零式艦上戦闘機の空中射撃術 A6M GUNNERY APPROACHES




































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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このウェブサイトはいかなる政治的なアジェンダについても排除し、歴史的な記録をただ構築することを目的に作られております。このウェブサイトは帝国主義のいかなるイデオロギーについても支持しておりません。


■はじめに

零式艦上戦闘機での射撃については、その物理的な射撃兵装についてはムック本、あるいは博物館展示物等を通して知る事は出来るのですが、射撃兵装利用の為のソフトウェアたる射撃理論あるいは、訓練(疑襲、実射)、作戦時での空中射撃術、実際の射撃手順(射撃兵装の操作手順等)に関する具体的な一次資料は少なく、搭乗員の方々が書かれた記録や戦記物を通じて断片的に知ることが出来ると思っています。

現存する資料の少なさについては、海軍航空隊での教育訓練に関する資料、部隊で実際の航空作戦時に使用した資料は当然ながら軍極秘資料であり、終戦時の陸海軍の「重要機密文書焼却命令」により多くの書類・文書とともに焼失し現存しておりません。

本書は、米国戦略爆撃調査団(United States Strategic Bombing Survey,USSBS "uzz-buz"(ウズブーズ))による接取・詰問調書、関係者の独断で焼却されなかった文書の一部が発見されることがありますが、それら少ない資料により零戦の射撃理論や実際の攻撃方法の一部についてまとめたものです。




米国戦略爆撃調査団(United States Strategic Bombing Survey,USSBS "uzz-buz"(ウズブーズ))による接取・詰問調書



なお、気軽に読んでいただけるよう、できるだけ数式や難しい射撃理論を排して読み物としてまとめました。なお、ムック本で取り上げれらるようなハードウェアたる射撃兵装部分については、今後も紹介され続けて行くと思われますので、本書では解説は省略いたしました。
本書が興味ある方の参考になれば幸いです。



■射撃教科書、射撃補助資料

零戦搭乗員の射撃訓練に使用された射撃教科書は3種類あり、その他に射撃補助資料として「空戦に於いて起こりうべき各種攻撃態勢につき、修正角(※)を計算し表または図表に作製し直し。また、意図する攻撃経路(例えば1,000m優高度後上方60度より実射距離200mまで)における修正角の平均値を上記表又は図表により見出す」(原文ママ)という補助資料で行われていました(※見越し角のこと)。

また、各種の射撃訓練機材(シミュレーター)が錬成部隊には配布されていますが、大型機撃墜訓練用機材として海軍航空廠兵器部が製作した「射距離判定演習機」が製造され部隊に配布されていますが、これは電球、モーターを使用した機械式シミュレーターなのですが、「操方説明書」を読むと判るのですが、現代のシミュレータのようなとても精巧にできている機械装置である印象です。



大型機撃墜訓練用機材として海軍航空廠兵器部が製作した「射距離判定演習機」




■零戦の射撃照準について

図3をご覧下さい。これは、中国・成都より八幡製鉄所を狙って飛来した米国第58爆撃航空団のB-29の迎撃を任務とした第352海軍航空隊、通称「草薙部隊」が製作した表を参考に攻撃角度、距離等を作成したものです。このように、射距離100mではB-29はレチクル9度環を大きく超過してしまうことになります。



零式艦上戦闘機B-29、P-47攻撃時の距離めやす



このB-29を撃墜するためには、レチクルのど真ん中に機体を収めた時に射撃をすれば良いかというと、そうではありません。もちろん、零戦の20mm機銃の弾体には10g近い火薬が入っており、ただの1発で機体に30cmから40cmの大穴を開けるあけること、あるいは燃料タンクを打ち抜き黄燐、ペントリットがガソリンに引火させ爆発させることで、撃墜することが可能です。

しかしながら、巨大な爆撃機ですから、距離1,000mでも十分な大きさがあり、図3・下 米陸軍戦闘機P-47D リパブリック・サンダーボルトの距離200mと同じような見え方であるので、肉眼で射程内と判断して、距離1,000mで絞弁転把(スロットル)の発射転把(発射レバー)を握り、99式1号固定機銃を撃った場合はどうでしょう。

