンドが分裂の危機にあるんだ。」
 とのこと。 もちろん、断るつもりでしたが………馬場君の頼みは強く……つまり、断り切れず………茅野君と私の二人で出かけることになりました。
 大輔と榎本君は「何かの時」に備えて待機です。

 出発に際し、榎本君が警告をしてくれました。
 「あるものが見えてて、それはとても危険なものです。
  しかし、見間違い、勘違いをしやすいものなので、
  何であるかを言う訳にはいきません。言うとかえって危険です。
  知らないで行けば、おそらく見た瞬間にそれだと気付きます。
  それは、動かない物体です。気をつけてください。
  そうだ、よく効くお守りがあるから、貸してあげましょう。」

 彼がいう物体が何であるかは、私にはわかりませんでした。
 借りたお守りは茅野君が身につけ、私は水でシャワーを浴びて気を引き締め夜9時ごろ、車で出発しました。

 「こりゃぁ、あの土地に呼び寄せられてるな。おいで〜〜、おいで〜〜って、
  手で招いてるみたいだな。たぶん馬場君も魅いられていて、
  俺たちを引き摺り込む手先になってるんだよ。何が危ないかって………
  そりゃぁ最も用心が必要なのは、行き帰りの車の運転だな。
  簡単に体を切り刻むとしたら、交通事故がいちばん手っ取り早い……。」
 そう話しながら、私は安全運転に集中しました。
 助手席の茅野君も真顔です。ときどき助言をしたりして、彼自身もハンドルを握っているつもりで注意を払ってくれました。

 馬場君宅に近付くにつれ、緊張感が高まりました。茅野君も同感のようです。彼の言葉を借りると、
 「敵陣深く乗込んで行く……てぇのは、映画だとわくわくするんだが……。
  違うんだよなぁ。背筋がぞくぞくするのは同じなんだが、緊張感がすごいね。
  神経がバリバリに張りつめてる。ずっと、鳥肌が立ちっぱなしだよ。」
 といった感じでした。

 そして、もう2・3分で到着……というところで…通行止。工事中につき迂回せよ…とのこと。
 「ありゃぁ。よりにもよって、こういう時に工事しなくても……。」
 茅野君は不平をいいましたが、こういう時にこそ、こういった障害が出てくるものです。
 「コの字型の迂回路が書いてあるよ。注意して行こう。」
 私は矢印のとおり、ハンドルを右に切りました…。順路に従って進むと、前方に交差点。迂回路を示した地図にあったとおり、左折。その先をもう一度左折すれば、いずれ、もとの道と交差するはずです。300mほど進むと、舗装が跡切れ、砂利道になりました。
 「あれぇーー。やばいかな。」
 私は警戒しました。しかし、少し行くと、また舗装路に戻りました。
 で…ほっとして前方を見ると…………………路肩に白い車が止っています。

 嫌な感じがしたので、私はスピードを落とし徐行しました。
 嫌な感じはさらに増しました。
 「何か違うな、戻ろうか……。」
 私がそう言うと茅野君も同意しました。道幅が狭いのでUターン出来る場所を探すと…。前方のその白い車の先は、少し広くなっているようです。私はそのまま車を進め、白い車に4・5mの所まで近付きました。そして、ライトを上向きにして……車を照しだしました。廃車のようです。フロントグラスが割れ、車体には蔦が絡んでいます。
 そのとき…………背筋をぞーーっと冷たいものが走りました。
 「これは!」
 近付かない方が良いようです。私がブレーキを踏もうと思った瞬間、茅野君が、
 「うわっ、ダメ! 止って! 戻ろっ!」
 と叫びました。茅野君も同じものを感じたようです。
 「バックで戻るぞ!そっちの路肩、見てて!」
 私は、車を後退させ、そのまま砂利道を抜けました。そして舗装路にもどると道幅も少し広がり、なんとかUターンすることが出来ました。来た道を逆に戻ると途中で別の迂回路を見つけました。未舗装なので、路地と勘違いし、さきほどは見逃していたようです。
 道を確かめてると、通行止の方から地元のものと思われる軽トラックがやってきました。そして、その道へ入って行きました。
 「それ、ついて行くぞ。」
 1分ほど、ついて走ると、元の道へぶつかり、まもなく馬場君宅が見えました。

 着くと、まず、先ほどの道について馬場君に尋ねました。図を書いて、例の廃車の位置を示すと……
 「あれ? その道、高速道路にブチ当たって行き止まり、のはずだよ。
  高速の壁とか、見えなかった? おれは、行ったことないけど……
  でもさぁ、その辺の道って、両脇が畑だったりするからな。
  路肩が崩れたりすると……ハマルかもなぁ……」
 馬場君にはわからないようです。
 するとバンドのメンバーの後藤君が口をはさみました。
 「その廃車の先…道…ありました?
  俺、バイクでそこの道に入り込んだことがあるけど、廃車で行き止まり…その先は
  薮になってたはずですよ。昼間だったから辺りもよく見えたし……。
  でも、へんだなぁ、その廃車のところのおよそ10mだけが舗装…いや、
  アスファルトでなくコンクリート敷きだったな……あ、そうそう……近くに
  廃屋がありませんでした?見るからに、お化け屋敷ってやつ…
  そうか、夜だと判らないか……。
  でも、確かに、嫌な感じの場所ですね。墓でもあるのかなぁ?」

