ヒトミの飼育日記 2000年1月〜2000年2月
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1月28日(金)
今日、裏のマンションの工事現場の駐車場に出ていた露店で、
不思議な生き物を買った。 860円也。
体長5センチぐらいの、灰色のふさふさした毛のカタマリのような生き物だ。
足らしきものは見当たらないが、もそもそと動いている。
耳を近づけると、ほんの微かな声で、チーチーと鳴くのが聞こえる。
露店のおじさんによると、雑食でなんでも食べるらしい。
とりあえず、小さな皿に、食パンをミルクに浸したものをあげてみる。
モソモソと近づいて来て食べている。 可愛いものだ。
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1月29日(土)
名無しだと扱いにくいので、"ヒトミ"
という名前をつけた。
ペットに、昔の女の名前をつけるのは、男として、けっこう女々しいようにも思うが、
ふわふわした感じと、訳のわからない感じが、彼女をどうしても連想させる。
どうしているのかなぁ。
もう、別れて3年にもなる。
今日は洒落で、ごはんにおかかをかけてあげてみた。
しっかりと食べる。
ほんとになんでも食べるようだ。
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1月30日(日)
今日は、出掛ける用事があったので、朝、バナナをむいてかごに入れておいた。
けっこう、大きなバナナだったのだが、帰ってくると、すっかりなくなっていた。
すごい食欲だ。
見ていても、もそもそと動くだけで面白みはないが、
背中(?)を撫でてやると、チーチーと小さな声で鳴く。
やはりかわいい。
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1月31日(月)
ヒトミの様子がおかしい。
といっても、もともとあまり動かないのだが、あんなにあった食欲がないのだ。
朝にあげた豆腐も、昨日の残りの肉じゃがをつぶしたものも、まったく食べない。
どうしてしまったのだろう。
時々、少し動くので、死んではいない様だが…
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2月 1日(火)
今日も昨日とあまり様子が変わらない。
一昨日にあげたバナナが原因だろうか?
そういえばヒトミは、排泄、つまり、うんこをしていない!!
便秘か?
医者に連れて行ったほうがいいのだろうか。
しかし、医者に、ヒトミのことをどう説明すればいいのだろう。
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2月2日(水)
朝起きてみたら、ヒトミがかごの中からいなくなっていた。
慌てて探したところ、なぜかトイレの便器の上に、鎮座ましましていた。
かごに戻してやったら、昨日までのことがウソのように、
お皿によそった千切りキャベツを食べ始めた。
医者に連れてくのは止めて、もう少し様子を見ていよう。
どうやら風邪をひいてしまったらしい。
からだが重く、節々が痛い。
こんな風邪をひくのは何年振りだろう。
昨日までは、なんともなかったのに…
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2月3日(木)
昨夜からの風邪がまったく直らない。
布団から起き上がり、1階のトイレに歩いて行くのがやっとだ。
一日中ウチで寝ていたので、ヒトミの1日を観察できたことができた。
日中は、約3時間おきに、寝たり起きたりを繰り返しているようだ。
とはいえ、じっとしている時間を、寝ていると仮定しての話だが。
少し、もそもその移動速度が早くなったような気がするのは、
気のせいか、贔屓目か…
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2月4日(金)
昨日の風邪が嘘のように調子が良い。
どうなっているんだろう、私の体は?
天気がよかったので、公園にヒトミを連れて行ってみる。
地面に置くと、もそもそと、日向に向かって行く。可愛い。
ただ、見た目は灰色の毛のカタマリでしかないので、生物のようには見えない。
そんなものを地面において、ニヤニヤしながら見ている男というのは、
傍目には、どう見えるものなのか?
