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控訴人:須藤甚一郎 被控訴人:東京都目黒区長 被控訴人補助参加人:薬師寺剛政、薬師寺秀幸、薬師寺知子 準 備 書 面 (2) 平成18年9月14日 東京高等裁判所第8民事部 御中 〒152−0034 東京都目黒区緑が丘1丁目***番**号 控訴人 須 藤 甚 一 郎 電話: 03−****−**** FAX: 03−****−**** はじめに 本件は不動産売払いに関する事案である。原判決は、本件随意契約を地方自治法施行令167条の2第1項2号を根拠として適法としているが、これは、不動産の売払いを随意契約の対象としていないから、明らかにこの条文の解釈を間違っている。原判決が根拠とした最高裁判所昭和62年の判例はごみ処理施設の建設工事請負契約であって、不動産の売払い、売却に随意契約を適用する根拠とはならないのである。 よって、原判決は条文の解釈を誤り、なおかつ最高裁判所判例の適用を誤るという二重の誤りを犯しているのである。 控訴人は、弁論再開申立書を提出後に、本件土地売却で目黒区が採用した公募提案方式(コンペ方式)による随意契約について、阿部泰隆 中央大学総合政策学部教授・弁護士に意見書(甲第68号証)を依頼したところ、緊急に執筆頂いたので、ここにその意見書を提出する。控訴人の主張は、阿部教授の意見書によって補強されるはずである。 第1 (1)原判決(平成18年2月16日判決言渡、東京地方裁判所民事2部、平成15年(行ウ)373号 損害賠償請求事件)は、本件土地売却について、最高裁判所判例(昭和62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁参照)に該当するとして、 「本件土地売却は、地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するといえるから、目黒区が本件土地の売却を随意契約の方法で行ったことは適法であるということができる」と判断した。(判決書13頁中段) しかし、地方自治法施行令167条の2で随意契約によることができる場合は、次の各号に掲げる場合とするとしており、上記地方自治法施行令167条の2第1項2号の条文は、 「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」としている。つまり、随意契約に寄ることができるのは、「その性質又は目的が競争入札に適しない契約」というだけではなく、「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約」に該当しなければならない。最高裁判決はこの後者を無視している。 同項1号では、不動産の売買とされているのに、この2号の条文の冒頭においては、不動産の売買ではなく、あえて「不動産の買入れ又は借入れ」と規定されているのであるから、この2号の随意契約には、不動産の売払い、売却は含まれないと解すべきである。したがって、本件土地売却を適法とした原判決は、条文の解釈を誤ったものである。 阿部教授は、「意見書一 問題提起、公募提案方式(コンペ方式)による不動産の売却は適法か」の中(意見書2頁)で、つぎのように述べている。 「地方公共団体においては、競争入札が原則であり、随意契約は政令で定める場合に限り許される(地方自治法234条2項)。そして、地方自治法施行令167条の2は、随意契約が許される場合を、1号、売買、貸借、請負その他の契約の場合にはその予定価格が一定以下である場合と、2号、@ 「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でAその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」としている。 コンペ方式による不動産の売却を肯定する見解の法的根拠は、必ずしも明らかではないが、前記の167条の2第1項第2号の「その他の契約」で読むらしい。 しかし、結論的に言って、それは、文理上も実質的にも誤りであり、これまでの判例も、これに気が付かなかったにすぎない。以下、これを立証する。 なお、総合評価方式によることができる場合として、平成11年度改正地方自治法施行令167条の10の2は次のように規定している。 「普通地方公共団体の長は、一般競争入札により当該普通地方公共団体の支出の原因となる契約を締結しようとする場合において、当該契約がその性質又は目的から地方自治法234条第3項本文又は前条の規定により難いものであるときは、これらの規定にかかわらず、予定価格の制限の範囲内の価格をもつて申込みをした者のうち、価格その他の条件が当該普通地方公共団体にとつて最も有利なものをもつて申込みをした者を落札者とすることができる。」 コンペ方式はこの規定を根拠とすることができるとの説があるかもしれないが、これは、その文理上も、地方公共団体の「支出の原因となる契約」について適用されるのであって、各種の請負契約などには適用されるが、不動産の売却のように収入の原因となる契約には適用されないことは明白であるから、ここではこれ以上考察しない。」 さらに阿部教授は、「意見書二 私見(否定説)1 文理解釈」(意見書3頁)において、つぎのように述べている。 「まず、地方自治法施行令167条の2の条文では、不動産の「売買」と「買入れ」という言葉が区別されている。この1号では、売買である以上は、買入れでも売却でも、競争入札という手間をかけることなく、随意契約が許されることとされているが、それは予定価格が一定額以下に限られている。 