陳 述 書

 

平成17年2月1日

 

原告本人 須藤甚一郎

 

はじめに

 目黒区が旧区役所本庁舎・公会堂を公募提案方式による随意契約で、三菱商事株式会社に72億円で売却したが、最高見積価格の111億1000万円よりも、39億1000万円も廉価であったため、まず私は住民監査請求を行い、その後、損害賠償を求める住民訴訟を提訴しました。本件土地売却について、私が体験及び見聞した事実を陳述する前に、私の経歴、職歴について述べておきます。

 

現在、私は二期目の目黒区議会議員を勤めています。どの政党にも所属せず、無所属の立場で区議会議員として活動しています。

 私は、東京都板橋区で昭和14年1月27日に生れ、現在66歳になったばかりです。板橋区立志村第1中学校を卒業後、昼間は本郷の東京大学前の古書店に勤務しながら、都立小石川高等学校定時制課程を卒業しました。その後、早稲田大学第2政治経済学部政治学科(夜間部)に入学し、昼間は駐日アラブ連合大使館(現・エジプト大使館)商務部に勤務しておりました。

 昭和40年3月、早稲田大学卒業後、日独合弁の繊維製品メーカーのIFG社に就職。昭和42年4月、28歳のときでした。世田谷区議会議員選挙に革新系無所属で立候補し、支持してくれた仲間たちと選挙戦で“草の根の民主主義”を訴えました。しかし、結果は落選でした。

それを契機にサラリーマンを辞めて、フリーランスの週刊誌記者、ジャーナリスト、テレビリポーターの道に進みました。それ以後30年以上にわたり、週刊誌では、「女性自身」「週刊ポスト」「微笑」「週刊大衆」など、新聞では「東京新聞」「東京タイムス」「産経新聞」「夕刊フジ」、地方紙など、スポーツ新聞では「スポーツ・ニッポン」「東京中日スポーツ」「東京スポーツ」「デイリースポーツ」など、月刊誌では「婦人公論」「エコノミスト」「歴史と人物」などに、特集記事、コラム、連載記事、連載小説などを書いてきました。

扱う範囲は幅広く、医学関係では日本初の札幌医科大学の心臓移植手術、世界初の試験管ベビー・ルイーズちゃんの両親のインタビューなど、政治関係では田中角栄首相のインタビュー、その後のロッキード事件、刑事事件では金嬉老事件、ロス疑惑事件、オウム真理教事件など、そして芸能記事、消費者問題など、30年以上ですから、書いた記事が何千本、いや何万本なるのか、数え挙げたらきりがありません。

昭和52年に、テレビリポーターとして、テレビ朝日のワイドショー「アフターヌーンショー」のレギュラー出演を皮切りに、その後、日本テレビ「ルックルック・こんにちは」、フジテレビ「ナイスデー」、テレビ朝日「朝まで生テレビ」などに出演してきました。テレビでも芸能ニュースから災害、刑事事件、政治、スポーツまで幅広くリポートや討論をしました。区議選の5日前まで出演していました。30年余の活字及びテレビのジャーナリスト生活で、是々非々をモットーにしてやってきましたが、名誉毀損などで民事訴訟を起されたことも、刑事事件で被告人になったこともありませんでした。

平成11年4月、突然、目黒区議会議員選挙に立候補して、初当選しました。私は区議会議員になるのなら、年齢的に最後のチャンスかも知れないと判断し、突然、立候補を決断したのです。ふだん目黒区で生活していても、行政が何をやっているのか、また区議会議員がどんな活動をしているのか、さっぱりわかりません。ときどき耳にする話題は、利権、疑惑がらみなどの話です。これではいけない。なんとかしなければ、という気持ちは、前から持ってはいましたが、決断がつかなかったのと、テレビリポーター、ジャーナリストの仕事が面白くて辞められなかったこともありました。区議会議員になった私は、じきに藥師寺区長の区政運営のやり方が独善的で、いわゆるトップダウンで、しかも側近区政であり、それを批判しない与党会派の議員の双方に問題があることがわかりした。そのことについては、あとで詳しく述べます。私は、当選して最初の1年間は、与党会派の目黒区議会連合に所属しましたが、与党会派の議員の体たらくには、あきれるばかりでした。1年間で会派をでて、1人会派になったのです。

平成13年7月、参院選挙に民主党比例区の候補になりました。私は民主党員ではなかったのですが、比例区名簿に登載してくれることになり、立候補したのです。小泉政権が誕生し、小泉純一郎人気が沸騰している最中に、小泉批判をして、支援してくれる仲間と全国の主な都市を遊説したのですが、結果は落選でした。落選後は、まったく民主党とは無関係です。

平成15年4月、再び目黒区議会議員に立候補しました。そのとき、すでに本件土地売却で藥師寺区長に39億1000万円の損害賠償を求める住民監査請求を起こしておりました。選挙公報、法定はがき、ポスター、街頭演説のすべてで、藥師寺区長が、旧本庁舎・公会堂を公募提案方式による違法な随意契約と不当な審査で、最高見積価格より39億1000万円も安く三菱商事に売却したことを訴えました。有権者も同じ思いだったのでしょう。39議席の定数に49人が立候補したのですが、私はトップ当選でした。

その後、私が行った住民監査請求について、目黒区監査委員が監査を実施したが、平成15年5月26日付で、法定監査期間である60日以内に、合議に至らなかったことを通知してきました。その結果、私は同年6月18日に東京地方裁判所民事部に本件住民訴訟を提訴したのです。

 

第1 原告が本件土地売却について住民監査請求するまで

 

1 私は平成13年11月から、「須藤甚一郎 ウィークリー・ニュース」と題してインターネットで、目黒区に関するニュースを発信しています。(甲第33号証) 平成14年5月、旧区役所本庁舎・公会堂を公募提案方式で売却を決めて、同年6月に発表したとき、私はいち早く「ウィークリー・ニュース」で、その問題点を指摘しました。そして、本件土地売却についての問題点をフォローし続けて、平成15年2月、最初に契約差し止めの住民監査請求を起こし、同年3月、契約後に当時の藥師寺克一区長に対して、損害賠償を求める住民監査請求を起こしたのです。その経過と事実については、あとで詳しく述べることにします。

「ウィークリー・ニュース」の創刊は、私が参院選に落選し、ジャーナリストの仕事を再開しながら、一区民の立場ではじめたものです。「ウィークリー・ニュース」は、現在も続いていて、平均して週に2回ほど更新し、平成17年1月30日現在、通算246号で、アクセス総数は、336,320に達しています。

創刊した理由は、区民にいちばん身近な目黒区政のほんとうの姿が、ほとんど区民に知られていないからでした。参院選に立候補するまでの2年3か月余の区議会議員経験で、目黒区政の反区民的なやり方をいやというほど見てきました。藥師寺区長の区政運営の手法は、区民軽視の独善的であり、また区議会は自民区議、公明区議、民主区議ら大幅に議席の過半数を超える区議たちが、藥師寺区長の与党であって、区議会が本来持っているべきチェック機能をまったく失っているのは身をもって体験してきました。与党議員らは、あたかも藥師寺区長に白紙委任状を渡してしまったような状態でした。区長の提出するあらゆる議案や施策等に関して、まともに審議もせず、本会議、委員会開催中に居眠りしている議員までが、採決では賛成する姿を目撃してきました。よく居眠りしているのは、なにも議員だけではありません。藥師寺区長、助役、部長ら区の幹部も同じでした。まったく緊張感がないのです。区議会を傍聴にきた知人は、あきれてしまい、それから2度と傍聴にきませんでした。

こんなことで区政運営、議会運営が行われていていいのか、と私は切歯扼腕するばかりでした。目黒区には広報紙「広報めぐろ」(現在は、「めぐろ区報」に改題)があるが、区の広報担当が編集するのですから、区にとっていいことずくめの記事ばかりです。また、年4回の区議会の定例会後に発行される「議会だより」を区民が読んでも、区議会の実態はわかりません。たとえば、一般質問の時間は会派の人数によって割り振られる。質問時間に応じて「議会だより」のスペースが決まるために、私が1期目の区議を参院選で辞めたときの1人会派では、重要な問題提起、区政批判をしても、ほんの小さなスペースで、区民にとっては何もわからないのが実情でした。目黒区に関して新聞記事になるのは、区の広報課が提供した材料か職員が刑事事件を起こしたときくらいで、いま目黒区の行政や議会で何が起きており、何が問題なのかは区民にはわかりません。

そこで、私は区民の誰が読んでも、目黒区でいま何が問題になっているのかがわかるために、ジャーナリストの経験を生かし、パソコンを若い友人から教えてもらい、「ウィークリー・ニュース」を創刊したのです。読みやすさを第1に考えて、しゃべりかけるような口調の文章にしました。読者は学生から、80代のお年寄りまでと幅広く、あるときなど区議会を傍聴にきた男子高校生が、私の「ウィークリー・ニュース」を愛読しているのを知って、驚いたほどです。

 

2 目黒区は、平成14年5月9日の政策会議で、本件土地売却を公募提案方式で売却することを決定し、そのあと「広報めぐろ」(平成14年6月5日号)で売却方法を発表しました。私は本件土地売却に関する「広報めぐろ」の記事を一読して、公募提案方式による売却が、売却方法として大いに問題があることがわかり、「公募提案方式は不透明で、やりたい放題になる可能性がある」と「ウィークリー・ニュース」平成14年6月3日号(甲第33号証の1)で、その問題点を指摘したのです。

 まず、平成14年8月15日〜30日に提案書を受け付け、9月1日〜12月末に提案書を審査して、平成15年の1月中旬に買い受け者を決定する、とあるのが問題でした。その理由は、平成14年10月6日には、区長選挙が予定されていたからです。公募提案に応募する各社の提案を審査している最中に、区長選が行われ、現職の藥師寺区長が立候補するのは明らかであった。したがって、応募する各企業に買い受け者になりたければ、区長選で藥師寺区長を応援しろ、と暗にいっていることにもなるからです。これは後日談ですが、応募したが審査で落ちた企業の関係者から「わが社は、区長選で藥師寺区長に陣中見舞いを持っていかなかったから、落とされたのかな」と苦笑していたのを聞きました。

 一番の問題点は「審査委員会を設置し、提案内容を審査の上、順位付けを行い契約する」とあることでした。しかも売却予定価格を設定するが、公表しないという。そこで、私は「ウィークリー・ニュース」で「審査委員会をつくるというが、公平さを装った隠れミノになる可能性がある。審査委員会のメンバーは、区長や区幹部の息のかかった連中が選ばれるはず。審査は密室で行われ、審査委員も公表されないだろうし、それに売却価格(注、売却予定価格の誤り)も公表しないのだから、その気になれば、やりたい放題にやれる。不透明なやり方だ」と書いた。結果からみると、私の危惧した通りで、審査は不透明であり、審査委員は“区長や区幹部の息のかかった連中”どころか、12人の審査委員中、なんと9人までが助役、収入役、教育長、部長など区幹部であったのです。審査員会のこのように偏向した構成が判明したのは、審査が終了し、最高見積価格より39億1000万円も安く、72億円で売却することを発表した平成15年1月16日の区議会の企画総務委員会でした。

 

3 目黒区が公募提案方式による本件土地売却を発表したときから、審査が公正・公平に行われ適正に売却先が決まるのかと、私が危惧したのは、平成11年4月から13年7月まで区議会議員として、藥師寺区長の区政運営のやり方を見てきたからでした。それは地方公共団体の長として、目に余ることの連続でした。その事実を説明しておかないと、私が公募提案方式による売却に疑問を持った理由をわかっていただけないでしょう。

