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平成15年(行ウ)373号 損害賠償(住民訴訟)請求事件

原 告  須藤甚一郎

被 告  目黒区長


準 備 書 面 (4)

平成16年7月7日

 

東京地方裁判所民事2部C係 御中

原告本人 須藤甚一郎

第1

はじめに

目黒区長・藥師寺克一の自殺と契約課長・加藤義光の逮捕について


本件土地売却の契約者である区長・藥師寺克一の自殺と契約事務を担当した契約課長・加藤義光の収賄罪による逮捕、起訴の経過と背景をはじめに述べる。

本件土地売却を含む目黒区における契約全般と2件の事件とは無縁ではないと原告が考えたためである。契約課長・加藤の逮捕を契機に設立された契約事務改善検討委員会の報告書は、区の契約全般にわたり杜撰に行われてきたことを指摘しているのである。

目黒区長であり本件関係人であった藥師寺克一が、区議会の定例会中の平成16年度の予算審議を前にした平成16年3月7日に自殺した。(甲22号証の1)藥師寺は自宅マンション中庭の階段手すりで縊死した。地方公共団体の長が来年度の予算を調整し、予算案を議会で審議する直前に自ら命を絶つことは、たとえどんな理由があったにしろ、断じて許されるべきことではない。また、こうした前例は、全国の地方公共団体の長として、過去にないだろう。

本件住民訴訟の被告であり、かつ損害賠償を求めている本件関係人の藥師寺克一が死亡したために、藥師寺克一の相続人が確定するまで、本件住民訴訟の口頭弁論が3か月間延期になった。


藥師寺克一自殺の翌日の同年3月8日午後10時半過ぎ、目黒区総務部契約課長の加藤義光が、区役所本庁舎清掃業務委託の発注に係る200万円の収賄事件で、警視庁捜査2課に逮捕された。(甲22号証の2) 翌日の3月9日の朝から、警視庁による区庁舎内の家宅捜索が行われ、契約関係書類等ダンボール箱30個分が押収された。押収された書類の中には、本件土地売却関係の書類も数多くあった。押収された書類はいまだに返却されておらず、原告は本件住民訴訟の証拠集めにおおいに支障をきたしている。

たとえば、本件土地売却の売却予定価格を決めるために、区は財産価格審議会に諮問し、答申を受けた。が、諮問した価格の算定の基礎になった不動産鑑定士による当該土地の不動産鑑定書が、原告の今回の準備書面づくりに必要であるため、区の契約課の担当者に請求した。しかし、他の書類とともに警視庁に押収されたまま、いまだに返却されておらず、入手できなかった。ほかにも旧庁舎・公会堂跡地利用計画を審査した審査委員会で、各審査委員が試行審査で記入した評価書も原告は契約課に請求したが、それも警視庁に押収され、返却されていないことが判明した。


契約課長・加藤逮捕の翌日の3月9日から警視庁の捜査員数名が、区庁舎4階の会議室に常駐し連日、加藤の上司、部下等関係者の事情聴取を行った。区議会の定例会中であったため、予算特別委員会のあとに事情聴取が行われ、深夜におよぶこともあった。

契約課長・加藤は、本件土地売却の契約担当課長として、公募提案方式による公募、審査委員会の審査、売却先である三菱商事との契約等の事務に係った。また、本件土地売却に関して契約課長・加藤は、区長、助役らとともに出席説明員として、本件土地売却を議決した区議会の企画総務委員会(平成15年3月7日開催)などの各委員会に出席し本件土地売却に関して説明及び答弁をした。契約課長・加藤は、本件土地売却の契約事務全般の責任であったのである。

その後、契約課長・加藤は同年3月26日に収賄罪で起訴され、同年4月6日に目黒区職員を懲戒免職処分になった。契約課長・加藤の上司であった本件関係人である元総務部長・木村高久は管理監督責任として減給1/10、1か月が相当であるとしたが、退職により自主返納した。本件関係人の助役・佐々木英和も同様の趣旨から自主返納した。


契約課長・加藤に指名による見積り合せの随意契約を有利に取り計らってもらうため、100万円づつ2回、総額200万円の賄賂を贈った日本ビルシステム株式会社社長の的場成善も、平成16年3月8日に収賄罪で警視庁捜査2課に逮捕され、その後起訴された。的場は国立東京医療センターの収賄事件で同年2月はじめにすでに逮捕されており、契約課長・加藤への贈賄罪で再逮捕されたものである。

同年6月8日に東京地方裁判所刑事1部(西川篤志裁判長)で行われた加藤及び的場の併合審理で行われた初公判を原告は傍聴した。初公判で加藤及び的場は、公訴事実をすべて認めた。検事の冒頭陳述で明らかになったことの中につぎの事実がある。

@ 加藤と的場は、平成6年、目黒区職員OBで元区長室長であった菊谷信夫の紹介で知り合った。

A 平成15年1月28日、菊谷の仲介で加藤と的場は銀座の料亭「石亭」で会い、的場は区役所本館の清掃業務委託の指名による見積り合わせを加藤に有利に取り計らってもらうため、最初の贈賄である100万円の賄賂を渡した。その場には、的場も同席していた。

B 賄賂を受け取ったあと加藤は、的場に区役所本館清掃業務委託の予定価格が5432万円であることを教えた。そして、加藤は的場に見積価格が「5400万円なら大丈夫だ」といった。

C 的場は加藤に賄賂100万円の贈った料亭「石亭」で、20業者のリストを渡し、指名業者の選定リストに入れるようにに依頼し、加藤は同意した。そのとき加藤は的場に指名からはずす「地元業者は、他の業務委託にまわす」と伝えた。

加藤も的場も検事の冒頭陳述の内容をいっさい争わなかった。


以上事実について、原告は補足説明をする。

加藤は平成6年4月1日から平成8年10月4日まで、目黒区の外郭団体である社会福祉法人目黒区社会福祉事業団に事務局次長及び管理課長として派遣され、契約事務等を担当した。(甲23号証)元区長室長の菊谷は区職員としては、目黒区長、本件関係人であった藥師寺克一の数年先輩にあたる。菊谷は区職員を定年退職したあと、的場が社長を勤める日本ビルシステムの顧問をしていた。

加藤と的場が逮捕された翌日の区議会の企画総務委員会(平成16年3月9日開催)で、原告が区長の自殺で区長の職務代理者に就任した助役・佐々木英和に、菊谷が日本ビルシステムの顧問を務めていた時期について質疑したところ、「日本ビルシステムの顧問をしていたのは知っているが、その時期についてはわからない」と答弁した。しかし、助役・佐々木は日本ビルシステムに平成15年度だけでも1億3600万円余も清掃業務等を発注している目黒区社会福祉法人の副理事長なのだから、元区長室長の菊谷が日本ビルシステムの顧問をしていた時期について、知らぬはずがない。知らないと答弁したのは、極めて不自然であるというべきである。


的場と自殺した区長の藥師寺は、つぎのような深い関係にあった。平成10年10月に行われた区長選挙で、藥師寺は初当選し区長になった。しかし、その藥師寺の区長選挙で的場と自民党の現職区議会議員であった横山大が、運動員買収の公職選挙法違反で逮捕、起訴された。平成13年11月東京地方裁判所で菊谷と横山は懲役1年、執行猶予4年、公民権停止4年の有罪判決を受けたのである。菊谷と横山の逮捕により、区庁舎内の自民党区議団控室が家宅捜査を受け、自民党区議団の多くの現職区議会議員が警察の事情聴取を受け、起訴猶予になった。

藥師寺区長選挙の公職選挙法違反事件で菊谷と横山が逮捕されたとき、区議会議員の原告が、区長である藥師寺に自分の区長選挙で公職選挙法違反による逮捕者をだした責任について質疑したところ、「私は区長選では、ただ神輿に乗っただけだ」と答弁し、自分の陣営から選挙違反者をだしたことについての反省、謝罪はまったくなかった。


