平成15年(行ウ)373号 損害賠償(住民訴訟)請求事件

原 告  須藤甚一郎

被 告  目黒区長

 

 

準 備 書 面 (8)

 

平成17年3月29日

 

 

東京地方裁判所民事2部C係 御中

 

原告本人 須藤甚一郎

 

 

はじめに

原告準備書面(7)平成17年2月1日付の誤記の訂正について

 

 原告準備書面(7)第1 審査委員会会議録の下書きについて2に、誤記があったため、訂正します。準備書面3頁の下段から5行目の「契約課用地売却担当課長」は誤記につき、「契約課用地売却担当係長」に訂正します。

 

第1 審査委員会の録音テープの内容について

 

1 原告は、平成17年2月2日、目黒区総務部契約課に目黒区本庁舎跡地等土地利用計画審査委員会(以下、審査委員会と略す)を録音した録音テープを開示請求した。(甲第38号証)

その結果、同年2月16日に開示された。(甲第39号証) 甲第39号証の「行政情報の部分開示の内容及びその理由並びに開示の方法」に「録音テープ(120分テープ:2倍速録音)と記載されているように、録音スピードは通常のものではない。2倍速録音とあるが、正確にいえば120分の録音テープを2分の1のスピードで録音し、最大限240分録音できる方法で録音したテープである。

また、開示方法として、原告には貸し出しによる視聴方法をとり、貸出期限は同年3月28日までである。なお、原告が東京地方裁判所に証拠資料として提出する場合のみ複写を認めている。審査委員会の録音テープは、第1回(平成14年9月24日)から最終回の第6回(平成14年12月13日)まで7本あり、審査委員会の時間は合計約11時間45分である。

原告は、7本の録音テープの要点メモを取り、必要な個所は反訳しながら聴いた。しかし、録音テープを聴いていただけばわかるとおり、開示された録音テープは、全般にわったって極めて聴き取り難く、個所によっては、発言内容を正確に把握することすら困難なほどであった。その理由は、いくつかある。

@ 録音のスピードが、標準速度の2分の1であるため、音質が悪い。その上に開示された録音テープは、録音したままのオリジナル・テープではなく、ダビング(複写)したテープのため、さらに音質が悪くなり、ノイズ(騒音)もひどくなったのではないか。

A 審査委員会会場で録音機を置いた場所が、審査委員長席と審査員会事務局の契約課長・加藤義光の席の近くであったのか、審査委員長と契約課長・加藤の発言は審査委員と較べてやや聴き取りやすい。しかし、ノイズにかき消されて発言がほとんど聴き取れない審査委員が少なくないのは、録音機から離れた位置にいたためなのか。

B 開示された第5回及び第6回の審査委員の録音テープは、応募者名及び応募者名が特定できる情報を消去しダビングしたため、審査委員の発言が分断され、個所によっては数分間の空白がある。ノイズが発言の声より大きく聴きづらい上に、発言が分断されているので、審査の流れを正確に把握することが非常に困難であった。売却先である三菱商事の企業名は、公表されているにもかかわらず、録音テープから消去されているのは、いったいどういうことなのか。

原告は、審査委員会事務局の職員が作成した会議録の下書きである「議事の経過と主な発言」(甲第36号証)と録音テープの内容を照合した結果、審査経過と審査内容の大概は理解することができた。「議事の経過と主な発言」は、審査委員会に同席した事務局職員が作成したものである。その職員は、審査委員の発言をメモを取っていたはずであるし、また録音したオリジナル・テープを聴いてまとめたのであるから、開示された録音テープを聴くだけよりは、実際の審査内容を容易に把握できたと思われる。もっとも、まとめ方に問題のある個所も存在する。

録音テープの内容から判断すると、審査委員会による公募された旧区役所本庁舎・公会堂跡地利用計画の審査は、被告の主張するような適正なものではなく、審査過程そのものに致命的な瑕疵があり、とうてい適正な審査といえるものではなかったというべきである。その理由をつぎに述べる。

 

2 まず、第1回から第6回までの審査委員会の録音テープを聴いた結果を総論的に述べる。そのあとで、審査委員会会議録(甲第2号証、事実証明書6)に記載されていない発言と審査委員会会議録と食い違う発言について、必要個所を反訳して、簡潔に述べることにする。

 

(1)審査委員会の助役・佐々木のあいさつについて

第1回審査委員会の冒頭で、審査委員である助役・佐々木英和が、つぎのようにあいさつした。

「助役の佐々木と申します。本来ですと区長が参りまして、ごあいさつするべきものですが、所用のためできません。ご存知のように、千代田生命本社跡を取得することができました。それに伴いまして、その大半の財源を現用地を売却することにより、捻出しようということでございまして、早速この春から準備にとりかかりまして、各種用地等の売却を進めてきたわけでございます。

この現庁舎用地と公会堂の跡地、それと通りのあちらにございます第3、第5庁舎跡地につきましては、それぞれ売却をいたすわけでございますが、単純に一般競争入札ですと、やはり、あの区役所のあった用地がどのように変貌するかわからないということから、地元の方々、区民の皆さまが大きな関心を寄せているところでございます。