図4「零戦固定機銃種別射距離弾道特性表(弾体沈降量)」を見て判るように、弾体は12mも下にタレてしまうことになります。また、図5「零戦固定機銃種別弾道特性表」より、弾体がB-29へ到着する時間は、距離1,000mの場合、約1.7秒掛かって到着すことになります。
B-29の巡航速度は約360km/hですから、1.7秒の間に170mも先に飛んでしまうため、B-29の遥か後方170m後ろかつ、12m下にズレる事になり、まるっきり当たらない射撃と見えてしまうわけです。



零式艦上戦闘機固定機銃種別弾道特性表(弾体沈降量)





零式艦上戦闘機固定機銃種別弾道特性表(弾体飛翔時間)



一号銃の20mm機銃は携行弾数が60発と少ないですから、数秒で撃ち尽くすことになりますので、B-29のはるか後ろ後方、下方に弾体が飛んで行き、曳光弾による修正も出来ないまま敵機は悠々と去ってゆくことが発生する訳です。
したがって、搭乗員は射撃理論と射撃兵装の特性を熟知し、訓練をして正確な空中射撃術を身に着けることで敵機を落とすことが必要となるのです。



■射撃体勢と小便弾

零式艦上戦闘機での射撃においては、7.7mm、12.7mm、20mm機銃共に収束点は約200m先であり、これは独逸機、英米機もほぼ同様でした。ちなみにこの収束点の調整は飛行場の一角に作られた専用射撃場で行います。この地上で調整された弾道で空中にて如何に直線弾道を得るか、というのが搭乗員にとって重要な課題となります。そのための計器として重要なのが旋回計、昇降計となります。

左右のGについては旋回計、上下のGについては昇降計を見ます。もちろん、計器を見続けて射撃はできないのですが、機体は三次元機動をしており錯覚することが多いため、姿勢をチェックして射撃をする、ということが必要になります。もちろんベテランになりますと、計器を見なくても体感でG方向が判断できるようになります。

射撃時に特に重要なのは機体を滑らさないことです。零戦には旋回計2型が計器版最上部にフローティング設置され、防振ゴムとともにマウントされています。機体からフローティングされていることについては、ジャイロ計器であるため、振動で軸折するのを防ぐためです。図5.5については、旋回計2型の実物を使用してスリップ、スキッド状態を現したものです。

図5.5の旋回計において、左右のバンクゲージの下方に設置されたガラス環の中の黒いタマが射撃においては最も重要で、飛行訓練の時にはこのタマが常に中心に来ている、つまりGのバランスを常時保持していることを厳しく指導されます。もちろん、作戦時には教本通りに飛行していたら撃ち落とされてしまいますから、方向舵を当てて少し滑らせながら飛行します。ただ、ベテランでも射撃時にはこの黒いタマが常に中心にあるように飛行を固定し射撃をしないと弾丸は思わぬ方向に流れて敵機には掠りもしません。

なお、機体が滑っている状態には二種類あり、それはスリップ状態とスキッド状態です。言葉だけで説明すると大変難しいので、図5.5で判断をして下さい。スリップとはエンジントルクが不足して力なくターンの内側に滑り落ちている状態で、右舵を当てて修正する必要があります。スキッドは反対にエンジントルクが勝りすぎてターンをトレース出来ず外側にハミ出している状態で左舵を当てて修正する必要があります。

このように、射撃時にはタマを中心において直線弾道を得られる体勢で射撃をする必要があります。直線弾道を得られる体勢の中でも発射した弾丸は徐々に下に垂れて見えます。図4を見ると分かり易いのですが、99式20mm1号固定機銃は発射1.7秒後には12mも下に垂れてしまいます。

「20mmは小便弾」と言われる由縁ですね。2号銃になりますと劇的に改善して7.7m機銃よりも弾道特性は良くなります。その分、発射の衝撃も大きく機体の振動による弾道のブレも大きかったと言われています。したがって、空中射撃においては旋回計の黒いタマをビタッと真ん中に押さえ直線弾道として弾体の飛翔特性を考慮して射撃をする必要があります。



零式艦上戦闘機右旋回射撃時の玉の動き




■零戦の射撃照準器

(1) 射撃照準器

戦闘機における固定銃射撃の照準については、複葉機の時代には直接照準器である環型照準器が使用され、第二次世界大戦の初期、つまり九六式艦上戦闘機の時代までは筒型望遠鏡のような形状をした眼鏡式の射撃照準器が使用されています。これは零戦搭乗員からはオイヂーと呼ばれています。

