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事件番号 平成18年(行コ)第77号 (原審:東京地方裁判所 平成15年(行ウ)第373号) 控訴人:須藤甚一郎 被控訴人:東京都目黒区長 控 訴 理 由 書 平成18年4月11日 東京高等裁判所第8民事部 御中 控訴人 須藤甚一郎 〒152−0034 東京都目黒区緑が丘1丁目**** 電話: 03−****−**** FAX: 03−****−**** 控訴人(原告) 須藤甚一郎 〒153−8573 東京都目黒区上目黒2丁目**** 被控訴人(被告) 東京都目黒区長 青木英二 はじめに 本件は、財政難であった目黒区が、庁舎移転の財源捻出が目的の本件土地売却であったにもかかわらず、随意契約を採用し最高見積価格111億1000万円より39億1000万円も安い72億円で売却したため、控訴人(原告)が被控訴人(被告)に目黒区長であった亡藥師寺克一(その相続人が補助参加人ら)と売却当時の目黒区助役ら本件区幹部、そして売却先である三菱商事株式会社(以下、本件会社という)に対して損害賠償請求するよう求めた事案である。 しかるに原判決は、随意契約が適法であるとして、巨額な価格の犠牲を適正に考慮せず、審査で本件会社を1位に順位付けした審査委員会、そして72億円で契約した亡藥師寺も裁量の範囲内としたのは、法令、最高裁判例の解釈の誤りと事実誤認に基づいているというべきである。原判決の論理構造は、随意契約を採用する条件を備えていれば、売却価格については、売却予定価格を超過していれば、いくら価格の犠牲があっても構わないとしており、目黒区の財政状況が逼迫していたときの庁舎移転費用捻出のための本件土地売却であったことを考慮していないのである。また、本件土地売却が、価格の有利性を犠牲にしても、それ以上に普通地方公共団体の利益の増進に寄与するものであるかどうかの検証を一切していないのである。 原判決が、本件土地売却で随意契約が適法であるとした根拠は、地方自治法施行令第167条の2第1項2号の随意契約の規定についての最高裁判例(昭和62年3月20日第二小法廷判決)によっている。しかし、この最高裁判例は「契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」「普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も」随意契約の規定に該当すると解すべきであると判示しているのである。39億1000万円もの価格の犠牲は、目黒区の財政難時に収入の原因になる契約において、とうてい多少とも価格の有利性の犠牲といえる価格差ではない。 当該最高裁判決は、福江市のごみ処理施設の建設工事請負契約に関しての随意契約の事案であり、4社の見積額は、4850万円、4880万円、5580万円、6380万円あった。見積額が5580万円であった業者と5500万円で契約を締結した。最低見積額4850万円と契約額5500万円の価格差は、目黒区の事案に較べれば、ごく僅かといえる650万円であった。 福江市の事案の価格差650万円は、契約額の11.8%に相当する。目黒区の事案の価格差は39億1000万円であり、契約額72億円のじつに54.3%に相当するのである。同列に論じられるものではないことは明らかである。原判決は、単に当該最高裁判例中にある「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」という判例の文言だけに注目し、それを曲解しているというべきである。そもそも、金額そのものにおいて価格の犠牲に大きな開きがあり、価格差の契約額に占める割合においても、4.6倍も違う当該最高裁判例を本件に当てはめるのは失当である。 また、当該最高裁判例では、「右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結に制限を加えている前記法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である」と判示しているのである。 しかし、本件土地売却において、契約担当者であった亡藥師寺は、公募提案を審査し売却先である三菱商事株式会社(以下、本件会社という)を1位に順位付けした審査委員会の審査委員ではなかったし、応募要領の規定に基づいて審査委員会が1位に順位付けした本件会社と契約したのであるから、地方公共団体の契約締結に制限を加えている法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的に諸般の事情を考慮して合理的に判断したといえるものではない。そのような契約締結を適法とした原判決は、法令適用の誤り、数々の事実認定の誤りと判例解釈の誤りに基づいたものであり違法である。 本件土地売却で随意契約採用による契約締結が、適法であるか否かは、随意契約が採用できる条件と売却価格を分離して判断すべきではなく、随意契約採用から売却までを一連のものとして判断すべきものである。控訴審にあたっては、区財政難時の収入の原因になる契約において、跡地利用計画の差と価格差を比較考量することなしに、39億1000万円もの価格の犠牲がある随意契約を締結したことが、適法か否かを中心に判断されるべきである。 第1 1 原判決の「争点」整理についての誤り 原判決は、争点をつぎの4点に整理している。 (1)本件訴えのうち、被告に対して、本件区幹部らに損害賠償請求するよう求める部分は適法であるか否か。 (2)目黒区が本件土地を売却する際に、随意契約の方法を採ったことが適法であるか否か。 (3)目黒区が本件土地を本件会社に72億円で売却したことが違法であるか否か。 (4)亡藥師寺及び本件会社は本件契約により、本件区幹部らは本件土地の売却先の決定への関与により、目黒区に39億1000万円の損害を生じさせたといえるか(損害額及びこれと責任原因との相当因果関係の有無)。 しかし、本件土地の売却にあたり、随意契約を採用し、最高見積価格111億1000万円の提示があったにもかかわらず、72億円で売却したことは、上記4点の争点に整理された内容に限らないのである。 控訴人は、原審において、39億1000万円もの価格の有利性を適正に考慮することなく売却したことは、地方自治法第2条14項「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に務めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と地方財政法第4条2項「地方公共団体の収入は、適実且つ厳正に、これを確保しなければならない」に違反し違法であると主張した。 地方自治法で定める最少経費最大効果の原則は、地方公共団体が事務処理にあたる基本原則であり、本件のごとく収入の原因になる契約においても、住民の福祉の増進を図るため、その精神は生かされるべきものである。