目黒区職員措置請求書

 

1 請求の要旨

措置請求の対象者:目黒区長 薬師寺克一

 

措置請求の内容:

 平成15年3月24日、目黒区長・薬師寺克一は、旧本庁舎・公会堂を公募提案方式と称する違法な随意契約により、三菱商事株式会社(代表取締役社長・佐々木幹夫)に72億円で売却した。同日、区長・薬師寺と三菱商事株式会社は売買契約を締結し、売買代金の支払いを済ませたことを区の契約課で確認した。
 区長・薬師寺は、合計14提案のうち、最高価格111億1000万円の購入希望価格を提示した業者がいたにもかかわらず、それを排除して金額で7番目の72億円で、三菱商事株式会社と契約を締結し、売却したものである。
 その結果、目黒区は最高価格との差額である39億1000万円の損害を受けた。 当該随意契約は、地方自治法第234条2及び地方自治法施行令第167条の2(随意契約)の1〜7号のいずれにも該当せず、違法である。

 しかし、請求人が区の契約課長に平成15年2月12日に確認したところ、当該随意契約は地方自治法施行令第167条の2の2号から、「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を適用したと認めた。この適用が違法である法的根拠は、のちほど詳述する。

 請求人は平成15年2月17日、地方自治法第242条1に基づいて、相当な確実さをもって予測される39億1000万円の損害を未然に防ぐため、違法な随意契約の差し止め及び不当な審査による提案採用を白紙に戻し、条件付き一般競争入札を求める住民監査請求をおこなった。なお、審査の不当の根拠ついては、あとで列挙する。
 住民監査請求は、2月28日に正式受理されて、目黒区監査委員が監査の実施を開始して、3月13日には請求人の陳述がおこなわれた。請求人は、監査請求書提出後の新たな事実、証拠に基づき、当該随意契約が違法であること及び売却先選定の審査がいかに不当であるかについて、監査委員に詳細に陳述した。

 区長・薬師寺は、契約差し止め及び審査のやり直しの監査が実施されている最中にもかかわらず、3月14に区議会の議決を経て、3月24日に三菱商事と売却価格72億円で本契約を締結した。
 議会の議決を経たとしても、判例(最高裁昭和37年3月7日大法廷判決)で「議会の議決があったからというて、法令上違法な支出が適法な支出となる理由はない」と判示しているように、議会の議決が違法な財務会計を適法化するものではないのは、改めて指摘するまでもない。
 地方自治法に定められているように地方公共団体の売買は、競争入札による契約が原則である。随意契約が締結できるのは、地方自治法施行令第167条の2(随意契約)の条件を備えている場合のみである。

 しかも、本来、区の新庁舎購入、移転費用の財源確保が目的の旧本庁舎・公会堂の売却である。価格を重視すべき売却であるのに、価格を正当に評価することなく極めて不当な審査であった。14件の見積り中、金額で7番目、最高見積り価格の111億1000万円より39億1000万円も廉価な72億円を提示した三菱商事株式会社を売却先に選定し、違法な随意契約で売却した。当該随意契約は、地方自治法施行令第167条の2(随意契約)違反であり、かつ区長としての裁量権内の判断を大きく逸脱したものである。

その結果として区長・薬師寺は、目黒区に39億1000万円の損害を与えた。 したがって、地方自治法第242条1(住民監査請求)の規定に基づいて、区長・薬師寺克一に対し、目黒区がこうむった39億1000万円の損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求する。

 

違法行為の法的根拠:

 旧本庁舎・公会堂の売却方法である公募提案方式は、随意契約そのものである。公募提案方式を採用したが、単なる随意契約であることになんら変わりはない。
 随意契約については、地方自治法第234条2に「指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる」とある。
  政令の地方自治法施行令第167条の2(条文参照のこと)で、「随意契約によることができる場合は、次の各号に掲げる場合とする」とあり、1〜7まである。 旧本庁舎・公会堂の随意契約による売却は、1〜7までの各号のいずれの規定にも該当しないのは、明白である。

  目黒区は「周辺地域へ与える影響も大きいため、価格競争を主旨とする一般 競争入札ではなく、周辺地域の環境とより調和のとれた跡地利用を図るため、 公募提案方式により売却することにした」と、随意契約による売却を採用した 理由を説明している。
 契約課長は、区はそのために施行令第167条の2の2号から「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を適用したと認めている。
  しかし、この適用は重大な曲解、錯誤であり、違法行為である。その法的根拠をつぎに挙げる。

