平成15年(行ウ)373号 損害賠償(住民訴訟)請求事件

原 告  須藤甚一郎

被 告  目黒区長

 

 

準 備 書 面(11)

 

平成17年11月10日

 

 

東京地方裁判所民事2部C係 御中

 

原告本人 須藤甚一郎

 

第1 はじめに

   原告は、これまでに目黒区が本件土地売却において公募提案方式による随意契約を採用し、最高購入希望金額よりも39億1000万円、2番目の金額でも11億円も安く、72億円で三菱商事に売却した違法性について、準備書面での主張、証拠、原告の陳述書、本人尋問、鈴木勝証人への反対尋問で明らかにしてきた。本件土地売却の違法性は、区が地方自治法で定める売買の原則である一般競争入札に条件を付ける条件付一般競争入札で売却できたのに、あえて公募提案方式による随意契約を採用し、審査委員会が価格の有利性を適正に評価することなく順位付けをし、72億円で売却したことに要約できる。

   たとえ公募提案方式による随意契約を採用しても、本件土地の跡地利用計画の提案審査で、価格の有利性を適正に審査して順付けを行ない、売却したのであれば、区に損害が生じることもなかったのである。被告及び補助参加人は、政策会議の売却方針、応募要領の手続きを踏んで審査し、売却したので適法であると主張する。しかし、区の財政難である上に新庁舎購入の財源捻出でありながら、最高見積金額より39億円1000万円も安く売却したことを適法化できるものではないのは明らかである。

   政策会議の売却方針、応募要領の手続きを決定したのは、売却時の区長であった藥師寺区長ら本件関係人らであったのである。本件関係人らのうち助役・佐々木英和ら5人は、政策会議で売却方針を藥師寺区長とともに決定し、審査委員として提案審査に加わり、最終的に再び政策会議で藥師寺区長とともに売却を決定した。したがって、区長と区の最高幹部らが、自ら決めた手続きを踏んだ結果、最高見積金額より39億1000万円も安く売却することになったのであり、手続きを踏んだことは何ら免責になるものではない。

   原告は、改めて本件土地売却の違法性に係る重要事項に絞って述べる。また、鈴木証人の証言、原告による鈴木証人に対する反対尋問に即して、本件土地売却の違法性を述べることにする。

 

第2 公募提案方式による随意契約を採用し本件土地を売却したことについて

 

1 随意契約に関する最高裁判所判例を曲解して本件土地を売却した

 

 (1)本件土地を最高購入希望金額より39億1000万円も廉価で売却するに際して、被告は最高裁判所判例(昭和62年3月20日第2小法廷判決)を曲解したというべきである。そのことについて詳述する前に、被告が公募提案方式による随意契約を採用した根拠を確認しておく必要がある。

区は、庁舎移転の財源捻出のため、本件土地を売却するにあたり、地方公共団体の売買の原則である一般競争入札によらず、地方自治法施行令第167条の2第1項で例外として認めている随意契約を採用した。本件土地売却で採用した方法を公募提案方式と称したが、公募提案方式には何ら法令の根拠はなく、地方自治法で定める単なる随意契約であることは、いうまでもない。随意契約で本件土地を72億円で三菱商事に売却したのである。72億円の価格は、最高購入希望金額111億1000万円との価格差が39億1000万円であり、二番目の購入希望金額83億円との価格差でも11億円である。

被告は、同施行令第167条の2第1項第2号にある「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を、随意契約を採用した根拠にしている。競争入札に適しないと判断した根拠として、平成15年1月14日の政策会議資料として提出された「目黒区本庁舎等の売却(案)について」(甲第53号証)で、

「長年にわたり本区行政サービスの中心であったことから、周辺地域へ与える影響も大きいため、価格競争を主旨とする一般競争入札ではなく、周辺地域とより調和のとれた跡地利用を図るため、公募提案方式により売却することとした」(甲第53号証、3ページ下線部分、下線は原告が記入)としている。区の行財政の最高方針を決定する政策会議では、「(会議の結果)目黒区本庁舎跡地等の売却(案)について、案の通り決定する」(甲第53号証、2ページ)とあり、三菱商事(整理番号7)に72億円で売却することを決定した。

また、本件土地売却議案を審議した平成15年3月の区議会定例会用に契約課が区長、助役らが答弁するために作成した「本庁舎等土地売却に係る想定質問事項」(甲第54号証、1枚目)でも、「なぜ公募提案方式(随意契約)の手法を選んだのか。なぜ一般競争入札としなかったのか」という質問を想定し、つぎのごとく回答を記している。

「区の目指すまちづくりのため、有効な土地利用を図る必要がある。そのため、当該地域の居住環境と調和のとれた街並み形成や、地域の活性化や安全性、緑化など、区や区民の意向が反映可能な契約手法をとる必要がある」

区は本件土地を上記の理由で、公募提案方式による随意契約の手法で売却したのがわかる。しかし、原告は本件土地売却の契約差し止めと条件付一般競争入札の実施を求める「目黒区職員措置請求書」(住民監査請求書)(甲第1号証)を平成15年2月17付で目黒区監査委員に提出し、同日付で受理された。原告の措置請求内容は、下記の通りであった。

「違法な随意契約による売却で生ずる39億1000万円の損害を未然に防ぐため、区長・藥師寺克一に対して、72億円で契約を締結しないことを求める。かさねて不当な審査による提案採用を白紙に戻し、周辺地域の環境保全に配慮した条件付き一般競争入札を改めて実施することを求める」

ところが、監査委員の監査実施中の同年3月24日に、区は72億円で三菱商事に売却したため、原告は改めて区長に本件関係人らと三菱商事に損害賠償請求をするよう求めた「目黒区職員措置請求書」(住民監査請求書)を同年3月25日付で監査委員に提出したのである。

しかるに、その後に作成された「本庁舎等土地売却に係る想定質問事項」も「本庁舎等土地売却に係る考え方」にも、原告が求めた周辺地域の環境保全に配慮した条件付一般競争入札のことは、まったく触れていない。したがって、区は公募提案方式による随意契約の手法しか考えていなかったのは明白である。公募提案方式による随意契約よりも、条件付一般競争入札のほうが行政目的に沿ったまちづくりの点では、はるかに優れているのである。

 

(2)公募提案方式による随意契約を採用し、最高購入希望金額より39億1000万円も廉価で売却しておきながら、公募提案方式を採用したその法的根拠について、「本庁舎等土地売却に係る考え方」(甲第55号証、2ページ)の「法的構成」で、最高裁判例(昭和62年3月20日第2小法廷判決)を挙げている。「本庁舎等土地売却に係る考え方」が作成された平成15年5月22日は、すでに述べたように本件土地が売却され、原告が改めて損害賠償を求める住民監査請求を提起し、監査の実施中であった。原告が目黒区監査委員から監査を実施したが合議に至らずとの通知を受けたのが、同年5月26日である。当該文書は、原告の住民訴訟を前にして、契約課が作成したものと考えられる。「法的構成」の下線と文字のゴジックは、文書作成者が指定したものである。下線とゴジックは、重要性を強調するためになされたのは、当然である。

当該最高裁判例について、二つの重大な曲解がある。まず、「法的構成」では、判例の重要個所である「当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、(中略)当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も本法施行令167条の2第1項第2号に掲げる場合に該当するものと解すべきである」に下線が引かれていないのである。ただ「合理的に判断される場合も」だけがゴジックになっているだけである。本件土地売却は、39億1000万円もの価格の有利性を犠牲にしているにもかかわらず、そのことを軽視しているというべきである。

当該最高裁判例で判示している「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」は、本件土地売却は該当しない。その理由は、当該最高裁判例は、長崎県福江市のゴミ処理施設建設請負契約に関するものであり、契約した業者は見積りした4社のうち3番目に低い見積りを提出した業者で、最低価格の見積りとの価格差は、650万円であった。目黒区の場合、見積書を提出し、売却予定価格を超え審査の対象になった14件中、72億円の見積りは上位から7番目であり、最高見積価格との価格差は、39億1000万円もあり、とうてい「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」といえる価格差ではないのである。39億1000万円の価格差は、売却予定価格56億4760万円のじつに69.2%に相当するのである。したがって、当該最高裁判例を本件土地売却に援用することはできない。

「法的構成」の2ページ目下段では、「右のような場合に該当するか否かは」以下に下線が引かれている。その中に、「契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている法令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である」とある。

