事件番号 平成18年(行コ)第77号

控訴人:須藤甚一郎

被控訴人:東京都目黒区長

被控訴人補助参加人:薬師寺剛政、薬師寺秀幸、薬師寺知子

 

準 備 書 面 (3)

平成18年10月4日

 

東京高等裁判所第8民事部 御中

 

 

〒152−0034 東京都目黒区緑が丘1丁目***番**号

控訴人  須

電話: 03−****−****

FAX: 03−****−****

 

 

第1 被控訴人補助参加人らの「上申書」(平成18年9月15日付)の主張はすべて成り立たない。以下、これを詳述する。

 

第2 「上申書」第1に対する反論

1 被控訴人補助参加人ら(以下、「補助参加人」という)は、「上申書」第1で、「地方自治法施行令第167条の2第1項2号の適用から不動産売却が除外されるとする控訴人の解釈は、最高裁判例を含む確立された判例上の解釈に明らかに反するもので、議論の余地はなく、徒に訴訟の進行を遅延させるものである。弁論の再開の必要に欠けるものと思料する」と主張する。

しかし、控訴人が準備書面(2)で詳述し、阿部泰隆 中央大学総合政策学部教授・弁護士が「意見書」(甲第68号証)で立証したごとく、まず文理上、地方自治法施行令第167条の2第1項2号(以下、「本号」という)の条文「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売り払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」を素直に読めば、文理上、不動産の売却には適用できないのは自明である。

本号が本件土地売却つまり公募提案方式(コンペ方式)による随意契約に適用できないことについては、控訴人は準備書面(2)第1の(1)〜(4)において詳述した。また、阿部教授は、「意見書」一「問題の提起、公募提案方式(コンペ方式)による不動産の売却は適法か」、「意見書」二「私見(否定説)1 文理解釈、2 実質論、3 損害」、「意見書」三「従来の判例学説は問題点に気が付いていないこと 1 判例」「意見書」四「私見を根拠づける文献」で、本号は不動産の売却には適用できないことを立証した。

控訴人は、すでに準備書面(2)第1(2)で引用したが、阿部教授が、「意見書」一(2頁)で、「@不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品その他の契約でAその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」という本号の条文を@とAに分けるように、「で」とあるときは、その前と後の2つに分けるのである。そして、「その他の契約」は、「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品」に準ずるものに限定される。1号では、不動産の売買(買入れだけではなく売却も)が随意契約の対象となっているが、少額物件に限定されている。少額物件に限定しない2号において、不動産の買入などに準ずるものに限定している以上は、2号に不動産の売却も含まれると解釈する余地は、まったくないのである。

 

2 補助参加人は、「上申書」第1で、本号の適用から「不動産売却が除外されるとする控訴人の解釈は、最高裁判例を含む確立された判例上の解釈に明らかに反するのもので、議論の余地はなく、徒に訴訟の進行を遅延させるものである」と決めつけて主張する。

しかし、本号が不動産売却に適用されるか否かに関して、補助参加人がいう「最高裁判例を含む確立された判例上の解釈」は、いまだに存在しないのである。そのことについては、補助参加人が「上申書」第2理由の4で、解釈を確立したとする判例を列挙しているので、後に反論する。

また、本号が不動産売却に適用できないため、控訴人が弁論再開を申立てたことについて、補助参加人は「徒に訴訟の進行を遅延させるものである。弁論の再開は必要に欠けるものと思料する」と主張する。

しかし、本号が不動産売却に適用できないことは条文上一見明白であるから、目黒区の本庁舎・公会堂を公募提案方式(コンペ方式)による随意契約を採用して売却したのは明白に違法であり、強行法規に反するこの契約は無効である。したがってまた、随意契約による本件土地売却を適法と判断した原判決も違法である。

控訴人の弁論再開の申立ては、徒に裁判の進行を遅延させるものではなく、明白な誤りを是正するために不可欠なものである。また、この条文の意味を巡る審理は、事実の審理と異なり、準備書面のやりとり数回で十分であるから、訴訟の進行が遅延することはほとんどない。

 

第3 「上申書」第2 理由に対する反論

1 補助参加人は、「上申書第2の2」で、「地方自治法施行令第167条の2第1項第2号(以下「本号」という)の「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」との規定には、「不動産売却でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を除外すべきとの趣旨は含まれておらず、また、これをあえて除外すべきとする他の規定は存在しない。」と主張する。