(1)  旧本庁舎・公会堂売却の目的は、区の財源確保にあり、本来、競争入札こそ適するものである。区長・薬師寺が、議会の3月定例会に上程した議案第20号「区有地の売却について」の売却目的にも「庁舎移転の費用に充てるため」とある。
  財源確保のために、競争入札にすべきものを随意契約にして、111億1000万円の見積りを故意に排除するなど、あえて価格を無視して、周辺地域への影響だけを理由にして、最高価格より39億1000万円も廉価な三菱商事の提案を採用した。契約でその性質又は目的が競争入札に適しない理由は存在しない。したがって違法である。
 
(2)

周辺地域は用途制限を受けており、もともと近隣の生活環境を激変させる巨大娯楽施設、工場などは建設できない。周辺地域の環境との調和をはかるためならば、区は建築物の高さ、延べ床面積、公共スペースの確保、緑化など細目にわたり留意点を設け、一般競争入札をすべきであった。 区長・薬師寺は、3月5日の本会議で無所属区議・増田宣男の質疑に対して、公募提案方式にした理由は「周辺の居住環境との調和」のためだと繰り返し答弁した。

  しかし、旧本庁舎は5階建て、公会堂は2階建てである。
  周辺の住環境との調和をいうならば、三菱商事提案の本庁舎跡地が13階、公会堂跡地が12階の集合住宅などは、けっして容認できる建築物ではない。周辺の住環境を著しく変貌させてしまう提案である。
  提案内容を見比べてみればわかるように、111億1000万円の提案は、本庁舎跡地の階高が1階、公会堂跡地が2階だけ高いだけ。ところが、延べ床面積は、逆に三菱商事の提案より少ないのだ。三菱商事の提案内容は、39億1000万円の価格差を補えるものではない。
  周辺の居住環境との調和を理由に、施行令第167条の2の2号を曲解して適用したのは、違法である。
 

(3)

 性質又は目的が競争入札に適しないものとして、元自治省事務次官・松本英昭著『新版・逐条地方自治法』で挙げている事例は、ア・普通地方公共団体の行為を秘密にする必要があるとき。イ・運送又は保管をさせるときなど、10項目ある。が、旧本庁舎・公会堂売却に類似した事例は皆無である。

  区長・薬師寺は、3月7日に開催された企画総務委員会で共産党区議・野沢まり子の質疑に対して「公募提案方式は、他の自治体でおこなわれているので、問題ない」「ほかでもやっているので、問題はない」と答弁した。 けれど、請求人が調査した限りでは、自治体の土地処分で当該公募提案方式のように随意契約で金額が7番目、39億1000万円も安い巨額の金額差で売却した類似ケースは、まったく見当たらなかった。
  区議・増田が、議会事務局に調査してもらったところ、公募提案方式と類似の公募方式の名称による自治体の土地売却が2ケースあった。ひとつは平成13年に墨田区が旧小学校跡地を売却したケースだ。17件の提案があり、1次審査で5項目の留意点を審査して、4提案にしぼり込んだ。そのあと、4社による競争入札で最高価格を売却先に決定した。類似した名称であるが、内容はまるで違う。

  もうひとつは昨年、東京都が秋葉原駅前の神田青果市場跡地を売却したケースである。JV方式で1提案だけであった。都の売却予定価格は228億円であったが、約2倍の405億円で売却された。
  区長・薬師寺は、「他の自治体でおこなわれているので、問題ない」としているが、自治体が大損害をこうむる公募提案方式は、目黒区以外で他に例がない。企画総務委員会での区長・薬師寺の答弁は、虚偽である。
 

(4)  3月5日の本会議で区長・薬師寺は、区議・増田の売却先選定の質疑に対し て、「本来、これは区長の専権事項として、区長が決めるべきものだ」と答弁した。地方自治法に、自治体の長の「専決事項」の定めはあるが、「専権事項」などというのはない。
  それどころか、『法律用語辞典』『法律学辞典』にも専権事項の記載はない。 ただし「専権」とは、『新明解国語辞典』によれば「思うさまに権力をふるうこと」とある。
  区長・薬師寺に、地方自治法施行令で定める随意契約の制限に関する認識がなく、恣意的に売却先を選定したと受け取らざるを得ない答弁である。111億1000万円の最高価格を故意に排除して、適用できない随意契約により三菱商事に72億円で売却したのが違法なのは、明らかである。
 
(5)  競争入札に適しないとして、随意契約を採用したというが、価格の競争原理を導入しているのは大きな矛盾であり、違法である。なぜならば、平成14年5月13日、契約課作成の「平成14年度における区有地の売却方法につ いて」(案)で、選考にあたっての審査項目として、「応募者の信用・資力・資金計画及び購入希望金額等を審査項目とする」とある。(案)とあるが、変更はなく、(案)通りに実施したと契約課は認めている。価格の競争原理を導入しているのは明白である。
  価格の競争原理を導入したのは、提案審査結果に「価格評価を含む順位」が記載されていることからも明らかである。
  したがって、競争入札に適しないとして随意契約を採用したのは違法である。
 
