訴 状
平成15年6月18日
東京地方裁判所民事部 御中
原告本人 須 藤 甚 一 郎
〒152−0034 東京都目黒区緑が丘1丁目11番3号 (送達場所)
原 告 須 藤 甚 一 郎
電話 03−3723−8167
FAX 03−3717−6223
〒153−8573 東京都目黒区上目黒2丁目19番15号
被 告 目黒区執行機関(区長・薬師寺克一)
損害賠償住民訴訟事件
訴訟物の価額 金950,000円
貼用印紙代 金8,200円
第1 請求の趣旨
1 被告は、
〒152−0003 東京都目黒区碑文谷○○○
薬師寺克一
〒153−0063 東京都目黒区目黒○○○○
佐々木英和
〒359−1152 埼玉県所沢市○○○○○○
安田直史
〒153−0064 東京都目黒区下目黒○○○
大塩晃雄
〒153−0064 東京都目黒区下目黒○○○
川島輝幸
〒240−0023 神奈川県横浜市保土ヶ谷区○○○
木村高久
〒100−8086 東京都千代田区丸の内○○○
三菱商事株式会社
上記代表者 代表取締役・佐々木幹夫
らに対し39億1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第2 請求の原因
1 適格
(1) | 原告は、目黒区民であり、適法な住民監査請求を経た者である。被告は、目黒区執行機関である。平成15年3月24日、旧目黒区役所本庁舎等売却の区長・薬師寺克一と三菱商事株式会社(以下、三菱商事と称す)の契約時において、 薬師寺克一は、目黒区長 佐々木英和は、目黒区助役 安田直史は、 目黒区収入役 大塩晃雄は、 目黒区教育長 川島輝幸は、 目黒区企画経営部長 木村高久は、 目黒区総務部長 |
(2) | 原告は、平成15年2月17日、旧目黒区役所本庁舎等の違法な随意契約による売却に関し、見積りの最高価格111億1000万円と売却価格72億円の差である39億1000万円の損害発生を未然に防ぐため、目黒区長・薬師寺克一に契約差し止め及び審査のやり直しを求める住民監査請求を、目黒区監査委員に起した。 しかし、監査を実施中の平成15年3月24日に、区長・薬師寺は14件の見積り中、価額で上位から7番目の72億円で三菱商事と契約し、売却した。翌3月25日、原告は改めて区長・薬師寺に対して、39億1000万円の損害賠償を求める住民監査請求を目黒区監査委員に起した。 目黒区監査委員が監査を実施したが、法定監査期間である60日以内に、監査委員が合議に至らなかったとの通知書(5月26日付)を原告は受け取った。したがって、原告は適法な住民監査請求を経た者である。 原告は地方自治法第242条2項4号の規定に基づいて、被告が本件関係人らと三菱商事に対し、目黒区に損害を与えた39億1000万円を請求することを求める住民訴訟を提起するものである。 |
(3) | 住民監査請求では、原告は違法な随意契約の契約者である区長・薬師寺のみを被請求人とした。が、その後、区長・薬師寺以外の本件関係人らも違法売却に深くかかわっていたことが判明した。 薬師寺以外の本件関係人らは、売却先を不法に選定した審査委員会の委員であり、さらに区長・薬師寺とともに区の条例で設置し、区の行財政運営の最高方針を審議、決定する政策会議の構成員である。 また三菱商事は、審査委員会の審査過程の聞き取り調査で、提案内容を変更するなど不当行為を行った。当該随意契約が違法であることは、原告が契約差し止め及び審査のやり直しを求める住民監査請求書の写しを配達証明郵便で、三菱商事代表取締役社長・佐々木幹夫に送付し、平成15年2月24日に受領しているので、同年3月24日の契約日前に違法であることは知り得る立場にあった。 それにもかかわらず、三菱商事は区長・薬師寺と契約を締結したものである。
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2 売却までの経過
(1) |
目黒区は庁舎移転の財源確保のため、旧本庁舎用地(建物付き)5,545u、公会堂用地(建物付き)4,089uの売却方法について、平成14年5月13日に発表した。契約の方式は、公募提案方式とあるのみで、随意契約であることは記されていなかった。 契約課の作成した売却スケジュールは、 平成14年6月5日〜20日 応募要領配布(購入意向調査票同時配布) 7月5日 購入意向調査締切り 8月15日〜30日 提案書受付 9月1日〜12月末 提案内容等審査 審査委員会は提案を順位付けして、14年12月16日に区長・薬師寺に報告した。15年1月15日の政策会議で、順位付け1位の三菱商事に売却先を決定した。2月17日に仮契約。3月14日の議会の議決を経て、3月24日、区長・薬師寺は三菱商事と契約を締結した。 |
(2) |