しかし、本件土地売却は、「価格の有利性を図ることを目的」とした法令の趣旨を勘案していない。かつ契約者である藥師寺区長の合理的な裁量判断といえるものではなく、非合理的で裁量権を逸脱した契約である。本件土地売却は、当該最高裁判例を正しく理解せず、公募提案方式の名のもとに、都合よく恣意的に解釈し、契約を締結したというべきである。

 

2 条件付一般競争入札を狭義に解釈し、公募提案方式による随意契約を採用した

 

原告は、条件付一般競争入札について、豊島区で小学校跡地売却で採用した事例を挙げ、準備書面(6)で証拠に基づいて詳述したので、簡潔に述べる。目黒区も本件土地売却において、豊島区で行なったような条件付一般競争入札を採用しておけば、公募提案方式による随意契約よりも行政目的に沿った、まちづくりが実現できたのである。

被告は、条件付一般競争入札について理解していたとはいえないのである。

  原告の住民監査請求によって目黒区監査委員が監査を実施し、その実施内容を「「目黒区職員措置請求書(住民監査請求)に対する監査について」(甲第3号証)にまとめた。区は甲第3号証5ページ、「回答1の補足回答」で「1 競争入札(一般競争入札・指名競争入札)による落札者決定の原則規定と随意契約について」で、随意契約を採用した理由について、

「収入の原因となる契約にあっては、予定価格の制限のほかにさまざまな制限を付して、競争入札を行うことは法の趣旨に反する可能性があると考える。このようなことを考慮すると、売却に当たって区の目指すまちづくり等のため、留意点など制限を付する場合は競争入札に適さず、随意契約とすることが適切である」と回答した。この回答から、条件付一般競争入札を狭義に解釈して、公募提案方式による随意契約を採用したのがわかる。被告は、同様の主張をこれまでに繰り返し主張してきた。

しかし、豊島区においては、小学校跡地の売却で行政目的、周辺地域の住環境等に合致したさまざまな条件を付して、何ら問題なく条件付一般競争入札を実施し、買受者を決定したのである。

区の回答にあるように、「留意点など制限を付する場合は競争入札に適さず、随意契約とすることが適切である」というならば、応募要領で抽象的な留意点を付するだけではなく、行政目的に合致した跡地利用の用途、建物の高さ、延べ床面積、緑化などに具体的な制限を付して、公募提案方式による随意契約を行なえば、結果は条件付一般競争入札とほぼ一緒になったはずである。

   繰り返すが、本件土地売却の一番の問題点は、公募提案方式による随意契約を採用し、価格の有利性を斟酌せず、最高価格よりも39億1000万円、2番目の価格でも11億円も安く売却し、目黒区に損害を与えたことにある。条件付一般競争入札は、「法の趣旨に反する可能性があると考える」というが、地方自治法が地方公共団体の売買の原則を一般競争入札としている趣旨は、価格の有利性にある。公募提案方式による随意契約を採用し、価格の有利性を軽視して廉価で売却したことこそ、法の趣旨に反しているというべきである。

  

3 墨田区の「公募(提案方式)」と目黒区の公募提案方式の違い

 

墨田区が小学校跡地売却で採用した「公募(提案方式)」(甲第2号証、参考資料B)を区は参考にして、公募提案方式による随意契約を採用したのは、明らかである。本件土地売却議案を審議した平成15年3月7日開催の議会の企画総務委員会議事録(甲第7号証、25ページ〜26ページの下線部分)には、藥師寺区長が、「今回の公募提案方式はこれまでの例から見ましても、他の自治体で実際に行われておりますので、何ら問題はないというふうに考えております」「公募提案案方式によっては、私は例がありますので何ら問題はないと、そういうふうに理解しております」と答弁した記録がある。

 区が公募提案方式による随意契約を採用する前に、公募方式で公有地を売却した例に墨田区の小学校跡地と東京都の秋葉原駅前の青果市場跡地がある。この2件について、原告は住民監査請求の請求人陳述(甲第34号証3ページ)でも述べた。墨田区の場合は、1次審査は価格抜きで審査し、2次審査は競争入札を行ったので、区の公募提案方式とは手法が異なる。また、東京都の場合は、予定価格が約220億円であり、落札価格が405億円であったために、まったく問題はなかったのである。区のように最高価格と39億1000万円も安く契約したのとは、共通点のない事例である。

 区は墨田区の公募(提案方式)を調査していたのは、契約課長・加藤が収賄罪で逮捕され、押収物件の中にあった加藤のファイルに墨田区の公募(提案方式)関係の資料があったことから明白である。原告は、加藤のファイルにあった資料を開示請求し入手した。墨田区の「公募(提案方式)による区有地の売払い要領」(甲第58号証)の第6には、応募者は平成13年9月21日までに書類を提出すること、第8の(第一次審査の決定)では、価格抜きで複数の事業計画を選定すること、第10の(買受者の決定)では、「二次審査で提出された価格を基準に、買受者を決定します」と書かれているのである。また、「墨田区契約課 石井氏からの聞き取り」(甲第56号証)には、1次審査で選ばれたのは4社であり、「二次は、価格のみで競争」と記されているのである。「12月10日以降には本契約を締結するので」とあるのは、甲第58号証の第11に平成13年11月9日までに仮契約を締結する旨が記されていることから、12月10日とは、平成13年12月10日であることがわかる。つまり、区は平成13年末までには、墨田区で採用した公募(提案方式)について、正確に内容を把握していたのである。

 区は、平成14年5月9日開催の政策会議で公募提案方式による随意契約採用を決定し、議会に報告したのは同年年5月14日であった。そして、同年6月5日から応募要領を配布し、提案書の締め切りが、同年8月30日であった。

 「総括質疑想定質問」(甲第57号証)は、本件土地売却議案を審議した平成15年3月の議会定例会用の想定質問であるのは当然である。甲第57号証で最後の想定質問の(2)に「墨田区では公募した一定数を絞り込み、後は競争入札を行なった」とあり、その答として「私共の調査では、第一段階で価格を除いて一定数を選定し、第二段階でかかく(原告注、価格)を重視したと聞いている」と書かれているのである。

 甲第56号証の文書の右肩には、「重要」という大きな文字のスタンプが押されていて、「二次審査は、価格のみで競争」とある。「価格のみで競争」と「価格を重視した」では違うのは、いうまでもないことである。議会での質問を想定して、事実を改竄し小細工をしているのである。そして、藥師寺区長は、本件土地売却議案を審議した議会の委員会で、内容の違いを無視して「他の自治体で実際に行われておりますので、何ら問題はない」などと虚偽の答弁をしたのである。

 

4 公募提案方式による随意契約は価格を犠牲にしていいのか

 

   区は公募提案方式による随意契約を採用した結果、最高見積価格との価格差39億1000万円、2番目の価格との差でも11億円を犠牲にした。本件関係人の助役・佐々木は、監査委員の関係人調査の記録「監査委員協議録」(甲第18号証、8ページ、下線部分10)で、公募提案による随意契約を採用したことについて、「随意契約による売却をするという決定をして判断をしていったときに、既に、ある程度の価格面での犠牲をしながらもまちづくりのために、寄与していくという視点から判断をしたというものでございます」と述べている。助役・佐々木によれば、39億1000万円の価格差もある程度の価格面での犠牲ということである。他の審査委員たちも、価格の有利性を斟酌せず、価格は単に予定価格を超過していればよしとしているのは、原告が「監査委員協議録」(甲第18号証)の証拠に基づいて、準備書面(3)第2で詳細に述べた通りである。

   審査委員会では、財源確保の売却でありながら、財政的見地からの検討を一切せず、かつ価格の有利性を考慮せず、価格を軽視した評価基準で不当に審査したことについて、とくに原告は準備書面(8)(9)で、審査委員会録音テープ反訳の証拠に基づいて主張した。公募提案方式による随意契約を決定したときから、ある程度の価格面を犠牲にするとして審査にあたったのである。その結果、ある程度とはいえない39億1000万円も犠牲にしてしまったというべきである。三菱商事の72億円の提案と最高価格111億1000万円の提案には、跡地利用計画の内容において違いはある。が、その違いが価格差に匹敵するか、あるいはどの程度まで補うものであるかについての審査、議論は審査委員会でしていないのである。売却を最終的に決定した政策会議においても、その議論はせずに決定したのである。