目黒区の外郭団体であり、目黒区の特別養護老人ホーム等の福祉施設を区から受託し管理運営する社会福祉法人目黒区社会福祉事業団(以下、福祉事業団と略す)は、15年前に設立された。福祉事業団の理事長は区長が兼務し、副理事長は助役が兼務することと定められている。藥師寺は区長になる前、助役2期8年を勤めたが、当時は2人助役制であったため、福祉事業団の副理事長にはならず、もうひとりの助役が副理事長であった。

しかし、藥師寺は平成10年10月の区長選挙で初当選し区長になり、平成14年10月の区長選挙で再選され、平成16年3月7日に自殺するまで、福祉事業団の理事長であった。


福祉事業団が作成した「目黒区社会福祉事業団建物総合管理等一覧」(甲24号証)(以下、一覧表と略す)を一瞥しただけでも、契約課長・加藤に賄賂を贈り収賄罪で逮捕、起訴された的場が社長であった日本ビルシステムが独占して、社会福祉事業団の清掃業務等を受注してきたのがわかる。

福祉事業団が区から委託管理を受けている中目黒ホーム、中央町高齢者在宅、東が丘ホーム、かみよん工房の清掃業務等の管理を平成2年度から平成15年まで、すべてを独占し連続して日本ビルシステムが受注してきた。平成16年度は日本ビルシステム社長の的場の収賄事件で逮捕、起訴され、区から指名停止処分となったので、他の2社が受注した。

平成2年度から平成15年度までに、日本ビルシステムが福祉事業団から受注した金額は、12億7000万円余にのぼる。契約書等の書類が保存されていない金額不詳の分をその前年度の契約金額で試算すると、総額は14億7000万円余になる。


平成10年10月の区長選で藥師寺が当選し区長になったため、福祉事業団の理事長を兼務し、平成10年10月の区長選で藥師寺は再選されて、平成16年3月7日に死亡するまで理事長であった。日本ビルシステムの顧問であった元区長室長・菊谷が、藥師寺区長選の選挙違反で有罪判決を受けたあとも、藥師寺が理事長であった福祉事業団は、それまで通り日本ビルシステムへ発注しつづけた。

福祉事業団から、独占して清掃等の業務委託を受けていた日本ビルシステムの顧問であり、区長選違反事件で有罪になった元区長室長・菊谷と藥師寺の関係を議会で追及された。日本ビルシステムと契約解除、指名停止をすることもなく発注しつづけることについて藥師寺は「日本ビルシステムは契約通りの業務をやっており、顧問の区長選での違反とは関係ない」という趣旨の答弁をした。

平成10年10月に藥師寺が福祉事業団の理事長に就任して以降、平成14年度に中目黒ホームに関して指名競争入札をわずか1件行っただけである。平成11年度から14年度までの他の契約14件については、藥師寺が理事長を務める福祉事業団は随意契約で日本ビルシステムへ発注した。まさに異常というべきである。


一覧表を見れば明らかなように、指名競争入札、指名による見積り合せを一度行えば、その後、中目黒ホーム、東が丘ホームは随意契約で連続して8年間、かみよん工房は随意契約で連続して7年間も日本ビルシステムに発注してきた。

地方公共団体の契約は、地方自治法で規定されているように一般競争入札が

原則である。公平、公正を確保し、競争原理が働き価格の低減、住民の福祉の増進につながるからである。その精神が地方公共団体の外郭団体にも生かされるべきなのは、改めていうまでもない。業務内容により、指名競争入札あるいは指名による見積り合せが採用されることがある。

しかし、福祉事業団は、6〜7年間にわたり指名競争入札も指名による見積り合せも行わずに、随意契約により日本ビルシステムに発注しつづけたのである。中目黒ホームは平成6年度から平成13年度まで連続して8年間、東が丘ホームも平成8年度から平成15年度まで連続して8年間、かみよん工房の場合にも、平成9年度から平成15年度まで連続して7年間、福祉事業団は日本ビルシステムに清掃業務等の管理を委託した。こうした不合理なことが平然と行われてきたのは、福祉事業団と日本ビルシステムの間に癒着の関係があったと推認できるといっていい。

平成16年度は、日本ビルシステム社長・的場が贈賄事件で逮捕され、日本ビルシステムの落札辞退及び指名停止により、他社による指名競争入札、指名による見積り合せが行われた。その結果はつぎの通りで、平成15年度と比較して、それぞれ契約価格は安くなった。

(中目黒ホーム)平成15年度・日本ビルシステム:51,240,000円

→平成16年度・明和産業:    50,925,000円

(東が丘ホーム)平成15年度・日本ビルシステム:82,957,560円

→平成16年度・明和産業:    82,726,350円

(かみよん工房)平成15年度・日本ビルシステム: 3,127,194円

→平成16年度・第一建築サービス: 2,157,750円

かみよん工房の場合は、5社による見積り合せを行い、契約価格が3分の1も削減されたのである。

日本ビルシステム社長・的場、契約課長・加藤の贈収賄事件は、背景に福祉事業団と日本ビルシステムの永年にわたる癒着の構造があったために、起こるべくして起きたといえる。的場、加藤の初公判の公訴事実と冒頭陳述で、的場が総額200万円の賄賂を贈った目的は、福祉事業団からは日本ビルシステムが独占して清掃業務等を受注しているが、目黒区本体からの受注の実績がないため、指名による見積り合せを加藤に有利に取り計らってもらい、区本体との契約の実績づくりであったことが判明した。

事前に加藤は、的場に予定価格が5432万円であることを教え「5400万円ならば、だいじょうぶだ」といった。平成15年3月4日に行われた8社による見積り合せで、日本ビルシステムは予定価格を大幅に下回る1800万円の見積り価格を提示した。(甲25号証)

しかし、千代田ビル管財が、さらに下回る1740万円を提示して落札したのである。予定価格を大幅に下回る見積り価格で果たして、採算がとれるのか。目黒区の場合は、業務委託などは区直接の契約であれ、外郭団体であれ、1度見積り合せで契約してしまえば、その後何年間も随意契約が行われるのは、福祉事業団の一覧表を見れば一目瞭然である。また、区直接の契約の実績があれば、他の契約でも指名されて、たとえ初回は採算がとれなくても、その後の契約で十分に穴埋めができる。まして、実績づくりの初回に契約課長に賄賂を贈り、不正に有利な取り計らいを受けたのであるから、他の契約でじきに採算がとれるのは、いうまでもないことである。


契約課長・加藤の収賄罪による逮捕を契機にして、平成16年3月10日に区の最高行財政方針を決定する政策会議の下部組織として、契約事務改善検討委員会(以下、改善委員会と称する)が設置された。改善委員会は、平成16年6月7日に「収賄事件にかかわる事実経過と再発防止に向けた検討課題の整理」(以下、「検討課題の整理」と称する)と題する報告書にまとめ、議会の議会運営委員会に報告した。(甲25号証)

改善委員会の委員長は、本件関係人の収入役・安田直史であり、委員は財政担当部長、総務部長ら区の部課長10名であった。(甲25号証、資料1)「検討課題の整理」を一読すれば、目黒区のこれまでの契約がいかに杜撰に行われてきたか、驚くべきことばかりである。一契約課長が業者から賄賂を受け取り、指名競争入札、指名による見積り合せを不正に取り仕切ろうとすれば、上司のチェックもなく、いとも簡単にできる組織であったのが露呈している。公平、厳正であるべき地方公共団体の契約事務全般が、かくのごとき杜撰、放漫に行われてきたのは、区長・藥師寺及び助役・佐々木ら区の幹部の責任である。契約課長・加藤の収賄事件を事前に防止する策はなく、起こるべくして起きたのである。