 私は、榎本君の言葉を思い出し、電話を借りました。
 「あ、大輔? 榎本君と代って………
  あ、榎本君? もしかして、例の物体って、車?」
 「ええ、ありました?僕に見えたのは、白い車が止ってる所です。
  物凄い霊気があるから、近付くと捕まるかも……
  でも、すぐわかったでしょ。
  え? そんなに近くまで行ったのですか?わぁ……危なかったですね。
  そっちにいると、見る力が弱まるか曇るかするんで、気をつけて下さい。
  あえて言わなかったのはね。白い車って、どこにでもあるから、
  全部に気を取られると、見落す可能性があって、かえって危険だと
  思ったからなんですよ。」

 (残念ながら?この場所の真相は解りません。この後、確かめる機会がなかったのです。
  また、そうしようとも思いませんでした。
  馬場君宅と関係があるのは、間違いなさそうです………。)

 霊障を受けないように、気持ちをしっかりさせていたつもりですが、土地の邪気は強く、捕まりかけたようです。バンドの他のメンバーが夜食の買出しに出た後、馬場君が話し始めました。彼が訴えた、この1週間の間に起った現象は次のとおりでした。

 1: 3日前の雨の時、近くに落雷があり、その影響で、
    シンセサイザーとシーケンサーのデータがとんでしまった。
    特にシンセは完全に駄目になり、買い換えねばならない。
    とりあえずはレンタルでしのぐが、余計な出費であり、
    引っ越し費の積み立てが滞る。場合によっては、
    来月のライブを諦めねばならない。

 2: ギタリスト兼アレンジャーの葉山君が、ある人妻(郁恵さん)とデキているが、
    その影響で、音楽への熱意が別の方向へ向いている。
    どうも、他のバンドに声をかけられているようだ。
    (注:郁恵さんの写真があったので見せて貰ったところ、すごいすごい、
     なかなかの因縁持ちでした。その内の不要な1枚をもらい受け、持ち帰って、
     榎本君に見せたところ………、
     「この人の目……人間ではない……操られてますね」
     という感想が返ってきました。
     あとで判ったことですが、馬場君宅を仲介したのは、
     郁恵さんに紹介された不動産屋でした。
     入れ替わりの速い物件は、礼金で稼げるのかな?!)

 3: 1階では寝ないので例の夢は見なくなったが、2階で寝ていると、
    胸の上に重みがかかってくるようになった。
    それほどの重みではなく、目を開けると消える。
    あの子供ではないか? (注:当たり!)

 4: 蒲団を敷いた後、しばらく1階に行き、用を済ませてもどったところ、
    蒲団の中に誰かが居たように感じた。
    シーツを触ってみると、寝汗をかいた後のように、
    ほのかな湿り気が残っていた。

 5: 階段を上ったり下ったりする音が2度聞こえた。2回とも深夜2時ごろだった。

 6: 家の周囲を歩き回ると、足を掴まれるような感触がして、歩みが遅くなる。

 ぼうっとしていると、いつの間にか足が釘付けなってしまい、はっと我に返るとその場に立ち尽くしていた………ということが、バンドのメンバーのそれぞれに数度ずつあった。

 私は、馬場君に、、
 「とにかく命にかかわる事だから、引っ越しを第一優先しろ。
  死んでからでは音楽活動もできないぞ。
  ここにいる内は、全てが裏目裏目にまわるから何も成功しない。
  おれも、もうここには来ないぞ。来たら最後かもしれん。
  今度会うのは、お祓いに行く時だからな。」
 と釘を刺しました。
 そしてさらに30分ほど引っ越しの際の諸注意をし、帰途につきました。
 立ち去る際、家から10mほど離れたところで、九字を切りました。振返ると、例の立ち枯れの木が妙にゆらゆら揺れていました。

 この後、2ヵ月を待たずに彼等は転居、つまり脱走に漕ぎ着けました。幾らかは借金が、残ったそうですが、大事に至らずに何よりでした。しかしバンドは解散しました。葉山君は別のバンドへ参加し、馬場君とベーシストの後藤君は新たなバンド結成と動きだしました。

 ここで、気になることがあります………。
 葉山君と郁恵さんを除いた関係者全員が、わたしの目の前でお祓いを受けました。しかしその2人だけは、別の所(神社らしい)に行って祓ったそうです。その後、彼等とは、縁がないので、きちっと切れたのかどうかはわかりません。まあ、悪い噂も聞こえて来ないので死んだりはしていないでしょう。問題は…葉山君がどれほど郁恵さんに食われるか…です。
ナンマンダブ……。

完!

(※)
 この話の読後、よく周囲で「浮遊霊」が動くことがります。
 ですが、それは大方この話とは関連がないものです。
 意識を「相手」ではなく自分自身に向ければ、簡単に切れます。
 言い方を変えれば「気にしなければ消える」ということです。
 しかしながら、一応気の弱い方のために……オマジナイを…。
 自分の気力を強める効果があります。
 次の言葉を3回唱えるか、心の中で強く念じてください。

ギャーテイ、ギャーテイ、ハーラーギャーテイ、ハラソーギャーテイ、ボージーソワカー

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