私が区議会議員になってまもなくでした。6月の区議会の定例会で、無所属区議・増田宜男が、前年10月の区長選挙をめぐる疑惑について一般質問するため、質問通告書を提出。質問内容を知った藥師寺区長が、夜間に増田区議宅を訪ね、質問を中止してくれるように頼んだことを、増田区議は一般質問の中で明らかにしたのです。議場でその質疑と答弁を聞いていて、一般質問の内容について区長ともあろう者が、夜間にわざわざ区議会議員の自宅を訪ね、中止してくれと頼むとは、いったいどういうことなのか。考えられないことです。一般質問に対して、藥師寺区長が答弁すればいいことで、自宅まで訪ねる必要などありません。藥師寺区長は、答弁で増田区議宅を訪ねたことは否定しませんでした。

そのこととは別に、しばらくして民族派の政治団体が目黒区役所に街宣活動でやってきました。藥師寺区長が初当選した平成10年10月の区長選の選挙違反が、街宣の理由でした。街宣車で区役所本庁舎を回り拡声器の音量をいっぱいにして、藥師寺区長と自民党区議全員の辞職を要求したのでした。その後、その政治団体の代表が、恐喝未遂容疑で逮捕され、私は東京地方裁判所で行われた10回の公判をすべて傍聴しました。現職の目黒区の自民党区議・横山大が、被害届を提出したため、政治団体代表が逮捕、起訴されました。

恐喝未遂事件の公判では、被告人の政治団体代表は容疑を否認し争ったが、一審判決は懲役2年の実刑判決。被告人は控訴し、高裁判決の直前でした。自民党区議・横山大と元目黒区長室長・菊谷信夫の2人が、藥師寺区長選の選挙違反容疑で逮捕されたのです。選挙管理委員会に無届けで運動員に報酬を支払い、電話作戦による投票依頼を行った運動員買収の容疑でした。横山、菊谷の被告人は、公訴事実をすべて認め、まったく争いませんでした。この件については、私は準備書面(4)でも述べました。区庁舎内の自民党区議団控室の家宅捜索が行われ、自民党区議たちは事情聴取を受けたというが、最終的には起訴猶予でした。

横山、菊谷の両人の逮捕後、私は本会議で藥師寺区長に、区長選の選挙違反事件について質疑したとき、藥師寺区庁長は「区長選では、私はただ神輿に乗っただけだ」と答弁したのです。つまり、区長選には担がれて出馬しただけで、選挙違反とは関係ないという趣旨でした。けれど、藥師寺区長を誕生させるため、選挙運動を指図した自民党現職区議と元区長室長が選挙違反で逮捕、起訴されたというのに、反省も責任も感じさせない答弁でした。横山、菊谷の両被告人に対する一審判決は、懲役1年、執行猶予4年で、控訴せず刑が確定しました。元区長室長・菊谷は、目黒区契約課長だった加藤義光の収賄事件で、贈収賄現場になった銀座の料亭に菊谷も同席していたことは、私が準備書面(4)で述べた通りです。

私は、区長になにも高潔な人格者であることを求めて、こうした事実を述べているわけではありません。区長は、区長選挙で区民に選ばれたのですから、区民の負託を受けているのです。区民の負託を裏切ることなく、区の行政を執行する地方公共団体の長として、期待していただけです。

平成11年9月から12年3月にかけて、こういうこともありました。目黒区碑文谷に当時の第1勧業銀行のグランドと体育館があり、第1勧業銀行のリストラで目黒区が買収することになりました。普段は目黒区が、区の少年野球場とテニスコートとして使用するが、災害時には広域避難地になるため、国と東京都が補助金をだすので、取得後の工事費は別にして、目黒区の財政負担はゼロでした。隣接して区の碑文谷公園があります。第1勧業銀行のグランド内に歴史的な建築物が2棟あり、多くの目黒区民が熱心に、その保存を訴えました。なにも目黒区民だけではなく、日本建築学会も藥師寺区長に保存を訴えました。私は、保存を求める区民の集会に出席したり、その建物が歴史的建築物であることを発見した建築史家も取材したので、よく憶えております。新聞各紙も貴重な文化財的建物として、大きく取り上げました。

その2棟の歴史的建築物とは、1棟は100年前に現在の日比谷公会堂近くにあった日本勧業銀行本店建物の別棟であった平屋の木造建築です。それが大正時代に碑文谷の日本勧業銀行のグランドに移築され、幸い戦災にもあわず、日本勧業銀行と第1銀行と合併後も解体されずに奇跡的に残っていたのです。

設計したのは、明治時代の日本の代表的な建築家であった妻木頼黄(つまきよりなか)です。妻木は明治初期にアメリカ、ドイツで近代建築を学び、日本の近代建築家の第一世代で横浜正金銀行本店(現在、神奈川県歴史博物館)、第2代国会議事堂(関東大震災で焼失)などの設計者として知られています。東京駅、日本銀行本店の設計者である辰野金吾とともに建築界の歴史的巨人の双璧です。

もう1棟は、昭和初期に建てられた2階建ての鉄筋コンクリート造りで、内装がアールヌーヴォー調の瀟洒な建物でした。2棟とも保存するのが無理であれば、妻木頼黄設計の木造建築だけでも残して欲しい、と多くの目黒区民は訴えたのです。グランドの隅に建てられていて、野球場、テニスコートとして使用しても、邪魔になるものではありません。それどころか、木造建築は、区民が華道、茶道の会などに使うのにもってこいの建物でした。また鉄筋2階建ての建物は、区民の集会所に最適でした。

しかし、藥師寺区長は「不動産売買は更地が原則だ」を理由に、第1勧業銀行側が解体することにして、文化財的建築物を一顧だにせず、解体を決定してしまったのです。じつに、もったいないことをしたものです。不動産売買は更地が原則といったが、藥師寺区長がその後、議会で審議をすることもさせず、突然、目黒区土地開発公社に買わせたNEC寮も千代田生命本社も、更地ではなく建物付きで契約したのです。不動産売買は更地が原則は、文化財的建物を解体するための、単なる方便でしかなかったのです。グランドを管理していた第1勧銀の職員に、私が「藥師寺区長は、解体する2棟の建物を見にきましたか」と聞いたら、「いいえ、区長がきたことはないですね」といった。区民や日本建築学会が保存を訴えていた貴重な建物が、どんな建物なのか、見ようとさえしなかったのです。大勢の区民が参加したグランド内の体育館で行われた住民説明会や解体前の見学会でも、藥師寺区長の姿はありませんでした。

熱心に保存を訴えていた古希を過ぎた町会長の工場経営者を思い出すと、いまでも哀れでなりません。矍鑠とした元気なお年寄りで、保存運動のリーダー的存在でした。保存を訴える区民の集会では、仕事を終えてから夜遅くまで、住民に配布する書類の作成などを積極的にやっていました。藥師寺区長の選挙では、後援会幹部をやったという。けれど、保存問題に関しては「区長は、聞く耳を持たない」と嘆いていました。

平成12年2月、解体のはじまる寒い朝でした。保存を訴える区民は、午前8時に現地に集合し、解体業者に解体を思い止まるよう説得することになっていたのです。私が午前8時前に現地にいったときは、すでに30〜40人の区民が集まっていました。中には、「壊すな!」と書いた手作りの看板をサンドイッチマンみたいに体に吊るしたお年寄りもいました。防寒着を着た町会長は「心配で昨晩は、眠れなかったよ」。まだ薄暗いうちに現地へやってきたそうです。ダンプカーがつぎつぎに到着し、区民の説得の甲斐もなく、解体業者が解体工事をはじめました。

矍鑠とした古希を過ぎた町会長は、その日の夜、脳梗塞で倒れてしまったのです。数日後、病院に見舞いにいくと、あんなに元気だった町会長が、ベッドに横になったまま言葉を発せず、私の顔を見てただ目尻から涙を流すだけでした。私は、かける言葉さえありませんでした。

目黒区文化財保護審議会が、教育委員会の諮問を受けて審議中に、建築物を解体してしまったため、学識経験者の審議委員全員が、辞表を提出しました。しかし、その取扱いは辞職ではなく、「解職」でした。抗議の意味に辞職であったのに、「解職」としたのは、おかしなやり方です。

 

4 解体工事が行われていた最中でした。またしても、藥師寺区長が独善的、独裁的区政というべきことをやったのです。区議会の3月定例会開催中の企画総務委員会で、突然、区は区役所の近くで、公会堂の西側にあったNECの社員寮を庁舎関連用地として、約35億円で買収することを発表したのです。庁舎関連用地とはいっても、公会堂と接してなく、公会堂とNEC寮の間には、民家が10数軒もあるのです。民家の中には、建売住宅を買ったばかりの家や改築中の家さえあるのです。もし、NEC寮用地と公会堂を一緒に新庁舎用地として使用するのであれば、その間にある民家10数軒を改めて買収しなければならないのです。まったく無謀で考えられない用地買収です。

区は財政難のため、新庁舎建設用の基金の積み立てを断念しており、基金はかつて積み立てた約3億円しかなく、新庁舎建設のことなど計画されていなかったのです。こうした問題を本会議で、藥師寺区長に対して一般質問で取り上げようにも、買収が発表されたときは、すでに一般質問は終わっていたのです。藥師寺区長は、当然そこまで計算済みで、この時期に買収を発表したはずです。そして、藥師寺区長は、NEC寮を目黒区土地開発公社に買わせたため、区議会が議決するか否かを審議することができないのです。

しかし、3月議会の予算特別委員会で質疑することはできたので、私は藥師寺区長に、なぜ突然、買収することになったのかと質疑しました。それに対して藥師寺区長は「不動産は、欲しいときに、欲しい所にあるとは限らない」と答弁したのです。まさに衝動買いといっていい答弁です。区長が自宅用に不動産を買うのであれば、この論法が成り立つでしょう。けれど、区の公金で庁舎関連用地として購入するのですから、計画性もなく、庁舎用地にするにはさらに民家を10数軒も買収しなければならないのに「不動産は、欲しいときに、欲しい所にあるとは限らない」とは、詭弁というべきです。

藥師寺区長のこうした独善的な区政運営を、幹部職員は諌めるどころか、無条件に同調していたのです。たとえば、経営企画部長・川島輝幸は、新庁舎建設用に基金が約3億円しかないのに、約35億円で庁舎関連用地を購入することについて「基金の積み立てができないから、土地を買うのだ」と答弁したのです。目黒区は、バブル景気の頃の不動産業者ではないのです。土地価格が下落し続けて大問題になっているとき、あわてて利用の目処も立っていない土地を買う必要がどこにあるのでしょう。この答弁も区長に負けない詭弁でした。

ところが、1年後には、この庁舎関連用地として買収した土地が、庁舎関連用地としては、まったく役立たずになってしまったのです。というのは、藥師寺区長が、経営破綻した千代田生命本社ビルを突然、新庁舎用に買収することを決めたからです。これもまた衝動買いといっていい買い方でした。ちなみに、庁舎関連用地として買収した土地は、その後、放置自転車集積場として使用されています。が、当初の目的であった庁舎関連用地ではないことは、いうまでもありません。

 

5 千代田生命本社買収ついて詳しく述べる前に、庁舎関連用地買収を発表した日に起きた東急東横線・中目黒駅での脱線衝突事故に、藥師寺区長がどう対処したかを簡単に述べておきます。区長の区政運営の姿勢がよくわかるからです。