そこで、ええ、本区としましては、はじめての取り組みでございますけれども、公募提案制ということで、単に価格だけではなく、その後の街づくりの要素も加味しながら、どこへ売却するのが妥当かということを審査願いたいという趣旨で、この委員会を設置したような次第です。そういう意味では、この審査会、ひとつは街づくりの視点ともうひとつは財源確保という点も加味しながら、ご判断、ご審査をいただきたいと、そういうことでございます。

その役割分担につきましては、設置要綱等で述べている通りでございますけれども、この審査会で最初に作業としてやっていただかなければなりませんのは、じつは、評価の基準のつきまして、おおよその目安といいましょうか、・・・・・・(聴き取り不能)どのようなところに視点を置いて審査したらいいのかということも含めまして、当審査会でご審査いただければ、ありがたい。このように考えております。

ええ、それから最終的には、やはり区の財産を処分することになりますので、どこへ売却するかは、最終的には区長が判断することでございますけれども、当審査会としましては、順位付けをしていただいたうえで区長に報告する、こういう形にしていただければ、と考えております。大変お忙しい折ではございますが、今後何回かこの会合を持っていただいて、今年の暮には評価の結論をいただきたいと考えております。どうぞお忙しいとは思いますが、よろしくお願いします」(甲第40号証)

助役・佐々木は藥師寺区長の代役として、「当審査会でご審査いただければ、ありがたい」「順位付けをしていただいたうえで、区長に報告する」などと、あいさつしたが、助役・佐々木は審査委員なのであるから、奇異な発言である。審査委員に審査を依頼する者が、審査委員であっては、公正・公平な審査を期待できないのは、いうまでもないことである。

助役・佐々木のあいさつで重要な発言は、千代田生命本社跡を取得し、その大半の財源確保を区の用地を売却して捻出するといっていること、また公募提案方式により、単に価格だけではなく、その後の街づくりの要素も加味して、審査するため審査委員会を設置したといっていることである。

しかし、審査委員会の第1回〜第6回(最終回)の録音テープを聴くと、1度も財源確保のための旧本庁舎・公会堂売却であり、そのためにどうするかを議論していないのがわかる。応募した提案の価格の有利性についての議論や財政的見地からの検討が、審査委員会でまったく行われなかったのは、どうしてなのか。当然、審査委員会としては、価格の有利性や財政的見地からの検討をすべきであった。区の財政難のときに千代田生命本社跡を174億円余で取得し、その財源確保のための用地売却であることは、12人中9人もの助役・佐々木ら行政側審査委員たちは、熟知していた。けれど、審査過程で財源確保の見地からの検討は、まったく無視された。

助役・佐々木は、あいさつで「単に価格だけではなく、その後の街づくりの要素も加味しながら、どこへ売却するのが妥当かということを審査願いたいという趣旨で、この委員会を設置した」といったあと、すぐに「この審査会、ひとつは街づくりの視点ともうひとつは、財源確保という点も加味しながら、ご判断、ご審査をいただきたい」ともいっている。この言い方では、優先させるのが財源確保なのか、街づくりなのか明確ではない。しかし、その後の審査委員会で、財源確保という見地から提案を審査した発言は、録音テープに収録されていない。まず、価格を含まずに審査し、14提案を7提案に絞り込み、最終的に何の根拠もない予定価格を超こえる1億円=0.1点を、事務局が機械的に加点しただけである。このことから、財源確保、価格の有利性を度外視して、単に提案された跡地利用計画のみを重視して、審査が行われたのが、録音テープで明らかである。

財源捻出、財源確保の売却なのだから、逆の審査手順を採用したほうが合理的であった。助役・佐々木が最初に発言したように、「単に価格だけではなく、その後の街づくりの要素を加味しながら」の審査、つまり、はじめに価格のみの評価で14提案を7提案に絞込み、そのあとで街づくりの要素を加味した審査を行なう方法である。そうすれば三菱商事の72億円の提案が1位に順位付けされることはなかったのではないか。なぜならば、三菱商事の72億円は、14提案中、価格で7番目の価格であったのである。

 

(2)価格差と提案内容差の審査について

録音テープをすべて聴いても、審査にあたって最も重要な提案内容の差と価格差を議論、検討した形跡は、皆無である。審査委員会は、最終回の第6回審査委員会で価格が72億円の三菱商事の提案を1位に順位付けした。14提案中、72億円は7番目の価格である。最高価格111億1000万円との価格差は、39億1000万円であり、2番目の価格83億円との価格差は、11億円である。が、三菱商事の提案内容が、39億1000万円あるいは11億円の価格差に匹敵するかどうかの審査をしなかったのである。

被告は、価格は定量的、提案内容は定性的であり、理論的にも事実上も同次元で比較できないと主張しているが、録音テープを聴く限り、そのような発言をした審査委員は1人もいない。

被告は、準備書面(3)第8の2で、価格評価は定量的、土地利用計画評価は定性的であることから、「両者を同時に同一次元で比較することは事実上不可能であることは、審査委員会の各委員にとっては自明のことであった(それ故にこそ、価格についてのどのように考えるべきかということについての発言が繰り返されているのである)」と主張している。

しかし、審査委員会で価格について議論されたのは、評価書に記入するとき価格評価を含むのか否か、最初から価格を含めて評価すると、利用計画の評価で下位にあっても上位になる、売却予定価格を超過していれば問題ないなどということだけである。肝心な提案内容の差が価格差に匹敵するのかどうかという議論は、いっさい行なわれなかった。

