◎遺書

   もしも
   俺が植物人間になったら
   一先ず一思いに殺してくれ
   それが俺の願いだ
   そして棺桶に入れる時は
   俺の書いてきた詩集と鉛筆と下書きと辞書を
   添えてくれ
   それから蓋をしたらその蓋に
   こんな詩を掘り込んでくれ

―――私は一つの詩人になれた
   私は一つの風に触れた
   私は一つの炎に会えた
   私は一つの夢に溶けた
   私は一つの自然に帰れた
   私は一つの空になれた
   そして私は全ての本質を見抜く力を手に入れた
   もう泪もいらない
   もう心もいらない
   もう何もいらない
   そう無一文でもかまわない
   ひたすらに灰になっても歩き続ける
   私は輪廻の中で―――

   もう思い残す事は何もない
   だから俺が植物人間になったら
   一先ず一思いに殺してくれ
   それが俺の願いだ
   だらだら生きてきた俺の
   最後の願いだ

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