地方財政法で定める収入を適実且つ厳正に確保したとは、とうていいえない本件土地の売却である。しかし、原判決は、これら違法についての判断を遺脱している。 第2 1 原判決「1 争点(1)について」の誤り 原判決は、主文1に「本件訴えのうち、被告が、佐々木英和、安田直史、大塩晃雄、川島輝幸及び木村高久に対し、金員を支払うように請求することを求める部分を却下する」とある。 その理由をつぎのように述べている。「第3 争点に対する判断、1 争点(1)について」において、最高裁判所昭和62年4月10日第二小法廷判決・民集41巻3号239頁の判例を根拠にして、「当該職員」たる地位ないし職にある者に該当しない者に対して損害賠償を請求することを求める訴えは、住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法なものといわざるを得ない、としている。 しかし、当該最高裁判例は、地方自治法(住民訴訟)第242条の2第1項4号の規定が平成14年9月1日に改正される以前の判例である。当該最高裁判例中で、「当該訴訟において被告とされている者が当該訴訟において被告とすべき右『当該職員』たる地位ないし職にあたるものに該当しないと解されるとすれば、かかる訴えは、法により特に出訴が認められた訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法といわざるを得ないことになる」と判示しているように、被告としての適格性を判断したものである。 地方自治法の(住民訴訟)に係る条項の改正後は、執行機関又は職員に対して、「当該職員」に損害賠償、不当利得返還、賠償命令をすることを求める請求になった。つまり、「当該職員」を被告として提起する住民訴訟の形態ではなくなったのである。しかし、原判決は、そのことをまったく考慮せず無条件で、改正前の最高裁判例をそのまま本件に当てはめているのである。 原判決は、第3,1の(2)ア、イ、ウで、本件区幹部のうち、佐々木英和、大塩晃雄、川島輝幸、木村高久については、いずれも財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者には当たらず、また、これらの者から権限の委任を受けるなどしてその権限を有するに至った者であることをうかがわせる事情も全くないため、損害賠償の請求をすることを求める訴えは、そもそも不適法として却下を免れないというべきであると判断した。 また、原判決は、収入役の安田直史について、財務会計上の行為を行う権限を本来的に有するものとされている者に該当する。が、安田が本件審査委員の委員ないし政策会議の構成員として行った行為を問題としているにすぎない。したがって、安田についても、本件訴えにおいては、財務会計上の権限を有する者という立場にはないといえることから、安田に対して損害賠償の請求をすることを求める訴えも、上記4名に対する訴えと同様、不適法なものとして却下を免れないものというべきであると判断した。 確かに収入役である安田は、財務会計上の行為を行う権限を本来的に有するとされている者であるが、地方自治法の(職員の賠償責任)を定めた第243条の2には、本件契約のごとく収入の原因になる契約においては、損倍を賠償しなければならない規定は存在しないのである。 地方自治法第232条の4に、「出納長又は収入役は、普通地方公共団体の長の命令がなければ、支出することができない」(第1項)としている。したがって、収入役である安田は、支出命令が違法又は不能のものであるときは、拒否する職権と職務を与えられているのである。 しかし、本件契約のごとく収入の原因になる契約においては、地方自治法上、収入命令という制度は存在せず、その審査ということもあり得ないのである。そのために収入役である安田は、本件においては地方自治法で定める(職員の賠償責任)をする者には当たらない。そこで控訴人は、安田についても他の本件区幹部と同様に、損害賠償を請求するよう求める訴えにしたのである。 原判決は、収入の原因になる契約においての収入役である安田について、地方自治法で定める(職員の賠償責任)関し、精査していないのは的外れである。 原判決が、財務会計上の行為を行う権限がないからとして、本件区幹部に損害賠償の請求を求める訴えは、不適法としているのは、本件土地の公募提案方式による随意契約での売却決定から本件契約までの事実誤認に基づいているというべきである。本件区幹部が政策決定会議及び本件審査委員会で行った行為は、契約締結という財務会計行為の原因であり、それぞれ先々行行為と先行行為に当たる。 本件区幹部の先々行行為及び先行行為なくしては、目黒区長であった亡藥師寺の本件契約は締結できなかったのである。本件区幹部は、亡藥師寺とともに政策会議の構成員として、本件土地を公募提案方式による随意契約での売却を決定し、さらに本件審査委員会の構成員をして最高見積価格と39億1000万円もの価格差のある本件会社の跡地利用提案を1位に順位付けした。その上に、本件区幹部は亡藥師寺とともに本件会社を売却先として、政策会議で決定したのである。 本件区幹部は、違法な本件契約の実質的意思決定関与者なのである。原判決のごとく財務会計上の権限を有する者でないからといって、訴えを却下するのは、財源捻出の本件契約において莫大な価格の有利性の犠牲、つまり損害が発生したのであるから、極めて非現実的である。本件区幹部は本件審査委員会の構成員として、本件土地の跡地利用計画の差と価格差を比較考量することなく、本件会社を1位に順位付けし区長の亡藥師寺に報告した。亡藥師寺は、応募要領の規定にしたがって本件会社と契約を締結したのである。かくのごとく、本件区幹部は本件契約の実質的意思決定関与者なのである。 本件土地を応募提案方式による随意契約での売却決定、本件審査委員会の審査、本件契約の締結までは、一連のものなのである。契約者であった亡藥師寺の本件契約をのみを財務会計行為として限定し、実質的意思決定関与者である本件区幹部の行為を分離して、非財務会計行為とするのは、契約の実情にそぐわない。契約者であった亡藥師寺と本件区幹部の責任は不可分であり、共同責任なのである。 原判決が、「当該職員」に係る地方自治法改正前の当該最高裁判例を根拠にして、不適法とするのは、事実誤認と当該判例の解釈を誤っているというべきである。 2 原判決「2 争点(2)について」の誤り (1)原判決は、第3、2、(2)において、最高裁判例(昭和62年3月20日第二小法廷判決)に基づき、どのような場合に随意契約を採用できるかとして、「当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」以下の判示を引用している。そして、続けて「そこで、以下、本件において、上記のような随意契約を採るための条件が満たされているか否かについて検討する」とある。 