立ち枯れの老木に纏わる雪の雄弁さ
語り出すのは
栄枯盛衰を流した街並みの
子供達の笑う高い声
炭坑から生まれた黒い雲
樹の下で交される愛の調べ
老人と犬の寂れた会話
腹をさする若い身重の撫でる音
全てが時の流れの一齣
そう思えるほど時間の流れは
ゆっくりと進み
凍る樹は静かに息を引き取り
なお大地の肥やしと
生まれ変わろうと
歩み始める
人から生まれ出た
喜怒哀楽を吸収しては
優雅に生やした葉はもう
今は跡形も無く
夢泡沫と表している
乾燥した枝から
人々の立ち去る背姿を見送り
立ち昇った哀愁が年輪を生み出し
荒れ果てた丘に
静かに立つその樹の元へ
今はもう誰も会いには来ない
なんと陰鬱で
なんと孤独な事か
それでもなお
樹は樹として己の役割を大地に示し
今まさに老木は折れかかる
そう雪の非情な重みで
だからこそその樹は
悲鳴を上げず涙を零さず
ただ穏やかに大地を目指す
その役目から解き放たれる開放感を
実は誰も知らないままに
立ち枯れの老木に纏わる雪の雄弁さ
そこにはひっそりと時の流れが産んだ
秘密な話しが静かに眠っている