 しかし、本号の条文の後段を、「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とだけ切り離して読むのは誤読である。控訴人が、この準備書面(3)第2の1で述べたように、「その他の契約で」は、その前にある「普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売り払い」に関する「その他の契約で」の意味である。

 ところが、補助参加人は「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」と繋いで誤読した結果、「不動産売却でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を除外すべきとの趣旨は含まれておらず、また、これをあえて除外すべきとする他の規定は存在しない、という何ら根拠のない的外れの主張をするのである。

 補助参加人が「不動産売却でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」としているのは、「その他の契約で」に不動産売却も含まれると読んでいるからである。つまり、「その他の契約で」を「不動産売却で」に置き換えているわけであるが、本号の文理上、そのような読み方は不可能である。誤読以外のなにものでもない。

 控訴人は、すでに準備書面(2)第1(1)で阿部教授の「意見書二 私見(否定説1 文理解釈」(「意見書」3頁)から「その他の契約で」に不動産売却は含まれないとする個所を引用した。改めてその個所の一部を引用しておく。

「しかし、この条文では、不動産の買入れが例示されており、売買とはされていないから、「その他」に、まさかその反対の売却まで含むはずはない。この2号に「売払い」という言葉が用いられているが、これは、納入に使用させるために必要な物品に限っているので、これも、不動産の売却一般を含まないことが前提であろう。

 買入れとあるのに、「その他の契約」で、売却も読むなら、買入れを例示する必要もない。

このように「その他」という言葉の中に、売却を読み込むのは文理上無理である。」

 

2 補助参加人は、「上申書」第2の3で、「逐条地方自治法」第3次改訂版(松本英昭著)の「798頁において、「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当する事例として、下記事項をあげ、当該事例では、ク、オ、キなど、不動産の売却も除外されることなく例示されている。」と主張し、同著798頁からア〜コまでを列挙する。

 しかし、補助参加人が「不動産の売却も除外されることなく例示されている」としている、ク、オ、キ、の各項目は下記の通りであって、いずれも本件土地のような不動産を随意契約で売却する場合が該当するものではない。

クは、「土地、建物又は林野若しくはその産物を特別の縁故がある者に売払い又は貸し付けるとき。」であるが、本件土地売却は一般公募し、業者による公募提案方式(コンペ方式)による随意契約であって、およそ特別の縁故ある者への売払いに該当しない。

オは、「罹災者又はその救護を行う者に災害の救助に必要な物件を売り払い又は貸し付けるとき。」であり、本件土地売却は災害とは無関係で、これも該当しない。

キは、「学術又は文化、芸術等の保護奨励のため必要な物件を売り払い又は貸し付けるとき。」である。本件土地売却の目的は、庁舎移転のための財源捻出であり、旧庁舎・公会堂跡地利用の提案内容は特に制限されておらず、学術、文化などの保護奨励には該当しない。

 上記のク、オ、キ、は、土地売却ではあるが、ごく限られた場合にのみ適用されるもので、いずれも本件土地売却とは、まったく類似点がないのである。しがって、これらは「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適するものをするとき」に該当する事例ではないのであり、補助参加人の主張は的外れである。

 補助参加人は「当該事例では、ク、オ、キなど、不動産の売却も除外されることなく例示されている。」としながら、「上申書」第2の3の最後で、「このように、「不動産の買入れ又は借入れ契約」及び「普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払い」は、「契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」の単なる例示に過ぎない」と主張する。「不動産の売却も除外されることなく例示されている」と「単なる例示に過ぎない」では矛盾している。また、補助参加人が、本件土地売却も本条に該当するとして援用している同著の当該個所には、「単なる例示に過ぎない」との記述はない。単なる例示に過ぎず、本件土地売却が本条の「その他の契約で」に含まれると主張するのは、補助参加人の思い込みである。

 阿部教授は、「意見書四 私見を根拠づける文献」で、同著を挙げている。つぎにそれを引用する。

「他方、次の文献は私見を裏付ける。

松本英昭『新版 逐条地方自治法<第3次改訂版>」(学陽書房、平成17年)796頁以下は、随意契約が許される場合を解説しているが、「『不動産の買入れ又は借入れ契約』は、一般的には普通地方公共団体が特定の土地又は家屋を買い入れ又は借り入れる必要がある場合に締結するものであり、このような契約は通常不特定多数人の参加を求めて競争により最低の価格で申込みをした者と契約を締結するというようなことは、まず考えられない。すなわち、不動産の買入れ又は借入れは、通常特定の相手方との折衝の結果、価格その他の条件が整った上で初めて契約を締結するのであり、これは随意契約の方法による場合の典型的な事例であって、このような契約は、その性質そのものが競争入札に適しない性格をもっているのである。

