あの時 振り上げた拳が
今は優しい稚児の頭を撫で
あの時 流した泪が
今は深い海となる
あの時 触れた髪の毛が
今は止めど無い愛情の架け橋になって
あの時 捨てた夢の布袋
今は炬燵の片隅で眠る
その時その時の溢れ出した感情が
言葉になって 声になって 文字になって
不安気に揺れる未来に流れて
自分を知らない代の片隅で
命の焔と共に佇み
思慮深いあの頃の切ない思い出は
風化し人々の心の土に変わり蓄積され
腐葉土になるか腐敗の拍車に手を貸すか
解らないけれどそれでも
一片の桜の花弁の重さくらいの
拘りが伝えられたら
それだけがきっと由緒正しき家宝となる
血も族も肌の色も生まれも富みも
過去に生きた者の名残の物語
それよりもそれよりも
もっと大切な何かを伝えられたら
それだけがきっと至福の極みの首飾り
あの時 伝えられなかった愛は
今は薄ぼけた琥珀の酒の味になり
あの時 伝えられなかった悲しみは
今は優しさを保つ道標
命の数珠繋ぎの伝言
今 そっと
心に耳を傾けて