このように不合理極まりない売却をしたのだから、当然、納得のいく説明責任がある。が、被告は、価格評価は定量的、跡地利用計画は定性的であり、同一次元では比較できないとして、比較しようともしないのである。本件土地売却が、区に損害を与えたのは、否定できない事実である。

 

5 39億1000万円の価格差で売却した責任は、誰にあるのか

 

   平成14年5月9日開催の政策会議の会議録(乙第25号証)にある「平成14年度における区有地の売却について(案)」V公募提案方式分 2売却方法等 (2)買受者選定方法では、@第1次・第2次と2回に分けて審査を行う。A第1次審査では、審査委員会で複数の利用計画を選定する(書類審査)B第2次審査では、第1次審査通過者による審査委員会への利用計画のプレゼンテーション等を実施し、区との優先交渉権の順位付けを行い、最上位の者と契約する、となっていた。しかし、同年5月14日に議会の企画総務委員会に報告された「平成14年度における区有地売却方法について(案)」(甲第2号証、事実証明書3)では、V公募提案方式分 2売却方法等(1)契約の方式:公募提案方式(2)買受者決定方法 審査委員会を設置し、提案内容を審査の上、順位付けを行い契約する、に変更されていたのである。

   さらに「公募提案方式による区有地売却の応募要領」(乙第1号証)の(買受者の決定)では「審査委員会において応募者の資力、信用、利用計画及び購入希望金額などを総合的に審査した上で順位付けを行い、その結果を踏まえて買受者を決定します」となったのである。審査委員会が順位付けをして、藥師寺区長に報告したのは、「提案審査結果」(甲第2号証、事実証明書4)にあるように、順位1位:整理番号7(三菱商事)、2位:整理番号13、3位:整理番号14の3提案であった。「提案概要総括表」(甲第2号証、事実証明書1)から、1位の整理番号7(三菱商事)の価格は72億円、2位の整理番号13の価格は83億円、3位の整理番号14の価格は82億2700万円であることがわかる。

   この順位付け結果を踏まえて、平成15年1月14日開催の藥師寺区長が主宰し、区の行財政の最高方針を決定する政策会議で、72億円で三菱商事に売却することを決定したのである。決定した政策会議の構成員は、原告が損害賠償請求の対象にしている藥師寺区長と助役・佐々木ら5人と他に区民生活部長であった。(甲第53号証)

   助役・佐々木は、「監査委員協議録」(甲第18号証、8ページ下線部分10)で審査結果について、「最終的には、区長に対して、報告書を出して執行権者たる区長が判断をしてというものでございますので、それはまた、別途政策会議の中ではその辺(・・・?)こういうものでございます」と述べている。つまり、審査委員会は順位付けして区長に報告するだけであり、売却先決定は執行権者である区長が判断する旨の発言である。

   しかし、補助参加人らは、審査委員会が三菱商事を1位に順位付けしたから契約したという趣旨の主張をしてきた。実際に72億円で三菱商事に売却した事実が存在するのに、これでは責任のなすり合いである。売却した責任は、執行権者であって、かつ契約者である藥師寺区長と助役・佐々木ら5人の共同責任なのである。助役・佐々木ら5人は、公募提案方式による随意契約採用を決めた政策会議の構成員であり、さらに審査委員会の構成員として三菱商事を1位に順位付けした審査に加わり、その上に三菱商事に売却を決定した政策会議の構成員であったのである。

 

 

 

6  被告は、三菱商事の提案は周辺地域の住環境に調和していると主張するが、旧本庁舎は、最高の階数である本館部分が5階建。公会堂の階数は3階建てであった。三菱商事の提案は、旧本庁舎跡地に13階建のマンション、公会堂跡地は12階建のマンションである。ちなみに、予定価格算出で区が想定したマンションは5〜6階建であった。すでに三菱商事が提案したマンションの本体工事が完了し、青シートが取り外されてマンションの全容を見ることができる。果たして、被告の主張するように周辺地域の住環境に調和したマンションであるのか。原告は三菱商事マンションの現況写真を撮影した。(甲第65号証)

甲第65号証のカラー写真を見れば、周辺地域の住環境に調和せず、本庁舎跡地に建てられた三菱商事マンションだけが辺りに抜きんでて、聳え立っているのは一目瞭然である。公会堂跡地に建てられた三菱商事マンションも同じである。甲第65号証のモノクロ写真の赤線は、旧本庁舎の本館部分が5階建であったため、旧本庁舎跡の三菱商事マンションの5階上部に引いたものである。5階建てであれば、確かに周辺地域の住環境に調和している。

解体前の旧本庁舎の写真は、「不動産鑑定評価書 本庁舎」(甲第45号証)に添付されている。解体前の公会堂の写真は、「不動産鑑定評価書 公会堂」(甲第46号証)に添付されており、それらの写真と甲第65号証の写真を見比べれば、三菱商事マンションが周辺の住環境を一変させ、住環境を破壊しているのは明らかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 鈴木勝証人の被告代理人による証人尋問(平成17年9月6日 第14回口頭弁論)への反論

 

証人調書の速記録に基づいて、鈴木勝証人の証言を反論する。

1 (尋問番号11)で、被告代理人が鈴木証人に、本件土地をはじめとする区有地の売却想定額として約120億円、そして積立基金の活用想定額で約60億円ということだが、この積立基金とはどういう意味なのか、言葉の意味を説明していただけないかという旨の尋問をした。

これに対して鈴木証人は、「積立基金と言いますのは、条例に、定めによりまして、特定の目的のために資金を積み立てていくもので、いわば民間で言えば貯金と同じようなものでございます」と証言した。

さらに(尋問番号12)で、被告代理人の「そうするといわば民間で言うと、貯蓄の60億円と財産処分の120億円、合計180億円、これがあれば新庁舎を取得できると、そういうふうに考えていたということでよろしいでしょうか」と尋問し、鈴木証人は「はい、そうです」と証言した。

しかし、この証言は事実を省略し、ねじ曲げた詭弁というべきである。あたかも新庁舎取得の目的で、民間でいうところの貯金、貯蓄を積み立てておいたものを活用したと受け取れる証言である。が、事実はまったく違うのである。

そもそも基金とは、地方自治法第241条の1に「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、特定の目的のために財産を維持し、資金を積み立て、又は定額の資金を運用するために基金をもうけることができる」とある。同法第241条の2で「基金は、これを前項の条例で定める特定の目的に応じ、及び確実かつ効率的に運用しなければならない」と定め、同法第241条の3では「第1項の規定により特定の目的のために財産を取得し、又は資金を積み立てるために基金を設けた場合においては、当該目的のためでなければ処分することができない」と定めている。

当初、区が基金活用を想定したのは、財政課が平成13年2月6日に作成した「基金活用による財源確保想定額」(甲第59号証)の活用区分を一瞥すればわかる通り、庁舎建設積立基金は、わずか4億315万1000円であり、約60億円からは程遠い金額である。活用を想定した他の基金は、庁舎建設、庁舎取得とは、まったく関係のない別の目的で積み立てていた基金であった。

そこで、平成14年3月、区は別の目的で積み立てていた基金の条例を廃止し、庁舎建設及び改修その他の整備に要する資金に充てることのできる「目黒区施設整備基金条例」に1本化する条例改正を行ない、同年4月1日から施行された。(甲第60号証)

廃止された4条例は、@目黒区施設建設基金条例(目黒区基本構想を具体化した計画に基づく施設を建設するための基金である。しかし、新庁舎取得は基本構想になかったため、新庁舎取得に充てることはできない)。A目黒区国・公有地施設跡地取得積立基金条例(大規模な国・公有施設跡地等の取得等のための積立基金基金である。これも新庁舎取得にあてることはできない)。B目黒区庁舎建設積立基金条例(庁舎を建設するための基金であり、この基金だけは新庁舎取得に充てることができる)。C目黒区住宅対策基金条例(住宅対策の推進に資するための基金である。もちろん新庁舎取得に充てることはできない)。

唯一、庁舎建設積立基金条例を除き、他の3基金はそれぞれ別の重要な目的があって積み立てていたものである。それが新庁舎の購入資金のための犠牲になり、廃止されてしまったのは、大いに問題である。