ちなみに、オイヂーとはドイツのベルリンにあった航空機用照準器のトップメーカー、オイジー光学研究所(Optische Anstalt Oigee)のものをライセンス生産していた関係で、眼鏡型、望遠鏡型の照準器をオイヂーと呼称しています。

零戦からは、光像式照準器を装備していましたので、零戦搭乗員からはオイヂーとは呼ばれず、OPLと呼称されるようになっています。OPLとはフランスのパリにある光学機器メーカー、ルバロア光学精機社の略称でフランス語のSociété Optique et Précision de Levallois, S.A.の略称となります。

零戦の照準器が搭乗員からOPLと呼ばれる由来は、日本への光像式照準器の最初の導入がルバロア社からなされたことから来ています。ちなみに陸軍の射撃監査銃はルバロア式写真銃ですが、この会社のライセンス生産品であるので日本との関係は深いのです。


(2) 光像式射撃照準器の原理

原理は図6にあるように電球が発した光を集光フィルター(レンズ)で集めてレチクルを打ち抜いた目盛板(ベークライト)に当てコリメーターレンズで調光して平行光として45度に設置された反射透明硝子に当てて無限焦点のレチクル光像を作りだしています。

コリメーター(collimator)レンズとは、平行光線を作るレンズで、無限遠にあるレチクルが光源であるとみなせる光線群を作り、レチクル光像が対象物に対して無限遠にピントが合うようにするものです。簡単に言うと、どの距離にある戦闘機、爆撃機についてもレチクルが張り付いたようにピントが合うように調整するためのレンズということです。

そのためには、光学系を構成するレンズ、反射硝子を歪みなく製作し、かつ正確に傾きなく組み付ける必要があります。照準器の設置についても戦闘機の首尾線方向に平行・水平となるように設置しないと、視点移動で焦点位置がズレることになり、正確な射撃ができません。

照準器が正しく設置された場合には、頭をグルグルと動かして視点移動させたとしても対象物からレチクルが離れることはありません。




八九式射爆照準器-光像式射撃照準器の原理



(2) 八九式射爆照準器
零戦に搭載されたOPL、つまり光像式照準器は九八式射爆照準器一型と零戦五二型丙以(実機での確認によるもの)に艤装された四式射爆照準器一型が使用されています。九八式射爆照準器は皇紀2598年(西暦1938年)に正式採用されたこと、四式射爆照準器は皇紀2604年(西暦1944年)に制式に採用されたことによる名称です。



八九式射爆照準器 陸上自衛隊土浦駐屯地武器学校




なお、陸軍のように射撃照準器という名称ではなく、射爆照準器と呼称されていることについては、射爆照準器は射撃にも爆撃にも使えることによるものですが、決して同時に射撃と爆撃に使用できた訳ではなく、レチクルを打ち抜いた目盛板自体をハード的に取り替えて使用します。戦闘機用は環式、爆撃用には方眼式に目盛坂を変更して使用するものです。

ご存じのように九八式射爆照準器はドイツ・ミュンヘンの光学機器メーカー、シュタインハイル&ゾーネ光学精機社(Optische Werke CA Steinheil & Söhne)のレビ2b(Revi2b)を模倣したもので、レンズ口径50mm、焦点距離60mmでF1.2、防眩フィルターとしてネオファンガラスを使用していたもので、ネオファンガラスの複製までも実現しています。

ただ、射撃照準器としては非常に大型で構成する部品点数が多く大量生産には向かなかったこと、電球の取り換えがカセット式ではあったものの、カセットを経由しての交換であったため、ハンドリングが容易ではなかったことがあります。

また、レチクルのフィルターについては中間用の白、夜間薄暮用の赤がありました。赤については、光過ぎて眩惑されないことあるいは、敵から発光によってコックピットがターゲットされないようにしています。



(3) 四式射爆照準器

四式射爆照準器については、シュタインハイル&ゾーネ光学精機社のレビc12(Revi c12)について「部品数多く非多量生産的なり」的な面を解消しかつ、「光像2度マデ拡大シB17,B24ニ対スル100米の距離ヲ可能ナラシメタリ」という変更です。つまり部品点数を削減し、造形についてもシンプルにして工程を簡素化するこで生産性を向上させ、また、対戦闘機用の7度環のレチクルから9度環までレチクルに拡張して超重爆について距離を把握することが可能にしたものです。
また、レチクルのフィルターについては中間用の白、夜間薄暮用の青がありました。青については、眩惑されないことあるいは、敵から発光によってコックピットがターゲットされないようにしています。