「検討課題の整理」には、「前契約課長の収賄」(平成15年1月)(甲25号証、13頁)、「前契約課長の収賄」(平成16年1月)(甲25号証、16頁)として、契約課長・加藤の2回にわたる収賄事件の経過と問題点が記されている。1回目の収賄事件の問題点として「選定案の作成については実質的に契約課長の裁量のもとで処理されており、それをチェックすべき体制や機能が十分に働いていない」と指摘している。

「見積合せの実施」(平成15年3月4日)(甲25号証、14頁)では、問題点として「見積合せについては、従来の取扱いを踏襲して実施されており、手続きを定めた基準、規定等がない」と指摘している。本件土地売却の公募提案方式も見積合せによる随意契約である。根本的には通底している。本件土地売却が、杜撰な審査で違法な契約が行われたのは、見積合せについて手続きを定めた基準、規定がないことをいいことにして、恣意的に行われてきたことと無縁ではない。


2回目の収賄事件である平成16年1月に関しては、日本ビルシステム社長・的場が区役所本館の清掃業務の指名業者として選定され、入札予定価格を教示するなどの有利な取り計らいを受けたい趣旨で、契約課長・加藤に再び100万円の賄賂を贈ったものである。しかし、日本ビルシステム・的場が東京医療センターの収賄事件で逮捕されたため、見積合せ前に指名停止処分になった。

平成16年度に指名による見積合せを行うことになったのは、平成15年度に落札した千代田ビル管財が、平成16年度は同じ価格での随意契約はできないと拒否したからだ。したがって、千代田ビル管財を外し、日本ビルシステムを含む8社による見積合せを行うことになった。しかし、日本ビルシステムが指名停止になったため、新たに1社を加えた8社で行うことにしたところ、千代田ビル管財から参加したい旨の申し入れがあり、平成16年3月5日の見積合せの直前に現場説明会に出席していなかった千代田ビル管財を追加指名して、8社から9社に増やして見積合せが行われた。(甲25号証、資料14)その結果、千代田ビル管財が前年度より約1100万円高い金額で落札した。

現場説明会に出席しなかった業者が、指名された前例は皆無であることを区は認めている。契約課長・加藤が賄賂を受け取り、予定価格を教示するなど違法行為をチェックできず、さらに現場説明会に出席しなかった業者を指名するという不当なことを行ったのに、助役、総務部長ら上司が認めたのは問題である。

「検討課題の整理」(26頁、27頁)では、「再発防止に向けた検討課題」として、「今後、本区として目指すべき契約制度全般にわたる方向として、透明性、公平性、競争性を確保し、区民への説明が十分果たせる制度に改善していく必要がある」として、(1)「契約制度の改善」から(6)「公務員倫理の徹底」までを挙げている。

重要なのは、(1)「契約制度の改善」で、目黒区では「現状として原則として指名競争入札又は随意契約の方法によって契約締結している。しかし、今回の件におけるさまざまな問題点から、これを契機に、改めて契約手続き、契約内容、履行、検査、支払など契約制度全般にわたって検証し、より適切な契約制度を確立していく必要がある」としている。

本件土地売却は、随意契約の方法による随意契約であり、それも「契約制度の改善」で指摘している不備がある中で締結されたものである。
また(2)「契約手続きの体系的整備」では、契約担当者の裁量が大きく、しかもそれをチェックするシステムが不十分なことが、今回の不正を引き起こした原因といえる、と指摘している。「そのため、契約全般にわたり、手続きの体系的整備により、契約担当者の裁量範囲の見直しやチェックシステムの整備を進める必要がある」としているのは、まさに正論である。これらの改善策を改善委員会の委員長としてまとめたのは、本件土地売却の審査委員であり、かつ売却先を決定した政策会議のメンバーであり、本件関係人の収入役・安田であるのは、先に述べた通りである。区の契約全般にわたり不備であることを認めているのだから、本件土地売却も例外でないのは、いうまでもないことである。

契約担当者の裁量の範囲の見直しを挙げているが、裁量の範囲を見直すべきなのは、契約者である区長も同じである。本件土地売却の契約事務を担当したのは、収賄罪で逮捕、起訴された契約課長・加藤であり、裁量の範囲を逸脱して最高見積価格より39億1000万円も安く72億円で三菱商事に売却したのは、契約課長・逮捕の前日に自殺した区長・藥師寺であった。ちなみに、区長・藥師寺の自殺の原因は、いまだに解明されていない。が、自殺の前日に任意で司法当局の事情聴取を受けていたという一部の報道もあった。

以上、区長・藥師寺の自殺及び契約課長・加藤の収賄罪による逮捕、起訴の経過と背景について原告が述べてきたのは、本件土地売却も例外ではなく、このように不備で杜撰な契約方法のもとで行われたことを明らかにするためである。


第2

被告準備書面(3)の認否

1.「第1 はじめに」を否認する。

被告は、原告が公募提案方式の意味を正解していないと非難する。これはまったくの的外れであり、為にする非難でしかない。目黒区が公募提案方式を採用し、土地を売却したのは本件土地売却が初めてであった。庁舎移転の財源確保、資金捻出であるにもかかわらず、最高見積価格より39億1000万円も廉価である三菱商事の72億円を1位に順位付けした審査委員会の全委員も契約者である区長も、公募提案方式がいかなるものか理解していなかった。

助役ら全審査委員は、区が定めた売却予定価格さえ超過していれば、価格に関してはどんな価格で売却しても構わないと誤解していたのは、原告が準備書面(3)で詳述した通りである。契約者である区長もまた予定価格を超過していれば、いくらで売却しても構わないと誤解していた。予定価格を算出した根拠さえ、確かめることすらしていない。そもそも予定価格の算出基準になったのは、周辺地域との住環境との調和を考慮して、旧本庁舎(5階建て)に準じた高さである5〜6階建ての集合住宅を想定したものであった。(乙26号証)しかし、公募で提案された14件の跡地利用計画中、最低の階高である7階建てが2件、ほかの12件はすべて13階建て以上であり、予定価格の算出基準になった5〜6階建てとは大違いである。それを無視して、単に予定価格を超過していれば、いくらで売却しても構わないとしたのは、公募提案方式による随意契約の意味を正確に理解していなかったからである。予定価格の問題点については、後で詳述する。


 公募提案方式について区長・藥師寺は、本件土地売却案件が所管であり審議し議決した企画総務委員会で「他の自治体でやっているので問題ない」(甲7号証26頁)と答弁し、さらに「本来、区長の専権で選ぶべきものだ」と答弁した。これらの答弁は、公募提案方式による契約を基本から理解していなかったことによるものである。目黒区のように39億1000万円の価格差を無視して、公募提案方式で売却した事例など皆無である。また、他の自治体の墨田区で採用した公募方式は名称は類似しているが、選考方法など内容が違い、最終的には競争入札により売却先を選定したことは、原告はすでに述べた。(甲1号証参考資料F)

区の契約全般が所管であり本件関係人の総務部長・木村高久が、地方自治法施行令第167条2項2号で定める随意契約の条件や判例についての正確な知識がなかったことは、原告は準備書面(2)ですでに指摘した。したがって、公募提案方式による随意契約を正確に理解していなかったというべきである。ほかにも被告が公募提案方式を理解していなかったことが明らかなのは、被告の準備書面(1)で111億1000万円で売却したら、予定価格の1.97倍になり、それ自体が問題になると主張した。が、それもなんら根拠のない的外れであることも原告はすでに指摘した。(準備書面(2)第4の10、17頁)もっとも被告のこの主張は、議会が議決をするか否かで審議した過程では、区長・藥師寺及び本件関係人らから説明されることはなかった。本件住民訴訟が提起されてから、違法な売却をむりやり正当化するためにする、つじつま合せの主張に過ぎない。