平成12年3月8日、契約等が所管の企画総務委員会が、午前10時から開かれることになっていました。私もその委員であり、小型車を運転して区役所に向かっているとき、中目黒駅方面の上空を何機ものヘイコプターが飛び、救急車のけたたましいサイレンの音が聞こえてきました。地下鉄日比谷線の車両が、中目黒駅にさしかかるカーブで脱線し、東横線と衝突した大事故が発生していたのです。テレビの臨時ニュースは、現場中継で車両の側面が剥ぎ取られた凄惨な事故現場を写していました。脱線衝突した現場は目黒区内でした。区役所と事故現場の距離は、1200メートルほど。ヘイコプターの騒音と救急車のサイレンが鳴り響く中で、藥師寺区長も出席して、何事もなかったように企画総務委員会がはじまりました。

昼の休憩時間にテレビのニュースを見ると、事故直後に首相官邸内に緊急の対策本部が設置され、担当大臣が事故現場に駆けつけた様子も放送していました。そのときすでに、脱線衝突事故で亡くなった方は3人になっていたのです。

しかし、藥師寺区長は、区長として事故現場に駆けつけることもなく、午後1時に再開された委員会にも出席していました。そこで委員会の終了直前に、私は藥師寺区長に向かって「中目黒駅の脱線衝突事故で、すでに3人の死者がでているのに、区長はなぜ、事故現場にいかないのか」と質問しました。藥師寺区長は「鉄道敷地内は、警察と消防の所管である」と答弁したのです。まるで目黒区は関係ないといった旨の答弁です。

さらに私は「鉄道敷地内といっても、事故現場は目黒区の行政区域内でしょう。担当大臣も事故現場にいっているのに、なぜ、いかないのか」という趣旨の質問をしたのです。けれど、藥師寺区長は、防災課長に情報収集をさせており、何ら問題はないと繰り返すだけでした。防災課長に情報収集させたといっても、私が見ていた限り委員会開催中に1度だけ、藥師寺区長にサービス判の写真数枚が手渡されて、それを黙って見ていたに過ぎません。目黒区内で大惨事が起きたというのに、発生直後に、区長の指揮で目黒区が独自にやったことは、何もなかったのです。これが区長選挙で“安全・安心”を標榜した区長なのだろうか、と痛く失望しました。

 

6 そもそも本件土地売却の原因になったのが、千代田生命本社の敷地及び建物の買収です。千代田生命本社跡を区役所の新庁舎にする目的で買収し、その財源捻出のひとつとして、本件土地売却が行われたのです。千代田生命買収に関しても、藥師寺区長は例によって独善的なやり方でした。千代田生命が経営破綻し、更正管財人の管理下にあったのを区議会で審議し、議決することもなく、平成13年2月26日に、目黒区土地開発公社をつかって174億5250万円で契約し、あとで区が買い戻す方法で購入したのです。更正管財人と区を仲介したのは、三井不動産でした。

購入資金の財源確保は、主に他の目的で積み立てていた基金を約60億円取り崩し、区有地を売却して約120億円を捻出するというのが、区の想定でした。千代田生命買収について、所管の特別委員会に区が報告したのが、平成13年2月9日であり、5日後の2月14日までに買付証明書を提出しなければ、買う意思がないと判断するという、じつにあわただしいものであった。指定された日までに買付証明書を提出しなければ、外国資本の企業に買われてしまい、それを買い戻すことになると価格が高くなるなどと、藥師寺区長や助役・佐々木英和らは特別委員会で説明していました。藥師寺区長の目黒区の外郭団体である土地開発公社が契約するため、区議会の議決の対象にならないのです。ですから、区は千代田生命買収を議会に報告したものの、その時点では議会は、賛成、反対もできないのです。こうした有無をいわせず、緊急なやり方は、藥師寺区長の作戦であったと見るべきでしょう。

こうしたことが、ありました。のちに痴漢事件を2度も起こして退職した特命担当課長が、当時、千代田生命買収に関わっていました。買収を発表したあとに、私が特命担当課長に「築30年以上も経っている建物を20億円と評価したが、新庁舎として使えるのか」と議場の外で聞いてみたのです。特命担当課長は、「ここだけの話ですが、じつは昨年夏に、区長が谷口先生(注、本件土地売却の公募提案を審査した審査委員会委員長の東京工業大学名誉教授・谷口汎邦のこと)と一緒に専門業者を連れて、千代田生命の建物の強度を調べにいったのです。私も同行した。壁に穴を開けたりして調べたのです」と明かしたのです。

そのとき、特命担当課長は「これもここだけの話ですが、1年前にNEC寮を庁舎関連用地として買ったのは、やっぱりまずかったですよ。あれがなければ、まだよかったのですけど」と苦笑していました。また、当時、教育委員であった谷口・東工大名誉教授と電車に乗り合わせたので、千代田生命本社ビルの強度調査をしたことを確認したら、認めていました。

ほかにも、千代田生命は破綻する前に、中目黒駅前の再開発の参加していて、破綻したため、まだ支払っていなかった50億円以上が払えなくなり、千代田生命に代わって再開発に参加したのが、千代田生命買収を仲介した三井不動産でした。区もこの再開発に深く関わっており、こうした動きと連動して、千代田生命買収の動きが煮詰まっていったのです。

当時から、区が説明しているように同年2月4日に更正管財人から区に、千代田生命本社の取得の意向について打診があり、2月14日までに買付証明書を提出して欲しいといったというのは、まったく不自然です。そのひとつの証拠が、新庁舎建設の具体的な動きなどないのに、区が平成12年11月に突然、新庁舎建設用地の区域として、目黒通り、駒沢通り、環状6号線、環状7号線のよって囲まれた区域とその沿道と決定したことです。この時期に、新庁舎の建設用地の区域について、決定しなければならない必然性など、千代田生命の買収を念頭におく以外にないのです。誰が考えても、千代田生命の買収を目論んでいることは、明らかでした。千代田生命の敷地は、決定した地域にかろうじて「駒沢通りの沿道」という点で、新庁舎建設候補地の条件を満たすのです。千代田生命を買収したとき、つじつまが合うように事前に区域を決めていたといえます。

その後、私は独自に情報収集し、区民、建設業者からの情報提供もあり、それを総合すると、藥師寺区長と助役・佐々木は、新庁舎建設候補地の区域を決定した平成12年11月から翌13年1月にかけて、三井不動産の関係者と接触し、千代田生命買収の意向をしきりに訴えていたことがわかりました。買収発表後にすぐ発表した、買収費用の財源確保のために、区有地を売却して約120億円を捻出する案は、のちに企画総務委員会での私の質疑に助役・佐々木が認めたように、三井不動産の試算を基にしたものでした。このことからも、仲介した三井不動産とかなり以前から、綿密な交渉をしていたのは明らかです。

平成13年2月4日に更正管財人から、打診があり、11日後の2月14日までに買うことにしたというのは、何の根拠のない単なる言い分に過ぎないのです。藥師寺区長は、千代田生命の買収を決定したあと、「千代田生命買収は、私の使命である」と誇らしげに答弁したものです。しかし、そのいっぽうで、こんなことがありました。

 

7 その後、公職選挙法違反で逮捕された自民区議・横山大が委員長をやっていた委員会で、藥師寺区長が千代田生命買収について、どう説明するかを私は所管の委員ではないので、傍聴したのです。区民の傍聴者も大勢きていました。区長も出席し、開会して10分ほど経って、まだ千代田生命買収についての質疑がはじまる前でした。委員長・横山が突然、「区長は急用があり、退席します」といった。事前に打ち合わせをしていたのでしょう。委員長・横山の発言を合図にして、藥師寺区長は席を立って委員会室からでていこうと、途中から区長室長・伊藤に先導されて足早に歩きだしたのです。藥師寺区長は「千代田生命買収は、私の使命である」とまでいったのに、委員会で説明責任、説明義務を果たさずに、急用を理由にして退席するなど、常識では考えられません。

立ったまま傍聴していた私は、藥師寺区長に向かって「そんな見え透いたことをするんじゃないですよ」といった瞬間、区長室長・伊藤が私の前に立ちはだかり「議員、私が説明します」。それに対して、「あなたの説明を聞いてもしょうがない」と私と伊藤がやっているとき、藥師寺区長は階段を逃げるようにして降りていったのです。藥師寺区長は、やはりまずいと思ったのか、10分余りで委員会室に戻ってきました。こんな茶番劇のような様子を見ていて、私は怒りを通り越して、情けなくすらなったのをいまだによく覚えております。

 

以上、私が経験した藥師寺区長の区政運営の方法に関係のある、主な具体的な事実を述べてきました。ほかにもあった独善的区政運営を目の当たりにしてきただけに、本件土地を公募提案方式によって売却することを発表したとき、藥師寺区政は目黒区のため、また目黒区民のために公正・公平に審査して、売却できるのだろうか、と危惧し疑問を持ったのは当然でした。

 

第2 原告の発行する「ウィークリー・ニュース」で伝えたこと

 

1 私の発行する「ウィークリー・ニュース」で、本件土地売却について、どう伝えてきたかをまとめて述べておきます。

平成15年1月6日号(甲第33号証の2)

「★本庁舎、公会堂の売却で区民は大損害か」の小見出しで、「昨年12月27日の予算原案の説明会で、区議会議員全員が集まった席上で売却先と選考経過について説明することになっていた。ところが総務部長は、きょうは報告できないといって、なぜか退席してしまったという。この日までに審査を終え、売却先を決めることになっていたのに、不可解な話だ。(略) 助役・佐々木が、まだ検討中とそっけなく答弁したという。検討中というのは、真っ赤な嘘で、すでに審査委員会の答申が出て、売却先は決まっていたはずだ」と書きました。

というのは、つぎのような不可解な動きがあったからです。

「★自民幹事長・二ノ宮が“金額じゃない”と強調するのはなぜか!」の小見出しで、自民区議団の幹事長・二ノ宮啓吉が、12月30日の自分のホームページで「暮れに区長部局より旧区役所の跡地売却について、お話がありました。私は66年間お世話になった近隣住民の意見を尊重して金額ではなく、区役所の跡地として有意義な企業に売却すべきと思います」と書き込みをしていたの伝えたのです。暮れに話があったというのは、藥師寺区長と与党会派の自民、公明、区民会議の幹事長らのいわゆる与党幹事長会であろうと指摘しておきました。与党幹事長会とは、重要議案、区政方針などについて、区長と与党の幹事長などが事前に打ち合わせをする非公式な会のことです。

また二ノ宮は、12月27日のホームページでも本件売却について「検討委員会を作り各団体の意見を聴取し、区役所の跡地として如何に整備出来るか、金額ではなく、整備方針を示した公募方式による、売却企業の決定をすることとなりました。単に金額だけで売却すると、地元の意見や区役所跡地としての意義がなくなり、開発に手を貸すことになります」と、価格ではないと強調していたのです。助役、総務部長が12月27日に区議全員の予算原案の説明会で、検討中、報告できないとしながら、与党幹事長会では価格が一番ではない提案を売却先として、報告していたのでしょう。しかし、与党幹事長会で足並みがそろわず、発表できなかったのがわかります。