四式射爆照準器



四式射爆照準器




(4) 射撃照準器と瞳孔距離
瞳孔距離とは反射硝子から瞳までの正距離を指します。つまり、指定された距離でレチクル像を見ることにより、正しい的との距離を把握できることになります。ちなみに反射硝子に瞳が近づけば近づく程、レチクルは小さくなり、遠ざかれば遠ざかる程、レチクルは大きくなり過ぎます。勿論、零戦搭乗員の座席には自動車のような肩掛け式のハーネスで固定されるため、搭乗員の動きはある程度制限されますし、ヘッドレストがあるため、無限には遠ざかることはできません。

図8を見て下さい。朱書きにて445mmに対し瞳孔距離であると記載しています。つまり、Revic/12Aについては反射硝子からの距離は約45cmで照準器を見ることを推奨しています。四式射爆照準器についてはRevic12を参考にして製作されていることから、同様な距離で見ることが求められていることになります。

なお、九八式射爆照準器一型についての瞳孔距離は昭和16年4月の取扱説明書から335mmということが判っています。つまり反射硝子から36cm程離れてレチクルを見ることが必要ということです。



(5) 英米機で利用された射撃照準器

敵機の射撃照準器はどうだったのでしょうか。米国の照準器については、イギリスRFAで最も使用されたGM2照準器をベースにしてMark VIII照準器が開発されています。GM2光像式照準器の特徴は環の大きさを変えることはできませんが、レチクル十字線の水平線を変更することができます。ウイングスパン長(翼長)をリングで入力して、そのリング内に収めることで射距離を把握できるタイプでした。固定レチクルを使用していた日本に比較して、英の射撃照準器は一歩先んじていたことになりますが、四式射爆照準器三型から当該機能が実装さることになります。なお、よくジャイロ式と比較されることがあるのですが、ジャイロによるスベリ角補正機能が本格的に導入されるのは第二次世界大戦以降となり、実践では朝鮮戦争以降となりあまり意味はないようです。






(6) レチクルを使用しての射撃照準

日本陸海軍の射撃照準器の原理は、環型照準器の頃から変更しておらず、敵速に合わせて用意される幾重かの外周環を使用して行います。速度に合わせた環に敵機を持って来て、敵機の飛行方向上に環の中心が来るように機体を操縦して、見越し射撃をできるようにしたものです。





光学系(望遠鏡式、光像式)の照準器に移行した際には物理的な環がレチクルへと変更されています。レチクルとはレティクルとも記載され、射撃照準の目安となるように照準器の光学系に微細なヘアラインデザインを施したものとなります。零戦のレチクルは2種類となり、前期型の制空対戦闘機用の三重環と後期の対重爆機迎撃用に対処可能な五重環のパターンとなります。図10については、前期型の対戦闘機用のレチクルとなりますが、度数で表示されている環と節で表示されている環で分画されていると思います。丸メカの中で海軍航空技術廠支廠射撃部員の川上陽平さんの寄稿においては、零戦のレチクルにおいて、距離100mで全長9.12mのスピットファイヤはレチクルの半分を超えて見えるイラストを掲載しています。このイラストがムック本で引用されることが多くあります。

実際の九八式射爆照準器のレチクルで分画の正しさについて見てみましょう。所与のパラメータは以下の通りです。

・敵機長:スパーマリーンスピットファイヤー全長:9.1m
・レチクル投射平面角:7度環の半径を尾翼が超過しているので約4.0度
・平面角度を算出:4.0度×(2π/6 400 rad)で71.11mil
・敵機までの距離を求める平面角度式

 目標物の大きさ×1,000÷測定したmil角
 9.1m×1,000÷71.11mil=127m



八九式射爆照準器-レチクル初期型




27mほど距離が遠く計算されますが、イメージとしてはほぼ合っているようです。では、第352海軍航空隊の作製した図についても検証してみましょう。

・敵機長:B-29全翼長:43.1m・レチクル投射平面角:7度環の直径を翼が超過しているので約8.5度
・平面角度を算出:8.5度×(2π/6 400 rad)で151.11mil
・敵機までの距離を求める平面角度式
 目標物の大きさ×1,000測定した÷mil角
 43.1m×1,000÷61.084mil=285m