区は上記4条例を廃止して、4積立基金を一本化した施設整備基金64億円を「平成14年度 施設整備基金の取崩について」(甲第61号証)に記載されているように、平成14年4月24日に「新庁舎等施設整備事業に充当するため」に取り崩した。庁舎建設積立基金を除く3積立基金は、本来、新庁舎購入に充当する目的で積み立てられたのではないのである。他の目的で積み立てられていた基金を廃止し、それを含めて取り崩すことで約60億円、そして本件土地をはじめ区有地売却で約120億円を想定した新庁舎購入の財政計画であった。証人の証言のような民間で言う単なる貯金、貯蓄ではないのである。

 

2 被告代理人は、(尋問番号13)〜(尋問番号19)で、鈴木証人に乙第11号証〜乙第13号証を示し尋問し、鈴木証人が証言した。が、いずれの証言も本件地売却が、最高購入希望金額より39億1000万円も廉価で契約されたことを適法化するものではない。ここで証言されたことは、審査の過程では具体的に議論されていない。また、たとえどんな手続きを踏んだにしろ、価格の有利性を適正に考慮しなかったことに変わりはない。

 

3 (尋問番号20)では、被告代理人が、乙第14号証の4は平成13年5月16日の近隣住民説明会を詳しく記録したものだということでよろしいか、という旨の尋問をした。それに対して、鈴木証人は「はい、そうです」と証言した。

乙第14号証の4の最終ページに(最後に区長から)があり、藥師寺克一区長が「売却についてですが、区役所の土地を売る場合はひとつの会社と一対一で契約することはできない。第三者の不動産鑑定士に意見をきいて最低価格を掲示して入札を行ない、一番高い値の人に買う権利があるということになる。ただし、地域の皆様の意見などを含めて、条件をつけていくことも一つの方法だと思う」と述べている。

藥師寺区長は、本件土地売却について、地方公共団体の売買の原則である一般競争入札を採用することを住民説明会で明言した。しかも、地域住民の意見などを含めて条件をつけていくことも一つの方法だと思うといっているのである。このことは、極めて重要である。藥師寺区長のこの考えを地域住民と行政が連携して煮詰め、跡地利用の用途、建物の高さ、延べ床面積、緑化などの条件を付けて売却すれば、原告のいう条件付一般競争入札で売却でき、周辺地域の住環境との調和、住民の要望に叶ったまちづくりの実現、そして売却価格も競争原理が働いて、高い価格で売却できたのである。まさに一石二鳥であった。しかし、藥師寺区長は、住民説明会で一般競争入札に住民の意見を含めて条件をつける考えを発言しておきながら、実行しなかったのである。

 

4 (尋問番号22)では、乙第14号証の5を鈴木証人に示し、被告代理人が第2回近隣住民説明会の趣旨を聞いた。証人は、住民に利用計画を住民に説明し、意見、要望をもらう趣旨であったと証言。

乙第14号証の5の6ページ目には、住民が入札で「180億を集めていくのはいかがなものかと」などと発言した個所には下線が引かれている。しかし、その発言のすぐあとに、同じ住民が下線は引かれていないが、つぎの発言をしているのである。

「住宅地として大変いい所だと思いますし、それだけの税金も土地代も払って住んでいるわけですから、しっかりコンセプト作りをして近隣の皆さんにお示しいただいて、どうでしょうか?と言うのが区役所の企画の考え方なのではないでしょうか」

つまり、住民の発言のうち、区にとって都合のいい個所だけ下線を引いているのである。住民は、ただ高く売るだけでは困るといっていたわけではない。区は、跡地利用のしっかりコンセプトを作り住民に示すことはしなかった。抽象的な留意点をつくり、あとは応募業者まかせであった。無責任そのものである。

 

5 (尋問番号24)では、被告代理人が鈴木証人に乙第15号証1〜6を示し、議会の各委員会の審議で、跡地をできるだけ高く売るべきだという意見と跡地利用を十分に検討して売却すべきだという意見とどちらが多かったのか、という旨の尋問をした。証人は、近隣住民に沿った利用計画にしてほしいという意見が多かった、と証言した。

しかし、区は近隣住民の意向に沿った利用計画を立てることはしなかった。委員会で堀田武士委員(共産党区議団、ただし、本件土地売却議案提出前に、区長選出馬で辞職)、野沢まり子委員(共産党区議団)、坂本史子委員(無所属)が積極的に審議した。が、本件土地売却議案には、共産党区議団、坂本委員は反対した。乙第15号証6の議事録は、72億円で売却することを報告したときのものである。17〜18ページの平野委員の発言は、区民もそう思うだろうが111億円がるのに72億円で売却していいのか、財政逼迫のときに区民も高く売って欲しいと思っていた、他に方法がなかったのかという趣旨である。19ページでは原委員が、審査結果の1位と2位の差は、わずか3点だが、金額差は11億円あるが、果たして区民が納得するかと聞いている。売却価格72億円は、最高購入希望金額111億1000万円との価格差39億1000万円、審査結果の2位との価格差が11億円に疑問を呈した審議をしているのである。

近隣住民の意向に沿った利用計画にして欲しいということと、いくらで売却しても構わないということとは、何ら関係がないのである。したがって、39億1000万円、11億円の価格差を無視して売却したことを適法化できるものではない。

 

6 (尋問番号25〜33)では、被告代理人が甲第2号証、事実証明書3を証人に示し、公募提案方式を採用した件について尋問している。(尋問番号32)で、代理人が公募提案採用を議会の委員会に説明したあと、議会から区の執行部に、公募提案はおかしいじゃないか、一般競争入札にすべきじゃないかという意見が寄せられたかという旨の尋問をした。これに対して、証人は「いえ、聞いてません」と証言した。

売却方法を決定するのは、区の行政執行権で行なうものであって、議決する案件ではないのだから、一般競争入札にすべきであるという意見が寄せられなくても当然である。議会は、公募提案方式を採用しても、まさか39億1000万円、11億円の価格差のある売却をするなどとは、まったく想像していなかったはずであるから、とくに意見が寄せられなかったのであろう。

たとえ、公募提案方式による随意契約を採用し売却しても、価格の有利性を適正に評価して売却すれば、まったく問題はなかったのである。

 

 

7 (尋問番号35)では、被告代理人が証人に乙第1号証を示し、応募要領は議会の了承を得た考え方に従って作られたということでよいか、という旨の尋問をした。これに対した証人は「はい、そうです」と証言した。

公募提案方式も応募要領作成も行政の執行権で行なうものであり、議会が賛否を表明し、議決する案件ではない。議会には、区が単に報告するだけであり、議会は報告を聞くだけである。この件に関しては、原告が証人に反対尋問をしたので、そこで詳述する。

 

8 (尋問番号41)では、被告代理人が乙第28号証の28ページを証人に示し、価格なしの計画内容で順位を付け、一定の順位以上に価格を含めて順位を付ける方法だと、価格がどんなに高くても、計画内容審査で下位になり、最終選考に残らないが、不合理だということにならないかという旨の尋問をした。それに対して、証人は「公募提案方式を採用した理由でありますとか、財政計画等を踏まえますと、不合理だというふうには思いませんでした」と証言した。

この証言から証人は、公募提案方式では価格の有利性を犠牲にしても構わないと考えているのがわかる。公募提案方式は随意契約であり、随意契約であっても、地方公共団体の売買の原則である一般競争入札における価格の有利性の主旨が、生かされなければならないのは、いうまでもないことである。

そもそも本件土地売却は、新庁舎購入の財源捻出のためである。それなのに、予定価格を超過していればよしとして、価格の有利性を考慮しなくても不合理ではないとは、区の幹部職員としてあるまじき発言である。こうした誤った考えを持った証人が、審査委員会の構成員であったのだから、価格を軽視した審査結果になったのであるといえる。

審査委員会の録音テープの反訳にも、公募提案方式の原則についての説明はなく、公募提案方式についてのコンセンサスがなかったのである。(尋問番号40)の尋問、証言を見れば審査委員の間で、考え方の違いがあったのは明白である。

また、証人は財政計画等を踏まえると、不合理ではないと証言しているのも問題である。財政計画は、(尋問番号11、12)の個所で原告が指摘したように、他の目的で積み立てていた基金を条例改正までして取り崩さなければならないほど、財源不足であったのである。そのことを無視して、価格を軽視しているのである。

 

9 (尋問番号42)では、評価基準で価格について、1億円が0.1点はおかしいと原告が盛んにいうが合理的だと考えた根拠は何か、という旨を被告代理人が証人に尋問した。証人は、予定価格と最高価格の差が約50億円であることを踏まえ、価格評価を5点とし、1億円を0.1点とした旨の証言をした。