ほかにも私は、審査の結果で1位と2位の金額差は、5億とも10億ともいわれているという情報を紹介しておきました。また「★15の提案内容をチェックしたら奇妙なことを発見!」「★地下の目黒フォーラムをタダで寄付する不思議!」の小見出しで、提案の中に600uほどのコミュニティスペース「仮称・目黒フォーラム」を「目黒区殿と協議させて戴きますが、区からの要請があれば区への譲渡も考えさせて戴きます」とあるのは、最高価格なら問題ない。が、さもなければ、公募提案方式といっても、こうしたやり方は公平さに欠けると指摘しました。「目黒フォーラム」の名称は、区が進めようとしていた「目黒フォーラム構想」とそっくりで、偶然の一致なのか、と指摘しました。のちに、この提案が売却先である三菱商事の提案であることがわかりました。売却先の発表前から、「目黒フォーラム」の提案に問題があることは、一目瞭然だったのです。15提案とあるのは、応募したのは15件であったが、1件は予定価格以下のため、最終的に14提案になりました。

 

2 平成15年1月13日号(甲第33号証の3)

「★なぜ、まだ売却先の報告がないのか!」の小見出しで、まだ報告がないことを伝え、藥師寺区長の売却先決定の決断によっては、目黒区民に莫大な損害を与え、スキャンダルになりかねないことを改めて指摘しました。また前号で自民党区議団幹事長の二ノ宮が“金額ではない”とホームページの書き込みをしたのは、藥師寺区長が一番高い価格を提示した業者以外に売却しようとしているのがわかると書きました。

「★最高価格は82億円!しかし10億円も安い業者に落札か」の小見出しで、私が入手した情報の「一番高い値段は、82億円だった。ところが、区長・藥師寺は70億円か71億円を提示した業者に売却しようとたくらんでいるんだよ」と紹介しました。のちに、この情報は極めて正確な情報であったのがわかりました。最終審査結果である「価格を含む順位」(甲第1号証、事実証明書4)で、1位が三菱商事の提案の72億円、2位が整理番号13の83億円であったからです。価格については、甲第1号証、事実証明書1に記載されています。発表前に「価格を含む順位」の内容が漏洩し、それが回りまわって、私に情報提供されたと思われます。公募した提案の中での最高提示価格は、111億1000万円であったのですが、この提案は最終審査から外されたので、わかりませんでした。

ほかにも、地下のコミュニティスペースの約600uを知人の不動産業者に価格を試算してもらったら、約1億8000万円、2倍のスペースにしても約3億6000万円でしかないので、それを評価して売却先を選ぶのなら、陽の当たる区の施設を売却せずに残せ、と書いたのです。1月15日に開催される議会運営委員会と16日の企画総務委員会で、売却先についての発表が行われると伝えました。

 

3 平成15年1月17日号(甲第33号証の4)

「★ついに売却先が決まった!しかし疑惑だらけ」「★72億円で売却!2位との差はなんと11億円だよ」の小見出しで、売却先について半月も遅れて契約等が所管の企画総務委員会で発表があり、売却先に決めたのが72億円、2位が83億円、3位が82億2700万円であったことを伝えました。しかし、業者名は発表されなかったため、このときはまだ売却先の企業名はわかりませんでした。

「★審査委員会は12名中9名が区の役人だった!」の小見出しで、偏向した審査委員会の構成で、藥師寺区長が意中の業者に落札させようとするための審査委員会といわれても仕方がない、と指摘しました。

「★あと出しジャンケンありの不公正な審査会だった!」の小見出しで、1位の業者の地下1階605uの仮称・目黒フォーラムの公共スペースが、1300uになり区に譲渡することになったことは、いわゆる“あと出しジャンケン”で審査の公平さに欠けると書きました。1位と2位は11億円もの価格差があり、1300uに拡大しても、価格差は埋まらないことも解説しました。

「★111億円を提示した業者に売れば39億も得をした!」の小見出しで、「もし、この業者と交渉して環境問題等をクリアさせて、売却すれば区は39億円も得をした。区有地全部を売却して、120億円を捻出する計画なのだから、111億円で売却すれば、ほかの区の施設をほとんど売らずに、これまで通りに使用できる。どうして、そうしたのか。委員会では、111億円の業者についての説明がまったくなかった。おかしいいじゃないか」と、私は問題点を指摘したのです。

 

4 平成15年1月29日号(甲第33号証の5)

「★2回目の委員会の報告でも疑惑は解明されず」「★区長・藥師寺は委員会を無断欠席した」の小見出しで、私が1月28日に開催された企画総務委員会を傍聴した内容を伝えました。藥師寺区長は、売却先を自分で決定しておきながら、契約が所管の委員会を欠席したのです。昼休みをはさんで2時間15分の委員会でしたが、区長が欠席した理由の説明はありませんでした。

「★部長も課長も提案書すら見てないのか!」の小見出しで、公共スペース仮称・目黒フォーラムが提案書では605uとあるのに、総務部長・木村高久も契約課長・加藤義光も答弁で「650u」といった。共産党区議・野沢まり子「説明は正確にしてもらわなければ困る。どこに650uとあるんですか。ここに605uとあるじゃないですか」というと、契約課長・加藤が「失礼しました。605uです」と訂正しました。

総務部長・木村は、審査委員会のメンバーであり、契約課長・加藤は審査委員会事務局の責任者でした。このひとつを取ってみても、いかに審査が杜撰に行われたかがわかるというものです。

また9人の行政側審査委員のうち6人が、区の行財政の最高方針を決定する政策会議のメンバーであったことが判明し、政策会議で公募提案方式による売却を決定し、さらに提案を審査した審査委員会のメンバーに6人も政策会議のメンバーが入っていたのでは、とても公正・公平な審査とはいえないと指摘したのです。その上に、最終的に政策会議で決定して、三菱商事を売却先に決めたのですから、とうてい公正・公平な審査といえるものではないのです。

「売却想定額を上回ったのは無能な試算の結果だよ!」の小見出しで、無所属区議・坂本史子が「財政的なことも考えて審査したのか」と質問したら、契約課長・加藤が「区が想定している金額よりも上回っているので、とりあえず利用計画について審査しようということになった」と答弁したことを伝えました。1月16日の企画総務委員会でも、「58億円台から111億円台まで14件の提案があった。いずれも売却想定額を上回るものである」と同じ説明をしており、売却想定額、つまり売却予定価格を超えていれば、財政的な審査をせずに、いくらで売却しても構わないと区が考えていたのがわかります。この時点では、まだ売却予定価格を発表していなかったが、14提案のすべてがそれを超えていたということは、すなわち売却予定価格が安過ぎたということになります。

この委員会開催中、助役・佐々木は、審査委員であり、区長が欠席したのだから、代理を務める立場にあったのにひとことも発言せず、午後2時ごろに退席。審査委員であったけ企画経営部長・川島輝幸は、途中で居眠り。共産区議・野沢が熱心に質疑している最中に、区長与党会派の公明区議でこの委員会の副委員長・寺島よしおが「なにをいいたいんだよ!」などとしきりに野次っていた様子をそのまま伝えたのです。売却先決定について、疑惑点、疑問点が山ほどあるのに、藥師寺区長の与党会派の区議たちは、まともに質疑をすることは、まったくなかった。それどころか、まともな質疑を妨害するために、口汚く野次さえ飛ばしていたのだから、どうしょうもありません。

 

5 平成15年2月3日号(甲第33号証の6)

 この号で伝えたのは、主につぎの内容でした。これ以降の号でも、伝えた主な内容を列挙しておきます。私の「ウィークリー・ニュース」を要約するだけでも、72億円で売却する経過が不透明であったことがわかるというものです。

@「なぜ39億も損して売るのか」など、区民の怒りの声が私の所に殺到していること。111億円の値をつけた業者は、しっかりした大手業者なので111億で決まりだ、と区の幹部職員ですらいっていたそうなのに、それが大逆転して39億円も安く売却したこと。Aこれまでの藥師寺区長の行政手法は、NEC寮買収の無駄遣い、議会で審議させずに突然の千代田生命の買収、特養ホーム「青い鳥」への補助金不正補助などで、私は本件土地売却が公募提案方式によることを発表したとき、すでに利権や情実がらみになる可能性を指摘し、審査、決定のプロセスを見ると、その危惧が現実のものになったこと。藥師寺区長は、公募提案方式をはき違えていること。売却する72億円提示の業者は、14件の提示金額中、7番目の金額であったこと。B111億円の提案のほうが、72億円の提案より延べ床面積で、少なかったこと、などを伝えました。

 

 

平成15年2月10日(甲第33号証の7)

@本件土地売却の議案が、3月14日の本会議で議決される見通しであること。藥師寺区長に賛成する与党会派が、議会で過半数を占めるため、議決されることになる。A111億1000万円で買うという業者がいるのに、39億1000万円も損して売却するのは事件であり、ウラにきっと何かあるはず、どうして司法当局がうごかないのか、という情報が私に寄せられたこと。B3月末までに区は本契約を結ぶが、その前に、審査を白紙に戻し、契約をストップさせるために、住民監査請求を起こすことを示唆したこと、などを伝えました。

私は、このままでは目黒区が39億1000万円の損害を被ることが明らかなので、契約を差し止め、審査を白紙に戻して条件付一般競争入札の実施を求める住民監査請求を起こす意思を固めたのです。

 

6 平成15年2月14日号(甲第33号証の8)

@2月17日に、私が地方自治法242条@に基づいて、本件土地売却の契約差し止めを求める住民監査請求を起こすこと。A公募提案方式は、地方自治法で定める契約方法では、単なる随意契約であること。そして、本件土地売却が地方自治法、同施行令で例外的に認めている随意契約の条件のいずれにも該当しないこと、などを伝えました。

私は「ウィークリー・ニュース」のこの号で、はじめて“公募提案方式”が単なる“随意契約”であることを明らかにしました。区が公募提案方式を採用したのは、初めてであり、議員も区民もなじみがなく、それが地方自治法で定める契約方法の随意契約であることはわかりませんでした。正直いうと私自身も、区が72億円で売却することを発表したときでさえ、随意契約であることを知りませんでした。しかし、庁舎移転の財源確保のために区有地売却であるのに、最高見積価格が111億1000万円であり、そのつぎが83億円でありながら、それらを度外視して、見積価格が7番目の72億円で売却することが、法的に許されるのだろうかという疑問を持ったのです。

そこで、地方自治法及び地方自治法施行令の契約を定めた条文や参考書を調べた結果、公募提案方式は、地方自治法及び地方自治法施行令で定める随意契約であることがわかったのです。しかも、本件土地売却は、地方自治法施行令で定めた随意契約ができるいずれの条件にも該当しないことも判明したのです。私が住民監査請求で、区が本件土地売却で随意契約を採用したことは違法であるとした後は、議員の質疑や区長ら行政側の答弁でも随意契約という文言を使用するようになりました。

区はそれまで、公募提案方式で売却を決めたことを発表した「広報めぐろ」でも、“公募提案方式”とだけいって、それが“随意契約”であることを隠してきたのです。72億円で売却することを報告した2回の企画総務委員会でも、公募提案方式が随意契約であることを説明はなく、したがって質疑で本件土地売却を随意契約にした是非を問うことはありませんでした。

 

7 平成15年2月17日号(甲第33号証の9)

@本日、39億1000万円の損害を未然に防ぐため、本件土地売却の契約を差し止め、審査のやり直しを求める住民監査請求を起こしたこと。A私が世話人になって、任意団体の「目黒区行政監視団」と旗上げしたこと、などを伝えたのです。

 

平成15年2月21日号(甲第33号証の10)

 @提出予定議案リストの中に、三菱商事の企業名が記されていて、売却先が判明したこと。しかし、提出される議案には、三菱商事の企業名が記載されていないこと、などを伝えました。