被告は、価格は定量的、提案内容は定性的ということは各審査委員にとっては自明のことであったと主張する。が、録音テープを聴いても、価格は定量的、提案内容は定性的の文言を使用した発言はないし、発言内容から、そのことをうかがわせる発言もなかった。したがって、各審査委員が、価格は定量的、提案内容は定性的という考えを合意して、審査をしたとはいえない。被告のこの主張は、審査が終了し、住民訴訟の過程で突然、言い始めたものであって、価格差と提案内容差を比較考量して審査しなかった言い訳の詭弁にすぎないというべきである。

被告の主張するような価格は定量的、提案内容は定性的で両者は比較できないのであれば、随意契約ならば価格はいくらで売却しても問題ないことになり、地方自治法、同施行令で定める随意契約及び判例の趣旨の根幹を揺るがすことになる。

 

(3)周辺地域の住環境との調和について

被告は、地方公共団体の売買の原則である一般競争入札によらず、公募提案方式による随意契約を採用したのは、周辺地域の住環境との調和のためであると主張し続けている。助役・佐々木が、審査委員会の冒頭で「公募提案制ということで、単に価格ではなく、その後の街づくりの要素も加味しながら」と述べているのは、先述した通りである。

審査が行われた平成14年9月〜12月は、まだ旧本庁舎・公会堂が存在していて、審査委員会は旧本庁舎内で開催された。しかし、審査委員会が審査するにあたって、周辺地域の住環境がどういうものであるかという事務局からの資料提出もなければ、口頭による説明もなかったのは、録音テープの内容から明らかである。各審査委員が、現状の周辺地域の住環境を正確に把握していなければ、例えば提案された建築物の階数ひとつをとってみても、何階までなら、住環境と調和しているといえるかを的確に判断できない。録音テープを聴くと、「25階建の超高層はダメだ」などと主観的に発言しているのが目立つだけであり、周辺地域の住環境を把握し、客観的に調和を議論し、審査した発言は収録されていない。

あえて公募提案方式による随意契約を採用したのだから、区が目指す街づくりの行政目的を具体的に審査委員会に示し、それに沿った現在と将来の周辺地域の住環境との調和を基準にして、審査を行なうべきであった。区長を除いた区の行政幹部9人が審査委員でありながら、具体的な街づくり計画の基準、住環境との調和を議論しなかったのは、つまり、街づくり計画の基準がなかったことにほかならない。周辺地域の住環境との調和は、単なる謳い文句であったのがわかる。

原告は訴状(5頁)で述べたように、旧本庁舎・公会堂の近隣(半径76.6メートル)はおろか半径200メートル以内にも10階建以上の建築物は存在しないのを住宅地図で確認している。ちなみに、旧本庁舎は5階建、公会堂は2〜3階建であった。その跡地にどんな建築物なら、住環境との調和といえるのかといった、初歩的な検証もせず、審査は極めて杜撰に行われた。その結果、旧本庁舎跡地には13階建、公会堂跡地には12階建の三菱商事の提案を1位に選んだのである。とうてい周辺地域の住環境との調和といえるものではない。

助役・佐々木は、公募提案制とのみ説明し、それが随意契約であることの説明はしていない。行政側審査委員の9人は、随意契約が地方自治法で例外として認めている契約方法である認識はあったかも知れないが、学識経験者3人の審査委員にそのことの認識があったかどうか疑わしい。行政側審査委員の中にも、所管が異なり契約問題について精通していない者もいるわけで、審査を開始するに先立って、公募提案方式が随意契約であることは、説明すべきであったが、その説明をしていない。また、随意契約であっても、価格の有利性を考慮しなければならないのに、審査過程で、それについての議論はされていない。

 

(4)応募要領にある留意点について

「公募提案方式による区有地売却の応募要領」(乙第1号証)の4頁に(応募上の留意点)として、(1)〜(4)までの留意点が記されている。第2回目の審査委員会で審査委員会事務局の契約課長・加藤が、応募要領に基づいて留意点の説明をしているのが、録音テープに収録されている。しかし、公募された各提案が、留意点を満たしているかどうかの議論はされていない。

審査委員によっては、留意点について、理解せずに審査を行なっていたのである。第4回目の審査委員会で、ヒアリングのやり方に関して議論しているとき、ひとりの審査委員が整理番号11の提案について「応募要領に桜をどうするか、とあるのに触れていない」と発言している。これは間違いである。桜とは、公会堂の敷地内ある桜のことであるが、応募要領の留意点(3)に「緑化について配慮すること」とあるだけで、桜をどうするか、といった記載はない。留意点について、この程度の理解で審査をしていたのである。「応募要領に桜をどうするか、とあるのに触れていない」の発言があったとき、委員長も他の委員も応募要領にないことを指摘していないのは、どうしてなのか。委員長も他の委員も応募要領の留意点に桜についての記載があると思っていたからか。

そもそも留意点(1)〜(4)を見ればわかるように、極めて抽象的であり、区が財源捻出で本件土地を売却するにあたり、どんな行政目的で今後の街づくりをしようとしていたのか、皆目わからない。留意点で具体的なのは、バス停と郵便ポストを残せということだけである。