(6)

 当該随意契約は、議会の議決を経なければ、契約を締結することができない議決案件であった。

  しかし、区は平成14年5月に公募提案方式による売却を発表して以後、契約事項を所管する企画総務委員会に、区側は公募提案方式による売却が随意契約であることを説明してこなかった。 この件について、企画総務委員会の複数の委員に確認したが「公募提案方式による売却が随意契約であるという報告、説明はなかった」と証言している。
  当該随意契約を審議した3月7日の企画総務委員会で、契約課長は公募提案方式を報告したとき、「随意契約という言葉は遣わなかった」と、公募提案方式が随意契約であることを、説明してこなかったことを認めていた。

 そもそも違法な随意契約を、あたかも合法的であるかのような公募提案方式の名称で隠蔽し、議決を必要とする随意契約であるのに、議会に対して区が十分に説明責任を果たさなかったのは、極めて悪質である。 本来、地方自治法施行令で制限する随意契約のいずれの条項にも該当せず、違法な随意契約を、公募提案方式と言い替えて、審査したところで、違法であることになんら変わりはない。
 

(7)

 区長・薬師寺は、3月5日の本会議での区議・増田の価格を無視した売却であるとの質疑に対して、売却先である三菱商事の72億円に関して、「購入希望金額は、区が財政計画で想定した額を相当に上回っている」と答弁した。
 財政計画で想定した金額を上回っているからといって、39億1000万円もの得べかりし利益を失って売却していい、ということにはならない。 単に財政計画で想定した金額が、誤った判断により、相当に下回っていたに過ぎない。

 さらに、区長・薬師寺や総務部長、契約課長が、72億円の売却価格は区の予定価格を上回っているので問題はない、と答弁してきた。審査委員会の会議録を見れば、14提案すべてが予定価格を上回っているのが確認できる。価格は、58億1780万円〜111億1000万円である。区長・薬師寺は、予定価格は財産価格審議会に諮ったと答弁している。 予定価格を区は公表していないが、58億1780万円以下であることは自明である。  
 見積りの1位が111億1000万円、2位が83億円、3位が82億2270万円、4位が81億円であり、売却した三菱商事の72億円は7位である。この事実から、財産価格審議会に諮った予定価格が、いかに地価の現況を把握していない杜撰な算定だったかわかる。
 地方自治法違反の随意契約が、予定価格を上回り、審査委員会で選出され、議会の議決を経たからといって、適法になるものではない。

 いかに不当な審査がおこなわれ、その結果、見積り金額で7番目の72億円の三菱商事が1位に選ばれ、売却されたかの不当行為の根拠をつぎに挙げる。



不当行為の根拠:

(1)

審査委員会の不公正審査と構成の偏向

 公募規定では、「審査委員会を設置し、提案内容を審査の上、順位付けを行い契約する」としている。
1月28日の企画総務委員会の質疑の中で、審査委員会の12人の委員のうち9人が区の職員であり、しかも9人の職員のうち6人までが、区の最高政策方針を決定する政策会議のメンバーと重複していることが判明した。
 周辺地域の環境との調和を標榜しながら、地域住民の委員はただひとりとして、審査委員会に入れていない。かくのごとく偏向した構成の審査委員会では、公正、公平な審査はできない。

  3月5日の区議・増田の一般質問で、審査委員会のメンバー構成の偏向を指摘された区長・薬師寺は「本来、これは区長の専権事項として、区長が決めるべきものであるが、なお一層、透明性など客観的に妥当性のあるものにしたいということから、内部の検討委員会を設け、さらにまた民間の専門家を入れて公正な審査をおねがいして決めた」と答弁した。
  専権事項については、先に触れた。審査委員会とは名ばかりで、区長の意向を反映した単なる内部の検討委員会でしかないことがわかる答弁である。審査委員12人中9人までが、区長・薬師寺の部下である区職員なのだから、透明性、妥当性に欠ける。

  3月7日の企画総務委員会で、区議・野沢まり子の「住民の住環境を守るといいながら、審査委員会に住民を入れていない」の質疑に対して、区長・薬師寺は「住民を入れなかったというが、審査委員会は第三者委員会ではない」と答弁で断言した。 この答弁からも、審査委員会は単なる区の内部の検討委員会であったことがわかる。
 

(2)