 区有地を売却するのに、売却先の企業名を議案に記載しないのは、どうしてなのでしょう。区民が関心を持っているのは、区役所本庁舎・公会堂を価格がいくらで、どの企業に売却するのかということでした。売却先である三菱商事の名前を隠す理由は何もありません。議案には三菱商事の企業名は記載されてなかったのですが、提出予定議案リストの中に記載されていたのです。

 

 平成15年2月24日号(甲第33号証の11)

 @私が契約差し止めの住民監査請求を起こした翌2月18日の議会運営委員会で与党会派が、本件土地売却の議案を審議する3月7日の企画総務委員会に藥師寺区長が出席し、契約は違法ではないと明言するように要求したこと。A大阪高等裁判所で、京都市の前市長のゴルフ場買収に関しての住民訴訟で26億円の賠償命令の判決があったこと。B三菱商事に私が、住民監査請求書を配達証明付で送付したこと、などを伝えました。

 与党会派の議員たちが、本件土地売却の議案を付託された企画総務委員会で審議する前に、藥師寺区長に「違法ではない」と明言するように要求したといいます。であるならば、与党議員たちは、チェック機能を自ら放棄していることにほかなりません。区長が売却先として決定した72億円の三菱商事の提案は、最高価格の提案と39億1000万円もの価格差があるのですから、提案内容の差が価格差に匹敵するかどうか、議員自身があらゆる面から調べて徹底的に審議することこそ、議員に課せられた役目というものです。

藥師寺区長に「違法ではない」と明言させ、それだけを根拠にして、賛成しようというのでは、審議したことになりません。そういう与党議員のやり方こそ、区長に白紙委任状を渡したのと同じだ、というべきです。

 このあとも、私は本会議、委員会を傍聴し、また独自に取材するなどして、インターネットで発行する「ウィークリー・ニュース」で、本件土地売却の問題を何号にもわたり、連続的に取り上げました。が、住民監査請求を提起し、受理されたため、住民監査請求に関する内容の中で述べることにいたします。

 

第3 本件土地売却の違法の根拠について

 

1 最初にご説明しておくと、公募提案方式による随意契約を採用した本件土地売却の違法の根拠については、私の主張は住民監査請求と住民訴訟と根本的に同じですので、事実経過と合わせ、まとめて述べておきます。

目黒区が、旧本庁舎・公会堂を公募提案方式による随意契約で、72億円で売却することを議会に報告し、72億円の提案は14件の提案中、価格で上から7番目であり、最高価格の提案111億1000万円より39億1000万円も安く、このまま議会の議決を経て、平成15年3月末までに契約すれば、区は39億1000万円の得べかりし利益を失うことになります。そこで私は、平成15年2月17日、39億1000万円の損害を未然に防ぐために、地方自治法第242条の規定に基づき、目黒区監査委員あてに目黒区職員措置請求書(住民監査請求書)を提出しました。(甲第1号証) 

 その時点では、区は売却先の企業名をまだ発表していなかったため、売却先不明の状態で住民監査請求書を提出したのです。ちなみに、数日後には、3月の区議会の定例会に提出する予定議案リストに三菱商事の企業名があり、売却先が判明したのでした。

 措置請求対象者は、目黒区長 藥師寺克一です。藥師寺区長に対して、72億円で契約しないこと及び不当な審査による提案採用を白紙に戻し、周辺地域の環境保全に配慮した条件付き一般競争入札を改めて実施する措置を目黒区監査委員に請求しました。2月28日に、提出した2月17日付で受理の決定をしたとの通知がありました。

 以下、契約差し止め及び審査のやり直しを求めた住民監査請求書に記載されていないことを中心にして述べます。

 

2 区は、それまで公募提案方式を採用した法的根拠について、まったく説明してなかったので、私は住民監査請求を起こす5日前の2月12日に、区の契約課長・加藤義光に確認したところ、地方自治法施行令第167条2の2「その他の契約でその性質又は目的が競争入札にてきしないものをするとき」を適用し随意契約にしたといったのです。しかし、これが適用でできないことについては、あとで述べますが、その前に区は地方自治法で定める随意契約を採用しながら、意図して随意契約であることを隠していたことを述べておきます。

公募提案方式による“随意契約”で、72億円の提案を審査委員会で1位に順位付けして、最高価格より39億1000万円も安く売却するのは違法であるとして、私が住民監査請求を起こすまでは、区は“公募提案方式”が地方自治法で定める単なる“随意契約”であることをひた隠しにしてきたのですから、悪質です。

目黒区が公募提案方式による随意契約で、区有地を売却することなどこれまでなく、初めてであったため、議員も区民もまったく予備知識はありません。区は、それをいいことにして、公募提案方式による随意契約で売却を決めたあと、“随意契約”を削除してしまい、“公募提案方式”とだけいっていたのです。あたかも、公募提案方式が地方自治法で定められた特別の契約方式であるかのごとく、いい続けたといえます。

 

3 このほど私は、区の契約課が最初に随意契約隠しを行った決定的な証拠を見つけました。平成14年5月9日の政策会議で、公募提案方式による随意契約で売却を決めたときの資料「平成14年度における区有地の売却について(案)」(乙第25号証)では、本件土地売却の売却方法等(1)で「契約の方式:公募提案方式による随意契約」とあり、はっきり随意契約であることが明記されていました。

ところが、政策会議の決定を受けて、5日後の同年5月14日に契約等が所管である議会の企画総務委員会で報告した資料「平成14年度における区有地の売却について(案)」(甲第2号証、事実証明書3)は、文書の標題については政策会議の資料と同じです。しかし、売却方法等(1)が「契約の方式:公募提案方式」となっており、随意契約の文言を削除してしまったのです。両文書とも契約課が作成したものであり、「公募提案方式による随意契約」を「公募提案方式」に改ざんしたのは、故意に随意契約隠しを行ったというべきです。

同年5月15日開催の議会運営委員会に報告した資料「目黒区本庁舎跡地等の売却について」(甲第2号証、事実証明書2)でも「価格競争を主旨とする一般競争入札ではなく、周辺地域の環境とより調和のとれた跡地利用を図るため、公募提案方式により売却することとした」とあるだけで、公募提案方式が随意契約であることの説明はありません。

区はなぜ、随意契約であることが、議員や区民に知られることを避けたのでしょう。

区は「広報めぐろ」平成14年6月5日号(甲第32号証)で「区有地を売却します」と本件土地等の売却を発表しました。が、ただ公募提案方式とあるだけで、どこにも随意契約であることは記されておりません。また、議会においても議員たちは、私が住民監査請求を起こして、公募提案方式が単なる随意契約であることを明らかにするまでは、誰も気がついていなかったのです。それは議事録で明らかです。

 

4 本件土地売却の議案を審議した平成15年3月7日の企画総務委員会議事録(甲第7号証5頁)に、野沢委員が、公募提案方式という耳慣れない方式が採用され、財政難のときに総額246億円の庁舎移転費用を捻出するのだから、当然、一定の競争性が入っていると理解していたが、実際は随意契約だった、とう質疑をした記録があります。同じ委員会で、原委員も審査委員会についての質疑で、随意契約である報告がなかったと発言しています。

随意契約であることについて、契約課長・加藤は、企画総務委員会と特別委員会で随意契約という言葉は使わなかったと認め、審査し順位付けして契約すると記載しているのだから、一般競争入札ではなく、競争入札であるとして「一つ一つ地方自治法の契約の種別をそういう形で報告はしてございません」と答弁した。しかし、加藤はあとになって、特別委員会で一度だけ随意契約であるといったといっているが、自分自身でも記憶していない程度なのですから、契約課長として、説明義務を果たしていなかったわけです。売却先を決定するまで、区は随意契約隠しを行ったのは明らかで、もし、公募提案方式が随意契約であることをはじめから議会、区民が周知していたら、本件土地売却は違う展開になり、不当な審査、違法な契約で39億1000万円も損をして売却することに歯止めがかけられたはずです。

 

5 区は本件土地売却について地方自治法施行令第167条2の2を適用して、随意契約を採用したといいます。しかし、本件土地売却の目的は、新庁舎用に千代田生命本社を買収し、その財源捻出のためでした。しかも区の財政難のときの売却です。一般競争入札で1円でも高く売却する必要があったのです。契約の性質が周辺地域との住環境との調和を図るためならば、私が住民監査請求で実施することを求めた条件付一般競争入札を採用すれば解決できたのです。

私は条件付一般競争入札について、豊島区の事例と目黒区の随意契約を比較して、準備書面(6)で詳述しました。豊島区は昨年、区立小学校跡地を条件付一般競争入札で売却し、目黒区の公募提案方式による随意契約よりも行政目的を果たしたのです。本件土地売却は、地方公共団体の売買の原則である一般競争入札に条件を付ければできたことを、あえて随意契約にしたのですから、違法であるのは明白です。随意契約を採用したことが、そもそも違法なのですから、その後にどんな提案の審査を行っても、適法化できるものではないのは、いうまでもないことです。しかし、たとえ随意契約を採用したのが違法であったとしても、契約内容が跡地利用と価格の両面において、住民の利益の増進になるものであれば、契約方法選択の違法性は問題にならず、住民監査請求や住民訴訟を起すまでもないことです。

 

6 けれど、区は本件土地売却にあたり周辺地域との調和を図るために随意契約を採用したというが、売却先に決定した提案は、旧本庁舎5階建の跡地に、高さが2倍以上の13階建のマンションを建設するものであり、このこと一つを取ってみても、とうてい周辺地域と調和しているとはいえません。

また、価格については、14件の見積中、7番目であり、最高価格111億1000万円より39億1000万円も安い72億円です。提案内容の差が、価格差に匹敵するのなら合理的な判断といえるのですが、とても価格差に匹敵するものではないのです。売却価格に関して、藥師寺区長、助役・佐々木、総務部長・木村、契約課長・加藤らは、売却予定価格を超過していれば、価格はいくらであっても構わず、提案内容が重要だという論法で説明してきたのです。審査委員会会議録によれば、審査委員会においても、売却予定価格さえ超過していれば問題ないとして、価格については議論せずに審査をしたことがわかります。価格抜きで順位付けをしたあとに、予定価格を1億円超えるごとに0.1点を機械的に事務局が加点して、最終的な順位付けをしたのです。1億円=0.1点に何ら根拠はなく、審査委員会で、そのことについての議論をしていません。たとえば、1億円=1点の加点方式で順位付けをすれば、まったく異なる順位になります。審査過程で、その議論もありませんでした。

 

6 そこで問題になるが、売却予定価格が適正であったのか否か、ということです。もし、売却予定価格が適正でなかったら、本件土地売却の審査方法は成り立たず、藥師寺区長が、審査委員会の順位付けで1位にした三菱商事と契約したことに完全に根拠がなくなるわけです。私が契約差し止め及び条件付一般競争入札の実施を求めた住民監査請求を起こしたときは、まだ売却予定価格が公表されていませんでした。が、58億円台から111億円台まで14件のすべての見積価格が予定価格を超過しているということで、58億円未満であることの推定はできました。

その後、売却予定価格が56億4,760万円であることが判明しました。しかし、区が財産価格審議会に諮問し、答申を受けたこの予定価格に問題があることを、私は見破ったのです。そのことについては、準備書面(4)20頁以下で主張しましたが、かいつまんで申し上げておきます。区が財産価格審議会に諮問した不動産鑑定評価額は、鉄筋コンクリート造5〜6階建のファミリータイプマンションを想定し算出したものです。