原告が、かねてから主張している条件付一般競争入札を採用していれば、留意点を理解せずに審査するような杜撰な審査は、しなくて済んだのである。

 

(5)土地利用計画提案評価書について

第1回の審査委員会で、土地利用計画提案評価書(案)(甲第41号証)が各委員に示され、契約課長・加藤が説明したのが、録音テープに収録されている。この評価書(案)の内容は、最終的に各審査委員が記入した土地利用計画評価書(甲第8号証)と価格評価欄が異なるだけである。評価書(案)の価格評価は、売却予定価格を10億円超過するごとに1点を加点することになっている。が、評価書では売却予定価格を1億円超過するごとに0.1点を加点することになった。

審査委員会会議録(甲第2号証、事実証明書6)の第1回目には、

「評価基準について」

(事務局)「今回は土地利用計画審査の評価書について素案をお示しした。次回までにご意見があれば事務局までお知らせいただきたい」

と記載されているだけである。

しかし、録音テープを聴くと、東京工業大学名誉教授で審査委員長谷口汎邦が評価書(案)について「まだ、これはタタキ台でございますんで」と前置きして、続いて契約課長・加藤が評価書(案)について「おおよその目安ですが、委員の裁量の中で採点していただいて」という趣旨の発言をしている。

また、審査委員長・谷口は、評価書(案)について、

「これを作りますのに、個人的にいろいろ相談がありまして、項目の名目は非常に大事でして、それぞれの部局のお立場でなかなか難しいなと、2度、3度直しながら、だいたいこれに落ち着いた。

目黒区の街づくりの方針とか全部加味させていただいた。もちろん、難点が多くて当然なんです。ですから、そのことを含めて、このつぎの説明のときには、全体として、この所にウエイトを置いたほうがいいとか、それは、また、そのときに」という趣旨の発言をしている。

第2回の審査委員会の会議録では、

「評価基準について」

「評価基準について特に意見等はなく、今回の審査委員会においては事務局案で各委員が持ち帰り、試行審査する。その結果、評価基準に不都合があれば検討することになる」とある。

 審査委員長が、まだタタキ台であり、難点が多くて当然だ、といっていた評価書(案)であったが、「評価基準について特に意見等はなく」、これでヒアリング対象の参考にする審査が行なわれた。価格評価が、10億円=1点から1億円=0.1点に変更されただけで、他の審査項目、小項目、細目の変更なしに、最終的な評価書になったのである。このことから、委員長自身が認めているようにタタキ台で難点がある評価基準に則り、審査が行なわれたのがわかる。審査で一番重要な審査基準である評価書について、各委員は詳細に検討したのだろうか。審査委員長と審査事務局任せにしていたといっていい。

 第3回の審査委員会の会議録では、

「評価基準について」

「現在(案)で特に問題はない。現在(案)で審査し、ヒアリング対象の参考にする」とある。

ヒアリングの行なわれた第5回の審査委員会で、価格評価が売却予定価格を10億円超過するごとに1点の加点であったのが、1億円超過するごとに0.1点の加点に変更されたのである。

しかし、評価書(案)及び評価書の小項目である「街並みとの調和」「住民への寄与」「緑化の確保」「公害等」、細目の「用途の適切性」「街並みとのバランス」などの細部全般について、その合理性、留意点との関係、そして5点満点の採点方法の配点根拠等について、審査委員会でまったく議論していないのが、録音テープを聴くとわかる。貯水槽、緑化、導入施設、空地等を断片的に議論はしているものの、各提案を比較して優劣を論ずることはしていない。適正に審査委員会が検討したといえるものではない。

価格評価が評価書(案)では、予定価格を超過する10億円ごとに1点、それが評価書では1億円ごとに0.1点になったが、いずれの場合にも契約課長・加藤は、その根拠について説明していない。評価書(案)は、審査委員長・谷口が認めているように、谷口が事務局から相談されて一緒に作成したものである。しかし、審査委員長・谷口も価格評価の基準の根拠については、説明していない。ただ契約課長・加藤が、10億円ごとに1点だと9億円でも0点なのが、1億円ごとに0・1点として、よりきめ細かくしたと説明しているに過ぎない。これでは説明になっていない。こんな根拠のない基準で、価格を無視して順位付けしたあとに、加点したからといって価格評価をしたことにはならない。

区財政逼迫の折、財源捻出のための区有地売却であるにもかかわらず、これほど価格を軽視した評価基準に関して、行政側審査委員9人の誰もが異議を唱えなかったのは、考えられないことである。審査委員に区財政をまっ先に考えなければならない助役、収入役、企画経営部長、財政部長が顔をそろえていながら、区財政の見地からの検討をしなかったのである。

録音テープを聴いてみると、審査委員会とは名ばかりで、各審査委員は各提案書を参考にして、審査委員長と事務局が事前に決めておいた評価書(案)にしたがってヒアリング対象選びの参考に記入し、さらにヒアリング後に、最終審査で評価書に記入しただけである。しかも明確な基準もなしに、各審査委員が、契約課長・加藤のいうように「委員の裁量の中で採点」したに過ぎないのである。その結果を集計して、価格を含まないで7位までの順位付けをしたあと、何ら根拠のない予定価格を超過する1億円=0.1点を加点し、三菱商事の提案を1位に順位付けした審査方法は、適正であったといえるものではない。