こうした論理の運びから、原判決は大前提として、39億1000万円もの価格の有利性の犠牲を「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果」として判断したのがわかる。 しかし、随意契約が適法であるか否かは、随意契約採用で売却された価格が他の見積価格とその内容を比較して適切であったか否かで判断されるべきものである。当該最高裁判例の具体的な内容と本件の随意契約の内容を詳細に比較して、検討することなく、本件の随意契約のいわば入り口である条件を満たしていたとしても、随意契約を採用した結果において、地方公共団体の利益の増進につながらなければ、適法とはいえない。 (2)原判決は、第3、2、(3)において、「証拠(甲2、乙3ないし12、14の3ないし6、15の1、23、24の1ないし4、25,28、証人鈴木)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる」として、第3、2、(3)アないしキにおいて、随意契約の条件を満たしているか否かを単に外形的な形式のみを検証しているだけであり、随意契約の採用で行われた内容を個別具体的に検証したものではない。 上記の原判決の引用部分で「以下の事実が認められる」としているのは、随意契約を採用するに至るまでに、目黒区が行っていたことを単に列挙したにすぎない。つまり、原判決は、目黒区が策定したこと、あるいは手続きで決定したことの文言を引用しているだけであり、実際に文言通りに行われたか否かについては、まったく検証していないのである。事実認定を誤っているというべきである。 控訴人が住民監査請求を経て、住民訴訟を提起したのは、目黒区が随意契約を採用して本件土地を売却した結果、最高価格111億1000万円と売却価格の差額である39億1000万円の損害が発生したからである。 以下、原判決が随意契約の条件として列挙しているアないしキについて、原判決の事実認定が大きな誤りを犯していることを述べる。 アでは、区は「本件土地をはじめとする区有地の売却想定額として約120億円、積立基金の活用想定額として約60億円の合計180億円によって財源の確保を図る予定とされた」とある。が、控訴人が原審で証拠に基づいて主張したように、区有地の売却想定額約120億円は、各区有地の正面路線価に基づき試算したものにすぎない。しかも、本件区幹部の助役・佐々木が企画総務委員会で控訴人の質疑で認めたごとく、千代田生命本社購入を仲介した三井不動産に試算させた数字である。約120億円は、区有地売却についての目安金額であり、それ以上で売却すれば、区は庁舎移転費用以外にも使用することができて潤ったのである。 また、積立基金の活用というが、約60億円のほとんどは他の目的で積立てていた基金を条例の廃止までして、取崩すことである。試算した約120億円以上の金額で売却していれば、他の目的で積立てた基金を約60億円も取り崩す必要もなかったのである。したがって、180億円の財源確保の予定があったからといって、随意契約の条件を満たしていることにはならない。 イでは、目黒区基本構想、目黒区基本計画、目黒区住宅マスタープラン、目黒区緑の基本計画、目黒区みどりの条例等を策定したことを挙げている。しかし、いずれも区が一般的に策定したものであり、区財政の逼迫時に庁舎移転費用捻出のため、本件土地を売却するにあたり、随意契約を採用する特段の条件になるものではない。 ウでは、本件土地売却に関しての住民要望等を挙げているが、これも地方公共団体の売買の原則である一般競争入札によらず、例外をして認められている随意契約を採用しなければならない条件になるものではない。控訴人が、主張してきた一般競争入札に条件を付す、条件付一般競争入札を採用すれば、簡単に解決できることである。 また、平成14年8月に目黒区長あてに寄せられた桜保存の区民の声は、区が公募提案方式による随意契約を採用し、公募の受付を開始した後に提出されたものである。桜保存の住民要望を随意契約採用の条件とするのは、時間的に順序が逆である。桜保存も条件付一般競争入札で解決できることである。住民要望、桜保存も随意契約を採用する条件を満足するものではないのである。 エでは、また都立大学理学部深沢校舎跡地を一般競争入札によって売却した結果、高層マンションの建設が進められ一定の高さを越える部分の撤去を求める訴訟が提起されたことも挙げている。これもまた本件土地を都立大学理学部跡地とは、周辺住環境も異なるし、いわゆるマンション紛争が発生したことのみをもって、本件土地売却を随意契約にする合理的な理由にはならない。 随意契約を採用して売却した本件土地の跡には、5階建であった本庁舎跡に13階、3階建であった公会堂跡には12階のマンションが建設され、一般競争入札を採用した都立大学理学部跡地と同様の周辺住環境の破壊が実際に起きているのである。結果として、随意契約を採用した売却と一般競争入札で売却したことの差異はないのである。目黒区が、本件土地売却で随意契約を採用した利益は周辺地域の住民にとってなかったのである。 単に都立大学理学部跡地に関して、一定の高さを越える部分の撤去を求める訴訟が提起されたことをもって、本件土地売却で随意契約を採用する条件にはならないのである。都立大学理学部跡地ではマンションの高さをめぐる訴訟が提起されたことが随意契約を採用した条件にするのであれば、本件土地の跡地利用の公募提案募集に際し建物の高さについて、具体的に高さ制限の留意点を設けなったのは、致命的な瑕疵である。高さを制限するには、控訴人が最初から主張している条件付一般競争入札を採用すれば、そうした紛争は避けられるのである。 オでは、上記イないしエの諸事情を考慮して、売却後の土地利用や近隣住民の意向おも考慮できるようにするため、政策会議において、 @財政計画に基づき一定金額以上で売却すること、 A限られた期間内に確実に歳入の確保を図ること、 B公正かつ透明性の高い方法で売却すること、 C今後のまちづくりに資するように配慮していくこと、 以上、本件土地を含む区有地売却に関する基本的な考え方として決定されたことを挙げている。 この基本的な考え方の通りに本件土地が売却されたのであれば、何ら問題はなかったのである。政策会議で決定された上記4項目は、文言から判断する限り、いずれも合理的な判断といえる。しかし、売却過程において実際に行われたことは、決定された基本的な考え方と大いに違うものであった。上記@ないしCのうち特に問題なのは、B公正かつ透明性の高い方法で売却すること、である。 随意契約を採用し、14件の跡地利用計画の公募提案を審査するため、審査委員会が設置された。 控訴人は原審において、審査委員会の不公正かつ不透明性については、証拠に基づいて主張したので、詳細に繰り返すつもりはない。が、ざっと挙げるだけでも、審査委員会は、価格の有利性では群を抜いていた最高見積価格111億1000万円の提案を価格抜きの評価である一次審査で排除した。 