「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しなするとき」に該当する事例としては、例えば、

 ア 普通地方公共団体の行為を秘密にする必要があるとき

 イ 運送又は保管させるとき

 ウ 農場、工場・・・の生産に係る物品を売り払うとき

 エ 非常災害による罹災者に普通地方公共団体の生産に係る建築材料を売り払うとき

 オ  罹災者・・・に災害の救助に必要な物件を売り払い又は貸し付けるとき

 カ 外国で契約を締結するとき

 キ 学術又は文化、芸術等の保護奨励のため必要な物件を売り払い又は貸し付けるとき

 ク 土地、建物・・・・を特別の縁故がある者に売り払い又は貸し付けるとき

 ケ 事業経営上の特別の必要に基づき、物品を買い入れ若しくは製造をさせ・・・・又は土地若しくは建物を借り入れるとき

 コ 公債、債権又は株式の買入又は売払いをするとき

 等である。

とされている。

これから見ても、「その他の契約」のなかに不動産の売却が入るはずがないことは明らかであろう。」

したがって、補助参加人が援用している松本著「逐条地方自治法」は、本号が公募提案方式(コンペ方式)による不動産売却に適用できるとは、解釈していないのである。

 

3 補助参加人は、「上申書」第2の4で、「このことは、「契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」の解釈を確立した最高裁昭和62年3月20日判決(民集41巻8号1769頁)が、上記2種類の契約又はこれに極めて類似するものに限定する趣旨ではないことも明らかである。

一般に、上記最高裁判決により、「随意契約の要件判断が長の合理的裁量に委ねられた」と解釈されているところであり(判例タイムズNo.677/319頁・添付資料A)、不動産売却を除く解釈の余地はなく」と、控訴人の主張に反論する。

しかし、控訴人が準備書面(2)第1の(3)で、また阿部教授が「意見書」三の1「判例」で述べたように、この最高裁判例は、ごみ処理施設の請負契約を随意契約によって締結した事案に関するものである。この判例は、不動産の売却という、全く異質なものにもこの判旨が妥当するという趣旨のことはいっさい述べていないのである。この判決を根拠にして、不動産の売却の場合に随意契約が許されるとするのは誤りである。

 本号の冒頭に「不動産の買入れ又は借入れ」とあり、この最高裁判例はごみ処理施設の請負契約の事案に関してであり、まさに「不動産の買入れ」に該当するものである。

この最高裁判例で、解釈が確立されているのは、不動産の買入れの事案についてだけである。不動産の売却もこれに該当すると拡大解釈するのは失当である。

 

4 さらに、補助参加人は、本号が不動産売却を除く解釈の余地はないとして、つぎの判例を挙げる。(「上申書」添付資料一覧より)

(1)最高裁平成6年12月22日判例(住民訴訟損害賠償請求事件)

(2)福岡高裁平成8年10月31日判例(福岡高裁・平成7年行コ・第3号)

(3)大阪地裁平成16年3月4日判例(大阪地裁・平成14年行ウ・第117号)

(4)大阪高裁平成17年4月27日判例(大阪高裁・平成16年行コ・第44号)

しかし、上記4つの判例は、いずれも本号が不動産売却に適用されると判断した判例ではない。

その理由を改めて述べる。

控訴人が準備書面(2)第1(4)で述べたように、本号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に不動産の売り払い、売却が含まれるのか否かが正面切って争われたことはない。したがって、本号について不動産の売却も適法と判断した最高裁判例はないのである。これまで、単なる思い込みで、不動産売却も含まれるとされ、本号を援用して不動産を売却し、それが違法であると争われた事案がなかっただけである。

 上記(1)最高裁平成6年12月22日判例は、沖縄県豊見城村が公有水面の埋立地を最低制限価格と最高制限価格を設定し、一般競争入札で売却した事案に関してのものである。本件土地は、地質が軟弱であること、航空法の制限があること、村の財源確保や雇用促進に資するなどの理由から、ゴルフ場として売却することにした。しかし、本件土地は、公有水面埋立法等により、その処分に当っての不当な受益が禁止されており、また、当時社会問題化していた地価高騰を抑制するため、最低制限価格と最高制限価格を設定し、一般競争入札を実施した。