 

 

(6)売却予定価格の算出で想定した建築物について

第1回審査委員会において、契約課長・加藤が売却予定価格の金額について説明したのは、録音テープに収録されている。もちろん審査委員会には、売却予定価格の適否を判断する権限はない。しかし、売却予定価格がいかなる建築物を想定して算出されたものであるかを知っていなければ、適正な審査はできないはずである。然るに、審査委員会事務局の責任者である契約課長・加藤は、各委員にその説明をしなかったのである。

旧本庁舎・公会堂の売却予定価格は、56億4,760万円であった。原告が、準備書面(4)第2の3(3)イ〜ホで詳述したように、売却予定価格は、区が鉄筋コンクリート造5〜6階建、ファミリータイプマンションを想定し、財産価格審議会に諮問し、審議を経て答申を受けて決定したものである。つまり、区は周辺地域の住環境に調和するのは、5〜6階建のファミリータイプマンションであると想定していたのである。確かに5〜6階建、ファミリータイプマンションであれば、旧本庁舎は5階建なのだから、周辺地域の住環境と調和しているといえる。ところが、応募され、予定価格を超えていた14件の提案は、7階建の2提案を除き、ほかは11階〜25階の建築物であったのだ。

予定価格の算定にあたり想定した建築物の階数を考慮せず、予定価格の価額のみを階数の高い建築物に適用して、予定価格を超過していれば、一次審査は価格がいくらであっても構わないとした審査方法は、適正であるとはいえない。審査委員の中には、審査委員の紹介のとき、財産価格審議会委員と紹介された天野克也もいたのに、録音テープを聴いても予定価格算出で想定した建築物が5〜6階建ファミリータイプマンションであることに言及した審査委員はひとりもいなかったのである。

 

(7)審査委員会の審査方法について

公式な審査委員会会議録(甲第2号証、事実証明書6)の第1回〜第6回までを通読すればわかるように、会議録にまとめられているのは、近隣説明会のやり方、提案を住民に閲覧させるときに資料のどれを見せるか、ヒアリング対象者をどう選ぶか、ヒアリング時間をどのくらいにするか、ヒアリング対象を選ぶには価格を評価するのか、同一業者が複数の提案をしている場合はどう扱うか等、審査の進め方、手続きについてがほとんどである。最終回の第6回に至っても、やはり順位付けについての手続きを論じていて、1位に順位付けした三菱商事の提案内容についての発言は記されていない。しかも、第1回の審査委員会は、1時間45分であったのに、会議録はわずか2頁足らず。第2回の審査委員会は2時間30分も行なわれたが、会議録は1頁と8行しかない。会議録は、原告が準備書面(7)の4で述べたように、三菱商事を1位に選んだあとに、審査委員会事務局が第1回〜第6回をまとめて作成した。

第1回〜第6回の録音テープを聴いてみても、第5回のヒアリングを除いて、肝心な跡地利用計画の提案内容についての議論は、ほとんど行なわれておらず、資料に関する契約課長・加藤の説明と審査委員長、審査委員による審査の進め方、手続き等についての発言に始終している。最終的に第1位に順位付けされた72億円の三菱商事の提案について、審査委員会で仔細にわたり審査した形跡はない。また2位に順位付けされた83億円の提案、最高価格111億1000万円と三菱商事の提案との価格差、提案内容差を比較考量した発言も、まったくないのである。

審査委員会は第1回と第6回で、審査経過が公開されるのか、議事録(会議録)は非公開か、各委員の記入した評価書は公開されるのか等の議論があったのは、会議録の下書きである「議事の経過と主な発言」(甲第36号証)に記載されている。録音テープにも収録されている。なぜ、審査委員たちは、議事録や評価書等が公開されるのを心配していたのか。責任を持って、公正・公平に審査するのが審査委員なのだから、心配する必要などない。

事務局の契約課長・加藤が、会議録を作るが要点のみで趣旨を載せるだけであり、委員の個人名は出さない、評価書も氏名の部分は伏せておくと説明している。さらに加藤は、会議録を作り委員長に見てもらい内容を確認してから、各委員に配布すると念を押している。

しかし、作成された会議録が不備であったため、こうした新事実が明らかになった。

審査委員長・谷口は、本件土地売却で監査委員による関係人調査を受けた記録である「監査委員協議録」(甲第9号証)65頁に、各提案の金額を審査委員に知らされたのは、いつの時点であったか、と監査委員に質問されて、

「非常に、一番、もう、最後の最後です。あのー、評定した、すでに評定した結果について、確か、いくら、何億を何点としますということが発表があって、それについて議論がありました」と答えた記録がある。

けれど、これは虚偽である。録音テープを聴くと、第1回の審査委員会で資料を配布して、14件の各提案について金額と提案概要を契約課長・加藤が説明している。審査委員長・谷口は、第1回目の会議録に各提案の金額を説明した記載がないので、金額を知らされたのは、最後の最後、つまり第6回の審査委員会であったと答えたのか。まさか録音テープが公開されることになるとは考えずに虚偽の回答をしたのだろうか。審査委員長・谷口の虚偽の回答は、最初から各提案の価格を知っていながら、審査委員長として、価格と提案内容を勘案して審査しなかったことを隠すためであったというべきであろう。