最初から高い金額の提案を排除する審査だったのは不当である

 3月7日の企画総務委員会で、助役・佐々木英和は選考の手法に触れて「区民に適切な価格で住居を提供しようということだ。39億も高いと、1戸あたり1300万円も高くなるというのが、最終的な見解だ」と答弁した。助役・佐々木は、審査委員会のメンバーである。
  財源確保のための売却であるのに、なぜ業者のマンションの販売価格まで考慮して売却する必要があるのか。業者との癒着さえ疑わせる答弁である。
  区民に適切な価格で住居を提供するためだというが、三菱商事はマンションを建設して目黒区民にだけ販売するのか。そんなことはあるまい。区有地を安く売却したからといって、マンションの販売価格が安くなるという保証はない。
  逆に、高い価格で買ったからといって、販売価格が高くなるというものでもない。また区が民間業者の販売価格に口出しできる権限などないのは、いうまでもない。

  助役・佐々木の答弁からわかるように、審査委員会では最初から高い金額の提案を故意に排除する審査がおこなわれた。これは違法である。
 

(3)

ヒアリングで提案内容を変更させたのは不当である

 売却先として選定された72億円を提示した業者の最初の提案では、仮称・目黒フォーラムの公共スペースが605uであった。ところが、ヒアリング(聞き取り調査)で1300uに増やした。(1月16日及び1月28日の企画総務委員会で区側が説明した)このことが審査委員会で高く評価され、売却先に選定された。

 しかし、ヒアリングで提案内容を変更させて、公共スペースが最大の広さになった点を高く評価したのは、審査の公平さを欠くものである。
 公共スペースに差があるにしろ、最大で39億1000万円の金額の差、2位の83億円との差でも11億円であり、公共スペースの広さの差は金額差をいずれも補えるものではない。
 

(4)

最高価格111億1000万円の提案を価格評価の対象から除外したのは違法である

 1月28日の企画総務委員会で、契約課長は審査方法に触れて、「14提案は、いずれも売却予定価格を超えているので、まず計画内容から審査しましょうということになった」と答弁した。
 その後、2月10日に契約課長に確認したところ、次のような方法で、審査が行われたことが判明した。審査委員会では、まず価格を評価しないで、14提案を半分の7提案にしぼり順位付けを行った。残った7提案だけを対象にして、審査委員会の事務局が機械的に、購入希望価格を処理し、加算の上、最終的な順位づけを行った。

  その際、予定価格をどのくらい上回っているかで、機械的に加算した。その 結果が、公表されている「価格評価を含む順位」である。区の年間予算の10分の1にも相当する金額の区有地売却にあたって、このような杜撰で、不自然、不合理な審査方法を決めたのは、審査委員会である。 最高金額の111億1000万円を提示している業者は、「価格評価を含まない」審査で7位までに残らなかったため、「価格評価を含む」審査の対象外であった。まったく不当な審査である。111億1000万円の業者は、延べ床面積においては72億円の業者より少ない。階高は1階しか違わない。

 審査委員会の審査表では、町並みとのバランスや緑化などを5段階方式採点し、記述式の価格を入れない総合評価では、10点満点方式のやり方だ。ところが、機械的にあとから加算した価格評価は、予定価格を超えた1億円に付き、わずか0.1点だ。10億円でも1点でしかない。こんな不合理な審査方法はない。 例えば、緑化の評価で5と2で、3点違うということは金額にするとなんと30億円も違うことになる。総合評価で、5点と10点の5点違いは50億円の違いになるのだ。
  まったく価格を無視した審査である。この審査の方法を決めたのは、ほかでもない審査員会だ。まったく不当な審査だ。
 

(5)

1位に評価した提案内容はすべて法律、条令、行政指導で実施できる

契約課作成の「目黒区本庁舎及び公会堂跡地土地利用計画に関する提案採用の項目別評価について」で、街並みとの調和、防火水槽、備蓄倉庫、緑化・植栽、空地の確保、風環境、日影の影響、電波障害等の項目別評価を列挙している。 しかし、いずれの項目も建築基準法、消防法をはじめ各法律及び各条令の規制があり、さらに行政指導によって可能なことばかりである。
  審査委員会が、一番重視しなければならない金額を軽視して、提案の細部にこだわった審査は不当である。

以上の理由により、旧本庁舎・公会堂売却の随意契約は違法である。売却先の選定方法は不当である。

 

2 請求者    東京都目黒区
          ジャーナリスト
          須藤甚一郎


 地方自治法第242条第1項の規定により、別紙事実証明書を添え、必要な措置を請求します

平成15年3月25日

  目黒区監査委員殿