不動産の買入れの場合、Aの要件を満たせば、予定価格が一定額以下という制約なしに随意契約をすることが許される(2号)。 しかし、不動産の売却の場合には、この2号の規定の適用がないので、Aの要件を満たそうと、随意契約にすることはできない。 もっとも、これに対しては、不動産の売却を「その他の契約」で読めるという反論がある。その前提に立てば、不動産の売却を随意契約で行うことができるかどうかは、Aの要件が充足されたかどうかによる。 しかし、この条文では、不動産の買入れが例示されており、売買とはされていないから、「その他」に、まさかその反対の売却まで含むはずはない。この2号に「売払い」という言葉が用いられているが、これは、納入に使用させるために必要な物品に限っているので、これも、不動産の売却一般を含まないことが前提であろう。 買入れとあるのに、「その他の契約」で、売却も読むなら、買入れを例示する必要もない。 このように、「その他」という言葉の中に、売却を読み込むのは文理上無理である。」 したがって、目黒区が地方自治法施行令167条の2第1項2号の「その他の契約」で、本件土地を公募提案方式による随意契約で売却したのは違法である。その公募提案方式による随意契約を適法とした原判決も違法である。 (2)地方自治法施行令167条の2第1項2号の条文の構造、文脈を精査すれば明らかなように、冒頭の「不動産の買入れ又は借り入れ」のあとに読点「、」があって区切ってある。不動産については、冒頭で「買入れ又は借入れ」に限定しているのである。仮に「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に不動産の売払い又は貸出しをも含まれるのであれば、 冒頭で「不動産の売買又は貸借」としているはずである。 条文は、「不動産の買入れ又は借入れ」を読点「、」で区切ったあとに、「普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるために必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」と続く。 「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を修飾し、限定しているのは「普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるために必要な物品の売払い」の文言である。この文言には、不動産の売払い、売却は含まれていないのである。文理上から判断して、不動産の売払い、売却が含まれないのは明らかである。 原判決は、「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」の文言だけを文脈を無視して分離し、不動産の売払い、売却も含まれるとして、本件土地売却を適法としたのは、条文を誤読した結果であり、違法である。 (3)上記(1)で述べたように、原判決は上記の最高裁判例を適用して、本件土地売却を適法とした。この最高裁判例は、控訴人が控訴理由書の「はじめに」でも指摘したように、福江市のごみ処理施設の建設工事請負契約に関しての随意契約の事案である。しかし、本件は目黒区の不動産の売払い、売却の事案であり、福江市の場合は地方公共団体の支出の原因になる契約であり、目黒区の場合は収入の原因になる契約であって、真反対である。 ところが、原判決はそうした違いを考慮せずに、最高裁判例を適用して、本件土地売却を適法としたのである。控訴人が、上記(1)及び(2)で述べたように、地方自治法施行令167条の2第1項2号の規定には、本件のような不動産の売払い、売却は含まれないのだから、たとえ最高裁判例に随意契約ができる条件のみが該当したとしても、適法とはいえないのである。なぜならば、この最高裁判例は福江市のごみ処理施設の買入れ契約であり、目黒区の場合は、土地の売却であって、真反対なのである。 控訴人は控訴理由書において、原判決の判断はこの最高裁判例を恣意的に解釈し、価格の有利性の犠牲をはじめ最高裁判例に該当しないことを詳述した。例えば、本件土地売却で生じた39億1000万円もの価格の有利性の犠牲を「契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」と判断した。 福江市の場合は、価格の有利性の犠牲は650万円である。しかし、目黒区の場合は、区財政の逼迫時に行った財源捻出目的であった本件土地売却において、39億1000万円もの価格の有利性の犠牲は、とうてい「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果」といえるものではないのである。 阿部教授は、「意見書三 従来の判例学説は問題点に気が付いていないこと 1 判例」(意見書5頁〜7頁)において、つぎのように述べている。 「まず判例を見ると、随意契約によることができるかどうかの論点に関する先例として引用されるのが最高裁判所昭和62年3月20日第二小法廷判決(民集41巻2号189頁)である。これは次のように述べている。 「随意契約によるときは、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も指摘され得ることから、令一六七条の二第一項は前記法の趣旨を受けて同項に掲げる一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものと解することができる。