被告は、原告の準備書面(3)第1の主張について、審査委員会における各委員の発言を恣意的かつ断片的に抽出したもので根拠がないと非難する。そのことが取りも直さず、公募提案方式を被告の都合のいいように曲解し、区長及び助役ら本件関係人らが地方公共団体である目黒区の利益を何ら考慮することなく、不当、違法な審査で順位付けし、違法に随意契約したことにほかならない。原告は各審査委員の発言を恣意的かつ断片的に抽出したことはなく、不当、違法にあたる肝心な発言の部分を引用したものである。


2.「第2 公募提案方式の意味」を否認する。


(1)被告は、価格以外の要素を考慮して契約を締結する必要があるときは、随意契約の方法によることができるとして、最高裁昭和62年3月20日判決の判例を引用している。しかし、この判例により本件土地売却が正当化されるものではないことは、原告はすでに訴状の3違法の根拠(3)及び準備書面(2)第9の2及び3で主張した。

この最高裁判決は、長崎県福江市がごみ処理施設の建設にあたり、競争入札とはせずに、4社を指名業者とし、そのうちの1社と随意契約の方法により契約を締結したものである。4社のうちから最低の見積り額を提出した業者ではなく、3番目に低い見積価格の業者と契約した。福江市の当該随意契約の場合、契約金額と最低見積金額の差は、650万円であった。最高裁判例は、多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、地方公共団体の利益になる場合は随意契約ができると判示している。

ところが、目黒区の本件土地売却は、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」にあたるとして、随意契約の採用したとしても、契約の内容については、この最高裁判例を援用できるものではない。その根拠は、本件土地売却契約の場合は、14件の見積中、契約相手は価格で上位7番目であり、最高見積価格111億1000万円と契約金額72億円の差額は39億1000万円であり、じつに契約金額の半分を超える価格差なのである。とうてい「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果」といえるものではないのは明らかである。
最高裁判例の趣旨は、地方公共団体の利益と価格を比較考量して、有利な場合は随意契約が適法であるとしているものである。その性質又は目的が競争入札に適しないからといって、随意契約で本件土地売却のように価格の有利性を考慮せずに契約するのを適法とするものではないはずである。

(2)被告は「なお、原告が引用する判例(最高裁平成6年12月22日)は、不動産の売却において、価格のみを考慮要素として最高制限価格を設けたという事案についてのものであり、本件とは事案をことにする」と主張している。しかし、そもそもこの判例を最初に引用したのは被告である。被告準備書面(1)第4「本件における随意契約の適法性について」の10頁で「ちなみに、土地の売却に際して、価格の高騰を抑制するために随意契約の方法によることを認めた最高裁判例(平成6年12月22日判決、判例時報1520号71頁)がある」と主張した。

しかし、この最高裁判例を一読すればただちにわかるように、決して被告の主張するように「価格の高騰を抑制するために随意契約の方法によることを認めた最高裁判例」ではない。したがって、原告は原告準備書面(2)第9の11(18頁)で、被告の誤りを指摘して「この最高裁判例は、価格の高騰を抑制するために随意契約の方法によることを認めたものでないことは、判決文を一読すれば明らかである。一般競争入札において最高制限価格を設定したのを違法としたものである。最高入札価格が一定金額を超えるおそれがある場合は、随意契約によって行うことができると判示している」と反論した。

被告は、この最高裁判例を被告準備書面(1)で引用したのを記憶しておらず、原告が趣旨を誤って引用した主張するのは、まったくの筋違いである。しかも、この最高裁判例について、被告は被告準備書面(1)では「価格の高騰を抑制するために随意契約の方法によることを認めた最高裁判例」といい、被告準備書面(3)では「価格のみを考慮要素として最高制限価格を設けたという事案について」の判例であるとして、被告自身が被告の最初の主張を否定しているのである。被告の代理人は随意契約を適法化するために、この判例を引用したのに、それを忘却し、さらに真反対の主張をしたことは被告にあるまじき行為というべきである。これでは、被告の最初の主張が何のための主張であったのかわからない。はじめから、この判例は随意契約による本件土地売却を適法化できるものではないのである。

この判例を地方自治判例百選、第三版(甲26号証)に基づいて少しだけ説明しておく。沖縄県豊見城村の埋立地を国民体育大会が終わったあと、ゴルフ場として売却することになった。が、水面埋立法の規定により不当な受益が禁じられていた。そのために、最低制限価格と最高制限価格を設けて競争入札にした。しかし、競争入札で最高制限価格を設けるのは違法であり、行政目的があって最高制限価格を制限する場合は随意契約の方法によることができるというのが、簡単にいえばこの判例の趣旨なのである。


(3)公募提案方式が随意契約であることを議会に十分説明しなかったという原告の指摘に対して、被告は平成14年5月15日開催の都立大学跡地建設等調査特別委員会において本件公募提案方式が随意契約の方式に該当することが明確に説明されているとして、原告の非難が誤りであると主張している。

本件土地売却を審議、議決した平成15年3月7日開催の企画総務委員会(甲7号証)で、契約課長・加藤は公募提案方式が随意契約であることを委員会に説明したのかという質疑に対して「随意契約について議会の方に説明をされたかということでございますが、これは公募提案方式と、それから一般競争入札の売却ということで、企画総務委員会あるいは庁特(注、庁舎移転・都立大学跡地建設等調査特別委員会のこと)の方には随意契約という言葉は使っておりませんが、審査委員会を設置いたしまして、その審査を経て順位付けを行った後、その順位の高い提供業者と契約するというようなことで、これは明確に記載をしてございます。こういうことから申し上げますと、競争入札でないということはもう明らかでございますし、競争入札でなければ、これは随意契約ということでございますので、一つ一つ地方自治法の契約の種別をそういう形で報告はしてございません」と答弁した。じつに持って回ったわかり難い答弁である。けれど、契約課長が企画総務委員会や庁特で随意契約の言葉は使って説明しなかった、また地方自治法の契約の種別について報告しなかったことを認めているのだ。
 庁特で公募提案方式による売却を決めたときに、わずか1度だけ特別委員会で説明したのでは、十分説明したことにはならない。まして、説明した張本人の契約課長・加藤が、随意契約の言葉は使わなかったと発言しているほどなのだから、推して知るべしである。目黒区が公募提案方式を採用したのは、すでに述べたように本件土地売却が初めてであり、この契約案件は議会の議決がなければ契約を締結できないのに、議員たちは公募提案方式が単なる随意契約であることを知らなかったのである。

原告が平成15年2月17日に、本件土地売却の契約差し止めを求める住民監査請求を提起し、本件土地売却の公募提案方式は地方自治法施行令で定める随意契約であるが、その条件に違反した違法契約であると主張した。それによって、公募提案方式が随意契約であることを議員たちは知り、その後、区側は議会に対して随意契約であると説明するようになった。

 本件土地売却の契約案件を審議し、議決したのは契約が所管である企画総務委員会である。契約課長・加藤の答弁で明らかなように、企画総務委員会には、随意契約であることを原告が住民監査請求を提起するまで、説明しなかったのである。被告が随意契約であることを説明したという特別委員会は契約について何の権限もないのである。

被告は、公募提案方式が、価格のみによって契約の相手方と決定する方法ではないことは明らかであり、地方自治法が定める契約の方法中の随意契約に該当することを疑う余地はない、と主張する。しかし、本件土地売却契約は区財政難の下での庁舎移転のための資金捻出が目的であり、目黒区にとっての収入の原因となる契約である。最高裁判例(昭和62年3月20日)で随意契約について「契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」「当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も」随意契約できると判示している。が、本件土地売却契約は、39億1000万円もの価格の犠牲があり、とうてい目黒区の利益の増進につながると合理的に判断できるものではない。ゆえに最高裁判例の判旨に違反するものである。