 

(8)第3回目審査員会の「政治的判断」について

 第3回審査委員会会議録の「評価基準について」の中段に、ヒアリング対象を選ぶ議論の中で「価格の高いものが外れる場合には、そこが何故外れたのかという明確な理由が必要になる」という発言の記録がる。

 会議録は、発言の趣旨をまとめるものだというが、このまとめ方はまったく事実に反するものである。なぜならば、録音テープを聴いてみると、要約された上記の発言の前後に、じつはつぎのような発言が収録されているのである。

 

(委員長)そのときに、コストの問題はどうするか。おカネの問題でね。・・・・(聴き取り不能)ちょっと差がないのでね。こうなんか政治的に判断ということで。人さまの場合は、何かあるんで・・・(聴き取り不能)たぶん区議会の方は、全部そうだろうと思うんですね。

(委員)逆にそれをはずしたら、具体的な理由は何だということが、逆にいうと問われる。

(委員長)最終的にポリシーが、ものすごく効いてくる。何がなんでも高齢者施設にしたいという思い込みがあればね。狙いは別にして・・・・(聴き取り不能)

(委員)私は妥協案ですけどね。価格のほうでトップのは、文句なしに聞くんだ、ヒアリングするんだ、ということでまず入れちゃう。それと住宅系だけで進めて、文教施設があるのに、はずれちゃってもいけませんから、そういう要素で加えるということに妥協すれば、だいたいヒアリングするのは固まってくる。

(委員、助役の声と思われる)ヒアリングの中で・・・あと決めるのは、価格であるということなら、ひとつの説得力はあるのかなと思うんです。いろいろな視点からヒアリングをしたことになる。(甲第40号証)

 

 録音テープにノイズ(雑音)が多いが、以上の発言のやりとりがあったのがわかる。なぜ、「こうなんか政治的判断ということで。人さまの場合は、何かあるんで・・・たぶん区議会の方(かた)は、全部そうだろうと思うんですね」という発言が飛び出したのか。この発言を受けて、他の委員が「逆にそれをはずしたら、具体的な理由は何だということが、逆にいうと問われる」と発言しているのだ。

 この発言のやりとりからは、公平・公正であるべき審査委員が、区議会議員の意向を気にして審査していると推察できる。「たぶん区議会の方は、全部そうだろうと思うんですね」が何を言わんとしてしるのか明確ではないが、審査委員名は審査中は非公開であったため、区議会議員でも審査委員が誰であるか知らなかった。しかし、特定の区議会議議員は審査委員が誰であるか知っていて、審査委員に働きかけ、いわゆる口利きをしたとも受け取れる発言である。

 発言の流れから判断すると、「逆にそれをはずしたら、具体的な理由は何だということが、逆にいうと問われる」とは、区議会議員から具体的な理由が問われるということになる。

 委員長が「最終的にポリシーが、ものすごく効いてくる」と発言しているが、ポリシーとは、区議会議員のポリシーか、それとも審査委員のポリシーなのか定かではない。助役と思われる声の発言で「ヒアリングの中で・・・あと決めるのは、価格であるということなら、ひとつの説得力はあるのかなと思うんです。いろいろな視点からヒアリングをしたことになる」とある。説得力があるとの発言は、評価基準にしたがって審査するのではなく、批判がでたときの予防策にほかならない。審査の公正さを疑わせる発言である。

周辺の住環境との調和のため、公募提案方式を採用したというのだから、何ものにもとらわれず、審査はそれに沿って公正・公平に行なうべきである。本件土地売却は、議会の議決を経なければできないものであったが、審査過程では、政治的判断、区議会議員の意向、ポリシーなどの配慮は、あってなならないことである。

 

(9)提案の住民閲覧会場に業者が集団できた件について

 原告は、すでに準備書面(7)で審査委員会会議録の改ざんについて詳述した。下書きである「議事の経過と主な発言」には記載されているが、会議録から削除された発言については、準備書面(7)第1の2にある通りである。

 しかし、第3回審査委員会の録音テープを聴いてみると、若干の違いが認められる。録音テープのこの個所もノイズが多く聴き取りづらいが、反訳すると以下の通りである。

 

 (委員長)事務局としてご覧になったときに、説明会の意見とは、結果として何か新しいものがでている感じでしょうか、それとも・・・

(事務局職員)あのう、一部の住民で、(契約課長・加藤が割って入り)私ども、ちょっと拝見した限りでは、閲覧については業者の方がきておりまして・・・

(委員長)業者が?

(契約課長・加藤)非常に同じような、まことに不適切な、同じような声もあるということもございまして、なかなかその辺、取り扱いがやっかいなことが・・・

(委員長)同じような意見とは?業者が集団で押しかけ、同じ意見をだした?