他にも、審査委員会は、価格抜きで順位付けしたあと、価格について予定価格を超過する1億円=0.1点の価格評価基準で加点したが、そもそもこの価格評価基準では本件会社(三菱商事)の72億円の提案を111億1000万円の提案が逆転できない仕組みになっていたのである。また、審査過程で本件会社の人間が集団で住民を装って、提案の閲覧会場に訪れて、本件会社の提案が一番いい旨の意見を記入する不正行為を働いたのである。審査委員会は、提案された見積価格の差と跡地利用計画の内容差を比較考量する審査をまったくしなかった。 審査委員であった本件区幹部の助役佐々木は、売却価格である72億円と最高見積価格111億1000万円の価格差が39億1000万円もあることについて、「39億円も高く売ったら、マンション1戸当たり1300万円も高くなる」旨の発言をした。本件土地を安く売却したからといって、マンションの分譲価格が安くなる保証はない。売却後に目黒区が業者に対して、分譲価格に口出しできるわけはない。他にいくつもある審査委員会の不公正、不透明については、控訴人は原審で再三にわたり、証拠を提出して立証したのである。 政策会議で決定された基本的な考え方通りに実行されなかったのであるから、これをもって、随意契約を採用する条件することはできない。 カでは、目黒区が「平成14年度における区有地の売却方法について(案)」を作成し、(ア)売却方法等、(イ)売却スケジュール、(ウ)土地利用計画提案の留意点、(エ)選考に当たっての審査項目、(オ)売却予定価格、を決定したことを挙げている。 土地利用計画上の留意点に関していえば、留意点aないしdのうち、具体的な留意点はdの「本庁舎部分において必要な歩道状空地を確保し、東急バス停留所及び郵便ポストは残すこと」だけである。他はいずれも抽象的である。一般競争入札で売却した都立大学理学部跡地の建築物をめぐる訴訟を教訓にして、本件土地の売却で随意契約を採用したのであるならば、なぜ本件土地の跡地に建設される建築物の高さについて、具体的な留意点を設定しないのでは隋契約を採用しても無意味である。 留意点では建設される建築物については設けられてなく、留意点aで「現庁舎周辺は基本的に住宅地としての性格が強いことを踏まえ、当該地域の住環境に配慮した、調和のとれた街並み形成を図ること」とあるのみである。 キでは、平成14年5月15日に開催された庁舎移転・都立大学跡地建設等調査特別委員会において、本件土地売却につき、公募提案方式で、随意契約を採用したこと、買受者の選定については本件審査委員会を設置して、提案内容を審査の上、順位付けを行い、最上位の順位者と契約することになった旨報告されたことを挙げている。 確かに、目黒区は、売却方法を議会の特別委員会に報告したが、本件土地売却の契約議案は議会の議決案件であるけれど、売却方法についての報告は議決案件ではなく、単に議会に報告すれば足りる報告事項でしかない。財源確保の本年土地売却で随意契約を採用しても、まさか39億1000万円もの価格の有利性を犠牲にした72億円で売却しようとは、当時、議員は一人として予想すらしていなかったのはいうまでもないことである。 キに記載された売却方法の手続きそのものについては、特に問題はない。問題なのは、この手続きによって行われた本件土地の随意契約による売却過程が、公正、透明ではなく、価格差と提案内容差を比較考量せず売却され、その結果、39億1000万円の価格の有利性が犠牲にされたことである。 (3)ア 原判決は、第2、2、(4)において、冒頭で「上記(3)の認定事実のとおり」としているが、控訴人が上記(3)アないしキの各項で述べたごとく、原判決は目黒区が策定した基本構想、基本計画、関係条例等及び決定した手続きの単に外形的な事実のみを「認定事実」としており、事実の内実を具体的に検証することなく「認定事実」としているのは、明らかに事実認定の誤りである。 原判決は、そうした「認定事実」に基づいて、「売却後の本件土地の利用計画には関与しないということでは、目黒区民の理解は得られないとして、財源確保だけではなく、目黒区の街づくりや近隣住民の住環境等への配慮をしようと考えたことには合理性があるといえる」と判断している。しかし、本件会社の本件土地の利用計画は、建物の高さひとつを例にとってみても、5階建の本庁舎跡地に13階建のマンションを建設し、近隣住民の住環境への配慮をしたとはいえないのである。配慮をしようと考えたことには合理性はあったといえるが、結果から判断すると、本件土地の売却にあたり目黒区が行ったことは、合理性があったとはいえないのである。 原判決は、上記の判示のあとに続けて、 「そうすると、本件においては、目黒区が契約を締結するに当たり、競争入札の方法によることが不可能又は著しく困難とはいえないが、競争原理に基づいて契約の相手方を決定することは必ずしも適当ではなく、多少とも価格の有利性を犠牲にしても、目黒区において、本件土地の売却後の利用に関し、街づくりや緑化の観点から望ましい提案をした相手方を選定し、その者との間で契約を締結することが、本件土地の売却を内容とする契約の性質ないしその目的に照らしてより妥当であり、ひいては、目黒区の利益の増進につながるということができる」と述べている。 原判決は、再びここにおいても、本件土地売却は39億1000万円もの価格の有利性の犠牲があったにもかかわらず、巨額な金額の犠牲であったことを無視して単に「多少とも価格の有利性を犠牲にしても」としているのは、最高裁判例(昭和62年3月20日第二小法廷判決)の解釈を誤っており違法である。当該最高裁判例は、福江市のごみ処理施設の建設工事請負契約に関しての随意契約の事案であり、価格の犠牲は契約額5500万円に対して650万円、価格の犠牲は契約額の11.8%に相当する。目黒区の本件土地売却における価格の犠牲は契約額72億円に対して39億1000万円、価格の犠牲は契約額の54.3%に相当し、当該最高裁判例を適用できないことは、控訴人がすでに述べた通りである。とうてい「多少とも価格の有利性を犠牲にしても」といえる価格の犠牲ではないのである。 原判決は、当該最高裁判例に基づいて「ひいては、目黒区の利益の増進につながるということができる」としているのは、事実認定の誤りである。39億1000万円もの価格の有利性を犠牲にしておきながら、目黒区の利益の増進につながるのは何であるかの判断を遺脱している。 イ 原判決は、財源確保だけではなく、街づくりや近隣住民の住環境等への配慮をしようと考えたことには合理性があり、多少とも価格の有利性を犠牲にしても、目黒区の利益の増進につながるとして、 「したがって、本件土地の売却は、地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するといえるから、目黒区が本件土地の売却を随意契約の方法で行ったことは適法であるということができる」と判断した。 しかし、控訴人が上記第1の2(1)ないし(3)アで詳細に検証、反論してきたように、原判決は随意契約が採用できる条件について、事実の内実を詳細に検討することなしに認定事実とし、また売却価格については39億1000万円もの価格の有利性の犠牲を「多少とも価格の有利性の犠牲」として、適法であると判断したのである。