◎今はない美術館

絵画なんて見たくない
彫刻なんて見たくない
見たかったのはそれらを見る
人々の姿

芸術に魂を掴まれる処女
呆然と作品を目に入れる片腕の青年
腕を絡ませ雰囲気を楽しむ車椅子の恋人達
明日に不安を覚えながら時間を潰す壮年
芸術なんて解らないと無邪気に駆け回る純粋な子供
忘却できない思い出に浸る幼い母親
静かに時間を噛み締める白髪の老人

そう
そこは私にとって
芸術を楽しむ場ではなく
それらを鑑賞する
美術館

私は一度だけそこに行き
私の全てを置いてきた
私もそこで同化の喜びを感じたかったから

今はもう潰れて古びた本屋(だけど)
今は面影すらない汚い本屋(だけど今更だけど)

私は 当ても無く
探している 探している
あの時 置いてきた 私を(或いは激しく燃える未来を)
今更ながら
取り戻したくて

今更ながら
取り戻したくて

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