ところで、同項一号に掲げる「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、原判決の判示するとおり、不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように当該契約の目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定されてしまう場合や契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成する上で必要とされる場合など当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合がこれに該当することは疑いがないが、必ずしもこのような場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項一号に掲げる場合に該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。」 これは随意契約によることができる場合についていかにも一般論をしているが、市のごみ処理施設建設の請負契約を随意契約によつて締結した事案である。これは不動産であっても、買入の事案であるから、この判例は正しい。しかし、この判例は、不動産の売却という、全く異質なものにもこの判旨が妥当するという趣旨のことはいっさい述べていない。したがって、この判決を根拠に、不動産の売却の場合に随意契約が許されるかどうかを論ずる(そして、これを肯定する)のは誤りである。」 (4)これまでに地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に不動産の売払い、売却が含まれるのか否かが正面切って争われたことはなく、この条項について不動産の売却も適法とした最高裁判例はない。従前、単なる思い込みで、不動産の売払い、売却も含まれるとされてきたに過ぎないのである。 しかし、条文、条項の文脈、文言を精査すれば、文理上、不動産の売払い、売却は含まれないのは自明である。しかるに、目黒区のみならず、全国の地方公共団体で「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を援用して、不動産を売払う事例が続いているのは改めていうまでもない。 阿部教授は、「意見書三 従来の判例学説は気が付いていないこと」(5頁)の冒頭で、「以上で、一の問題(控訴人注。「一 問題提起、公募提案方式(コンペ方式)による不動産の売却は適法か」のこと)に対する回答が得られたが、これまで、このような問題を提起した判例学説は寡聞にして知るところではなく、不動産の売却でも、前記施行令167条の2のAの要件が満たされているかどうかだけが争点となってきたので、一言することとする」として、「1判例」で、上記(3)の引用部分を述べたあと、つぎのように述べている。(意見書7頁) 「最高裁平成6年12月22日判決(民集48巻8号1769頁)は、不動産の売却について、最高制限価格を設定した一般競争入札による売却を違法として、随意契約によることのできる前記のAの場合に当たるとした。そこで、これは、不動産の売却にも随意契約の適用があるとの先例になるという主張があろう。 しかし、この事件では、不動産の売却は、前記施行令の文言上随意契約が許される場合に当たらないとの主張がなされなかったので、その論点を無視したものであり、先例とすべきものではない。現に、平成6年の最判に関する千葉勝美調査官解説(最高裁判例解説民事篇平成6年度688頁以下)は、不動産の売却か買入れかを問題とせずに、Aの要件だけを検討している。 従前の下級審判例もこの点の問題意識を持っておらず、随意契約が不動産の売却に適用されるかどうかを論じていない。 本件の原審東京地裁平成18年2月16日判決平成15年(行ウ)第373号 損害賠償請求事件は、原告目黒区会議員須藤甚一郎氏のHP(http://home.f04.itscom.net/sudo-j/)に掲載されているが、その準備書面を見ても、この点の主張はなされていない。したがって、裁判所がこのような点を論点と思わなかったのは不思議ではない。 東京地判平成5年2月25日(判タ859号179頁判例自治122号64頁)、横浜地判昭和58年11月14日(判タ521号229頁)、東京地判昭和45年1月19日(行集21巻1号1頁判時580号28頁判タ244号211頁)も同様である」 (まとめ) 控訴人の主張は、地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」は、本件の公募提案方式(コンペ方式)による随意契約で土地を売却する場合には、適用でないとするものである。したがって、適用できるとした原判決は違法である。 阿部教授は、「意見書三 従来の判例学説は問題点に気が付いていないこと」の1判例、2学説。そして「意見書四 私見を根拠づける文献」において、上記施行令が不動産の売却には適用できないことを立証している。 その結果、阿部教授も「意見書五 まとめ」(意見書11頁)において、つぎのように述べている。 「結局、冒頭にあげたような、不動産の売却をコンペ方式で行うことは明文の規定に反し、しかも、その必要もないから、明白に違法である。これに反して行われた売買契約は、財務会計法規に正面から違反するので、単に違法であるだけではなく、無効というべきであり、住民訴訟ではその違法を理由に(過失があれば)、売却をした首長に対して、自治体に損害額の支払いを求めよとの請求、その無効を理由に、契約に基づいて給付した土地の返還、登記抹消を(代金と交換に)求めることができる。 なお、不動産の売却においてもコンペ方式が望ましい場合があるなら、それは立法論であり、妥当する範囲と方法を精査して、自治法施行令改正によって対応すべきである。」 以上 |