目黒区が本件地売却で実際に行った一連の事実を具体的に検証せず、適法と判断しているというべきである。 たとえ随意契約を採用できる条件を満足していたとしても、目黒区が随意契約を採用し、本件土地を最高価格111億1000万円より39億1000万円も安く72億円で売却したことについて、原判決は判断を遺脱したまま、随意契約の方法で行ったことは適法であると判断しているのは、誤りである。 ウ 原判決は、控訴人の主張する「条件付き一般競争入札」は審査委員会を設置できないが、随意契約であれば、住民の意見を踏まえつつ、提案内容が審査できる等の理由で、随意契約採用が合理的であると判断している。が、ここにおいても、原判決は審査の過程、審査委員会が実際に行った事実を控訴人が原審の弁論で、証拠を提出して主張したにもかかわらず、事実認定を適正にすることなく、「条件付き一般競争入札」より随意契約のほうに合理性があると判断した。審査過程で本件会社の人間が集団で住民を偽装して、提案内容の閲覧会場へいき意見書を記入した等の不正行為については黙殺しているのである。 「条件付き一般競争入札」で行政目的、近隣住民の住環境との調和、桜保存等の条件を付して競争入札を行えば、随意契約よりも公正に財源確保ができたのである。そのことについて控訴人は、原審の弁論で証拠に基づいて再三主張したが、原判決は「原告の上記主張に理由がない」としているのは事実認定の誤りである。 エ 亡藥師寺らが議会の委員会で報告の際、本件土地売却を随意契約によって行うことにつき、虚偽の答弁をするなどして、隠ぺいしたことに関して、原判決は亡藥師寺らが「殊更に隠ぺいしたと評価することはできない」と判断した。控訴人が委員会の議事録を証拠として提出して主張したのは、亡藥師寺が本件土地売却議案を所管の委員会で審議したとき、墨田区の小学校跡地売却で行われた公募方式(公募提案を審査したあと、競争入札を実施)が内容の違う事案であるのに、「他の自治体でも行われており、問題ない」旨の答弁を含めて、随意契約を隠ぺいしたことを主張したものである。 他の自治体で、本件土地売却のごとく売却価格の半分以上も価格の有利性を犠牲にした公募提案方式による随意契約の前例はないのである。それを他の自治体でも行われており、問題ないといった答弁は虚偽である。 審査委員会の事務局責任者であった契約課長・加藤は、企画総務委員会で、本件土地売却について「随意契約であることは説明しなかった」旨を答弁し、特別委員会で一度だけ随意契約であることを説明したことを本人さえ覚えていなかったのである。議会に対して十分に説明責任を果したとはいえない。応募要領では、公募提案方式と記載されていただけで、随意契約であることは書かれていない。売却方法が議会に報告されたとき、公募提案方式が単なる随意契約ではなく、特別に法令で定めたれた契約方式であると受け取った議員がほとんどであったのである。 3 原判決「3 争点(3)について」の誤り (1)原判決は、「3 争点(3)について(1)」で、控訴人は「目黒区代表者であった亡藥師寺らが、本件土地について110億1000万円の購入価格を提案した会社があったにもかかわらず、同社ではなく、本件会社に対して本件土地を72億円で売却したことにより、目黒区に対して本件土地を72億円で売却したことにより、目黒区に対し、上記最高提示価格と72億円の差額である39億1000万円の損害を被らせた旨主張する」とある。ちなみに引用個所中の「110億1000万円」は、111億1000万円の間違いである。 原判決は、「そこで、以下、原告の主張について検討する」として、(2)アないしコにおいて、本件土地売却の決定から随意契約を採用して売却するまでの経過を述べている。 (2)原判決は、「3 争点(3)について(3)」で、「上記(2)の事実を基に検討するに」として、目黒区が本件土地売却において、審査委員会を設置し、審査委員が提案の評価・順位付けを行うようにしたことは、合理的といえると判断した。 そして、原判決は、評価基準の設定について、 「審査委員らの相当程度広範な裁量にゆだねられているというべきであり、実際の提案の順位付けに際しては、ある程度、順位付けを行う者の総合的判断に影響されるのは当然である。 そうすると、本件において、本件審査委員会が、前記(2)オ(ア)(イ)の評価基準を設定した上で、同基準に基づいて、売却予定価格を上回る買受金額を提示した各提案につき審査を行い、総合的にみて、本件会社の提案が内容的に一番優れていると判断した上で、価格評価も含めて、最終的にこれを1位に順位付けしたことは、同委員会の裁量の範囲内というべきである」と判断した。 この原判決の判断も、本件審査委員会の審査内容を詳細に検討することをせず、事実認定を誤っており、違法というべきである。 その理由を述べる。審査委員会は財源確保の売却であるにもかかわらず、価格の有利性を適正に評価することなく、111億1000万円の提案を、審査の最初から価格評価をすると上位になるという理由で、一次審査を価格抜きで行って排除し、上位7提案のみに予定価格を超過した1億円ごとに0.1点を加点する価格評価を行ったのである。 この価格評価基準が、いかに不合理であるか一例を挙げるだけで明らかである。審査委員が記入した提案評価書において、細目の「郵便ポスト・バス停の確保」の満点が5点であり、5点は価格評価で予定価格を超過する50億円に相当するのである。公共的である郵便ポスト・バス停は、本件土地のどんな跡地利用であっても確保されるのは当然である。それなのに満点である5点が、予定価格超の50億円に相当する価格評価基準に合理性はない。 価格を甚だしく軽視した選定プロセスと評価基準を審査委員会で決め、それに則り選考した結果、39億1000万円の価格の犠牲を無視した本件土地売却につながったのであるから、審査委員会の裁量の範囲内とはいえない。 また、最高提示価格111億1000万円より39億1000万円も安い本件会社の提案を1位に順位付けした審査委員会は、価格差と提案内容差を比較考量することを一切しなかったことについては、控訴人はすでに述べた。 (3)ア 原判決は、「さらに亡藥師寺が、上記政策会議の決定を踏まえ、目黒区の代表者として、本件会社に対して本件土地を売却したことも、その裁量の範囲内ということができ、最高価格の111億1000万円を提示した会社に対して本件土地を売却すべきであったとはいえない」としている。 区財政の逼迫時の財源確保で、価格の有利性を適正に評価することなしに順位付けし、裁量の範囲を逸脱した審査結果に基づいて、亡藥師寺が本件土地を売却したことも、原判決は裁量の範囲内であると判断した。が、亡藥師寺は目黒区の代表者としての裁量権を逸脱しているというべきである。原判決は、審査委員会の順位付けと亡藥師寺が売却したことをともに裁量権の範囲内と判断したことで、二重の誤りを犯したというべきである。 