 最低制限価格以上最高制限価格以下の範囲の入札者のうち、最高価格の入札者を契約の相手方とする内容の一般競争入札を実施したのである。その結果、最高制限価格を超える2件を無効とした。これに対して、住民ら(原告、控訴人、上告人)が、@最高制限価格を設定した一般競争入札は、地方自治法第234条の3に違反して無効である。A最高入札価格と落札価格との差額分3億504万円余の損害を豊見城村が被った、として住民訴訟を提起した。

 しかし、第1審、第2審とも住民敗訴。第2審は、同項の法意に照らすと、最高制限価格を設定して行った本件一般競争入札は違法とはいえない、と判断した。

 最高裁判所第二小法廷は、「主文 原判決を破棄する。本件を福岡高等裁判所に差し戻す。」の判決を下した。

 判決理由で、「普通地方公共団体が、収入の原因となる契約を締結するため一般競争入札を行う場合、最低制限価格のほか最高制限価格をも設定し、最低制限価格以上最高制限価格以下の範囲の価格をもって申込みをした者のうち最高の価格の申込みを落札者とする方法を採ることは許されず、このような方法による売却の実施は違法というべきである。」と判示した。

 判決理由は続けて、「もっとも、普通地方公共団体が不動産等を売却する場合において、合理的な行政目的達成の必要などやむを得ない事情があって、売却価格が一定の価格を超えないようにする必要があり、これを一般競争入札に付するならば、最高価格が右一定の価格を超えるおそれがあるときには、その売却は「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」(地方自治法施行令167条の2第1項2号)に当るとして、随意契約によって行うことができるものというべきである。ただ、その場合においても、普通地方公共団体としては、右の事情につき配慮した上で、当該地方公共団体に最も有利な価格で売却すべき義務を負うのであるから、そのような価格を売却価格として売却しなければならない。」と判示したのである。

 補助参加人が、上記の最高裁判例について、「不動産売却が含まれることを当然の前提としている」と主張するのは、判例の趣旨を正確に理解しておらず失当というべきである。この最高裁判例は、どんな不動産売却にも本号の「その他」が該当すると判示したものではない。この最高裁判例は、最高制限価格を設定して、一般競争入札を実施した事案について判断したものである。

この最高裁判例は、判例に控訴人が下線を付した部分を一読すれば明白なように、「合理的な行政目的達成の必要などやむを得ない事情があって、売却価格が一定の価格を超えないようにする必要があり、これを一般競争入札に付するならば、最高価格が右一定の価格を超えるおそれがあるときには、」とあり、本号が適用できるのは、合理的な行政目的達成の必要などやむを得ない事情があること、そして売却価格が一定の価格を超えないようにする必要があること、一般競争入札に付すならば、最高価格が一定の価格を超えるおそれがあること、の諸条件が満足している場合に限られるのである。

 その条件に合致する場合にのみ、「その売却は「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」(地方自治法施行令167条の2第1項2号)に当るとして、随意契約によって行うことができるものというべきである。」と判示しているのである。無条件に不動産売却が、本号の規定に該当するとしている最高裁判例ではない。

 本件土地売却をこの最高裁判例に沿って判断してみると、当時、目黒区には合理的な行政目的の必要のなどやむを得ない事情があって、売却価格が一定の価格を超えないようにする必要はなかった。したがって、本件土地売却を一般競争入札に付し、売却価格が高くなっても何ら問題はなかったのである。庁舎移転のための財源確保が本件土地売却の目的であったのであるから、むしろ売却価格が高いほど、目黒区の行政目的達成に役立ったのである。上記最高裁判例は、本件土地売却にはとうてい適用できるものではない。

 この最高裁判決の原告である住民らは、最高制限価格を設定して一般競争入札を実施したのは違法であり、その結果、豊見城村が損害を被った、として住民訴訟を提起したのであって、本号は不動産売却を含まないとして争ったのではない。したがって、この最高裁判例は、本号の「その他」に不動産売却が含まれるか否かについての判断はしていない。補助参加人のいうように「不動産売却が含まれることを当然の前提としている」最高裁判例ではないのである。

阿部教授は、意見書三の1において主張するように、上記判例(1)最高裁平成6年12月22日判例に関して、最高制限価格を設定した一般競争入札による不動産売却を違法とし、随意契約の「その性質又は目的が・・」に当るとしたが、「しかし、この事件では、不動産の売却は、前記施行令の文言上随意契約が許される場合に当らないとの主張がなされなかったので、その論点を無視したものであり、先例とすべきものではない。」というべきである。