(委員、助役の声と思われる)・・・(聴き取り不能)最後のほうの17番から23番まで・・・こんな・・・同じ意見で。

(委員長)なんか色がついている可能性がある。

(委員、助役の声と思われる)ですから、そういう意見がいくつあったという評価でしないで、こういう意向があったというふうに・・・お含みおきいただいたほうがよろしいのではないか。

(委員長)そういう状況をお含みおきいただければ、ありがたい。さて、それで。(甲第40号証)

 

 「議事の経過と主な発言」にある「閲覧期間中の様子で感じましたのは、近隣の方よりも業者の方の閲覧が目立ちまして、同じような意見を幾つも出していかれたようでした」の発言は、録音テープにそのまま収録はされていない。

反訳からわかるように、事務局職員が発言しはじめるとすぐに契約課長・加藤が発言に割って入った。そのために事務局職員の発言は途中で聴き取れなくなり、録音テープには契約課長・加藤の「私ども、ちょっと拝見した限りでは」以下の発言が収録されている。

 録音機の近くの声の大きい発言のほうが録音されるから、事務局職員は「議事の経過と主な発言」に記載されている発言をしたが、収録されていない可能性もある。会議録の下書きをまとめたのは、事務局職員であるから、閲覧会場で業者が住民を装ってやってきたのを目撃しているのである。したがって、下書きと録音テープに若干の異同はあるものの、いずれにしろ特定業者が住民を装って閲覧会場に押しかけて、自分たちに有利な意見を記入したことに変わりはない。

 原告は、この発言を下書きから削除して、会議録に載せなかったのは、契約課長・加藤であると準備書面(7)で述べた。その事実に変わりはないが、録音テープを聴いた結果、この重要発言を下書きから削除し、会議録に載せなかったのは、契約課長・加藤の意思だけであったのかという疑問が生じてきた。その理由は、こうである。

 審査の公正・公平を歪める業者の不正行為を問題にする意思がなければ、加藤は審査委員会でわざわざ事務局職員に割って入って、自ら率先して発言する必要はなかったのである。この重大な不正行為を会議録に記録として残そうという意思があったからこそ発言したが、会議録にまとめる段階で翻意したか、あるいは誰かの圧力があって、削除せざるを得なかったとも考えられる。

 会議録は、まとめた後に、審査委員長が目を通して各委員に配布することになっていた。審査委員長だけではなく、行政側審査委員のトップであり、公募提案方式による随意契約で売却を決定したときは審査委員長とされていた助役・佐々木も会議録の草案に目を通していたはずである。

 その助役・佐々木は、録音テープの反訳部分で「(委員長)なんか色がついている可能性がある」の発言のあと、「ですから、そういう意見がいくつあったという評価をしないで、こういう意向があったというふうに・・・お含みおきいただいたほうがよろしいのではないか」と不正行為をした業者をかばう発言をしているのは問題である。業者が住民を装って記入した意見は、住民の意向といえるものではないのである。助役・佐々木が「111億円で売却したら区の責任さえ生じる」「39億も高く売ったら、一戸あたり1300万円高くなる」など、三菱商事寄りの発言を繰り返してきたことについては、原告はこれまでに準備書面、陳述書で述べてきた通りである。

 不正行為をした業者を審査委員会で特定し、問題にしなかったのは、どうしてなのか。この不正行為だけで十分に失格に値するといっていい。反訳部分の最後にあるように委員長が「そういう状況をお含みおきいただければ、ありがたい。さて、それで」とこの話題を打ち切って、つぎの話題にしてしまったのである。業者を特定しなければ、「そういう状況をお含みおきいただければ」といってもまったく無意味である。録音テープを聴いても、他の委員たちは、この不正行為に関してまったく発言していないのは、どうしてなのか。審査委員として不適格というべきである。

 その後の審査で、この不正行為を斟酌した審査は行なわれなった。これでは、不正のやり放題であり、不正をやった者勝ちであり、公正な審査においては不正業者を断じて許してはならなかったのである。

 

(10)審査委員会のヒアリングについて

 録音テープを聴いてみると、審査委員会会議録のヒアリング部分は、会議録の他の部分に比較して、割合に委員の発言が忠実にまとめられている。しかし、肝心な発言が欠落している個所もあるので、その発言を中心にして述べる。

 まず、整理番号7(三菱商事)のヒアリングで、コミュニティ施設(公共施設)が650uから1300uに拡大されたことについて会議録では、

「(委員)そうすると最大でどの位のスペースとなるのか。

(提案者)倍の1300u程度は可能と考えている。」とある。

が、録音テープでは、助役の声とわかる委員が、

「仮にこれでは狭いとなったとき、どの程度までだったら、とれますよ、と考えていらっしゃいますか」と発言したのが収録されている。提案者は、発言の中で公共施設について「最初に区からのお話があったとき、地域社会の融合ということでしたので、無償で譲渡をするというつもりで収支を積み上げている」と答えている。「最初に区からのお話があったとき」とは、いつのことをいっているのか。応募希望者を集めて説明会は開催されなかった。また応募要領の留意点では、公共施設についての記載はないし、地域社会の融合の文言もない。とくに三菱商事にだけ説明したのか。