しかし、実際に提案されたものは、本庁舎跡は7階建の2提案を除き、ほかの12提案はすべて10階以上でした。延べ床面積は、本庁舎跡地で13提案、公会堂跡地で12件が予定価格算出で想定したものを上回っていたのです。最も広い延べ床面積は、本庁舎跡で約1.5倍、公会堂跡では、約1.3倍もあるのです。評価額は、分譲床面積で決まるのですから、区が決定した売却予定価格は、極めて低すぎる価格であったことがわかります。

売却予定価格が、適正であるか否かを詳しく検討せずに、売却予定価格を超過していれば、価格については問題なしとして、審査し、契約した本件土地売却は、合理的な判断に基づくものではないのです。

 

7 私の住民監査請求(平成15年2月17日受理)に関して、目黒区監査委員の監査実施で、平成15年3月13日の午前10時から午前11まで、請求人の私は陳述を行いました。その陳述の記録が「監査委員協議録」(平成15年3月13日決定)(甲34号証)です。「監査委員協議録」が、A4判で14頁もあることからわかるように、本件土地売却についての違法、不当な問題点をいろいろ陳述しました。その中で、重要なことにポイントをしぼって簡潔に述べます。

まず、私は、藥師寺区長が公募提案方式による随意契約について、正確に理解していなっかことを陳述したのです。私が住民監査請求を起こしたあと、平成15年3月5日の本会議で無所属区議・増田宜男が、一般質問で本件土地売却を取り上げました。藥師寺区長は、売却先、契約内容について「本来ですと、これは区長の専権事項として区長が決めるべきものでございます」という答弁をしたのです。こうした見当違いの答弁をするのは、地方公共団体の長として、地方公共団体の契約についての知識が欠落している何よりの証拠です。地方自治法では区長の専決事項の規定はありますが、区長の“専権事項”の規定など存在しません。いったい藥師寺区長のいう専権事項とは、何だったのでしょうか。藥師寺区長は、地方自治法施行令167条の2で定める随意契約の条件についての知識もなく、この答弁をしたのでしょう。

 

8 たとえ、公募提案方式による随意契約を採用しても、区長の裁量権で、どんな契約をしてもいいということではありません。最高裁の判例(昭和62年3月20日)では「契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」「当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も本法施行令167条2項2号に掲げる場合に該当するものと解すべきである」と判示しているのです。随意契約だからとって、藥師寺区長のいう“専権事項”とやらで勝手に決めていいわけではありません。もちろん、最高価格と39億1000万円もの価格差がある本件土地売却は、最高裁の判例にはあてはまらないのは当然です。

私が傍聴した本件土地売却の議案を審議した平成15年3月7日の企画総務委員会で、藥師寺区長は本件土地売却について「今回の公募提案方式はこれまでの例から見ましても、他の自治体で実際に行われておりますので、何ら問題はないというふうに考えております」「公募提案方式によっては、私は例がありますので何ら問題はないと、そういうふうに理解しております」(甲第7号証25〜26頁)と答弁しました。この答弁が、与党議員たちが違法でないことを明言せよと要求したことに、応じたものだったのでしょう。

私は、この答弁が事実ではないことを監査実施で陳述しました。藥師寺区長は、他の自治体で実際に行われている、例があるので何ら問題ないというだけで、どこの自治体でどんな事例があるかについては説明しませんでした。また、契約の性質又は目的が競争入札に適しないから、公募提案方式による随意契約にした旨の説明もなかったのです。ただ、他の自治体で行われていることだけを根拠にして、何ら問題ないと答弁したわけです。

 

9 けれど、調べてみると、近年、他の自治体が行った類似名称の“公募方式”での土地売却は2件ありました。墨田区の小学校跡地売却と東京都の神田青果市場跡地の売却です。(甲第2号証、参考資料AB)しかし、墨田区の場合は、価格なしの17件の提案を審査して4件にしぼり、そのあと4件で競争入札を行いました。東京都の場合は、220億円余の売却予定価格対して、企業体1社が応募して405億円で売却されました。いずれも目黒区の公募提案方式による売却と、大違いです。目黒区のように111億1000万円の買手がいたのに、価格と提案内容の差を適正に審査せず、39億1000万円も安く72億円で売却したのと共通点などありません。藥師寺区長の答弁は、虚偽の答弁というしかありません。

さらに、この企画総務委員会で助役・佐々木が、39億円も高く売るとマンション1戸あたり、1,300万円ずつ高くなると答弁したことも、監査の実施で陳述しました。その答弁は、議事録(甲7号証20頁)で確認してみると、つぎの通りです。

「なお、この高額価格は区としては住宅のマスタープラン等で区民に提供する住宅については、可能な限り適切な価格で提供しろということをご指導している立場でございます。さらには公有地等の利用転換に伴っては区民に良好な住宅等が提供されるようにという、これは指導している立場でございます。そういう中であそこは39億高いということになりますと、300戸建てるとして、1戸当たり1,300万ずつ高価な住宅が出現するという状況からいたしますと、これはそういう点から検討いたしましても、区としてはこれを採用するわけにはいかないというのが、最終的な見解として私どもは持っております」

これは、極めて重大な発言です。助役・佐々木は、平成14年5月9日に、本件売却を公募提案方式による随意契約に決定した政策会議の資料(乙第25号証)の「審査委員会の設置」では「助役を委員長」となっていた立場の人間です。その後、なぜか委員長は、民間の学識経験者になりましたが、審査委員を務めたのです。助役・佐々木の答弁で、111億1000万円の提案は、マンション1戸当たり1,300万円高くなるという理由で、最初から採用するつもりがなかったことがわかります。“私ども”といっていることから、複数の審査委員あるいは藥師寺区長、助役・佐々木ら行政幹部ということになります。

本件土地は、公有地の利用転換ではなく、庁舎移転の財源確保のために売却するものであり、詭弁でしかありません。それに、何を基準にして39億高いといっているのでしょう。売却予定価格は、56億円余であり、提案された最低価格は58億1700万円余です。三菱商事の72億円を基準にしていっているのですが、安く売却するのが目的であれば、72億円でも高いことになるわけで、この答弁は何ら根拠はありません。仮に、助役・佐々木のいうような行政目的があるのであれば、上限価格に制限を付けて随意契約を行えばよかったのです。最高裁判例に、上限価格を設定する場合には、随意契約を採用せよ、とあるのはよく知られています。

111億1000万円より、39億1000万円も安く三菱商事に売却しても、マンション1戸当たり1,300万円ずつ安くなる保証などまったくありません。販売価格について、区が口出しできるものではないのです。1円でも高く売却しなければならないのに、こうした答弁をしたのは、三菱商事の人間ならともかく、区の助役にあるまじきことです。

ほかにも監査の実施で、私は違法、不当にあたる事実を陳述しましたが、それについては、監査実施の陳述書をご一読ください。

 

10 目黒区監査委員が、私の契約差し止め等を求めた住民監査請求の監査を実施中であった平成15年3月14日に本件土地売却の議案が議会で議決され、3月24日に、藥師寺区長が、三菱商事と72億円で契約したため、私は改めて損害賠償を求める目黒区職員措置請求書(住民監査請求書)を目黒区監査委員に提出しました。(甲第2号証)そして、契約したために、私は契約差し止め等を求めた住民監査請求を取り下げました。

住民監査請求の内容は、藥師寺区長が、最高見積価格111億1000万円より39億1000万円も安く72億円で三菱商事に売却したため、藥師寺区長に対して、目黒区が被った39億1000万円の損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを、目黒区監査委員に請求したものでした。

違法の法的根拠は、契約差し止め等の住民監査請求と骨子において同じでした。地方自治法施行令第167条2の2号の規定に該当せず、違法であること、周辺地域との環境の調和を図るためならば、建物の高さ、延べ床面積、公共スペースの確保などの制限を付けて一般競争入札にすべきであったことなどを挙げました。不当行為の根拠では、審査委員会の不公正審査と委員の構成が偏向していたこと、価格を正当に評価せず111億1000万円の提案を外し審査したこと、ヒアリングで提案内容を変えた業者がいたことなどを挙げました。

この住民監査請求でも監査の実施で、平成15年4月4日に請求人である私の陳述が行われました。その記録が「監査委員協議録」(平成15年5月26日決定)(甲35号証)です。

その中で取り上げたことに関して、いくつか述べておきます。

 

11 本件土地売却の議案が平成15年3月6日に、上程されたときの議事録を入手し、助役・佐々木が提案理由の質疑で、つぎの答弁をしたことがわかりました。区役所跡地であるため、「やはりどのようなものを整備していただけるかということの提案内容を審査する、それが、第一の目的であるというように考えております。従いまして優れた提案にもかかわらず価格を軽視したということであるならば、それは、ご指摘のとおりかと存じますけれども、あくまでも最初に価格ではないというように理解しております」と助役・佐々木は答弁したのです。

また、「正直申し上げますと、一番ご指摘いただく、よく事例に出される111億円という提案につきましては、私どもも予想外でございました。(略)その価格で売却することは、かえって区の責任さえ生ずるのではないかというくらいの価格でございます」とも答弁しました。

上程された本件土地売却議案の売却目的は、「庁舎移転費用に充てるため」となっておりました。あくまでも財源確保が目的でした。それなのに、重要なのは、跡地利用の提案内容であって、価格ではないといっているのですが、売却先の三菱商事の提案内容は、39億1000万円の価格差を補えるほど優れたものではないのです。助役・佐々木の111億円で売却したら、かえって区の責任さえ生ずるという答弁には、あきれるばかりです。111億円で売っても区の責任など生じるわけがないのは、いうまでもないことです。最初から、111億円の提案を外すことを意図していたのが明らかです。むしろ、予想外に高く買ってくれのですから、喜ぶべきことです。この答弁からも、最高価格の111億1000万円で売却するつもりがなかったのがわかります。

 

12 ほかにも当該議事録の中で、助役・佐々木は審査方法について「いわば受験に例えますれば答案を持ってきたわけでございますから、それに対して採点をしていったと、こういうことでございます」とも答弁しているのです。しかし、三菱商事の公共スペースの提案をヒアリングで、605uから1300uに拡大させているのですから、矛盾した答弁です。随意契約で売却することと、受験の答案とは、まったく違うものです。

民間資金を導入しPFI方式で、国や自治体が多くのプロジェクトを進めていますが、PFIの契約は随意契約ですることになっているのは、契約までに当事者双方がいろいろ交渉することができるからです。随意契約であるのだから、提案内容、価格など、なんでも交渉できたのです。自治体が有利になるような交渉を契約するまで、可能なのです。それをせずに、受験の答案を採点と同じであった審査方法は、随意契約をいうべきです。

また、藥師寺区長も区長としての裁量権を発揮するために、公募提案方式による随意契約を採用したと売却先決定後に、その理由を説明したにもかかわらず、実際には提案の審査を区長の私的諮問機関、つまり内部検討委員会である審査委員会にいわば丸投げして、審査過程で裁量権を発揮することはなかったのです。随意契約なのですから、区長自ら目黒区及び区民の利益を考え、価格の有利性と周辺地域の環境との調和のため、審査過程で交渉することもできたのですが、それをせず、審査委員会が1位に順位付けした三菱商事と契約したのです。

監査実施の陳述で、私がほかにも数々の指摘をしたのは、「監査委員協議録」(甲35号証)に書かれています。

 

第3 住民訴訟について

 