39億1000万円もの価格の犠牲を承知で、売却先である三菱商事を1位に順位付けした審査委員会の委員及び契約した区長・藥師寺ら本件関係人らの裁量権の逸脱にほかならない。

(4)たとえ被告の主張するトレードオフ(同時に満足できない条件の取捨選択)なる関係にあるとしても、売却先である三菱商事の72億円の価格である提案と最高価格111億1000万円の提案の内容差が、39億1000万円の価格差を補ってなお余りがあるかどうかについて、繰り返しいうが審査委員会でまったく議論しようとしなかったのは、どうしてなのか。被告がトレードオフの関係をいうならば、議決なくして契約できない本件売却であったのだから、なぜ、議会で審議しているときに、それを説明しなかったのか。原告が住民訴訟を提起してからの単なるつじつま合せの的外れの主張に過ぎない。

被告は土地の買収価格が高ければ高いほど、経済的に高度な利用をしなければならず、低ければ低いほど経済的に余裕のある利用ができると主張する。が、これは営利企業の論理を知らない空論である。企業努力による売却価格の抑制や薄利多売の実態を知らないからだ。一般的に原価と売価の関係であって、被告の主張する関係にないのはいうまでもない。仮に低い価格で買収しても、企業が利益率を高くすれば、被告の主張するようにはならない。

都立大学深沢校舎跡地の例を挙げているが、本件土地売却とはまったく建築物の高さなどの諸条件が異なり、参考にはならない。


3.「第3 本件における売却価格と土地利用計画との関係」を否認する。

(1)被告は、定量的な土地売却価格と定性的な土地利用計画を同一次元で比較することは事実上不可能であると主張する。それならば、なぜ本件関係人の助役・佐々木英和は、原告の住民監査請求の際に行われた関係人調査の事情聴取で三菱商事の土地利用計画の公共スペースについて「仮に区が1300平米の還元公共施設をあそこに整備するといたしますと、後、1千平米近く区が取得して整備することになりますと、その1千平米を仮に区の財源で取得するとなりますと、おそらく8億円を超す価格になるのかな」(甲18号証7頁)と発言したのか。

定性的な土地利用計画の一部である1300平米の公共施設が、定量的な価格で8億円を超えると発言し、比較するのは事実上不可能であるというのに同一次元で比較しているのである。このことは、大きな矛盾であり、被告の主張に根拠がない。さらに、被告は111億1000万円の土地利用計画と売却先である72億円の三菱商事の土地利用計画を比較して、三菱商事には防災施設の100トンの防火水槽、900世帯2日分の備蓄ができる倉庫、街路灯、巡回警備の実施あるが、111億1000万円の利用計画にはないと指摘している。そして、被告は「三菱商事の提案の差を金額でいくらに換算すべきかは、理論的にも、現実的にも結論を得ることができないのである」と断言している。しかし、これは大きな間違いであり、収入の原因になる契約であるにもかかわらず、価格の有利性を無視する詭弁というべきである。

防火水槽、備蓄倉庫、街路灯などは、区の技術職員に試算させれば、簡単に金額がはじき出せるものばかりである。また巡回警備の実施にしても、区は区庁舎の警備を業務委託しているのだから、金額がいくらかは、ただちに算出できる。審査委員会の審査で、39億1000万円の価格差を土地利用計画の差が補って余りあるものであるかどうかを比較し、検討しなかっただけに過ぎない。

定量的である価格と定性的である土地利用計画を同一次元で比較できないのなら、なぜ、審査委員会の価格評価で、予定価格超過分を1億円=0.1点と換算して土地利用計画の評価と同一次元で評価したのか。被告の主張するように、提案差を金額でいくらに換算すべきかは、理論的にも現実的にも結論を得ることができないものならば、それを混同して審査した審査委員会の審査方法に重大な瑕疵がある。したがって、三菱商事を1位に順位付けした審査結果は無効であるというべきである。

 (2)被告は本件土地売却に関して、平成14年5月9日の政策会議において、@財政計画に基づき一定額以上で売却すること、A限られた期間内に確実に歳入の確保を図ること、B公正かつ透明性の高い方法で売却すること及びC今後のまちづくりに資するよう配慮していくことが基本的考え方として決定されていたと主張する。

しかし、@の財政計画そのものに重大な欠陥があったのである。区長・藥師寺は、平成13年3月に突然、経営破綻した千代田生命本社を区役所の新庁舎用に購入することを決め議会に報告した。千代田生命本社の購入金額は約175億円であり、区は旧本庁舎、公会堂をはじめ主な区有地を売却して120億円の資金を捻出し、他の目的で積み立てていた基金を60億円取り崩し、合計180億円を千代田生命本社購入に充てることを議会に報告した。

主な区有地を売却して120億円を捻出する試算は、その土地の正面路線価に土地の平米数を乗じるという極めて単純な方法でなされたものである。(乙27号証の2) しかも、助役・佐々木がのちに原告の企画総務委員会での質疑に対して、当時、区は主な区有地売却がいくらの金額になるのかを試算する知識すらなく、千代田生命本社購入の仲介をした三井不動産に試算してもらったことを認めている。被告のいう財政計画とは、こうした極めて杜撰な試算が基本になって作成されたものであり、財政計画に基づいて一定金額以上で売却したとしても、区にとっての利益を十分に満たしたことにはならないのである。

B公正かつ透明性の高い方法で売却すること、とあるが、実際に行われた売却方法は、原告が主張しているように不公正かつ不透明であった。審査委員会の構成、審査方法、順位付などすべてにわたり不公正かつ不透明であり、その審査結果をよしとして区長・藥師寺が契約したが、断じて公正かつ透明性の高い方法での売却といえるものではなく、不当、違法な売却であった。

(3)被告のいうように確かに本件土地売却予定価格は、専門家によって構成される目黒区財産価格審議会(以下、財価審と称す)の審議を経たうえで、56億4,760万円と決定された。その結果、区長・藥師寺をはじめ助役・佐々木ら本件関係人らは、予定価格を超過してさえいれば、あとは提案内容であるとして、最高見積価格の111億1000万円より39億1000万円も安く72億円で三菱商事に売却した。14件の見積中、72億円は上から7番目の見積金額である。(甲1号証、事実証明書1) 本件関係人らは、売却予定価格を超過している提案の中から選考したことを理由にして、72億円での売却を価格に関してはまったく問題なく適法である、と主張しているのは、これまでの経緯から明らかである。

しかし、予定価格を決めるにあたって、区が想定した建築物の階高と実際に公募で提案された建築物の階高では、14件の見積中じつに12件が区が想定した階高の2倍乃至それ以上であった。このことを度外視して、単に予定価格を超過していれば、どんな価格で売却しても問題ないとする被告の主張は成り立たない。予定価格が適正でなかったというべきである。

以下、原告は売却予定価格の問題点を詳述する。

 イ.まず、予定価格の決定までの過程を簡単に説明すると、区は本件土地を不動産鑑定士に依頼して、評価額を鑑定してもらった。つぎに区は、その評価額に基づいて諮問する価格を決め、財価審に諮問した。(甲27号証)

諮問を受けた財価審は、審議し評価額を区長・藥師寺に答申した。答申された評価額を予定価格として設定したのである。

ちなみに、財価審に諮問するために不動産鑑定士に依頼した鑑定書は、現在、契約課長・加藤の収賄事件で警視庁に押収された文書の中にあり、いまだに返却されていない。

ロ.区長・藥師寺が財価審に諮問した目黒区諮問第6号(甲27号証、33頁)に本庁舎土地に関して、「開発方式試算表」の欄に「想定最有効使用 共同住宅」「建物の構造・用途 鉄筋コンクリート造5〜6階建、ファミリータイプマンション」と記載されている。公会堂土地に関しても、同じ記載である。(甲27号証、20頁)