八九式射爆照準器-レチクル後期型




これも、論理値とは相違しますが、正しい全翼長が知られているかどうかは不明であるので、大体はあっている、ということで良いのではないでしょうか。
また、図10において節環(ノットリング)が表示されています。これは見越し射撃用のもので、「現用7.7mm固定機銃(97式7.7m固定機銃ですね)射程を100mとし、的機が時機首尾線に対して直角に侵入するものとせば」というもので、打ち方始めについて利用をするものです。勿論、敵機が直交する場合、つまり自機の眼前で185kmで90度で横切る際に7度環に来た所で射撃を開始すれば当たるということになります。

勿論、眼前100mで185kmで横切るというケースはそうそうないですから、実際には応用して使用することになります。例えば、距離200mとして戦闘速度370kmで横切る敵機があった場合に、この7度環に到達した場合を目安に、7.7m機銃の引金を引けば良いわけですね。しかしながら、図5より、各機銃の弾道特性から射距離に合わせて99式20mm1号固定機銃の場合は少し早く、99式1号20mm機銃及び3式13mm固定機銃の場合には少し遅く射撃する必要があります。



(7) 見越射撃の理論
見越射撃については節環(ノットリング)を参考に脳内で換算して射撃を行うことにはなりますが、教本から見越射撃の理論について紹介しておきます。見越し射撃については、。理論的には「的速修正」とも呼ばれております。ここは原文ママに紹介をいたします。
「弾丸の飛行中における的速移動量を修正し、其の未来位置に弾丸を送る如くなす修正なり。図12において、A点にて弾丸を発射し、B点にい於いてBC方向にVbなる速度にて飛行中の敵機に弾丸を命中せしめんが為には、角度AまたはVbtを知るを要す。Vbを敵速VmをAC間の弾丸の平均速度とせば、t=AC/Vm、BC=Vdt これ、敵速修正量にして角度BAC=角度αは敵速修正角なり。」

ということになりますが、実際の見越し射撃はにおいては、いちいち計算をしていたのでは間に合いませんので、前出した射撃補助資料として「空戦に於いて起こりうべき各種攻撃態勢につき、修正角を計算し表または図表に作製し直し。また、意図する攻撃経路における修正角の平均値を上記表又は図表により見出す」(原文ママ)で訓練及び実戦での曳光弾による修正によって空中射撃術を習得して行くことになります。




零式艦上戦闘機-見越射撃



(8) 977.7mm固定機銃、9920mm1号、2号固定機銃の有効射程と射距離

資料より以下の通りとなります。最適射距離を超えると命中率は極端に悪化するので注意が必要となります。

零戦機銃種別 有効射程距離 最適射距離 収束点
977.7mm固定機銃   548m     100m-200m     200m
9920mm1固定機銃 730m 100m-200m 200m
9920mm2固定機銃 914m 100m-200m 200m




■零戦空中射撃術
ここまで、射撃の理論的な側面についてまとめて来ました。もう一つの明確ではなかった実際の戦闘時、つまり作戦時の射撃については、どの程度接敵し打ち始めを行い、何時時点で終了離脱なのでしょうか。戦時中の空中射撃訓練については、もちろん実践的なものであって、訓練項目にも変化を与えており、吹流射撃による実射訓練及び写真銃等による疑襲訓練から文書となった空中射撃術を見出すことが出来ます。


とくに、1942年中期の訓練から対戦闘機戦闘については後ろ後方射撃、対爆撃機戦闘については垂直上方射撃及び前下方及び前上方射撃を重点的に訓練するようになってきています。

零戦が空中戦闘で優位であった時代は過ぎ、巴戦というよりは、優速・重武装である敵機の隙を突いての射撃となるわけです。対戦闘機については巡行速度で悠々と飛行している戦闘機の死角となる後ろ後方に付け射撃をする必要がありますし、対重爆、特にB-29については電子射撃管制装置でリモート制御される4個の電動ターレット(砲塔)で正確に雨のように12.7mmを猛射してきますので、ターレットの死角となる正面、あるは直上から高速で打ち抜ける訓練が主となります。同航同速での射撃ではあっという間に撃墜されてしまうわけです。



■対戦闘機戦闘(後ろ後方射撃)