おしりの毛が、少し黄色くなってきた。
これでやっと、動いてなくても、前後がわかる。
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2月5日〈土〉
訂正。
昨日おしりだと思ったのは、どうやらアタマだったらしい。
黄色くなった部分を押し付けて、今朝あげた味噌汁かけご飯を食べていた。
・・・ということは、ヒトミは後ろに向かって進んでいるということか。
今まで、なんとなく怖くて確認していなかったのだが、
意を決して、毛の中を探ってみる。
ヒトミは別段嫌がる訳でもなく、身をまかせていた。
黄色い毛の中に、口とおぼしき1センチ幅ほどの亀裂を発見。
しかし、どうしても目らしきものは、見当たらなかった。
まさかと思い、おしりに当たる部分も探してみたが、やはり見当たらなかった。
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2月6日〈日〉
今日は、朝から友人のKと遊びにでたため、ほとんどヒトミの世話はしていない。
前回のバナナの件があるので、食事はどうしようかと思ったが、
昨日の夕飯の残りのハンバーグとグラッセ、マッシュポテトを皿に少しずつ載せておいた。
先ほど、帰って来てみると、ベッドの枕元にじっとしていた。
どうやらもう、かごは無意味のようだ。
明日から、部屋の中で放し飼いにしよう。
移動速度は、確実に速くなっているが、
どうやってベッドに登ったのかは、相変わらず不明。
皿にハンバーグだけが残されていた。
肉が嫌いなのだろうか?
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2月7日(月)
彼女はやはり、どうやら日向が好きなようだ。
日中、日が当たっているうちは、窓辺にじっとしていた。
放し飼いにしていると、いろんな事がわかる。
しかし、脱ぎたての靴下に包まって寝るのはどうしたものか・・・
近所で、ねずみの被害が多発しているらしい。
夜中に台所の食品を、食い散らかすそうだ。
同じ(?)小動物でも、ヒトミはほんとにおとなしくていいこだ。
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2月8日(火)
ひとみを触っていたら、腹に小さな突起を4つ見つけた。
これが足になって行くのだろうか。
隣の家のインコが、ねずみにやられて、死んだらしい。
可哀想に・・・
ヒトミも気をつけなくてはいけないだろうか。
もしもひとみが死んでしまったらと考えると、胸が張り裂けそうになる。
だいじな、だいじな、ヒトミ。
愛してるよ。
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2月9日(水)
Kから話を聞いたのだろうか、友人の I が夕方電話をかけてきて、
ヒトミを見せて欲しいと言う。
電話口の声が、にやけた感じだったので、
腹が立って、大喧嘩の末、叩きつけるようにして電話を切った。
変な興味本位の視線に、ヒトミをさらしたくない。
ヒトミがうちに来て、もう、10日以上になる。
耳を近づけてやっと聞こえるほどだったチーチーという鳴き声も、
今では、チーク、チークと元気に食事を催促するようになった。
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2月10日(木)
近所のコンビニへ、夜食を買いに行く時に、
一人では、なんとなく寂しかったので、
コートのポケットに入れて、ヒトミを連れて行こうとしたがしたが、
激しく身をよじって嫌がったので、やめにした。
ヒトミがこんなに激しく嫌がるのは、初めてだ。
夜中の外出が嫌いなのだろうか、それとも、窮屈なポケットが嫌だったのか?
最近は、枕のよこに、ちょこんとうずくまって寝る、ヒトミ。
おまえは、どんな夢を見ているのだろうか…
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2月11日(金)
ここ、2、3日、ヒトミが窓の近くで日向ぼっこをしていると、
近所の野良猫が、窓越しに遊びにやってくる。
ガラスに、鼻(?)と鼻をつき合わせて、何やらコミュニケーションをとっているようだ。
友達ができるのは、良いことだ。
最近、ヒトミは、ポッキーがお気にいり。
今日など、1日で、一箱食べてしまった。
しかし、口のまわりが、チョコで、べとべと。
いいかげん、風呂に入れてやらないとダメであろうか。
水に入れると増えてしまうようなことは、ないだろうなぁ…
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2月12日(土)
風呂に入れてみた。
というよりも、一緒に入ったというべきか。
ヒトミは、水に浮くことが判明。
泳ぐといってあげたい所だが、あの足では、水は掻けない。
最初は、小さな突起でしかなかったものが、
今では、高さ1.5センチ、底辺の直径1センチほどの逆さ円錐状になった。
やはり足と考えるべきであろう。
しかし、足の間にある、新たな二つの突起は、どう考えるべきか。