また、財価審が諮問を受けて審議し、答申した記載もまったく同じである。財価審の会議録(乙26号証)の「会議の結果及び主要な発言」の(3)「目黒区役所本庁舎用地の売却について」で主要な発言として、

「5〜6階の建物では開発法で想定する容積を確保するのは困難であろう」「5〜6階程度の建物ではあまりグレードのよいものはできない気がする」「開発法で想定する5〜6階建てに拘泥するならば諮問された評価額は許容範囲いっぱいの上限額ではあるが適正といえる範囲ではある」などがある。

区が財価審に諮問するにあたって想定した建物は、5〜6階建ての共同住宅であったことがわかる。財価審の答申も同じであった。5〜6階建ての共同住宅が建設されることを想定し、専門家が鑑定した評価額である。それが売却予定価格として決定された。

確かに5〜6階建てであれば、既存の本庁舎は5階建てであり、その跡地に5〜6階建ての共同住宅が建設されるなら、周辺地域との住環境に調和しているといえる。ところが、「提案概要総括票」(甲1号証、事実証明書1)でわかるように、本庁舎土地に関して公募提案された14件の提案のうち、想定した建物の階高に近い7階建てが2件あったが、他の14件は11階から25階までであり、想定した階高の2倍乃至それ以上であった。

本庁舎土地に関して、売却予定価格を設定するために区が財価審に諮問した建物の延べ床面積は、15,900uあった。財価審の答申も同じである。けれど、14件の提案のうち、15,900u以下は15,699平米の1件のみであった。売却先に決まった三菱商事は、本庁舎に関しては、建物の階高が13階。延べ床面積が19,787uであり、高さ面積ともに想定した建物を大幅に超えるものであった。想定する建物の階高及び延べ床面積が増せば、当然、土地の評価額は高くなる。したがって、予定価格も高くなる。それなのに5〜6階建てを想定した予定価格をその2倍乃至それ以上の建築物にあてはめて、予定価格を超過しているから問題なしとする主張は成立しないのである。


ハ.区長・藥師寺が、5〜6階建ての共同住宅を想定して財価審に諮問したのは平成14年4月25日である。目黒区諮問第6号の文書に決定権者として区長・藥師寺、審議の欄に本件関係人の担任助役・佐々木、主管部長の総務部長・木村がそれぞれ押印している。この事実は、区長・藥師寺、助役・佐々木、総務部長・木村らが、既存の本庁舎と同等である5〜6階建てを想定し、周辺地域との調和を図り、諮問したことは明白である。諮問する内容を区の最高行財政方針を決定する政策会議で決定したのであれば、政策会議の構成員である本件関係人の全員が、5〜6階建てを想定して諮問するのを知っていたはずである。同日に開催された財価審で、審議し答申された内容も諮問とまったく同じである5〜6階建ての共同住宅であった。

区は、5〜6階建ての想定を廃棄し、13階建ての提案を採用して、周辺地域との住環境の調和を主張するのは、まことに不可解であり、不当である。


 ニ.財価審に諮問した目黒区諮問第6号の土地評価価格の文書(甲27号証、31頁)に「最有効使用 中層共同住宅の敷地としての利用」とある。また、開発方式試算表の欄には「想定最有効使用 共同住宅。建物の構造・用途 鉄筋コンクリート5〜6階建、ファミリータイプマンション」とある。

最有効使用とは何であるか。国土交通省が不動産鑑定の基準を決めた「不動産鑑定評価基準」(平成14年7月3日全部改正)の第4章「不動産の価格に関する諸原則」に「W 最有効使用の原則」として、「不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最高使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的な最高最善の使用方法に基づくものである」と定めている。(甲28号証)

また、第6章第2節「個別分析」のUの2「最有効使用の判定上の留意点」として、(1)良識と通常の使用能力を持つ人が採用するであろうと考えられる使用方法であること。(4)個々の不動産の最有効使用は、一般に近隣地域の地域の特性の制約下にあるので、個別分析にあたっては、特に近隣地域に存する不動産の標準的使用との相互関係を明らかにし判定することが必要であるが、対象不動産の位置、規模、環境等によっては、標準的使用の用途と異なる用途の可能性が考えられるので、こうした場合には、それぞれの用途に対応した個別的要因の分析を行った上で最有効使用を判定すること」と定めている。

財価審への諮問の基になった鑑定書は、以上の各点に留意して、5〜6階建ての共同住宅を最有効使用として判定したはずである。が、当該鑑定書が契約課長・加藤の収賄事件で警視庁に押収されたままなのは、先に述べた通りである。しかし、諮問及び答申の内容から、国土交通省の定める「不動産鑑定評価基準」に則り、近隣地域の特性を考えて5〜6階建の共同住宅を最有効使用と判定したのは明らかである。その最有効使用によって、財価審の答申があり、その評価価格を売却予定価格としたものである。

 
ホ.然るに、公募によって提案された本件土地の利用計画は、本庁舎に関しては14件中、最有効使用に近い7階建は2件のみで、他の12件は11階〜25階であった。用途は最有効使用と同じく共同住宅である。公会堂に関しては、最有効使用は本庁舎と同じで5〜6階建を想定したものであるが、6階建1件、7階建1件で、他は9階〜14階であった。用途は、学校の1件を除き、他は共同住宅であった。

この公募提案の結果からみて、想定した5〜6階建の最有効使用が適切でなかったことがわかる。それなのに区は、5〜6建を想定した最有効使用で鑑定評価した価格を予定価格としたまま変更せずに審査を行ったことに、重大な瑕疵がある。普通このように想定した最有効使用と実際に買主が想定する建築物と大幅に違う場合には、再鑑定をするものである。あるいは、事前に想定する建築物の階高をたとえば、5〜6階建と10階以上の2種類に分けて鑑定評価しておけば、階高に応じて異なる予定価格が決められたわけである。区は再鑑定することもなく、事前に条件のことなる評価価格を試算することもせずに、5〜6建の最有効使用で算出された評価価格を売却予定価格としたままで、それを超過していれば価格については適正であるとする主張は成立しない。最有効使用の判定に重大な誤りがあり、したがって売却予定価格が適正であったと決していえないのである。



4.「審査委員会における審査」を否認する。

(1)まず最初に述べておくが、原告の平成16年1月28日付の「文書提出命令申立書」で、発言者名が記された審査委員会会議録原本、あるいは会議の録音テープの提出を申立てた。これに対して被告は、準備書面(3)の末尾で「審査委員会の会議を録音したテープ及び原告のいう原本は存在しない」と回答した。

しかし、ヒアリングのときの会議録を熟読すればわかるように、わずか20分のヒアリングを録音せずに、筆記のみでこれだけ細部にわたり各委員及び提案者の発言のやりとりを復元できるものではない。ヒアリングに限らず、他の審査委員会でも発言もこまかなやりとりが記載されていて、録音していたと推認するに十分である。目黒区では、議会の各委員会をはじめ会議録にまとめる場合は、必ず録音している。本庁舎・公会堂売却を審査する重要な審査委員会であり、会議録を作成しなければならないのであるから、録音していたはずである。

存在しないというのは、不自然である。はじめから録音しなかったのか、あるいは録音したテープを廃棄したということなのか。再度、前記の「文書提出命令申立書」により、提出を申立てる。録音せずして要点筆記で会議録をまとめたのであれば、会議録は不正確、不備であるため、審査委員会の重要な細部をできるだけ早く証人申請をして証言により確認したい。


(2)被告は、審査委員会が価格を評価せず、第1次審査を行ったとの原告の主張を見当違いであると非難しているが、被告のほうこそ見当違いなのである。

最高見積価格を提示した111億1000万円の提案を、14提案から7提案に絞り込む過程で、1位に順位付けられた72億円の提案との39億1000万円の価格差と提案差を比較考量せずに落選させた。価格差と提案差を比較考量しなかったことについて、定量的なもとのと定性的なものは同一次元で比較できないという理由で被告は認めている。しかし、定量的、定性的の主張が何ら根拠のないことについては、原告がすでに主張した通りである。