高度差800mから600mの優位より反航し接敵し、後上方より30度前後の交角を持って攻撃する。射撃開始距離は400m射撃終了は100mとなる。なお、訓練については疑襲・実射について行い、実射については吹流を使用し、疑襲については、写真銃射撃を平行して行うものとする。



零式射爆照準器-攻撃態勢




■対爆撃機戦闘(垂直上方射撃)

高度差1,000mから800mの優位より反航接敵し、90度から60度の交角を持って攻撃することになる。射撃開始距離は400m射撃終了は100mとなる。なお、訓練については疑襲・実射について行い、実射については吹流を使用し、疑襲については、写真銃射撃を平行して行うものとする。



零式射爆照準器-攻撃態勢




■対爆撃機戦闘(前下方及び前上方射撃)
高度差200mから300mの優位より反航接敵し接敵距離2,000mに近接時より次第に高度を下げ、左右各10度上下各15度程の範囲より前方射撃を行う。射撃開始距離は400m射撃終了は100mとなる。なお、訓練については疑襲・実射について行い、実射については吹流を使用し、疑襲については、写真銃射撃を平行して行うものとする。

このように、距離約400mから打ち始めを行い、距離100mで打ち終わることについて違和感を覚えるのですが、むしろ距離30mまで近づいて、というようなことは戦闘速度300kmオーバーで近づいて射撃となることから、銃弾で破壊された部品が飛んできて非常に危険な状態になりますし、場合によっては、燃料等に引火して爆発した場合には巻き添えを食危険があります。米機のガンカメラの射撃映像を見る限りにおいては、ある程度の距離感で射撃を行っている様に見えます。



零式射爆照準器-攻撃態勢




■疑襲訓練・実射訓練と教育カリキュラム

作戦時の襲撃についてはもちろん理論のみで出来ることではありません。作戦時を成功させるには相当な訓練とカリキュラムが必要となります。零戦搭乗員に対しては概ね以下のような訓練がなされています。1944年11月までを前期、同12月以降を後期とするなら、教育時間については、射撃関しての教育についてのみ限定して言うなら後半期の方がより時間とカリキュラムを充実させているのが興味深いものがあります。

では実際、どのぐらいの射撃訓練が実施されたのでしょうか。正確な資料はいずれ紹介するとして、今回は一等飛行兵第25期練習生が使用した機上作業注意事項摘録つまり、訓練ログから紹介いたします。これは、射撃、通信、航法等様々な機上での作業について、各々の教員から学んだ事、注意事項等を記録したもので、昭和17年8月19日の航法訓練開始時に、教官から注意事項が当時の切迫した厳しい状況を伺い知ることができます。「大東亜戦争下でゆっくり教育することが出来ないから、卒業したら直ちに戦争に行くことの出来るよう、飛行作業即精神修養の意気でしっかりやる様に」



零式艦上戦闘機-機上作業注意事項



年 月 教官名 実施項目 注意事項
昭和1798 青木教官 写真銃射撃
同航同速同航異速
如何なる作業をするにも、その目的を明確に知って作業を実施せねばならない。今日から十四回程やる射撃訓練の他には卒業して行っても殆どやる機会はない。故にこれが最初であり、最後でもあるから卒業した後でも射撃に関しては不解の点のない様真剣に此の十四回をやる様に。
操偵の連絡法のこつをしっかり自分のものとせよ。将来は殆ど編隊を以て戦闘をするから戦隊に対する観念小隊内の連絡法を良く覚えよ



教育講習(理論並びに兵器取扱い法)地上訓練(固定的射撃、移動射撃、空中実的に対する写真銃射撃)
空中訓練(回航同速吹流的射撃、同航異速吹流的射撃、空中よりする地上固定的射撃、斜航異速吹流的射撃、編隊空中戦闘)



(1) 疑襲訓練とガンカメラ
疑襲訓練については、的機に対して疑似的に襲撃を試みるものですが、その成果判定については、同乗した判定員によることになりますが、対戦闘機戦での疑襲訓練については、ガンカメラによる写真判定を行っていました。ガンカメラについては、八九式活動写真銃改二が主に使用されています。

ガンカメラの使用について、あまり出ない内容なので、連合国・武装担当官からの詰問ママに対しての回答を紹介しておきます。
・実戦には使用したことなし
・練習航空隊に於ける写真訓練に関しては質問第一に対する1項で回答
・写真銃(フィルム)は基準写真と比較し射撃諸元の良否を検討せしむ
・写真銃(フィルム)は映写機を使用または目測(フィルムを直接見ること)により良否を判定、教官元を解説す。