上記判例(3)及び(4)は、大阪府の所有する土地を随意契約で売却した事案である。原告(控訴人)は、@随意契約の方法によることができる場合の要件に該当しないから、一般競争入札にすべきである、A土地の売却価格が、不当に低額である、と主張した事案であり、本号が土地売却に適用できないとして争ったものではない。

本号の文言上、随意契約が許される場合に当らないとの主張がなされなかったので、その論点を無視した判決であり、先例とすべきものではないのである。

 

第4 本件土地売却の公募提案方式による随意契約に、本号が適用できないことを知らなかった過失について 

 

目黒区は、本件土地を公募提案方式(コンペ方式)による随意契約で売却するに当たり、本号の規定により売却したとしている。しかし、本号が不動産の売却には適用できないことを知らなかった点に重大な過失があったことは明白である。以下、証拠に基づいて、その理由を述べる。

1 目黒区には、総務部内に総務課、契約課がある。総務課には、法務担当係長の専門職員がいる。契約課長は、地方公共団体の契約の法務に精通している。目黒区は、地方自治法、行政法などに詳しい顧問弁護士と年間契約しており、区の法務担当係長が顧問弁護士と緊密に連絡をとっている。

 また、東京都の特別区23区には、目黒区も構成員になっている「特別区人事及び厚生事務組合」がある。特別区(長)の権限に属する事務の一部を処理するため、地方自治法第284条第1項に基づく一部事務組合である。同組合の規約は下記のホームページを参照。

http://www.city.toshima.tokyo.jp/reiki/reiki_honbun/al60005271.html

 同組合のホームページに、法務事務の内容をつぎの通り記載してある。

「法務事務(組合規約第3条第10・11号)

この事務は、特別区又は特別区の区長若しくはその管理に属する行政庁を当事者又は参加人とする行政事件訴訟、民事事件訴訟、調停及び起訴前の和解に関する事務(裁判上の行為を除く。)ならびに係争事件及び係争のおそれのある事件についての法律的意見に関する事務である。

 具体的には、争訟事件を処理するに当たり必要な答弁書、準備書面等の作成及び証拠方法の選択ならびに各区等が事務の遂行上検討を要する事案についての高度な法律相談等を行うものである。

 なお、特別区の区長等が裁判所における口頭弁論、証拠調べ等の裁判上の行為をなす場合には、必要により行政事務、法律事務に精通している本組合職員を当該特別区の職員に併任し、区長等の指定代理人として訴訟活動等に従事させている。」

 同組合には法務部があり、目黒区は必要があるとき、上記の法務事務を同組合に依頼している。目黒区が現在係争中の訴訟事件の中には、同組合の法務部職員が区長の指定代理人になっているのもある。しかし、本件住民訴訟の代理人は、同組合の職員ではなく弁護士である。

 

2 目黒区が、本件土地売却のように公募提案方式(コンペ方式)による随意契約を採用して売却するのは、はじめてであった。公募提案方式(コンペ方式)による区有地売却ははじめてであり、しかも売却予定価格が56億円余の高額の区有地を売却するのであるから、売却方法を決定する前に、地方自治法施行令で定める随意契約に関する条文、判例、解説書などを十分に調査研究して、売却方法を決定すべきであったが、それをまったくしていなかったのである。

 目黒区には、上記5(1)で述べたごとく、地方自治法、行政法に精通した顧問弁護士がおり、区の職員として総務部長、総務課長、総務課の法務担当係長、契約課長らが、契約事務に関わっているのである。さらに、特別区人事及び厚生事務組合があり、係争のおそれのある事件についての法律的意見を求めることができたのである。

しかし、目黒区は、上記の顧問弁護士及び総務部長、法務担当係長、契約課長らの区の職区員並びに特別区人事及び厚生事務組合に、本号の条文、地方公共団体の随意契約による不動産売却についての判例、解説書を十分に調査研究させることなく、単なる思い込みで、区有地である不動産の売却に本号が適用できると判断したことには、重大な過失があった。

 目黒区が、何ら根拠もなしに単なる思い込みによって、随意契約による本件土地売却に、本号が適用できると判断したことを証拠に基づいて明らかにする。

 