イ そもそも、財源確保の売却で公募提案方式による随意契約を採用したのだから、審査委員会及び亡藥師寺は、価格の有利性では一番である111億1000万円を提示した会社と交渉し、提案内容を変更させることも可能であった。価格をそのままに据え置き、提案内容を周辺住環境との調和等により配慮するように変更させればいいのである。一般競争入札であれば、入札・開札で落札者が決定し、交渉することはできないが、随意契約であり、契約を締結するまで交渉は可能であった。 変更内容によっては、価格は多少安くなるとしても、価格の有利性において、本件会社の72億円の提案よりも優るのは確実であった。しかし、審査委員会は、審査過程のわずか20分のヒアリングで、111億1000万円を提示した会社に階数を減らすことをできるか、と一担当者では即答できない難問をして、即答できなかったことをもって、提案に柔軟性がないと決め付けただけであった。ヒアリングの場以外での交渉をしなかったのである。 ウ 亡藥師寺は、審査委員会が1位に順位付けした本件会社に、39億1000万円もの価格の犠牲を考慮することなく売却したのは、合理的な裁量判断とはいえず、裁量の範囲を逸脱しており違法である。原判決は、本件会社を審査委員会が1位に順位付けし、政策会議で決定したことをもって、亡藥師寺の裁量の範囲内と判断した。 しかし、39億1000万円の価格の有利性を犠牲にした売却は、地方自治法第2条14項、地方財政法第4条2項に違反しており、違法である。 (4)原判決の3「争点(3)について(4)」において、「原告がこの点に関して個々詳細に主張する点についても、必要な限度で更に補足して判断することにする」とある。控訴人(原告)は、以下、原判決の判断に反論する。 ア 「ア 価格面での犠牲について」(ア)の誤り @ 原判決は「ア 価格面での犠牲について」(ア)において、「そもそも、随意契約の方法を採ったことにより、本件土地の売却に当たっては価格以外の要素を重視する旨の目黒区の意思は明らかであり(地方公共団体が契約を締結するに当たって、常に価格面で最も有利な提案を選択しなければならないとすれば、随意契約という方法が法令上規定される意味がなくなってしまうから、この点に関する原告の主張は採用できない。)、価格的にみれば必ずしも有利とはいえない相手方を契約相手として選択したことをもって、違法であるとはいえない」と判断した。 原判決が誤っているのは、引用部分で控訴人が下線を引いた個所である。目黒区は、随意契約を採用し、審査委員会を設置し公募提案を審査するに当たって、価格以外の“要素を重視する旨”の証拠も主張もない。購入希望金額も審査委員会の審査対象であり、しいていえば価格以外の“要素も重視する旨”ということである。控訴人が、原審の弁論、陳述書で主張したのは、審査委員会が跡地利用計画の提案差と価格差を比較考量せず、価格の有利性を犠牲にし、その結果、最高価格より39億1000万円も安く売却したということである。 原判決は、「価格的にみれば必ずしも有利とはいえない相手方を契約相手として選択したことのみをもって、違法であるとはいえない」と判断しているが、控訴人が原審の弁論で、証拠に基づいて主張した全趣旨は、価格的に有利とはいえない相手方と契約したことのみをもって、違法であるとはいってない。価格以外の提案内容差が、価格差に匹敵するか否かの審査、検討をまったくせずに売却し、その結果、39億1000万円の価格の犠牲が生じたのである。たとえ、上記金額の価格の犠牲があったとしても、それに相当する目黒区の利益の増進につながるものであれば、違法ではなかったのである。 A 原判決は、上記(ア)でさらに、「原告は、本件での価格面での犠牲は多大であり、「多少なりとも」「ある程度」という限度にはとどまらないと主張する。しかし、本件会社の提示した72億円という価格は、少なくとも目黒区が想定した売却予定価格56億2700万円を15億円強上回っているのであるから、本件での価格面での犠牲が、許されない程度であるとはいえない」と判断した。 原判決は、売却予定価格を基準にして15億円強上回っており、価格面での犠牲が、許されない程度であるとはいえない、としている。しかし、実際に売却できた最高購入希望金額111億1000万円と比較すれば、じつに39億1000万円の価格の犠牲であり、許される限度を大幅に超えているというべきである。本件会社の72億円の価格は、見積価格中で上位から7番目目であり(甲1号証、事実証明書1参照)、2番目の価格83億円と比較しても11億円の価格の犠牲がある。原判決は、提示された各見積価格と各提案内容を検討することなく、単に本件会社の72億円が売却予定価格より、15億円強上回っていることのみをもって、「本件での価格面での犠牲が、許されない程度であるとはいえない」と判断したのは、事実認定の誤りに基づいて判断である。 亡藥師寺が、まだ存命中であった平成15年10月14日付の被告の準備書面(1)第4(10頁)で、 「本件の場合には、もしも原告の主張するように価格だけに注目して買収価格111億1,000万円の提案を採用したときは、その価格が健全な評価をはるかに上回る(予定価格の1.97倍)という観点だけからも大きな問題を引き起こすことになることは容易に想定されるところである」と主張した。このことからも、亡藥師寺は111億1000万円で売却する意思がなく、39億1000万円の価格の犠牲を承知の上で売却したのは明らかである。 予定価格の1.97倍で売却すれば、大きな問題を引き起こすとする被告の主張に対して、原告は平成15年12月4日付、準備書面(2)原告の主張10及び11(17〜18頁)で、東京都が青果市場跡地売却の公募方式による随意契約の証拠(甲16号証)を提出して反論した。東京都の事例は、売却予定価格の1.77倍で売却したが、何ら問題はなかったのである。それどころか、高額で売却できたことで、東京都の利益の増進につながったのである。 B他にも原判決は、「ア 価格面での犠牲について」(ア)で、売却予定価格について、「本件土地の売却予定価格が、5,6階建ての建物の敷地としての利用を前提としているのに対し、本件会社の提案内容が12ないし13階建ての建物の敷地としての利用を前提としているからといって、直ちに、本件土地の適正な売却価額が高騰し、本件会社の提案価格である72億円を上回ると断定できるわけではなく、原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠もない」と判断している。 売却予定価格を算出する基礎になった不動産鑑定評価は、5階建ての本庁舎跡地及び3回建て公会堂跡地に、5,6階建てのファミリータイプ・マンションを想定したものであった。公募提案され、審査対象になった14件の提案は、7階建てから25階建てであり、すべて売却予定価格を超過していた。提案された購入希望金額は、58億1780万円から111億1000万円であった。 5,6階建てならば、周辺住環境と調和するが、提案されたうち11件が13階建て以上の提案であった。