しかし、予定価格56億4760万円と最高見積価格111億1000万円の差が約50億円であり、評価項目の小項目の満点が5点であることと、1億円を0.1点の価格評価基準にしたことは、合理的な関連性はまったくないのである。財源確保の売却であるのに、50億円を小項目の満点の5点と同等に評価するのは、価格軽視そのものである。証言は、合理的な根拠を述べていない。

 

10 (尋問番号49〜53)では、証人は提案評価書の総合的評価について証言した。総合的評価の満点は、10点である。価格評価は、予定価格を超える1億円につき0.1点であるから、10点は予定価格を超える50億円に相当する。

重要なのは(尋問番号53)での証言である。被告代理人が「それから「又は」の後に、「又は特に評価すべき項目」と。その「又は特に評価すべき項目」というのは、これはさっきは上記以外の項目ですから、こちらのほうは上記の項目の中で5点満点、あるいは価格は5点、4点か6点になるわけですが、そういう評価で特にこれは大事だというふうに思えば、その点について更に加点した評価をつけることができると、そういうふうなっていると理解してよろしいでしょうか」と尋問し、証人は「はい、そうです」と証言した。

総合的評価の記入方法についての証言だが、そもそも記入方法を指示した(上記以外の項目、又は特に評価すべき項目について総合的観点から評価)の記述が曖昧なのである。記述通りに読めば、当然、上記の項目である信用度評価、利用計画評価の各小項目、価格評価は含まれない。そして、その後に「又は特に評価すべき項目について総合的観点から評価」とある。「総合的観点から評価」とは何であるかについて、審査委員会で明確な合意に至っていなかったのである。しかし、被告代理人の尋問は、価格評価も含まれるという尋問の仕方である。証人はそれに対して「はい、そうです」と証言した。

ところが、価格評価については、事務局が予定価格超の1億円=0.1点の基準で機械的に記入することになっているのだから、含まれないと解するべきである。総合的評価については、第2回審査委員会録音テープの反訳(乙第29号証の2、下線部分5、29ページ2行目)で、事務局が、

「下の欄に総合的評価っていうのがあるんですが、上の項目にないもの。あるいは各項目のうちでも、これは全然配点率を考えておりませんので、特にこの点の所は重要ではないかということで委員皆様方が使った場合にはそれぞれ具体的に示していただければということで****、最終的に****合計で****というような。この細目、あるいは****についてこれでよろしいかということについて、あまり時間がありませんけれども、お諮りいただいて、この場で決めていただいで結構です。お決めいただいて、意見があれば、次回位までには決定をしたいというふうに」と説明した。

この発言に対して委員長が、

「次回に決定するということはですね、これを今日いただいていって帰って、この資料を見ながら、それぞれ時間をかけてご判断いただくという、そういうことをするということですね」と発言し、

事務局が「次回の冒頭にちょっと説明をしたいのですが」と発言し、ここでは総合的評価に上記の項目にある価格評価を含めることは、決定していないのである。

事務局は、次回(第3回審査委員会)の冒頭で総合的評価について説明すると発言したが、第3回審査委員会で説明はなく、また第4回審査委員会でも説明はなかった。第5回審査委員会(乙第29号証の5、9ページ8行目以下)において、事務局は価格評価について、10億=1点から1億=0.1点に変更した理由を説明したあとで、

「それから、評価書の中には下に、総合的評価ということで、各々の審査委員の方々がそれだけでは評価できないということがあれば、ここに書いていただくので、それが最大10ポイントまで点数加算されるようになっている。ですから、価格だけで評価できないとか、いろんな状況があるとすれば、ここを使っていただいてよろしいんじゃないかと」と説明しているのである。

ここでも、事務局は総合的評価が価格評価を含むとは明言していない。事務局の説明のあと、各審査委員が評価書、総合的評価について12ページの上段まで議論しているが、混乱して結論はでていないのである。各審査委員の議論の間に、事務局は評価書に関して、「信用度評価と購入希望金額、価格評価についてはこちらほうで計算をさせていただく」「価格評価はなしです」「価格と信用度評価だけははずしていただいて」と再三説明した。

では、実際に12人の審査委員たちは、「土地利用計画提案評価書」(甲第62号証)の総合的評価でどういう評価をしたのかを見ておく。12人の審査委員の中で、総合的評価に記入したのは、谷口委員長、大塩委員、小笠原委員、川島委員、粟田委員、大熊委員、鈴木委員、天野委員の8人だけである。

総合的評価に記入した8人は、1人として価格評価を総合的評価で記入していないが、価格評価は事務局が機械的に記入する、と審査委員会で説明したのだから、当然である。このことからも価格は含まれないと各審査委員が理解していたのがわかる。

原告の住民監査請求で、目黒区監査委員が監査を実施し、その結果を「「目黒区職員措置請求書」(住民監査請求)に対する監査について」(甲第3号証)にまとめた。甲第3号証11ページの再照会項目9で、監査委員は総合的評価について、

「購入希望金額にさらに重きを置きたい場合は、ここで加点するということなのか。もし、ここで加点するということであるならば、各審査委員の具体的審査結果を見る限り、「総合的評価」の項目で価格面から加点している委員はいないが、このことについて、各審査委員は共通の認識を持っていたのか」とある。これに対して、監査対象部である区の総務部は、再回答9でつぎの回答をした。

「評価書のひとつの項目である総合的評価は、同項目欄記載のとおり評価書記載項目以外の項目、又は特に評価すべき項目について総合的観点から評価すべきものがあれば、加点が可能となっているもので、特に具体的項目についての共通認識はない」

区は、監査委員の再照会に対して、総合的評価で価格評価を加点できると明確に回答していないのである。そして、「特に具体的項目についての共通認識はない」と回答していることからも、総合的評価に価格評価を含むとはいえないのは明らかである。

仮に鈴木証人の証言のように、総合的評価で価格評価に最大10点までの加点できるとすれば、価格評価基準が予定価格超の1億円=0.1点が価格軽視である上に、審査委員が1人も総合的評価で、111億1000万円、83億円の購入希望金額について総合的評価で評価しなかったことは、さらに価格の有利性を無視したことになる。

総合的評価には、ほかにも重大な問題点がある。そのことを列挙する。

(1)総合的評価の満点は10点であり、価格評価に換算すると、予定価格を超えた100億円に相当する。利用計画評価5小項目の満点の合計が、5×5=25点である。総合的評価の比重が大きすぎる。大熊委員は、整理番号3の提案について、地域との融合化を評価して総合的評価で8点をつけた。価格評価に換算すると、なんと予定価格超の80億円に相当する。また、大熊委員は、整理番号7及び8(三菱商事)の両提案について、総合的評価で計画性の密度を評価して7点、つまり予定価格超の70億円に相当する点をつけているのである。(甲第62号証)これでは、公募提案方式の要であるはずの利用計画評価の5小項目が、何のために設けられたのかわからない。

(2)鈴木証人は、総合的評価でどう記入したのかを見ておく。鈴木証人は、総合的評価で記入したのは、整理番号7(三菱商事)、整理番号9、整理番号12(111億1000万円の提案)、整理番号13の5件の提案である。いずれも「コミュニティ施設の無償譲渡」を評価して、各提案に5点ずつ加点しているのである。(甲第62号証) 5点の加点は、価格評価に換算すれば予定価格超の50億円に相当する。上記5件の提案で、無償譲渡のコミュニティ施設のスペースがことなるのに、それを無視して均一に5点を加点しているのは、不合理である。助役・佐々木は、監査委員の事情聴取で整理番号7(三菱商事)のコミュニティ施設について、8億円に相当するといっているのである。(甲第18号証7ページ) 整理番号7(三菱商事)のコミュニティ施設は、ヒアリングで1300uに拡大されたが、50億円に相当する施設とは、とうてい評価できるものではないのである。

(3)12人の審査委員中、総合的評価に記入しているのは8人だけであることは、先述した通りである。利用計画評価の満点が25点であり、総合的評価の満点が10点という過大な比重であるのに、総合的評価に記入する委員、記入しない委員がいたのでは、公平な審査といえるものではない。

(4)被告及び証人は、価格評価をせずに14提案を7提案にしぼり、7提案に予定価格超1億円=0.1点の基準で価格評価をしたのは、合理的であるという。財源捻出の売却であるのに、価格評価が1億円=0.1点では不当に価格評価が低すぎる上に、総合的評価で価格評価以外に持ち点10点で評価したのだから、さらに価格評価が軽視されることになったのである。