3 本件土地を公募提案方式(コンペ方式)による随意契約を採用して売却することを決定したのは、平成15年5月9日開催の政策会議(区の最高行財政方針を決定する区長主宰の会議)であった。その会議録(乙第25号証)には、公募提案方式(コンペ方式)による随意契約で本件土地を売却することに、本号が適用できるか否かを検討した記録はまったく存在しない。

 政策会議の会議録2頁目には、本件土地売却に関して

 

=付議事案=

1 平成14年度における区有地売却について(案)(説明者:契約課長)

(会議の結果)

 平成14年度における区有地の売却について、所管案の方向で進めることを了承する。

(主な発言)

・より高く売却できるようにPRをしてほしい。

→ そのようにします。

 

 以上の記載だけである。

また、総務部契約課が作成した政策会議資料、平成15年5月9日の「平成14年度における区有地売却について(案)」(乙第25号証)のV「公募提案方式分」には、契約方法にについて、

2 売却方法等

(1)契約の方式:公募提案方式による随意契約

と記載されているだけである。

 政策会議において、公募提案方式による随意契約での本件土地売却に、本号が適用できるか否かの検討をまったくしなかったのである。重大な過失があったというべきである。

 

4  控訴人が、住民訴訟に先立って住民監査請求を提起したのは、平成15年3月25日であった。しかし、法定監査期間である60日以内に合議に至らず、監査委員は監査請求人であった控訴人に、実施した監査内容を標題「「目黒区職員措置請求書」(住民監査請求)に対する監査について」(甲第3号証。以下、「監査通知」という)で通知した。

 「監査通知」第2 監査の実施、1 監査対象事項(「監査通知」2頁)に、

「請求の内容から監査対象事項は次のとおりとした。

目黒区長が、旧本庁舎及び公会堂跡地の売却先を、三菱商事株式会社として、「公募提案方式」と称する契約を締結したことは、施行令第167条の2(随意契約)に定める要件を欠く違法な契約の締結であったかどうか。

 また、目黒区本庁舎跡地等土地利用計画審査委員会(以下、「審査委員会」という)の審査が不当なものであったかどうか」とある。

 「監査通知」第2 監査に実施、3 監査対象部に、「総務部を監査対象とした」とある。

 「監査通知」第2 監査の実施、5 監査対象部の見解(「監査通知」3頁)に「監査対象部に対して、文書により照会を行い、次の各項目について、記載のとおりの回答を得た。」として、照会項目と回答が記載されている。

監査委員は、照会項目1で、

「随意契約による「公募提案方式」とするにあたり、施行令167条の2第1項第2号に規定する「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」のうち、性質、目的を具体的にどのようなものと考えたのか」と照会した。

 この照会項目1の文言を一瞥すれば明らかのように、監査委員は本号の条文を「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」と抜粋して引用しており、これは「その他の契約で」に不動産売却も含まれることを前提にしているのである。このように本号の条文を分離するのは、誤読に基づくものであることは、控訴人は、この準備書面(3)第2の1及び第3の1で、すでに述べた通りである。

 照会項目1は、監査委員は本号に本件土地の不動産売却が適用できると解釈しているため、本件土地売却に本号が適用できると考えたのか、という照会をせずに、ただ「性質、目的を具体的にどのようなものと考えたのか」と照会したに過ぎない。

 これに対して、目黒区総務部は、回答1で「1 目黒区のまちづくりの方向」「2 本件土地の特質」「3 公募提案による土地利用計画」について回答しているだけである。回答1の補足回答(「監査通知」3頁)において、競争入札による落札者決定の原則規定と随意契約について回答し、回答1の補足回答1で(「監査通知書」6頁)、

「収入の原因となる契約にあっては、予定価格の制限のほかさまざまな制限を付して、競争入札を行うことは法の趣旨に反する可能性があると考える。このようなことを考慮すると、売却に当たって区の目指すまちづくり等のため、留意点など制限を付する場合は競争入札に適さず、随意契約とすることが適切である。」として、目黒区は収入の原因となる本件土地売却に、本号が適用できると考えていたのは明らかである。このことは、重大な過失であるというべきである。

 

5 「監査通知書」6 関係人調査の実施(「監査通知書」11頁〜12頁)に記載されているように、本件土地の跡地利用計画の公募提案を審査した審査委員会の構成員12名のうち、委員長及び行政側委員9名に対して、関係人調査を実施した。行政側委員9名に、監査対象部の総務部の部長であった前総務部長 木村高久が含まれている。(「監査通知書」12頁、実施日及び対象者)