(2) 八九式活動写真改二

海軍航空隊の訓練・錬成部隊で一番使用された写真銃、ガンカメラです。1927年に制式採用された活動写真銃でソルントンピッカード製ハイス型写真銃を参考にして製作されました。35mm動画フィルム使用し、引き金を切ると一連写10コマ/秒、70枚の連続撮影が行われます。

図16の通り右側のレバーを時計方向に回すとゼンマイが巻かれ、私のものは80年以上たった現在でも元気よくダダダダと一連射でシャッターが切れるようになっています。日本海軍の写真銃は米軍の成果確認も兼ねていた翼内搭載型のガンカメラと違って大型、翼上設置ですから訓練時にのみ使用され、整備兵により訓練の都度に零戦の翼に搭載され、発射転把(発射レバー)と接続されました。

当時の資料から、戦闘機専修課程における固定機銃訓練についは、零戦で行われ「空中実的に対する写真銃射撃」及び「編隊空中戦闘」において、八九式活動写真銃使用(対戦闘機)(原文ママ)として実施されていました。

射撃結果のレビューは現像して印画紙に焼き付ける、などのまどろっこしい方法ではなく、錬成部隊等で現像して図16の八九式射撃審査幻燈機で投影して、あるいはフィルムを直接見ることで、即日に評価・指導することを教本は勧めています。そのため、印画紙に焼き付けられているワケではありませんので、射撃監査の写真については個人に渡されることもなく、したがって、我々もあまり目にすることも出来ないワケです。

なお、現在、八九式活動写真銃の写真として出回っているのは陸軍固定式射撃監査写真機ルバロア型写真銃のもので、隅に時計が写っているのが活動写真銃のものです。



八九式活動写真銃改二-八九式射撃監査幻灯機



■実射訓練と吹流し

実射訓練については吹流しを利用しましたが、その利用方法についてはあまり解説がされていないので、ここで紹介をしておきます。訓練が九六式艦上戦闘機から零式艦上戦闘機に移行したことによって、曳航機の速力は増し130~150節(ノット。240kmから280km)で吹流しの曳航索は約100mとなります。

図17は昭和19年8月「東亜航空工業株式会社」(現東亜精機工業株式会社)製、昭和19年9月1日 海軍航空技術廠検定「射撃標的」いわゆる射撃用吹き流しです。昭和19年に入ってから登場した零式錬戦一一型(or A6M2)でも引っ張られていました。

有名な写真では零式錬戦〝コウ-460”(神ノ池航空所属)が改一小型爆弾架に吹き流しを装備して射撃訓練に出発する写真がありまよね(写真をよーく見るとヒモが見えていて、どういう構造か良く分かります)。

なお、ムック本においては、〝布製標的”としていますが、実際の材質は布ではなく、丈夫かつとても軽量な絹製です。パラシュートと同じ素材です。吹流し標的と言うと赤とんぼでのんびり曳航というイメージですが、戦闘機の巡航あるいは巴戦速度である300kmで訓練する必要があり、零戦部隊用に各々配置されていました。

写真の「射撃標的吹流し」は入口から後端がすぼまって最後はキツく閉じています。マンガなどで見るずん胴の吹き流しは、赤とんぼなどの低速度練習用です。吹流しの形状は低速度用を含めて3種類あり、他に中速用、高速用があり、各々長さ、終端部の処理が違ってきます。写真は5mで終端がきつく閉じていますので高速用となります。訓練時には7.7mm通常弾の弾帯を丸めて訓練生毎に色を変えて弾体の先端を塗料バケツに浸して各個を識別しますが、写真のように布のエグレ方で襲撃方向を確認して有効・非有効の個人指導をしていました。




零式艦上戦闘機-射撃標的 射撃用吹き流し






ご意見ご指摘がございます場合は、零戦談話室までお願いいたします。 



■更新について

休日家族に叱られながら研究成果(?)を発表してまいりますので更新の遅さについてはご了承ください。また、誤った情報については後日修正して行きますので、これもまた、合わせて生暖かく見守っていただけるとありがたいです。


■更新情報(メジャーアップデート)
2016.01.11 取り敢えずの公開版を作成。



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