以上、列挙したように、もともと提案評価書の小項目設定が適切ではないのに、さらに総合的評価が公正・公平な審査を歪めたというべきである。

 

11 (尋問番号54〜57)では、被告補助参加人ら代理人が証人に、前区長が審査に関して、何か関与したことがあるか等を尋問した。審査員会は、売却時の藥師寺区長の内部検討組織であったのだから、審査経過はその都度、藥師寺区長に報告されていたはずである。(尋問番号57)で、補助参加人ら代理人が証人に「と、個別の説明はしていないということでよろしいでしょうか」と尋問すると、証人は「はい」と証言した。

しかし、証人は個別の説明をしたかどうかを知り得る立場にいなかったはずである。第6回審査委員会の録音テープの反訳(乙第29号証の7)の最後で委員長・谷口が「一応本日決まりましたことを確認さしていただいたので、区長に16日にご報告申し上げたいと思います」と述べているように、委員長が区長に報告したはずである。

たとえ、そのときに個別の説明をしなかったにしろ、72億円で三菱商事に売却することを正式に決定したのは、平成15年1月14日開催の政策会議であった。(甲第53号証) 政策会議は、区長が主宰する区の最高行財政方針を決定する規則で定められた組織である。政策会議の会議録(甲第53号証)によれば、当該政策会議には「提案概要総括票」と「提案審査結果」が提出され、総務部長が説明した上で、「目黒区本庁舎跡地等の売却(案)について」を(案)通りに決定した。したがって、藥師寺区長は、当該政策会議で順位付けのあと報告された提案について、個別の説明を受け、72億円で三菱商事に売却することを決定したのである。

審査結果を委員長が藥師寺区長に報告したとき、個別の説明をしたかどうかは、さして重要なことではないのである。

 

 

第4 原告による鈴木証人への反対尋問について

 

1 (尋問番号58〜60)で、原告は鈴木証人に、公募提案方式による随意契約を議会が了承したことに基づいて、応募要領を作成したという趣旨の証言をしたので、公募堤案方式採用と議会との関係について反対尋問をした。この件に関しては、本準備書面の「鈴木証人の証言への反論」7で若干述べたが、ここで詳しく述べる。

(尋問番号58)で、原告は証人に、売却方法は区が執行権で決めるものであって、公募提案方式を議会が了承したと証人は証言したが、公募提案方式採用は議決案件ではないので、議会の委員会に報告したことを議会が了承したといっているのではないか、という旨の反対尋問した。これに対して証人は「確かに執行権としては区が決定をするんですが、区が決定したものを議会に報告した上で、議決ではありませんが、議会の了承のもとで執行していく、そういう流れの中で行なったというふうに理解しています」と証言した。

ここで証人も認めているように、区は公募提案方式で売却することをすでに決定し、単に議会の委員会に報告しただけなのである。それを公募提案方式採用には、議会の了承が必要条件であるかのごとく証言するのは、議会に責任転嫁というべきである。報告するでけであって、賛否は問わないのだから、了承したとはいえないのである。

 

2 (尋問番号60)で、原告は公募提案方式で審査を行ない72位億円で三菱商事に売却する本件土地売却が議案として提出されたとき、与党会派は賛成したが、野党の会派及び無所属議員が反対したことを記憶しているか、という旨の反対尋問した。証人は、これを認める証言をした。

区は、庁舎移転の財源確保のための本件土地売却で、公募提案方式を採用したが、まさか最高価格と39億1000万円もの価格差で売却するとは、考えてもいなかったので野党が反対したのは当然のことであった。与党会派は、本件土地売却議案に限らず、区側が提出するすべての議案に賛成するのである。本件土地売却議案を採決する前に、議会運営委員会で与党議員が、賛成した場合、将来何かあったときには、責任が問われるのかという趣旨の質問を監査事務局長にしたのである。原告は、そのときすでに本件土地売却の契約差し止め及び条件付一般競争入札での売却を求める住民監査請求を提起していたのである。

そこで、住民訴訟になった場合に、賛成した議員の賠償責任が問われるのかどうかという意味での質問であった。監査事務局長は、判例によれば賛成しても、議員は損害賠償の責任は問われないという趣旨の答弁をした。区は平成14年の年末、つまり仕事納めの12月28日に議会に対して審査結果を報告するとしながら、同日の議員全員協議会の席上、総務部長が審査結果について何も報告することはない、と発言し席を立ったということがあったのである。15年1月15日に議会への報告が遅れたのは、最高価格と39億1000万円の価格差、審査結果2位との価格差が11億円もあるため、与党会派の幹事長会で、足並みが揃わなかったといわれた。

 

3 (尋問番号65)の2行目にある「廃棄請求」は、「開示請求」の誤記である。原告が、証人のメモを開示請求したが、すでに廃棄しているという回答であった。

 

4 (尋問番号66〜75)で、原告は証人に甲第50号証、甲第51号証を示し、応募提案の閲覧会場で、応募した業者の関係者が集団で住民を装って押しかけて、住民が記入するための記入票に、三菱商事の提案を評価する書き込みをしたことに関して、反対尋問をした。

(尋問番号70)の原告の尋問に対して、証人は第3回審査委員会で審査委員会事務局から、業者が住民を装って集団で同じような意見を書き込んだ事実の報告があったことを認めた。しかし、証人はそうした事実を知りながら、陳述書(乙第28号証)では無視して、住民の生の声が聞けたことは本当に意義があったなどと述べたのである。また、証人は(尋問番号70)の反対尋問に対して「そういったものは一部入っているかと思いましたが、それは区民だけじゃなくて、いろんな声がここに意見、要望がきておりますので、その1つというふうに考えました」と証言した。

この「区民だけじゃなくて」の証言は、おかしい。証人が陳述書16ページで述べているように、提案を近隣住民に閲覧させて意見、要望を記入させたのである。記入できるのが、区民だけではないのなら、わざわざ審査委員会事務局が審査委員会で報告するまでもないのである。

 

5 (尋問番号71)で、原告が第3回審査委員会で、甲第50号証の17番から23番の意見が三菱商事の提案を評価していることが問題になったことを説明しても、証人は「それが業者のものかはよくわかりません」と証言。証人が第3回委員会で、事務局の報告、助役・佐々木と委員長・谷口の発言を聞き、配布された近隣住民の意見、要望をまとめた要旨(甲第50号証)と見比べれば、住民を装って集団で押しかけたのが、三菱商事であることはわかるのである。それなのに、業者であるかどうかわからないと言い張るのである。

(尋問番号70)では証人は「区民だけじゃなくて」と証言したが、(尋問番号71)では前言を翻して「私は、ただ区民の近隣住民のいろんな意見」が聞けてよかったと証言したのである。(尋問番号72)でも、証人はまだ「三菱商事が書いたかどうかは、私は分かりませんでしたし、住民が見て7番がいいと思って書いたのかもわからない」と証言した。(尋問番号73)で、証人は、審査委員会が最後まで業者がどこであったか特定しなかったことを認めた。(尋問番号74)で、審査委員会で委員長が「そういう状況としておくみおきをいただければありがたい」と発言したのに、委員会は最後まで問題にしなかったことについて原告が、尋問をすると、証人は「はい、問題になりませんでした。それは先ほどいいましたように、だれが書いたかは分からないということでございます」と証言した。

住民を装って集団で同じ意見を記入した業者を特定するつもりならば、この件を報告した事務局の契約課長・加藤と契約課の職員が、審査委員会のその場にいたのだから、簡単にできたのである。審査委員長・谷口も助役・佐々木も、そして審査委員であった証人も、住民を装った業者を特定する意思さえなかった。特定すると何か不都合でもあったのか。このような不正は、審査の公正・公平を故意に歪める行為であり、失格に相当する悪質なものである。甲第50号証、甲第51号証と審査委員会での事務局の報告、助役、委員長の発言を総合して判断すると、住民を装った業者は三菱商事以外にはあり得ないのである。それを特定せず、問題にもしなかった審査委員会の審査方法は、これ一つをもってしても公正・公平に行なわれたとはいえない。

 