1 藥師寺区長に39億1000万円の損害賠償を請求することを求めた住民監査請求が、法定監査期間である60日以内に合議に至らなかったとの監査委員からの通知書(平成15年5月26日付)を受け取ったため、私は平成15年6月18日に本件土地売却に関して、東京地方裁判所民事部に住民訴訟を起こしました。訴えの内容は、訴状に記載の通りです。

2度の住民監査請求では、藥師寺区長のみを措置対象者にしていました。が、住民訴訟では藥師寺区長個人のみならず、訴状記載の助役・佐々木ら5人と三菱商事株式会社も損害賠償を求める対象にしました。私は公募提案を審査した審査委員会会議録を精査し、本件土地売却に関する議会への報告及び議案を審議、議決した目黒区議会本会議、委員会等を傍聴し、さらに目黒区監査委員が関係人調査をした「監査委員協議録」を精査した結果、違法な本件土地売却は、藥師寺区長のみの責任にとどまらないことがわかりました。

そのため、被告に対して、藥師寺区長個人とともに助役・佐々木らと売却先である三菱商事を含めて、損害賠償を請求せよ、という訴えにしたのです。その理由は、助役・佐々木らは本件土地を公募提案方式による随意契約で売却を決めた政策会議の構成員であり、また三菱商事の提案を1位に選んだ審査委員会の委員であり、さらに審査委員会が三菱商事を1位に順位付けして藥師寺区長に答申したあと、藥師寺区長と助役・佐々木らは、政策会議で三菱商事を売却先に決定したからです。三菱商事は、私が契約差し止め等の住民監査請求を起こしたとき、その文書を送付してあり、違法であることを知り得る立場にあったのが、その理由です。

 

2 藥師寺区長は、政策会議で決定した売却方法に審査委員会で順位付けをして契約するとあり、審査員会が1位に順位付けしたのを尊重し、それを拒否する特段の理由がないので、三菱商事を契約したと主張してきました。いっぽう審査委員であった助役・佐々木らの主張を要約すれば、審査委員会は三菱商事の提案を1位に順位付けして、藥師寺区長に答申しただけであり、契約したのは藥師寺区長であるという主張です。

こうした双方の主張をそのまま受け取れば、本件土地が最高見積価格111億1000万円より39億1000万円も安く、違法に72億円で売却されたにもかかわらず、責任者は誰でもないことになるのです。そんな不合理なことがあるはずがないのです。藥師寺区長と助役・佐々木らは、本件土地売却については不可分の関係にあり、共同して責任を負う立場にあります。刑事事件に喩えれば、共同正犯の関係にあるといえます。

 藥師寺区長ら本件関係人は、周辺地域との住環境の調和を図るために公募提案方式による随意契約を採用したと主張しています。それならば地方公共団体の売買の原則である一般競争入札に条件を付せば可能であったのですから、そもそも政策会議で随意契約採用を決定したことが、すなわち違法です。違法な決定にしたがって、提案を審査するために設置された審査委員会もこれまた違法というべきです。

ですから、その後、審査委員会がどんな審査をしようとも、随意契約採用が違法であることを適法化できるものではありません。ただし、審査結果が地方公共団体に損害を与えるものでなく、住民の利益の増進を図るものであれば、その審査結果にしたがって契約しても、違法であることを問題にする必要はありません。

しかし、本件土地売却に関しては、違法に設置された審査委員会が、価格と提案内容を斟酌することなく、72億円の三菱商事の提案を1位に順位付けし、政策会議で三菱商事を売価客先に決定し、藥師寺区長が違法な契約を締結したのです。したがって、助役・佐々木らが審査委員であった審査委員会の審査結果が存在しなければ、違法な財務会計行為である契約はなかったわけであり、助役・佐々木らが加わった審査結果は違法な財務会計行為の先々行為に該当します。また、審査委員会で1位に順位付けした三菱商事を売却先に決定した政策会議にも助役・佐々木らは加わり、そこでの売却先決定は、違法な財務会計行為の先行行為に該当します。なぜならば、政策会議の決定なくして、違法な財務会計行為はなかったからです。助役・佐々木らの行為は、行政行為であり、かつまた財務会計行為と判断すべきものです。さらに助役・佐々木ら5人が、審査委員として、予定価格を超過していれば価格は二の次だと審査し、三菱商事を1位にして、そのあと藥師寺区長とともに政策会議で三菱商事を売却先に決定し、39億1000万円の損害を発生させたのは、民法の不法行為に該当するものです。

 

3 すでに私は準備書面(3)第2目黒区「監査委員協議録」の検討で詳しく述べたように、監査委員が関係人に事情聴取した結果を記録した「監査委員協議録」(平成15年5月26日付)(甲第18号証)を読んでみて驚愕したのは、平成14年5月9日の政策会議で藥師寺区長と一緒に本件土地を公募提案方式による随意契約で売却することを決定していながら、助役・佐々木らは、地方自治法で定める随意契約について、正しく認識していないことでした。

それでいて、随意契約採用を決定に参加し、審査委員として公募提案を審査したのですから、いかに杜撰であったかがわかります。

 助役・佐々木らは、価格については売却予定価格を超過してさえいれば、問題ないという立場でした。これは藥師寺区長にしても同じです。区の財政難であるときの庁舎移転の財源確保であるにもかかわらず、価格の有利性をまったく考慮しようとしていなかったのです。たとえ随意契約であっても、住民の利益の増進につながるように、価格の有利性を考慮しなければならないのに、それをしていないのです。

 監査委員が事情聴取した記録「監査委員協議録」によれば、助役・佐々木は、随意契約か一般競争入札かで最高裁判例を事前に検討したか、という監査委員の質問に「同程度の提案があった場合に価格の高いほうを取得すべきであるというのが、判例の趣旨かないというふうに考えておりました」と答えているが、議会での答弁に照らしてみると、検討したといえる理解度ではありません。教育長・大塩にいたっては、随意契約よる本件土地売却について「それは一定金額をクリアーしていれば、それはもう何十億、何億であってもよしとする」という程度の理解しかしていないのです。企画経営部長・川島は、39億の価格差がでたことについて「結果的に出てきますけれども、あのー、それが公募提案方式を採用したことの是非とは別の話ではないかと思っています」と答えていて、公募提案方式による随意契約を採用すれば、価格はいくらであっても構わないという考えだったのがわかります。こんな考えを持った審査委員が審査したのですから、価格差と提案内容を比較考量することなく売却し、39億1000万円もの損害が発生したのは当然です。

 契約課を統括する総務部長・木村高久は、随意契約について判例等を検討したかの質問に「そうですね。自治法でしたか、根拠の中では明確には書いてありません。その性質とか何とかはですね。したがって、それだけではちょっと判断が困難で、したがいまして、(・・・?)へ行って関連する事例、判例の調査があったわけです。そのあまりこれらについての例は少ないんです。ただ、それに対する最高裁の、ちょっと今元にないので正確には申し上げられませんが、最高裁の判例がありそのなかで一定の条件のなかでは随意契約は可能だ、というものがあります。それにこれについては該当するというふうに考えました」と答えています。正直いって、何をいっているのかわかりません。これは、監査委員の事情聴取の記録をそのまま引用したしたものです。監査委員が事前に通告して、事情聴取を行ったのに、この程度の答えしかできないのです。困ったものです。とうてい地方自治法施行令第167条2で定めている随意契約の条件や最高裁判例について理解しているとはいえません。

 区のいわば金庫番である収入役・安田直史は、72億円で売却することはやむを得なかったのかと質問されて「これは、あの、どっちかと言うと、私、あのー、いわゆる、政策会議のメンバーの一人という形で入っていましたので、特にそういった、そのー、財政がどうの、そちらのというなかった」と答えているのです。私のパソコンの打ち間違えではなく、これも監査委員の事情聴取の記録をそのまま引用しただけです。収入役・安田は、庁舎移転の財源づくりの本件土地売却に政策会議のメンバーとして、また審査委員としてかかわっていたのに、財政的見地からの検討をまったくしていないのがわかります。収入役としての役目を果たしていないのです。随意契約ならば、価格は予定価格さえ超過していれば構わないという認識不足でした。

4 藥師寺区長の公募提案方式による随意契約の理解度についても、他の自治体でも実際に行われており、何ら問題ない、と具体的に事例も挙げずに、目黒区と同じ方式を採用した自治体がないのに答弁したことからも、正しい認識がなったのがわかります。区の貴重な財産である区有地売却にあたり、認識不足で違法に随意契約を採用したために、39億1000万円もの損害が発生したのは、起こるべくして起きたといえます。

 監査委員のひとりが監査通知書(甲第3号証)の総論意見で「本件において、価格要素と質的要素を比較考量することは容易ではないかもしれないが、議論すること自体は必要であったと考える。本監査委員は、審査委員会の会議録、および、審査委員会委員に対する関係人調査の結果、同委員会として、この点について議論する意思が無かったことを確認した。よって、本監査委員は同委員会の審査過程に瑕疵があり、違法性が高いものと考える」と述べています。正鵠を射た意見というべきです。

私は本件土地売却に関する委員会、本会議を傍聴しましたが、提案内容の価格要素と質的要素を比較考量したという藥師寺区長及び助役・佐々木らの答弁は皆無でした。

 

5 審査委員会の構成が、12人の審査委員中9人が行政側の審査委員であった構成の偏向もさることながら、審査の内容そのものも公正・公平さに欠けるものでした。その個別具体的な詳細については、すでに私は準備書面で再三にわたり主張してきましたので、ここでは総括的に問題点について申し上げます。

 公募提案の応募を締め切ったのが、平成14年8月末でした。第1回目の審査委員会が開催されたのが、同年9月24日でした。それ以後、同年12月13日まで合計6回開催されたのです。審査中の同年10月6日の区長選挙で、藥師寺区長が再選されました。提案締め切りから、審査開始まで24日間もあったわけです。競争入札であれば同時に開札され、談合、情報漏洩等がない限り公正・公平さが保証されます。しかし、本件土地売却に関しては、応募した業者が購入希望金額、つまり見積価格を記入した提案書を提出してから、24日後に審査が開始されたのです。したがって、その間に区は各提案の価格を知っていたわけです。所管の契約課長はもちろん、藥師寺区長、助役・佐々木、総務部長・木村は、各見積価格を知る立場にあったわけです。民間人の審査委員長であった東京工大名誉教授・谷口汎邦は、監査委員の事情聴取に対して、各見積価格を知ったのは、審査委員会の最後の最後であったと答えていますが、行政側審査委員たちは、容易に知り得る立場にあったといえます。

 

6 そこで、問題になるのが、さきに述べたように、助役・佐々木が最高見積価格であった111億1000万円の提案について、「111億で売却したら、区の責任さえ生ずる」「39億も高く売ったら、マンション1戸が1300万円ずつ高くなる」という趣旨の答弁をしたことです。売却するつもりがなかったことは明白です。

藥師寺区長は審査委員ではなかったので、行政側審査員9人の中では、助役の佐々木が、行政のトップの立場にありました。特別職の収入役、教育長の2人を除いた部長級の審査委員は、助役・佐々木の部下に当たる立場なのです。審査委員会事務局の責任者であった契約課長・加藤も同じです。111億1000万円の価格を故意に排除する助役・佐々木の意向が、何人かの部下たちに絶対に反映されなかったと言い切れるのでしょうか。

