◎黒い雲

母さん あの黒い雲の中に
何があったのでせう?

ああ 母さんが
埼玉の実家の近くに広がるあの田んぼの近くで
たまには散歩でもしませうと連れ出した寒い朝に
見たあの真っ黒で大きな雲の事ですよ

僕はとても恐ろしかった
黒々とそれはもう
鬼が蹲っているようでしたよ
その恐怖の所為で見入っていて
向かってきた自転車に気付かずに
僕は寸での所で引かれそうになりましたっけね

(でも引かれそうな僕を母さんは気付かなかった
 まるであの黒い雲の中には僕がいるとでも言うように
 母さんも見入っていましたね)

あの寒い朝に見た大きな黒い雲
あの時 母さん 何を見たのでせう?
あの黒い雲は何を示していたのでせう?

覚えていますか?
もう忘れてしまったかもしれませんね
あの時から確かに
母さんは何かを無くし
あの時から静かに
母さんは夢中で何かを追いかけていますね

母さん あの黒い雲の中に
僕はいませんよ
誰もいませんよ
なのに一生懸命に見入っていたのは
何故でせう?

母さん あの黒い雲の中に
何があったのでせう?
埼玉の実家の近くにある田んぼの近くで
寒い朝に見た あの真っ黒な雲の事ですよ
覚えていますか?
もう忘れてしまったかもしれませんね
でも僕は母さんが握り締めた手の温かさと
強張ってきつく握り締めた手の強さを
あの黒い雲と共に
忘れてはいませんよ

母さん あの黒い雲の中に
何があると言うのでせう?
寒い朝に見たあの真っ黒な雲の中に

この詩に感想を書く          一つ上に戻る