6 (尋問番号75〜78)で、原告は証人に、売却予定価格に関して反対尋問をした。(尋問番号76)で、原告は証人に、予定価格を決定するにあたり、想定したマンションがどういうものであったか、審査委員会で報告はなかったのではないかという旨の尋問をした。証人は「専門分野の方々が結論を出したものについて、審査会でも特に議論はしてございません」と証言。そこで原告は(尋問番号77)で証人に、想定したマンションは5,6階建のファミリータイプのマンションだったのは、知らなかったのかと聞いた。証人は「はい、その当時は知りません」と証言した。また、証人は(尋問番号78)の証言でも「専門家の鑑定士が鑑定をした、そういう鑑定結果を尊重していく、そういう立場は変りませんでした」と証言した。が、一般競争入札で価格のみを競争するのであれば、鑑定結果の価格のみを尊重すればいい。しかし、公募提案方式を採用し、応募された提案が周辺地域の住環境に調和しているか否かを審査するのに、想定したマンションを知らないで、まともな審査ができるわけがない。予定価格と想定したマンションは、不可分の関係にある。価格のみを尊重したのでは、尊重したことにはならないのである。不動産鑑定で、5,6階建のファミリータイプマンションを想定したのは、その建築物が周辺地域に一番の有効使用だと判断したことにほかならない。旧本庁舎は5階建であり、公会堂は約3階建に相当する高さであったのである。それゆえに、5,6階建のマンションを想定したのである。

原告は、売却予定価格を算出するにあたり、不動産鑑定評価で5,6階建のファミリータイプマンションを想定したことについては、準備書面(4)第2、3の3、イ〜ホで詳述した。鑑定評価では法令に基づいて、最有効使用として近隣の住環境等を考慮して、建築物を想定するのである。審査委員会事務局は、予定価格算出で想定したのが5,6階建のファミリータイプマンションであることは知っていた。審査委員会事務局の責任者は、契約課長・加藤であり、予定価格を目黒区財産価格審議会に諮問し、答申を受けて決定する事務を担当したのは、契約課であった。ところが、審査委員会の録音テープの反訳のどこにも、審査委員会で想定したマンションを報告した記録はないのである。

審査委員会に予定価格のみを報告し、その基礎になった想定したマンションを報告しなかったには、事務局の重大な手落ちである。たとえ報告がなくても、審査委委員長ら3人の建築、都市計画の専門家が審査委員会にいながら、想定したマンションについて、審査委員会で何の議論もしていない。証人をはじめ行政側審査委員9人も想定したマンションに関して、何の議論もせずに三菱商事の提案である12階、13階のマンションを1位に順位付けして、周辺環境に調和した提案であるとしているのである。審査過程に極めて重大な瑕疵があったというべきである。

 

7 (尋問番号79)で、原告は証人に、審査委員会では価格については予定価格を超過していればいいとしたが、予定価格決定で想定した延べ床面積よりも実際に提案された延べ床面積は、いずれもずっと多かったことを反対尋問した。

なお、原告の尋問の中で「ですから、予定価格がずっと高くなったというふうに」とあるのは誤りであり、正しくは「ですから、予定価格よりずっと高くなったというふうに」であるため、ここで訂正する。

原告が証人に「延べ床面積が広がれば、購入希望金額が上がるのは当然ですよね」と尋問すると、「一般的にそういう考えがあると思います」と認めた。          審査委員会では、予定価格決定で想定した延べ床面積と各提案の延べ床面積を一覧表にして配布し、説明した。

しかし、審査委員会では、想定した延べ床面積と提案された延べ床面積に差があったが、そのことを議論せず、単に予定価格を超過していればいいとして審査したのである。つまり、延べ床面積が広くなれば、購入希望金額が高くなることをまったく考慮せず、審査が行なわれたのである。

 

8 (尋問番号80〜84)で、原告は証人に、各提案のコミュニティ施設(公共施設)について、反対尋問をした。原告は、各提案のコミュニティ施設に関して準備書面(9)18ページ、第1の6、第5回審査委員会、ヒアリング部分で証拠に基づいて詳述した。

(尋問番号80)では、原告は三菱商事がヒアリングでコミュニティ施設のスペースを拡張したこと、そして証人の陳述書にコミュニティ施設については、ヒアリングで提案番号13だけ2倍に拡張できるかと質問し、他の提案においては具体的な質疑はなかったとあることを反対尋問した。証人は、三菱商事のスペース拡張は、再質問でその話が出てきた旨の証言をしたあと、「1000平米超えているものには、あえてする必要はないし、無償譲渡でないものについては、あえてしないというようなことではないかと思います」と証言した。

1000平米を超えているものについては、拡張を求めなかった理由を述べていない。三菱商事が1300平米に拡張したが、他社がそれを超えるとまずいから拡張を求めなかったというべきであろう。

証人は、(尋問番号81)でコミュニティ施設を無償譲渡するのは三菱商事だけではなかったことについて、「規模等が違いますので、ほかのものもありましたけど、そういうことはありました。規模は違いました」と規模の違いを強調して証言した。しかし、原告が本準備書面の「鈴木証言への反論」10の(2)で述べたように、証人は整理番号7(三菱商事)、整理番号9、整理番号12、整理番号13について総合的評価で均一に5点ずつを加点しているのである。つまり、証人は規模の違うコミュニティ施設であるのに、同じ加点をしたのである。証人の総合的評価に合理性はないのである。

また、証人は(尋問番号82)では、三菱商事よりコミュニティ施設が大きい提案について、「はい、確かに1社あったかと思うんですが、それはコミュニティ施設だけじゃなくて、全体の中で判断をしたという形でございます」と証言した。1社とは、整理番号9、整理番号10で同じ社の提案であった。証人は、「コミュニティ施設だけじゃなくて」というが、「鈴木証言への反論」10の(2)で述べたように、証人は「コミュニティ施設の無償譲渡」を評価して5点を加点しているのだから、コミュニティ施設であるとして審査を行なったのである。証人の証言とは食い違う。

証人は(尋問番号84)で、三菱商事がヒアリングでコミュニティ施設を拡大したのは、助役の誘導尋問によるのではないかという旨の原告の尋問に対して、「はい、私は再質問で拡大の話が出ていましたので、誘導しているとは考えておりませんし、印象もそうは感じておりません」と証言した。

原告が反対尋問で引用した甲第40号証の6(修正版、乙第29号証の6)にある整理番号7(三菱商事)のヒアリング内容を見れば、コミュニティ施設の拡大を求めて誘導尋問をしたのは明白である。助役は、三菱商事の提案よりコミュニティ施設のスペースが大きい整理番号9及び10については、ヒアリングで拡大を求めていないのである。

証人は、原告の住民監査請求で実施された関係人調査の「監査委員協議録」(甲第18号証の21ページの11行目)で、コミュニティ施設について極めて重要な証言をしている。

「鈴木 あのー、提案のもとでは、あのー、出来るだけ広いものとして、譲渡を受けられれば、区としてのメリットもありますし、近隣の住民のメリットもあるし、まあそれは、究極的には価格にも反映、逆に反映していくわけですから、そういった意味で出来るだけ広い所が確保できればという気持ちはあった。ええ。」と述べている。

しかし、ヒアリングで三菱商事の提案である605uあるいは650uより広かった整理番号9、10の1020u、850uには、審査委員の誰もスペース拡大を求める発言をしていない。どちらも無償譲渡で条件は同じである。三菱商事は、審査委員の助役・佐々木の求めに応じて、1300uに拡大したのである。証人は、監査委員の関係人調査でコミュニティ施設について、価格にも反映するのだから「出来るだけ広い所が確保できればという気持ちはあった」と述べているが、ヒアリングで三菱商事より広い提案には拡大することを求めていないのである。三菱商事のコミュニティ施設が、提案の中で最大の広さになるように意図的にヒアリングが行なわれたというべきである。

 

9 (尋問番号85)〜(尋問番号89)で原告は、価格評価で予定価格を超過する1億円につき0.1点の基準にした合理性に関して反対尋問をした。(尋問番号85)で証人は、審査委員会で1億円につき0.1点にした根拠を説明しなかった旨の証言をし。(尋問番号86)で、審査委員会で1億円イコール0.1点の合理性について議論しなったとの原告の尋問に対して、「細かい議論はしていないと重います」と証言した。が、審査委員会の録音テープの反訳(甲第40号証の1〜7、修正版乙第29号証の1〜7)のどこにも、1億円につき0.1点の根拠、合理性について議論した記録はないのである。

 