木村は、本件土地を公募提案方式(コンペ方式)による随意契約で売却することを決定したとき、また本件土地売却の契約を締結したときの総務部長である。「監査通知書」(12頁)で、「(2) 関係人調査の際の質問項目は、次のとおりである。」として、ア 行政側委員に対する質問項目(全員共通)(ア)〜(キ)を挙げている。しかし、質問項目の(ア)〜(キ)には、本件土地売却に、本号が適用できるかどうかの質問項目はないのである。

関係人調査の記録が、「監査委員協議録」(甲18号証。以下「協議録」という)である。目黒区の法務事務、契約事務を統括する総務部長であった木村は、監査委員の関係人調査に対し、随意契約について、どのように答えたかを見てみよう。

「協議録」44頁、下線部分(2)に、大竹勲監査委員が、木村につぎの質問をした記録がある。

「それで、実際にこの契約といいますか、応募要領を固める際には判例等を検討をされたと思いますが随意契約の判例については、検討された上でそういうものを固められたのか。今回の応募要領を。さらに審査の結果も想定しながら。」

 この質問に対して、木村は口頭でつぎの回答をした。

「そうですね。自治法でしたか、根拠の中では明確には書いてありませんが。その性質とか何とかはですね。したがって、それだけではちょっと判断が困難で、したがいまして、(・・・?)へ行って関連する事例、判例の調査ということがあったわけです。そのあまりこれらについての例は少ないんです。ただ、それにたいする最高裁の、ちょっと今手元にないので正確には申し上げられませんが、最高裁の判例がありそのなかで一定の条件のなかでは随意契約は可能だ、というものがあります。それにこれは該当するというふうに考えました。」

 木村の発言は、契約法務、契約事務を統括する総務部長であり、監査実施にあたり監査対象部の総務部長にあるまじき回答である。「自治法でしたか」「その性質とか何とかはですね」などの発言は、とうてい地方自治法施行令で定める随意契約についての規定を、正確に理解しているといえるものではない。

 地方自治法施行令の随意契約の規定に関して、「それだけではちょっと判断が困難で、したがいまして、(・・・?)へ行って関連する事例、判例の調査ということがあったわけです。」と、関連する事例、判例の調査をしたと発言している。しかし、最高裁のどの判例を指すのか明らかにできないのである。「今手元にないので正確には申し上げられませんが」と言い訳をしている。

本件土地を公募提案方式(コンペ方式)による随意契約で売却することを決定したときの総務部長でありながら、最高裁のどの判例が、本件土地売却に該当すると判断したのかさえ、説明できないのである。判例を調査したというが、判例の調査はその程度でしかなかったのがわかる。

また木村は、「ちょっと今手元にないので正確には申し上げられないせんが、最高裁の判例がありそのなかで一定の条件のなかでは随意契約は可能だというものがあります。」と発言している。この発言からわかることは、まともな根拠なく、一定の条件さえ具備していれば、随意契約は可能だと考えていたことである。法務事務、契約事務を統括する総務部長の木村は、収入の原因になる契約であるか、支出の原因になる契約であるかを検討することなく、条文の文理をしっかり読まず、本件土地売却に本号が適用できると考えていたのは明らかである。木村のこの判断には、重大な過失があったというべきである。

 

6 「協議録」47頁中段に、小林國男監査委員がつぎの質問をした記録がある。

「すいません、まったく、個人的なお考えを聞かせていただきたいのですが、先ほどの最高裁判例をちょっと違うかもわかんないんですが、最高裁の判例で、多少とも価格の有利性を犠牲に、多少ともですよ、価格の有利性を犠牲にする結果にとしても契約の目的、内容に照らして公共団体の利益の増進につながれば随契でもいいんだと言うような判例があるですけども、(以下略)」

 小林監査委員は、売却価格の72億円は、最高価格111億円余との価格差が39億円、2番目に高い価格83億円との価格差でも11億円もあったことに言及し、「個人的な見解をお聞かせ願いたい。本当に11億円、もしくは39億円という価格差はあったのか」と聞いた。

 小林監査委員が、「最高裁の判例で、多少とも価格の有利性を犠牲に・・・」と質問している最高裁判例とは、控訴人が控訴理由書「はじめに」でも引用した最高裁判例(昭和62年3月20日第二小法定判決)であることは、改めて説明するまでもない。上記最高裁判例は、「契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」「普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も」随意契約の規定に該当すると解すべきであると判示しているのである。