被告は、ヒアリングの対象になったのだから、111億1000万円も選考の対象であったと主張するが、実際には、このときすでに参考から外されていたのは間違いない。各審査委員は、それまでに試行審査を行い、価格を評価しない各提案の順位を知っていたはずである。したがって、審査委員から「価格の高いものが外れる場合には、そこが何故外れたのかという明確な理由が必要になる」との発言があったとみるべきである。

ほかにもヒアリング前にすでに外されていた証拠がある。助役・佐々木は本件土地売却を議決した平成15年3月7日の企画総務委員会(甲7号証、19頁)で111億1000万円の提案について「ご指摘の提案につきましては非常にラフな提案であったというふうに、これは実際の採点の経過等を拝見しますと、かなりの方が下位にランクしてごさいます。その結果、いわば第一次予選をパスできなかったとでも申しましょうか」と答弁している。

ほかにも審査委員長・谷口は、監査委員の関係人調査(甲18号証、59頁中段)で「これは学識経験者の方ですけども、最初の第一段階で漏れたものも、やはり聞いてみたいというご要望もありましたものですから、それはあの、当然最後のところに、その選定したものの以外もですね、ご希望に応じてヒアリングさせていただいた」と証言している。よって、111億1000万円の提案は、区の収入の原因になる契約で最高の見積金額を提示したにもかかわらず、価格を正当に評価されずに、第一次審査で外されたのは明らかである。


(3)被告は、「価格評価の項目は予定価格と提案価格との比較で決まるので事務局で機械的に加点(記入)することとされた」と主張しているが、予定価格を超過した金額について、1億円=0.1点とした根拠を被告はいまだに説明していない。被告は説明できないのである。それは1億円=0.1点とする合理的な根拠など存在しないからである。しかも、原告が主張したように、予定価格そのものに大きな誤りがあるのだから、二重の意味で根拠などないのである。被告の主張するように、価格は定量的、提案内容は定性的とするならば、1億円=0.1点として機械的に加点するのは、大きな矛盾以外なにものでもないのである。被告はその矛盾にすら気がついていないのである。

第5回目の審査委員会で一人の委員が「この審査に価格評価はないのか」と発言したことについて、被告は会議録の冒頭の「評価について」を一読すれば明らかだとしている。しかし、この委員は応募要領で価格も審査対象とするとしながら、審査対象にせず、単に事務局が1億円=0.1点と機械的に記入することは、価格を正当に評価したことにならないため、この発言をしたとみるのが正しいはずである。



5.「第5 評価項目の設定」を否認する。



被告は、評価項目について「第5回審査委員会において正式に決定されたのであり、その過程に何ら非難されるべき点はない」と主張する。が、形式的に手続きを踏んだだけであり、評価基準に何ら合理性はない。原告はすでに準備書面(2)第3で評価書の審査項目の不合理さを詳述した。一つの例を挙げれば、採点ランクでは「非常に劣る」は1点の採点であり、小項目が5つあるから、すべて「非常に劣る」として1点×5=5点になる。5点の採点は、1億円=0.1点の基準で換算すると、予定価格をなんと50億円も超過した金額に匹敵する。このように非常識、非合理的な評価項目、評価基準を委員会で正式に決定したことをもって、審査が適正に行われたことにならないのは、改めていうまでもない。


6.「第6 評価項目としての土地利用計画評価とヒアリング」と否認する。



(1)被告は、本件土地の利用計画について「要は、当該地域の居住環境に配慮した緑化についてどのように対処するかという提案企業の心構えの問題であって、原告の非難は的はずれである」と主張する。地方公共団体の執行機関の長にあるまじき主張である。地方公共団体の目黒区の貴重な財産を売却するにあたり、区民に親しまれてきた桜やレバノン杉の保存、そして緑化を提案企業の心構えの問題であるとしているのは、行政の怠慢そのものである。企業の心構えに期待するより前に、なぜ公募提案の条件や留意点として定めなかったのか。まして、桜やレバノン杉の保存は審査委員会で重要視されたのであるから、企業の心構えを待つまでもなく、行政が率先して事前に条件、留意点にしていれば、どの提案企業も遵守し、公平、公正な審査が行われたはずである。その結果、本件土地が価格でより好条件で売却できて、ひいては目黒区及び住民の利益の増進につながったのである。

住民要望が提案後にだされたために、「ヒアリングの際にそれに応えることができないというのは、応募者の能力と意思と誠意の欠如を示すものに他ならない」と被告は主張している。が、これも行政の怠慢を棚に上げた主張である。本件土地売却を発表して以後、区長・藥師寺や区の担当幹部職員らが住民説明会を行った。当然、住民の各種の要望は把握していたはずである。住民から要望、陳情の形で提出される前に応募要領に住民の要望を反映させるのが、行政の役目である。それをせずに、わずか20分のヒアリングで応募者である企業の能力、意思、誠意などに期待することこそ、そもそも本件土地売却に区長・藥師寺をはじめ区の幹部が住民のことを考えて真剣に取り組んでいなかった何よりの証拠である。


(2)被告は「原告は、ヒアリングの内容について、111億円の提案をした企業を代弁するかのような主張を縷々行うが、いずれも当を得ないものである」という主張は、断じて許されるべきではない主張である。原告は、111億1000万円の提案をした企業の代弁をしたことなどは、これまで一度もない。まったくの的はずれ、俗にいう言いがかりでしかない。原告が問題にしているのは、本件土地売却が区財政難の状況下での庁舎移転に必要な財源捻出の売却であるにもかかわらず、最高見積価格の111億1000万円を提示した提案を価格を正当に評価することなく、落選させたことである。そのことは、原告のこれまでの主張で明白なはずである。

ヒアリングに関していえば、原告が準備書面で明らかにしたように、111億1000万円の提案企業はヒアリングで適切に回答している。審査委員によっては、まともに回答すらできなかったごとく誹謗している発言が、監査委員による関係人調査の記録に散見するが、ヒアリングの会議録を読む限りそういうことはないのである。そのためにも、ヒアリングを含めた審査委員会の録音テープの入手が必要である。また、14件の提案企業のうち、売却先である三菱商事だけが企業名がわかっているが、他の13件の提案企業はいまだに明らかにされてない。本件土地売却の契約者であった区長・藥師寺が自殺し、契約事務の担当であった契約課長・加藤が清掃業務の委託にかかわる収賄罪で逮捕されたこともあり、この際、提案企業名をすべて明らかにしたほうが、審査過程の透明性にもつながると考え、原告は提案企業名の開示を求めて文書提出命令申立をする。

被告は、わずか20分のヒアリングについて、時間が不足したという意見がなかったことをもって、時間不足をいう原告の見解は独自のものに過ぎないとする。が、時間不足の意見がなかったことで、区の年間予算の10分の1を超える区有地の売却であるのに、わずか20分のヒアリングでこと足りるとすることが即ち、手抜きである。提案内容を時間をかけて聞き、価格差に見合う提案であるかどうかヒアリングをする意思がなかったといえる。提案企業はいずれも受注したいのであるから、時間が足りないと苦情をいえる立場にないのは当然である。

(3)三菱商事がヒアリングの際に、「今回は数字よりも環境とか、地域とのコミュニケーションというものを重視した」「私ども品川区辺りで高級住宅を作って売り出しをかけているが、お年寄りでお金持ちしか住まない、あまりマンションとしては面白くない、あるいは町としても面白くない」と発言したことについて、原告が企業論理に反すると主張したことに対して、被告は不当な非難であって、根拠がないと非難する。しかし、この非難はまったく見当違いも甚だしい。自社が販売しているマンションについて、面白くないないなどと発言するのは、セールストーク、営業用会話としても企業の論理に反するものである。営利企業である三菱商事が、品川区を悪しざまにいい、目黒区にとくにサービスする理由などあるわけがないのである。審査委員たちが、売り込みのセールストークを真に受けて信ずるようであれば、審査委員として不適格というしかない。