昼間、窓を開けてあげたら、例の猫と ニャ−ニャ−、チーク
チーク と
盛んに、会話(?) していた。
通じているのだろうか。
すこしうらやましい・・・
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2月13日(日)
久しぶりに、公園に散歩に行った。
芝生の上でヒトミと遊んでいると、
4歳ぐらいだろうか? 女の子が2人寄って来て、
ヒトミを、たくさん可愛がってくれた。
子供は、大人のように好奇の眼差しでヒトミを見るのではなく、
素直に、心から可愛がってくれる。
興奮してしまったせいか、帰り際に、ヒトミが薬指に噛みついた。
血が出てしまったので、少し驚いて、初めて、ヒトミを叩いてしまった。
反省をしているのか、家についてから、傷口をさかんに舐めてくれる。
用意したご飯に見向きもしないで、いっしょうけんめい舐めてくれるのだから、
けなげなものだ。
その姿を見ていると、心から、愛しさがこみ上げてくる。
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2月14日(月)
ヒトミの様子がおかしい。
部屋のすみにじっとうずくまったまま、ほとんど動かない。
以前、バナナを食べたときとまったく同じだ。
心配だ。以前のように、何事もなければよいのだが…
とりあえず、2、3日様子を見よう。
友人のKと夕方から飲みに行く約束だったのだが、
ヒトミのことが心配なので、断りの電話を入れた。
電話中に、Kが I に、ヒトミのことを喋った件について、問いただしたところ、
Kは、I に喋っていないと言う。
Kはつまらない嘘をつく男ではないので、本当だろう。
では誰から聞いたのだろうか・・・
公園で、目撃した人の噂話か? どんな噂話になっているのだろう。
ヒトミのことを、化け物のように言うやつは、俺が許さない。
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2月15日(火)
I が訊ねてきた。
人を本気で殴ったのは、15年ぶりだ。
ヒトミは、まだ動かない。
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2月16日(水)
ヒトミはまだ動かないが、
黄色い毛の部分が、からだの半分まで広がり、
口の周辺の毛が、朱色に変色してきた。
体毛が変色する時期は、動かなくなるという生態なのだろうか。
成長しているということなのか?
しかしこれで丸3日間、食事はおろか、水分の補給もしていない。
やはり心配だ。
両手で抱き上げ、そっと頬擦りする。
小さな鼓動が聞こえる。
はやく元気になっておくれ。
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2月17日(木)
気持ちが悪い。
朝から3回ももどしてしまった。
足の裏が、石のようにこっている感じがする。
だるい。
頭がぼーっとして、目の焦点が合わない。
熱があるわけではないのだが…
季節がら、花粉症なのだろうか。
今年は、去年の8倍だと、車内づり広告に書いてあった。
ヒトミは、やっと活動をはじめた。
ベットに寝ていると、もそもそと寄ってきて、
心配そうに、チーチーと鳴いてくれた。
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2月18日(金)
くるしい、たすけてくれ、
ヒトミ、ヒトミ、ヒ、ト、ミ ・・・
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2月19日(土)
あさ、目が覚めてみると、
昨日までの体調が嘘のように、調子がいい。
体のすみの細胞までが、覚醒しているという感じだろうか。
二日間のブランクを埋めるように、てきぱきと、身の回りのことをこなす。
目が覚めた時に、すぐ枕元にいたヒトミ。
アタマの中心、やや上部の何本かの毛が、
まとまって5cmほど伸び、前に弧を描いて垂れている。
ちょうど触覚のようだ。
まる1日ヒトミの食事を用意してあげられなかった。
お詫びとして、久しぶりにポッキーを買ってあげた。
やはり、べとべとになってしまったので、一緒に風呂に入った。
シャンプーをしても、嫌がらずに、じっとしている。
いいこ、いいこ。
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2月20日(日)
昼過ぎ K が、ワインを手土産に訊ねてきた。
日曜ということもあり、昼間から飲みながら、ヒトミ談義。
K の好奇心は、俗な厭らしさがない。
純粋にヒトミを楽しみ、可愛がってくれる。
いい友達を持った。
2人とも好きなのだが、強いほうではないので、
ボトル3分の2ほど空けたところで、かなりいい気分。
盛り上がっていると、ヒトミが寄ってきて、チーチーとワインを飲みたがる。
面白いので、小皿に注いで飲ませてみる。
ぺちゃぺちゃとうまそうな音をたてて飲んだかと思うと、
お代わりを要求する始末。
2杯目を飲み終わったところでベットへと向かうが、
案の定、真っ直ぐに進めない。
ばかなやつ、飲み過ぎだ!!