もう一個所、ヒアリングで三菱商事が提案内容の変更はしなかったものの、変更は可能であると答えているのが、建物の高さである。会議録では、

「(委員)近隣住民の方から、仮に階数などについて要望があった時には、どう対応するのか」とある。

 録音テープでは、この質問も助役とわかる声の委員が、

「仮にですが、私はそんなことがないように願っているのですが、仮にこの計画で近隣住民の方が、どうもこれは高すぎるよ、もう少し頭をこうしろよ、と仮にそういうことになったときには?」と質問している。それに対して三菱商事の答えは、会議録では、13階、12階で計画しているが、「いろいろな場合のシュミレーションをしている。その場合でも企業努力のなかで吸収していこうという結論を持っている」と答えたことになっている。審査委員会は、この三菱商事の発言を重視して、提案内容に柔軟性があると判断し、そのことを高く評価したのである。しかし、会議録を精読すれば、13階、12階から何回まで低くするかについては、答えていないのである。録音テープを聴いても、助役をはじめ他の審査委員が何回まで低くできるのかの確認をした形跡はない。

 録音されている三菱商事の発言は、会議録とは大違いである。録音テープの発言は、つぎの通りである。

「ひとケタの9階、10階のシュミレーションもして、それでも私どもは金額を変えずに企業努力の中で吸収していこうという結論を持っている。ここでひとケタで決まったよ、といわれると困るんですが、それはまた別のことにしていただいて。考え方としましては、企業として腹を決めて応募しました」というものである。

 商談としては、この発言は高さを削ることに同意したことにはならない。なぜならば、「ここでひとケタで決まったよ、といわれると困るんですが、それはまた別のことにしていただいて」と留保しているのである。この発言を会議録に記録していないのは、会議録の改ざんというべきである。

審査員会は、三菱商事が変更に同意していない発言を曲解し、高さ変更に同意したとして、提案に柔軟性があると判断したのである。変更に同意したのであれば、審査委員会は、住環境との調和を中心に審査したのだから、三菱商事に何階までなら低くできるのかを明言させ、近隣住民の要求があろうがなかろうが、高さを削らせるべきであったのに、それをしなかったのは手落ちである。

また三菱商事は「区役所の跡地で、ムシロ旗が立つようなことにはいかないので、吸収できるものは吸収する腹づもりでこのプロジェクトに応募させていただいた」とも発言している。が、これは理屈に合わない発言である。それならば、なぜ、最初に提案するときに、その点を考慮して提案しなかったのか。

三菱商事は、ヒアリングで公共施設を2倍に拡大し、建物の高さを低くできる用意あると思わせる発言をして、点数稼ぎをしたといっていい。しかも、審査委員会は、その三菱商事の営業戦術に乗せられてしまったのである。公共施設を2倍に拡大した位では、39億1000万円あるいは11億円の価格差に匹敵するものではないのである。

審査委員である助役・佐々木のヒアリングでの質問は、不自然極まる。というのは、三菱商事に公共施設の拡大を質問したのに、提案では最大の公共施設である整理番号9,10については、質問していないのである。整理番号9,10は同じ企業の提案であり、公共施設はA案が1020u、B案が850uである。条件は三菱商事と同じく区への無償譲渡である。ヒアリングで広さについては、目黒区や近隣住民と協議して詰めていきたいとして、拡大してもいいといっているのに、拡大に関して質問していないのである。提案以上に拡大されては、何か困る理由でもあったのか。また整理番号13の提案は、価格が83億円で最終審査で2位になったが、ここでも助役・佐々木は公共施設拡大の質問をしていないである。なぜ、三菱商事にだけ公共施設の拡大を質問したのか不自然である。公共施設の広さが重要ならば、当然、各提案に対して同じ質問をするはずである。

整理番号13の建物の高さを低くする回答は、三菱商事よりも明解である。整理番号13は、階数を低くしても他の専有面積を増やすことができ、経済的に変わらなければ、対応できると答えているのである。しかし、「まあ、14階がだめで半分にしろというのはちょっと難しい」と会議録にある通りである。

最高価格111億1000万円の提案である整理番号12のヒアリングについていえば、審査委員会は価格の有利性を考慮したヒアリングをしていない。購入希望金額が高いため、審査委員会は実現可能かどうかヒアリングするとしていたのに、その観点からの質問をしていない。ヒアリングでは、共通質問である日影、既存樹木、公共施設などの詳細や共通質問にない駐輪場について質問しただけである。屋上緑化に関しての質問に対して、提案者は「後日でよろしければその点調べてお答えする」と会議録にある。録音テープを聴くと、ほかにも「実施ベースで」「協議して」などと即答せず、答えている個所がある。これは、審査委員会事務局が、ヒアリングする事前にヒアリングの趣旨を説明しておけば、こんなことはなかったのである。

たぶん提案者には想定外であった建物の高さを低くすることについては、助役ではない審査委員が近隣から要望があった場合に「弾力的に対応できるのか。そうした時に採算ベースとしてどんなふうにお考えか」と質問したのは、会議録にある通りである。これに対して提案者が「採算という意味においては仮に1戸減れば減った分だけ悪くなる」と答えているのは、当然であり、居住性との関係で計画変更を即答できないのも無理はないことである。

一担当者では、即答できないのであれば、価格の有利性では突出しているのであるから、審査委員会は日時を区切って回答させればよかったのである。111億円余の本件土地売却を提案書とわずか20分のヒアリングで判断しようというのが、無理なのである。随意契約であるから、契約時まで価格の有利性を生かして、提案した企業と交渉することも可能であったのである。

以上、審査委員会の録音テープにより、審査経過、審査内容の概要を検討しただけでも、とうてい審査が適正に行われたとはいえないのである。

 

                             以上