 しかし、控訴人が、準備書面第1(2)で述べたように、上記最高裁判例は福江市のごみ処理施設の建設工事請負契約に関しての随意契約の事案であり、地方公共団体の支出の原因になる契約である。いっぽう本件土地売却は、不動産の売却の事案であり、収入の原因になる契約であるから、上記最高裁判例とは異質であり、該当しないのは明白である。

 小林監査委員の質問に対して、木村はつぎの回答を述べた。

「あの、いわゆる、なんというか具体的環境というかいういろいろな評価項目が何億に相当するかというのは違うのではないか。そうではなくて、やはり区にとってのいろんな基本的な施策や考え方、あるいはその地域にとってのプラスという面が優先されるべきであってそれがあの、その部分がいくらに該当するかということは、そういう議論をすべきではないのではないでは(ない)かというふうに、私としては取り組んでいました。」

 木村は、価格の有利性の犠牲と地方公共団体の利益の増進の関係について、まともに答えていない。本件土地売却は、庁舎移転の財源確保の売却であるのに、木村は上記最高裁判例の判旨を正解せずに、価格を軽視した考えだったのがわかる。

 木村は、この回答においても、本件土地売却に本号が適用できるとの前提だったのである。しかし、すでに述べたように、本件土地売却には、上記最高裁判例は該当しないのである。木村が、上記最高裁判例を精査することを怠ったのは、過失があったというべきである。

 

7 本件土地売却の契約者である亡薬師寺克一区長は、本件土地売却を議会で議決するにあたり審議した平成15年3月7日の企画総務委員会で、

「今回の公募提案方式はこれまでの例から見ましても、他の自治体で実際に行われておりますので、何ら問題はないというふうに考えております。」「公募提案方式によっては、私は例がありますので何ら問題はないと、そういうふうに理解しております」と答弁したのが議事録にある。(甲第7号証、25頁〜26頁下線部分)

 亡藥師寺も本号の条文を精読することなく、また随意契約に関する判例を精査せずに、本件土地売却に、本号が適用できると思い込んでいたのは、明白である。亡藥師寺が目黒区の執行機関の長として、また本件土地売却の契約者として、本号の条文、判例を十分に検討することなく、本件土地売却に本号が適用できるとして、「何ら問題はない」と本件土地を公募提案方式(コンペ方式)による随意契約で売却したことには、重大な過失があった。

他の自治体に例があっても、だから適法ということにはならない。不動産の売却にも随意契約の適用があるとする他の自治体も何も調べていないし、条文も読んでおらず、解説書も丁寧に見ていないのであって、重過失がある。そのようなものが百あっても、それで過失がないということにはならない。調べるべき基本を怠っただけである。

 

8 控訴人が、住民訴訟を提起し、原審及び控訴審の弁論を終結するまで、本号が不動産の売却には適用できないことに、気づかなかったのは確かであるが、控訴人は、目黒区の総務部長、法務担当者や契約課長とは違い、法律に精通している者ではないのであるから、ついうっかり思いこみに引きずり込まれただけである。しかし、本号の条文を素直に読み直せば、不動産の売却には本号は適用できないことが明らかになったのである。判例も、見直せば、何も言っていないのである。素人が今頃気が付いたからといって、目黒区長であった亡藥師寺、そして専門家である目黒区の職員に過失がなかったことになるはずがない。

目黒区が、本件土地を売却するにあたり、随意契約によったのは、まったくの思い込みで、法律家を擁していながら、条文を素直に読むというイロハのイを怠り、条文の文言に明白に違反するものであり、しかも、実質的にも、不合理であるから、重大な過失というべきである。これまで、判例でそのことを指摘するものがなかったとしても、それは同様に重大な過失があったもので、そのような先例があるから、盲従して良いということにはならない。

 

おわりに

裁判所におかれては、控訴人がこれまで述べてきたように、目黒区が公募提案方式(コンペ方式)による随意契約を採用し、本件土地を売却したことには、明白に違法であり、かつ、重大な過失があったので、ぜひ弁論再開を認めてくださることを重ねてお願い申し上げます。弁論再開をお認めくだされば、控訴人は、この準備書面(3)の全趣旨に基づいた準備書面をただちに提出いたします。また、損害の範囲についても、改めて検討した書面を提出します。

 

以上