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2月21日(月 )
ついにウチにもねずみが出た。
今朝起きて台所にいってみたところ、
野菜置き場のキャベツが食い荒らされていた。
隣のインコのこともあるし、ヒトミのことが心配だ。
今のヒトミには、ねずみと戦うすべはない。
噛み殺されるのがオチだ。
かわいそうだが、夜中だけでも籠に入れて
保護してあげないといけないか…
今日は、布団の中に入れて一緒に寝ることにしよう。
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2月22日(火)
本当に久しぶりに、ヒトミと仲良しの猫が現れたので、
部屋に入れて遊ばせてあげた。
アタマをくっつけて、一つの皿からご飯を食べている姿は、
本当にほほえましい。
飼い猫でなければ、ヒトミの夜のボディーガードとして飼ってあげたいが、
首輪をしているので、そうもいいかない。
今日の朝は、冷蔵庫の扉が開けられていて、
中の肉が、食い荒らされていた。
最近のネズミは、恐ろしい・・・
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2月23日(水)
ヒトミの触覚(?)に赤いリボンを結んでみた。
かわいい。
デジカメがあったら、ここで公開したいぐらいだ。
しかし、そんな気になってしまっているが、
ヒトミは、ほんとうにメスなのだろうか?
その前に、種として性別が存在するのだろうか。
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2月24日(木)
ヒトミはなんでも食べるようでいて、実はけっこう好き嫌いが激しい。
ヒトミの好きなもの。
ポッキー(!!)、ジャガイモ、柑橘系以外の果物、うどんの麺、はんぺん、パセリ、ワイン、牛乳。
ヒトミの嫌いなもの。
牛肉、柑橘類(匂いもダメらしい)、パスタ、御新香、炭酸飲料。
先日、コーラを飲ませてみたら、
驚くべき速さで、部屋のすみに逃げて、丸くなってしばらく震えていた。
かわいそうになって、またポッキーを与えてしまった。
甘やかし過ぎだろうか?
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2月25日(金)
町内会の回覧板で、
猫いらず(ネズミ用の毒)と、粘着パッド(ゴキブリホイホイのネズミ版)の、
共同購入のお知らせが来ていた。
ネズミの害は、かなり深刻化しているらしい。
ウチにまわってきた時点で、ほとんどの家が、購入を希望していた。
これで退治できるといいのだが。
ヒトミと一緒に日向ぼっこをしていたら、ウトウトと2時間も寝てしまった。
気がついたら、ヒトミが腹の上で丸くなって寝ていた。
起こすのがかわいそうで、そのまま更に1時間動けなかった。
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2月26日(土)
昨晩、夜中に目が覚めて、ふと見ると、ヒトミがいない。
慌てて探したが、やはり見つからない。
ドアも、窓も、しっかりとしまっている・・・
半狂乱になりながら、3時間、部屋の中を捜しまくった。
夜が白々と開けてきたころ、表へ飛び出し、
ヒトミの名前を大声で叫びながら探しつづけた。
近所の人達は、気が違ったと思ったかもしれない。
いや、本当に気が違っていたのかもしれない・・・
あてもなく、部屋に戻ると、
ヒトミは、ベットの枕元に、丸くなって眠っていた。
ヒトミを抱き上げ、大声で泣いた・・・
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2月27日(日)
今日、ヒトミと一緒にウトウトと昼寝をしている時に、
別れた彼女である、ひとみの夢を見た。
目が覚めたあと、なんとなく気まずくて、
ヒトミを素っ気無く扱ってしまった。
ヒトミは何も悪くないのに・・・
ごめんよ、ヒトミ。
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2月28日(月)
ヒトミと出会って1ヶ月、
本当にいろいろなことがあった・・・
そういえば、その後、あの露店をまったく見かけない。
ヒトミの隣で売られていた、節くれだった長い足をした甲殻虫は、
誰かに買われていったのだろうか?
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2月29日(火)
夕方、別れた彼女であるひとみから電話があった。
一昨日の夢のことがあったので、かなり驚いた。
会いたいという。
あんな別れ方をしたというのに・・・
むげに断るのもなにか変な感じがしたので、
明日、時間をつくって、会うことにした。
ヒトミは・・・
何も変わりなく今日も可愛い。
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