10 (尋問番号90〜95)では、三菱商事が近隣住民から階数を減らしてくれとの要望があった場合に減らす用意のあることについえ反対尋問をした。(尋問番号90)で、原告は証人に、三菱商事のその考えを説明したかを尋問した。証人は、住民に説明しなかった旨の証言をした。したがって、住民は三菱商事が、住民の階数を減らしてくれを要望があった場合には、階数を減らす用意があったことを知らなかったのである。近隣住民の中には、階数を減らしてもらいたいが、どうしたらいいのかわからない、訴訟を起すのは経済的にできないなど、12階、13階の高さにいまでも不満を持っている者はいるのである。三菱商事が階数を減らす用意があったことを、マンション建設前に説明しておけば、階数を減らして欲しいと要望したのは当然であった。

(尋問番号91)で、原告が三菱商事は階数を減らさなかったのだから、72億円でも最高価格と39億1000万円も安いが、それよりも更に安く売却したことにならないか、尋問した。これに対して証人は「私はそうは考えておりません」と証言した。しかし、三菱商事は階数を減らすことはなかったのであるから、マンションの売却戸数に変わりはなく、区が安く売却したのは事実である。

(尋問番号93、94、95、96)で証人は、建築紛争があった場合には、三菱商事が階数を減らすとしている弾力性について証言している。住民が建築紛争を起したら、階数を減らすということは、いうまでもなく見積価格を抑えていることにほかならない。弾力性があるというならば、住民が建築紛争を起すのを待つまでもなく、階数を減らすことは、より住環境との調和になるのだから、審査委員会のヒアリングで階数を減らすことを求めるべきであった。階数を減らして契約することも可能であった。ヒアリングでコミュニティ施設の拡大を求めたのだから、階数を減らすことを求めることもできたのである。あるいは、見積価格を安くしているのだから、見積価格を高くすることを求めることもできた。ただ、建築紛争があった場合に、三菱商事が階数を減らすであろうと傍観しているだけでは、本件土地売却を公募提案方式による随意契約にした意味は、まったくないのである。

 

11 (尋問番号98〜100)では、証人の陳述書にある価格についての評価は定量的であり、土地利用計画についての評価は定性的で、両者を同一次元で比較することは事実上不可能であるということに関して反対尋問をした。原告が証人に、このことはいつ考えたのかと尋問すると、審査中に考えていた旨の証言をした。(尋問番号99)で、原告が審査委員会で価格は定量的、利用計画は定性的であり、同一次元では比較できないとの議論はしていないし、それをうかがわせる議論もしていないことを尋問すると、証人は定量的、定性的の言葉は使ってないが、価格評価と提案内容を分けて考えたのは、すでにその考えを持っていたという旨の証言をした。

(尋問番号100)で、証人は「文言としては当時は出てきていません。内容としてはそういった理解です」と証言した。

価格評価が定量的、利用計画評価が定性的で同一次元では比較できないという被告の主張が、最初にでてきたのは被告の準備書面(3)平成16年3月26日付、第3「本件における売却価格と土地利用計画との関係」においてであった。原告は、これに対して準備書面(4)平成16年7月7日付、18ページ、第1の3「第3 本件における売却価格と土地利用計画との関係」を否認する、で反論した。

監査委員の監査の実施で行われた関係人調査の記録(平成15年5月7日、5月13日に実施)「監査委員協議録」(甲第18号証)を精査しても、本件関係人らや証人を含む審査委員の誰ひとりとして、価格は定量的、利用計画は定性的で同一次元では比較できないと述べていないのである。したがって、証人は、被告の準備書面(3)での主張を参考にして、価格は定量的、利用計画は定性的であると陳述書(乙第28号証)で述べているとみるのが、合理点な判断であろう。

もし、価格は定量的、利用計画は定性的であり同一次元で比較できないのであれば、価格評価を予定価格超の1億円につき0.1点として、利用計画評価の小項目、総合的評価と一緒にまとめ、各審査委員が提案内容の順位付けをしたのは、矛盾している。定量的である価格評価と定性的である利用計画の評価をまったく分離して評価し、最終的に価格の有利性を考慮した審査をすべきであったのである。また、審査委員であった助役・佐々木は、「監査委員協議録」(甲第18号証、7ページ)で三菱商事の1300平米のコミュニティ施設について「おそらく8億円を超す価格になるのかな」と述べている。が、これはまさしく定性的である利用計画を定量的である価格評価に換算し、同一次元で比較していることである。価格は定量的、利用計画は定性的であり同一次元で比較できないという主張は、価格と利用計画を比較考量して審査しなかったことの言い訳に過ぎないのである。

 

12 (尋問番号101〜102)で、原告は証人に、地方公共団体の売買の原則である一般競争入札に用途、建物の高さ、延べ床面積、緑化などに細かく条件を付けて行なう条件付一般競争入札について尋問した。豊島区では小学校跡地売却で、この条件付一般競争入札を採用した。

(尋問番号101)で、原告が証人に条件付一般競争入札を知っていたか否かを尋問したら、「知っておりました」と証言した。そして、(尋問番号102)で、原告は本件土地売却で条件付一般競争入札が可能であることを知っていたか、と尋問した。証人は、「知っておりました」と証言した。しかし、証人自身は、原告のいう条件付一般競争入札、すなわち用途、建物の高さ、延べ床面積等に具体的な条件を付ける一般競争入札を知っており、採用可能であることも知っていたとしても、区が公募提案方式による随意契約を採用するにあたり、条件付一般競争入札と公募提案方式を比較検討した記録は存在しないのである。本件売却議案を議会で審議するにあたり区が作成した「本庁舎等土地売却に係る想定質問事項」(甲第54号証)、また原告の住民訴訟提起前に区が作成した「本庁舎等土地売却に係る考え方」(甲第55号証)においても、価格要素のみを競争する一般競争入札と公募提案方式を比較しているだけである。条件付一般競争入札と公募提案方式の比較検討はしていないのである。

区の契約課が、平成13年5月23日に作成した「区有地の売却方法」(甲第63号証)では、1 一般競争入札による売払い、2 指名競争入札による売払い、3 随意契約による売払い、の3項目があり、それぞれの特徴が記されているが、条件付一般競争入札はないのである。区が、条件付一般競争入札と公募提案方式による随意契約を比較検討した結果、公募提案方式による随意契約を採用した記録は見当たらないし、議会での区側の答弁でもなかったのである。

証人は、条件付一般競争入札を採用しなかった理由について、「つまり条件付一般競争入札であれば、入札時に条件を設定しなけりゃならない、そしてその条件というのは、幾つかにある程度の限定がされてしまう」と証言した。けれど、これでは条件付一般競争入札を採用しなかった正当な理由にならない。入札時に良好な街づくり、周辺地域の住環境との調和に必須のいくつかの条件をつければいいのである。区が公募提案方式で行なった抽象的な留意事項を設けるより、街づくりの行政目的の実現にずっと実効性がある。入札時に区が条件を設定できず、肝心な街づくりを応募業者の提案まかせにするのでは、区は業医者に俗に言う“丸投げ”をしたというべきである。

証人は、さらに条件付一般競争入札を採用しなかった理由について、「そして住民意向を踏まえて内容を反映させるには、条件付一般競争入札には難しいというふうに考えておりました。住民要求というのは日々変るものでございまして」などと証言した。住民要求といえば、審査委員会は応募した業者の関係者が、住民を装って集団で押しかけて同じような意見を記入した不正行為があったにもかかわらず、そのことを問題にせず審査を行なったのは、先に原告が述べた通りである。条件付一般競争入札ならば、そうした不正が入り込む余地はない。証人は、住民要求は日々変るものだというが、跡地利用計画は業者が応募時に提出したものであり、後で変更されたのは、ヒアリングのときに三菱商事がコミュニティ施設の広さを拡大したことだけであった。審査委員会は、日々変る住民要求を反映させるシステムにはなっていなかったのである。

 

13 (尋問番号103)の原告の尋問について、若干の補足をしておく。3行目に「条件付一般競争入札というのは、参加資格に土木工事等でAランク・・」とあるが、ここでの「条件付一般競争入札」は、正しくは「目黒区が現在行なっている条件付一般競争入札」である。

原告の尋問で、想定問答集にも条件付一般競争入札は、でていないことについては、前12項で述べた通りである。

 

以上、被告側証人である鈴木勝証人に、原告が行なった反対尋問に対する証言を細部にわたり検討してきたが、事実を歪曲し、あるいは事実に基づかない証言が多々含まれているというべきであう。

 

以上