したがって、総床面積が広くなり、跡地の敷地単価が高くなる。つまり、目黒区は5,6階建ての共同住宅住宅を想定したために、本件土地の実勢価格を誤って売却予定価格を決定したのである。提示された価格のうち、7件が70億円台以上であった。住環境との調和を図るために、5,6階建てを想定して予定価格を想定したのであれば、応募要領の留意点として5,6階建てをしておくべきであった。実勢価格より安すぎる予定価格を設定しておいて、予定価格より15億強上回るとする判断は非合理的である。 控訴人が、本件土地の予定価格を算定した不動産鑑定評価書を分析し、原審の弁論で証拠に基づいて主張した事実(準備書面10、第2)について、原判決は曲解している。控訴人は、予定価格で想定した建物と本件会社の提案内容が相違していること、そして売却予定価格が安すぎることを主張したのである。原判決のいうように、72億円を上回ることがなかったとしても、売却予定価格を15億円強上回っているので、「本件での価格面での犠牲が、許されない程度であるとはいえない」ということにはならなかったのである。 (5)「ア 価格面での犠牲について」(イ)についての誤り ヒアリングの際に、本件会社が建物の階数を減らす用意があると述べたにもかかわらず、本件区幹部らが、同社に対してこれを要求しなかったのは、本件会社は階数減少部分に相当する分の価額を得をしており、目黒区が損をしたとする原告の主張について、原判決は、「この点についても、証拠(証人鈴木勝)によれば、本件区幹部らは、本件会社が階数を減らす用意があると述べたこをもって、本件会社に柔軟性があると評価したことが認められ、同人らが「階数を減らせば良い提案になる」と判断したわけではないのであるから、原告の上記主張は失当である」と判断した。 平成17年3月29日付、原告準備書面(8)第1、10(15、16頁)で証拠に基づいて主張したように、本件会社が階数を減らすことを断言せず、留保しているのである。ところが、本件区幹部は審査委員会のヒアリングで、同意したと曲解したのである。同意したのであれば、近隣住民の要求があろうがなかろうが、階数を減らすことを本件会社にさせなければ、その分に相当する価額を目黒区が損したことになる。審査委員であった本件区幹部が、同意せず、実行もできない発言をもって、提案内容に柔軟性があると判断したのなら、それこそが失当というべっきである。 (6)「ア 価格面での犠牲について」(ウ)についての誤り 新庁舎買収のため、条例改正までして、他の目的で積立てをしていた基金を取崩し流用したことについて、原判決は「仮に条例改正に関する原告主張の事実が認められるとしても、それは、当不当の問題にとどまるものであって、この点が、目黒区が本件会社を売却先としたことの適法性に影響を与えるものではない」と判断した。 原判決の判断は、随意契約ができる条件を満足しているから本件土地売却で随意契約を採用したのは適法であると最初に判断し、したがって条約を改正してまで基金を流用するほど区財政が逼迫していたからといって、適法性に影響を与えるものではない、としているのである。 控訴人は、そのように逼迫した区の財政状況を斟酌せずに、39億1000万円もの価格の有利性を犠牲にした本件土地売却は、本件会社を1位に順位付けした審査委員会及び契約者である亡藥師寺は、裁量の範囲を逸脱しているとしているのである。控訴人がすでに述べたように、原判決は外形的に随意契約ができる条件を満足していることのみをもって、適法であるとしたために、こうした事実認定の誤りによる判断をしたというべきである。 (7)「イ 評価基準の合理性等について」の誤り (ア)評価基準について原判決は、「原告は、1億円を0.1点とする評価方法に根拠がない旨主張するが、随意契約を採用する以上、価格の要素にどの程度ウェイトを置いて評価するかについては、基本的には審査委員らの裁量にゆだねられているというべきであって、上記の評価方法が、審査委員らの裁量の範囲を逸脱したり、裁量権を濫用するのであるとまではいえない」と判断した。 控訴人は、審査方法及び評価基準が極めて非合理的であったのが原因で、39億1000万円もの価格の犠牲が生じた本件土地売却になったのであるから、審査委員らの裁量の範囲の逸脱であり、裁量権の濫用というべきである。1億円=0.1点の根拠について、審査委員会でまったく説明されなかったのである。その非合理性については、すでに述べた。価格評価で、111億1000万円や83億円の提案が、72億円の提案を逆転しないように1億円=0.1点に評価基準を設定したというべきである。 評価基準が非合理的である点は、他にもある。原審で控訴人は、平成15年12月4日付、準備書面(2)第3(6〜8頁)で主張したように、評価書の細目で「採点ランク 1非常に劣る」と評価しても、価格評価に換算すれば、じつに売却予定価格を超過する10億円に相当するのである。たとえば、本件土地の跡地利用のすべてにわたり「非常に劣る」と評価しても、小項目別平均採点の合計は5点になり、価格評価基準で予定価格を超過した50億円に相当するのである。提案内容がすべて「非常に劣る」のであれば、価格評価基準でゼロ円かマイナスに評価するのが合理的判断である。 区財政の逼迫しているときに、財源確保の売却でありながら、このような評価基準を設定したのは、まさに裁量の範囲を逸脱し、裁量権の濫用そのものである。原判決の誤りは明らかである。 (8)(エ)において、原判決は、「なお、本件土地は、あくまでも売却後は私有地になるものであるから、目黒区が本件土地の売却決定時に、売却後の同土地の利用法について具体的な計画を有していなかった(その結果として「応募上の留意点」の記載が抽象的であった)からといって、責められるいわれはない」としているのは失当である。 随意契約を採用したのが適法であるとする原判決は、目黒区基本構想、基本計画から個別条例の策定等を根拠にしたものである。しかし、売却後は私有地になるものであるから、売却後の利用法について具体的な計画を有していなかったことが責められるいわれはないとするならば、基本構想、個別条例策定等をもって随意契約採用を適法とした根拠もなくなるというべきである。 売却後は私有地になることは当然のことであるが、その場合に街づくりの観点から目黒区が関与しようと考えたものであるから、原判決は随意契約採用を適法と判断したと解される。 控訴人のいう具体的な計画とは、本件土地の売却後の利用方法について、基本構想、基本計画、個別条例から必然的にでてくる街づくりの計画のことである。その計画すらも目黒区が持っていなかったのは、目黒区行政の怠慢というべきである。それでいて随意契約を採用したのであるから、随意契約を採用した根拠は根底から崩れることになる。 (9)ウ「亡藥師寺らと本件会社の癒着の疑いについて」で、原判決は、「原告は、亡藥師寺ないし本件区幹部らと本件会社が癒着していた旨主張し、「その根拠として、 @本件会社に関係する者が、目黒区の住民であるかのように装って、本件会社の提案内容を高く評価する内容の意見書を提出したことが強く疑われるにもかかわらず、亡藥師寺や本件区幹部らが、この問題を追及しなかったこと、 A本件区幹部らが、ヒアリングの際、本件会社に対して、地域貢献施設の面積の拡大及び目黒区への無償譲渡に関して誘導尋問を行って、本件会社の提案が高く評価されるようにしたこと等を挙げる。 しかし、上記の@は原告の憶測の域を出るものではなく、同Aについては、当該ヒアリングが行われた審査委員会の会議録(甲2事実証明書6、乙9の6)によっても、当該ヒアリングの際、審査委員が原告の上記主張するような誘導尋問を行ったことを認めるに足らず、他に原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない」と判断した。 しかし、原判決の@及びAについての判断は、いずれも事実認定の誤りに基づいたものである。まず、@についての判断の誤りを指摘する。けっして原告(控訴人)の憶測ではないのである。そもそも、本件会社に関係する者が集団で、住民を提案閲覧会場にやってきて、本件会社の提案を評価する意見書を提出したことについて、原告(控訴人)が主張したのは、審査委員会の録音テープが開示され、そのテープに録音されていたからである。ちなみに録音テープに関しては、原告の文書提出命令申立に対して、被告(被控訴人)は当初、「存在しない」といっていたが、再度、申立と証人申請を行ったあと、被告(控訴人)がやっと開示請求により開示したものである。 録音テープの反訳(乙29の3)6頁を見ればわかるように、審査委員会事務局の責任者であった契約課長・加藤らが、本件会社の人間が住民を偽装して閲覧会場にやってきたことを審査委員会で報告しているのである。報告があったことは、証人の鈴木勝も認めている。住民を偽装して意見書を提出したことについては、控訴人は原審の準備書面(8)第1(9)13〜15頁で詳述した。また、本件会社の人間が住民を偽装して記入したとされる意見書については、鈴木勝の証人尋問にあたり証拠(甲50、51)として提出した。録音テープの反訳と甲50,51を照合すれば、住民を偽装したのは本件会社の人間であることは明白である。この件に関しての鈴木証言の検証は、準備書面(11)で行った。原判決が、原告の憶測の域を出るものではない、と判断したのは事実認定に重大な誤りがある。 さらに原判決は、@で「亡藥師寺や本件区幹部らが、この問題を追及しなかったこと」を原告の主張の根拠として挙げているが、これも事実認定を誤っている。なぜならば、亡藥師寺は審査委員ではなかったのであるから、審査委員会で住民偽装の件についての報告は聞いていない。原告(控訴人)が問題にしたのは、この不正行為を追及しなかった審査委員であった助役・佐々木や審査委員長のことである。 大勢で住民を偽装して、自身の会社に有利な意見を記入して提出することは、公募提案方式において失格させるべき重大な不正行為であるといえる。しかし、審査委員会で助役・佐々木や審査委員長らが業者を特定し、追及する意思があるならば、閲覧会場に審査委員会の責任者の契約課長・加藤らがいたのだから、簡単にできたのである。しかし、審査委員会は最後まで不正行為の責任追及をしなかった。業者を特定しなかったのは、証人・鈴木も認めている。 原告(控訴人)は、亡藥師寺がこの件で追及しなったことを問題にして主張したことは一度もなかったのである。 Aについての原判決の誤りを指摘する。 原判決は、審査委員が誘導尋問を行ったことを認めるに足らず、証拠もないとしているが、原告(控訴人)は誘導尋問があったか否かを問題にしたのではない。本件会社のヒアリングの際、助役・佐々木が公共スペースの拡大について、口火を切り、本件会社が提案した650uを2倍の1300uに拡大したが、助役・佐々木は650u以上の850u、1020uの公共スペースの提案した業者に対しては、拡大できるかどうかを質問していないのである。また、佐々木は、価格が83億円で2番目であった業者にも拡大についての質問はしていない。その結果、1300uの公共スペースで14件の提案中、最大になり高く評価されたのである。そうしたヒアリング、審査方法の不公正・不公正を控訴人(原告)を問題にしたのである。 原判決は、「誘導尋問を行ったことを認めるに足らず」というが、証拠乙29の6、10頁傍線部分2で、助役・佐々木は、 「これ、具体的に今後、仮にこれじゃ中途半端だという話になったときには、まあ、際限なくというわけにはいかないでしょうけども、どの程度までだったら取れますよというふうに目算をされてますか?」と公共スペース拡大の口火を切っているのである。 スペース拡大に関する疑惑については、控訴人(原告)は準備書面(8)第1、(10)17頁で、証拠に基づいて詳述した。控訴人(原告)の主張事実を認めるに足りる証拠はないとする原判決は、事実認定の誤りである。 (10) エ「周辺環境との調和について」で、原判決は周辺環境との調和について、「原告は、本件土地に新たに建てられた建物が12階、13階建てであることを問題にするが、一般的に、東京都特別区の中心部において、12階ないし13階建て程度の高さの建物が存在することをもって、周辺住環境への配慮を欠くとまではいえない。このほか、原告は、結果的にみて、本件会社が建てたマンションは、周辺住環境と調和していないとも主張するが、これは、結果論としての当不当の問題にすぎない」と判断した。 目黒区は、そもそも周辺住環境との調和を理由にして、本件土地売却に当たり公募提案方式による随意契約を採用したのである。その結果、建設された本件会社のマンションは、証拠甲65の写真を見ればわかるように、とうてい住環境と調和しているといえるものではない。随意契約を採用した理由とは、大違いの建物が建設されたのである。一般的に、東京都特別区の中心部において、12階ないし13階建て程度の建物が存在することをもって、周辺住環境への配慮を欠くとはいえない、という原判決の判断は、本件土地周辺の住環境を無視したものである。都心部に位置する特別区の中心部と本件土地周辺の住環境は異なるのである。住環境の破壊そのものというべきである。 原判決は、「結果論としての当不当の問題にすぎない」としている。が、結果を待つまでもなく、公募提案を審査し、本件会社の提案を1位に順位付けしたときから、周辺住環境に調和しない建物が建設されることは、わかっていたこである。それなのに、本件会社を1位に順位付けした審査結果は、裁量の範囲を逸脱したものであり違法である。 (11)4において、原判決は、「争点(4)(損害額及びこれと責任原因との相当因果関係の有無)について判断するまでもなく、原告の請求に(亡藥師寺及び本件会社に関する部分)には理由がない」と判断した。しかし、これまで控訴人が原判決について検討、反論してきたように、原判決は法令の適用及び判例の解釈を誤り、さらに事実認定を誤ったものであり、控訴人(原告)の請求には理由がある。 以上 |