区は買受者の選定方法について応募要領(平成14年6月5日配布)でも、「審査委員会を設置し、提案内容を審査の上、順位付けを行い契約する」としている。また選考にあたっての審査項目として、応募者の信用、資力、資金計画及び購入希望金額等を審査項目とすると定めている。しかるに、最高購入希望金額を提示した提案をまったく価格を審査対象にせず、一次審査で排除した。 |
3 違法の根拠
(1) | 当該随意契約は、地方自治法施行令第167条2項で定める随意契約の条件である1号から7号までのいずれにも該当せず、違法である。区長・薬師寺は、第167条2項2号の「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を適用したとしている。
しかし、 この適用は重大な曲解、錯誤である。 |
(2) |
売却の目的は、庁舎移転の財源確保、区の財政難の折から財源づくりのためであり、本来、競争入札こそ適するものである。111億1000万円の購入希望金額を価格をまったく評価することなく、審査委員会は一次審査で排除し、周辺地域への影響だけを理由にして、最高価格より39億1000万円も安く三菱商事に売却した。 |
(3) | 最高裁判所の判例(昭和62年3月29日)で随意契約について「契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても」「当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も本法施行令第167条2項2号に掲げる場合に該当するものと解すべきである」と判示している。 当該随意契約の場合は、売却価格の半分以上も犠牲にしているわけであり、判例の「多少とも価格の有利性を犠牲にする結果」には、到底あてはまるものではない。契約者の合理的裁量判断を大きく逸脱した違法な随意契約である。 |
(4) | 周辺地域は用途制限を受けており、近隣の生活環境を激変させる巨大娯楽施設、工場などは建設できない。近隣の居住環境との調和をはかるためならば、建築物の高さ、延べ床面積、公共スペース、空地など、数量化できるものを留意点として、条件付き一般競争入札で売却が可能であった。 区の条例によれば、近隣の定義は建物の高さの2倍の水平距離である。売却先の三菱商事の集合住宅は、高さが38.3メートル。したがって、近隣とは、半径76.6メートルの範囲内になる。が、住宅地図で確認してみると、旧庁舎跡地の半径76.6メートルどころか、半径200メートル以内にも10階建て以上の建築物は存在しない。 ちなみに、旧庁舎は5階建てであり、その跡地に13階を建てるのは、近隣との調和とはいえない。あえて随意契約を採用した利点はない。 |
(5) | 原告の住民監査請求で、監査委員が区長・薬師寺に行った文書による照会で、随意契約にした理由を「一般競争入札では、近隣との住環境の調和を保つために、契約者(区長)の裁量の余地がまったくないので、随意契約にした」旨を回答している。 しかし、区長・薬師寺は契約者(区長)としての裁量権を売却先選定の過程で、行使した形跡はない。区長・薬師寺は提案内容を審査した審査委員ではない。審査委員会が順位付けして、1位にした三菱商事を政策会議にかけて売却先に決定しただけである。これでは、随意契約にする理由がない。 |
(6) |
原告が区長・薬師寺に損害賠償を求めた住民監査請求で、監査を実施した監査委員の結論意見のひとつに「監査を行った結果、本監査委員としては、当該契約については、違法性が高いとの結論を得た。当該契約について、随意契約を採用したことに問題はないが、区長がその結論を重視した審査委員会における審査過程に瑕疵があったと考える」とある。 最高購入希望価格を提示した者を採用しない場合、損なわれる価格の有利性と普通地方公共団体としての利益の増進とを、個別具体的に比較衡量する必要があったと、当該監査委員は指摘している。当該監査委員が、審査委員会の会議録及び審査委員長、行政側審査委員9名の関係人調査をした結果、「同委員会委員として、この点について議論する意思が無かったことを確認した」と結論意見にある。 |
(7) | しかし、58億円台〜111億円台まで14件の見積りすべてが、売却予定価格を超過していて、単に実勢価格を正確に把握していなかった過小評価でしかない。したがって、売却予定価格を超過していることは、正当化の理由にはならない。 |
4 よって、請求の趣旨記載の通りの判決をもとめる。
証 拠 方 法
甲1号証 目黒区職員措置請求書(契約差し止め及び審査やり直しを求める
住民監査請求書)控え
甲2号証 目黒区職員措置請求書(損害賠償を求める住民監査請求書)控え
甲3号証 監査委員の監査経過通知書
甲4号証 契約書写し
その他必要に応じて提出する。
付 属 書 類
1 甲1号証から甲4号証までの写し 各1通
2 資格証明書 三菱商事株式会社現在事項一部証明書 1通