また、今回は数字よりは環境、コミュニケーションとまことしやかに発言しているが、三菱商事の72億円は14件の見積中、上から7番目であり、最高価格よりも39億1000万円も安いのである。このことからして、環境、コミュニケーションを理由に挙げて、安く買い叩こうとしている魂胆が丸みえである。

住民からの要望、要求があったときのために、予め腹案を用意し、それを考慮にいれた上で価格を提案しているのが当然なのである、と被告は主張する。この主張は大きな間違いである。すでに原告は、その間違いを指摘している。応募要領に価格を審査対象にするとしているのだから、企業努力をして、より高い価格を提示すると同時に提案内容にも工夫を凝らすのが提案企業として当然である。

予め腹案を用意するとは、つまり三菱商事にとって限度額いっぱいの見積をしなかったわけである。住民からの要望があれば、共同住宅の階高まで変更する用意がある旨の発言までしている。それならば、なぜ区は階高を下げさせて契約しなかったのか。契約後、現在まで住民からの要求はないのだから、区は三菱商事に39億1000万円も安く売却した上にさらに数億単位で儲けさせたことになる。

原告が、目黒区と三菱商事が事前に打ち合わせをしたのではないか、と推測したのには、それなりの理由があってのことである。その理由を再び繰り返すが、公共スペースの名称「目黒フォーラム」は区が進めている「目黒協働フォーラム」に酷似していること、公共スペースについて「区からの要請があれば区への譲渡も考えさせていただきます」と提案書に書いてあったこと、ヒアリングで審査委員が譲渡は可能か、またどの位の広さまでできるのかという趣旨の質問をしたら、待ってましたといわんばかりに605uから1300uに増やして譲渡を了承したこと、そのことが審査委員会で大きく評価されたこと、1300uの公共スペースについて助役・佐々木が8億円を超える金額に相当すると発言していること、などである。事前の打ち合わせがあったことを疑わせるに十分なことの運びであった。


(4)被告は、111億1000万円の提案者が、ヒアリングで150uの公共スペース、階高の変更について即答できなかったことを柔軟性がないと非難するのは、非常識であり、見当違いである。価格を審査対象とする公募提案で競争に勝つために、他社より高い価格で落札、受注しようと限度額いっぱいの見積をするのは企業として当然である。それなのに、ヒアリングで突然、数億単位の金額に相当する階高の変更を求められても、一担当者が即答できないのは当然である。20分のヒアリングで即答を迫ることこそ、企業のことをまったく知らない非常識というものである。

72億円の見積で最高価格より39億1000万円も安い三菱商事なら即答できても、111億1000万円の提案なら即答できないのは当然である。



7.「第7 評価項目としての総合的評価」を否認する。


審査委員会で価格と提案内容を総合的に比較考量せず、多くの審査委員が記入しなかった「総合的評価」欄を設けただけでは、何ら総合的評価をしたことにならない。被告の主張である定量的、定性的を同一の次元で比較できないのであれば、価格評価を「総合的評価」に入れるのは、矛盾している。



8.「評価項目としての価格」を否認する。

 
(1)111億1000万円の提案が、価格が高いためにヒアリングの対象になったことについては、今回の準備書面ですでに述べた。

価格と利用計画が定量的と定性的で同一の次元で比較することが、事実上不可能であることは、審査委員会の各委員にとっては自明のことであったため、価格をどう考えるべきかについての発言が繰り返されたと主張する。これは大きな誤解である。各委員にとって自明のことならば、「価格を評価しないのか」といった発言がでるはずがない。価格を評価対象とするとしたのに、価格を正当に審査せず、また評価しなかったために発言が繰り返されたのであり、被告の主張とはまったく逆なのである。被告は「価格をどう考えるべきかについての発言」というが、そうした根本的なことは論じられていない。ほとんどの審査委員は、売却予定価格を超過していれば価格はいくらであっても構わないとして審査したのは、原告が準備書面(3)で詳述した通りである。

  (2)価格評価の基準を予定価格を超えた1億円=0.1点として、不当に軽視しておきながら、「土地利用計画を重視する立場からみれば、価格によって環境を売ることは不当であるという非難も可能なのである」と被告は主張するが、土地売買の実情を知らない的はずれの空論に過ぎない。原告がすでに述べたように、不動産鑑定の評価基準には「最有効使用の原則」があり、価格を提案する企業もそれを基本にする。近隣地域の土地価格や利潤などを考慮して、見積するわけであり、常識外れの法外な価格を提示して、企業が環境を買うことなどあるわけがない。企業にとって何の利益もないのである。

被告は、三菱商事の土地利用計画が他の提案と比較して、飛びぬけて優れた提案のごとく主張を繰り返しているが、そんなことはないのである。2位に順位付けされた83億円の提案とは、甲乙つけがたく、また111億1000万円の提案であっても近隣住民に与える影響にほとんど変わりはない。旧本庁舎の5階建の跡地に13〜14階の3倍近い高さの共同住宅が建設されるのである。最有効使用では、5〜6階建の共同住宅を想定したのに、三菱商事の13階建の共同住宅が建設されているのである。

また、被告は予定価格を1億円超過する毎に0.1点とされたのは、最高提案額である111億円の提案が各小項目の満点とほぼ同じ5点を得る、すなわち、価格評価のウエイトが利用計画における小項目とほぼ同じで、合理的であると主張する。

価格は定量的、利用計画は定性的で同一の次元では比較できないと繰り返し主張している被告が、その主張を無視して1億円=0.1点は合理的であるとするのは、なぜなのかまったく理解できない。予定価格の56億4760万円と111億1000万円の価格差は約55億円であり、予定価格超過額を1億=0.1で換算すると5.5点である。が、50億以上は5点と決めたため、5点になる。その5点が、小項目の満点の5点だから、合理的であるという論法である。しかし、小項目とは、「用途の適切性・街並みとのバランス」「風害・電波障害・交通処理・日影等」などである。たとえば、用途の適切性では最有効使用の共同住宅と違い学校であるのは、公会堂土地の1件のみで他はすべて共同住宅である。また、街並みとのバランスは、旧庁舎の5階建の跡地に11階〜25階までなのだから、どの提案もバランスを崩すことに変わりはない。そうした小項目の満点の5点が予定価格超過分の55億円に相当することが、どうして合理的であるのか、まったく何の根拠もない。

風害・電波障害・交通処理・日影等については、日影などは法令で定められているし、電波障害も共同アンテナなどで解決できる。満点が予定価格超過分の55億円に匹敵するものではないのは、改めていうまでもないことである。

小項目の設定、1億円=0.1点は公募提案の締め切り後に決められたものであり、三菱商事の72億円の提案を111億1000万円の提案が価格評価で逆転できないように細工された審査基準であると推認するに十分であるというべきである。1億円=0.1を1億円=0.5や1億円=1点などに換算率を変更すれば、簡単に順位が入れ代わるのである。そうした議論は審査委員会で皆無であった。

政策会議(平成14年5月9日)の問題点について、原告は今回の準備書面ですでに述べた。



9.「第9 まとめ」を否認する。



被告は、ここでも価格は定量的、利用計画は定性的であり、同一次元で評価を行うことは事実上不可能であるという主張を繰り返している。このことが即ち、審査委員会で価格を合理的かつ総合的に判断し審査することを放棄していたことを認めていることにほかならない。被告が三菱商事に最高価格の111億1000万円より39億1000万円も安く72億円で売却したことは、適法であるとする主張をすればするほど、違法であったことが明白になってきたというべきである。

 

以上