そして、区長と助役は行政執行において一心同体であるのは、いうまでもありません。したがって、助役・佐々木の111億1000万円を故意に排除する答弁に、藥師寺区長の意向が反映されていたと考えるのが、合理的判断というものです。助役・佐々木が、上記の111億1000万円を排除する答弁をしたとき、藥師寺区長は隣に座っていて、異をとなえずに黙認していたのを、私は傍聴して目撃しています。同じ考えであったのがわかります。

もっとも、審査委員会はそもそも区長の私的諮問機関であり、藥師寺区長は答弁では「内部検討会」という文言をつかっていて、第三者機関ではないのですから、たとえ藥師寺区長の意向が反映されていても、それは仕方のないことです。公正・公平に提案審査をするためには、行政側審査委員を除いた学識経験者、区民、民間人等の第三者による審査委員会を設置していれば、審査の偏向は防げたのです。また、111億1000万円で売却したら「区の責任さえ生ずる」というのなら、随意契約では売却する上限価格を設定できるので、例えば上限価格を80億円なり、90億円に設定して、跡地利用計画の提案を公募すればいいのです。そうしないでおいて、価格を含めて各提案が提出されたあとになって、「区の責任さえ生ずる」価格であると排除するのは、随意契約についての正確な認識がなかったからです。

 

7 こうしたことを念頭において、本件土地売却の審査過程を検討してみると、価格の有利性では一番である最高見積価格111億1000万円を売却先にせず、72億円の三菱商事を売却先にした、いわば“からくり”ともいえる不公正で不公平な審査のやり方が、よく見えてきます。すでに提出された14件の見積価格を区長、助役、そして契約課長らが知ったあとで、審査方法、評価基準等をまず審査委員会事務局が試案を作成し、審査委員会で決めたのですが、審査方法、評価基準、審査項目等を111億1000万円を排除できるように収斂させているのです。

 不当な審査方法、審査基準については、私はこれまでに具体的に準備書面で詳しく述べてきましたが、主な点を挙げるだけでも、

@財源確保が最重要目的の区有地売却であるにもかかわらず、価格をまったく評価せずに14提案を7提案にしぼり、その7提案にだけ、売却予定価格を1億円超過するごとに0.1点を加点して最終的な順位付けをしたのです。はじめは10億円超過するごとに1点だったのを改めたのですが、どちらも何ら根拠のないものです。

 審査委員会会議録を見ても、その根拠の説明がなく、議会での答弁でも1億円=0.1点の根拠についての説明はなかったのです。111億1000万円の提案は、価格抜きの順位付けで、すでに外されており、1億円=0.1点の加点の対象になっていなかったのですが、たとえ加点されたとしても、とうてい三菱商事を逆転できない評価基準になっていたのです。

 この価格の加点基準を決定する前に、すでに各審査委員は14提案について、評価書に価格抜きで試行記入しているのですから、審査事務局は各審査委員がどういう評価をしたか把握していたのです。その内容については、当然、藥師寺区長、助役・佐々木に事務局から報告されていたと考えられます。

8 A提案した業者のヒアリングでの不公平があります。最初の提案では、三菱商事の605uの公共施設より広い公共施設の提案がありました。が、三菱商事はヒアリングで605uを1300uにし、最大の広さに拡大しました。

 会議録によれば、111億1000万円の業者に対して、マンションの戸数を減らせないかといった即答できない難問を審査委員がしています。ヒアリングに出席した担当者が即答できることではないのです。採算がとれる最大限の見積をしていれば、億単位の収入減なるような難問にその場で答えられないのは、むしろ当然です。あとで複数の審査委員が、これをもって提案内容に柔軟性がないと決めつけているのは、価格の有利性をまったく考慮せずに、111億1000万円を排除するためといえます。

 ほかにも、私が準備書面(7)で述べているように、各提案を住民に閲覧させたとき、ある提案した業者が集団で住民を装って、意見を記入するといった不正行為もあり、審査が適正に行われたとは、いえないのは明らかです。

 

9 三菱商事に売却先を決定したあと、藥師寺区長、助役・佐々木、契約課長・加藤らは、審査では価格より利用計画の提案内容を重視したと再三にわたり説明してきました。あたかも、審査がその趣旨に沿って整然と行われたかの言い方でしたが、そんなことはありません。公開されている審査委員会会議録(甲2号証、事実証明書6)によっても、最終回であった第6回の審査委員会でも、ひとりの委員が、「応募要領で資力・信用・利用計画と購入希望金額などを総合的に審査のうえで決定する、とあり、何らかのかたちで価格を評価する必要があると考えられるが」と発言し、価格評価についての疑問が持っていたのです。

 これに対して、他の委員が「10数件の提案があったなかからはじめから価格を反映させた評価順位と付けると、価格を含まない評価で下位であっても上位に出るようなこともあり得る」と発言した記録が残っています。しかし、審査委員会会議録は、準備書面(7)で私が指摘しているように、契約課長・加藤が下書き草稿を添削、改ざんしたものであるので、会議録の下書きである「議事の経過と主な発言」(甲第36号証、21頁)の当該個所を見てみると、つぎのようになっています。

 まず、審査委員会の冒頭に「土地利用の計画評価の決定について」(事務局が各審査委員から提出された提案に対する順位付けを集計し価格評価をしない順位と価格評価をした順位を発表した)と記載されています。つまり、最終的な順位付けを発表したあとに、ひとりの審査委員が価格評価に疑問を呈していたのがわかります。

 そのあとで、他の委員が「先程、事務局の説明で価格を含まない評価順位の7位から上までで考えると言っておりましたが、まず、10数件の提案があったなかから価格を反映させた評価順位を付けると、(価格評価を含まない評価で?)最下位であってもトップに出るようなこともあり得るわけですよね」といい、さらに「まず、第一次予選は価格無視でやりましたよ、その中から今度は価格を反映してこうしましたよとそういう手順ですよね」と発言しているのです。最終回の審査委員会でもまだ、価格評価の手順に混乱があったのがわかります。

この発言をしたのは、審査委員であった助役・佐々木だ、と推認できます。111億1000万円で売却したら「区の責任さえ生じる」の答弁の趣旨と共通しているからです。契約課長・加藤は、「最下位であってもトップに出る」の発言を「下位であっても上位に出る」と意図的に改ざんしたのです。価格を含まない評価で「最下位であってもトップに出る」という発言をそのまま会議録に残せば、その可能性が一番高いのは、価格が突出して高い111億1000万円であることがわかるため、改ざんしたのは明らかです。

111億1000万円の提案が、順位付けで一番になり、売却先に決定されないように、まず、価格抜きの評価で7提案にしぼった第一次予選で111億1000万円の提案を外してしまったのです。

 

11 本件土地売却は、議会の議決を経なければ、契約できないものでした。平成14年3月14日に本件土地売却議案が議決され、同年3月24日に藥師寺区長は三菱商事と契約しました。本議案が議会の企画総務委員会に付託されて、平成14年3月7日に審議され、可決されました。私は傍聴し、また、そのときの企画総務委員会議事録(甲第7号証)からもわかるように、藥師寺区長の与党会派の委員である自民党、公明党などの区議たちは、まともに審議することはありませんでした。自民党の2人の委員など、ひと言も質疑をせずに、採決では賛成していたのです

提案藥師寺区長が、共通の事例もないのに、公募提案方式は他の自治体でも行っており、何ら問題はないと答弁したのをそのまま信じ、さらに最高見積価格111億1000万円より39億1000万円も安く、2番目の83億円の価格と較べても11億円も安い、14件の見積価格中で7番目である72億円で売却するのに質疑さえしないのです。売却目的は、庁舎移転費用に充てるためであったのですから、当該委員会の委員のみならず、本議案に賛成した議員たちは、議員の議決権の裁量範囲を逸脱している行為というべきです。

また、藥師寺区長も本件土地売却の契約者として、区長の裁量権の範囲を大きく逸脱した行為であったのです。

 

12 私が住民訴訟を提起したあとになって、被告や審査委員だった区の幹部職員が、価格は定量的であり、提案内容は定性的であり、同次元では比較できないと主張しています。しかし、そういった趣旨の発言は、審査委員会議事録にもなければ、売却先を議会に報告し、審議した過程でもまったくなかったのは、どうしてなのでしょう。39億円も安く三菱商事に売却したあとになって、それを正当化するための、つじつま合わせの主張でしかないというべきです。

 価格は定量的、提案内容は定性的で比較できないのであれば、助役・佐々木が、三菱商事がヒアリングで1300uに拡大した公共スペースについて、8億円に相当するといっているのは、大きな矛盾です。助役・佐々木が都合のいいところは、定量的な価格に換算しているように、審査委員会が三菱商事の提案で評価した防災用倉庫、防火貯水槽、1300uの公共スペースなどは、定性的ではなく、簡単に定量化して比較することができるものが少なくないのです。価格と提案内容を比較考量しれば、三菱商事の提案は、とうてい39億1000万円の価格差に匹敵するものではないというべきです。

 

13 平成16年3月7日に藥師寺区長が死亡したしたため、損害賠償請求対象であった藥師寺克一個人を法定相続の確定後に、相続人らに変更し、訴えの変更を行いました。その他の損害賠償請求対象である本件関係人の助役・佐々木ら5人及び三菱商事はそのままであり、訴状記載の通りです。

 

まとめ

 本件土地売却は、そもそも区の財政難の際に、庁舎移転のための財源確保が第一の目的でした。したがって、地方公共団体の売買の原則である一般競争入札を採用すべきものであり、財源確保と同時に周辺地域の住環境との調和等の行政目的を実現するためならば、建物の高さ、階数、延べ床面積、公共施設の設置、防火・防災施設の設置、樹木保存等について具体的な条件を付けて、条件付一般競争入札を行えば、十分に可能であったのです。

地方自治法では、一般競争入札に条件を付けることを禁じてはいません。私が、準備書面(6)で詳しく述べたように、豊島区では平成16年8月、区立小学校跡地売却で跡地利用に関して、用途は大学又は大学院の校舎、そして建物の高さ、建ぺい率、電波障害対策、道路整備、一般開放可能な講堂建設、地元住民に供する集会場設置、防災設備など詳細にわたり具体的な条件を付けた条件付一般競争入札で売却したのです。私は、本件土地売却の契約差し止めを求めた住民監査請求で、公募提案方式による随意契約を白紙に戻し、条件付一般競争入札による売却を求めたのです。

 しかし、目黒区は条件付一般競争入札でできるのに、随意契約を採用したのです。区は地方自治法施行令167条2の2から「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を適用したとしています。本件土地売却の目的は、財源確保にあり、価格の競争原理がはたらく競争入札こそ適するものです。また、性質が周辺地域の住環境との調和等の行政目的であるのなら、条件付一般競争入札こそ適するものというべきです。一般競争入札でできた契約に随意契約を採用したのですから、違法であるのは明らかです。ただし、違法な随意契約を採用したとしても、契約内容が住民の利益の増進を図るものであるならば、違法性を問題にする必要はないのです。ところが、審査委員会は、公募提案の価格要素と質的要素を比較考量することなく、価格を不当に評価して三菱商事の72億円の提案を1位に順位付けしたのです。

藥師寺区長は、最高見積価格111億1000万円より39億1000万円も安く三菱商事と契約し、区に損害を与えたのです。助役・佐々木らは審査した審査委員会の委員であり、さらに最終的に政策会議で、藥師寺区長とともに売却を決定したのであり、藥師寺区長と助役・佐々木らは損害を発生させた共同責任者です。なお、買受者の三菱商事は、契約前に違法であることを知り得る立場にありました。

 

 私は、以上の通り陳述します。

            平成17年2月1日    原告本人 須藤甚一郎

 

以上