君がいる
ただ空を見詰める
思い出したように話し掛けて来ては
一人で君は笑う
熱い珈琲の香りに
包まれて君は
本を読み出す
何度も頷きながら
何度も独り言を呟きながら
夕日が傾き
台所に立つ君を見詰め
そっと後ろから抱きしめる
優しい香り
危ない手つきの包丁を
冷たい笑みで見せる姿は
どうしても演技染みて
でもどこか女優で
少しだけ茶化す
また笑ってくれる
少しだけ味は惚けているけど
君の優しさ暖かく伝わるから
ゆっくり味わう
味を気にするその視線がやけに愛おしく
やっぱり茶化す
不貞腐れる だけど
謝って笑って
許される安堵感
君は石鹸の香りが好きで
君はお湯の湯気が好きで
その香りが部屋に満ちる頃
太陽は眠りに就き
月が優しく照らして幻想
君を徐に抱き寄せて
熱い接吻を
君はそれに答えながら
激しく抱擁を
二人静かに枕を温め
そっと夜の歌を奏でて
月を照れさせた
優しい香りと美しい歌に
酔い痴れて
今日も時計が忙しなく
何かを告げる
何かを運ぶ
そうして深夜の味を味わいつつ
穏やかな眠りを
覚めない夢を
変わり映えしない毎日の
これが二人の恋愛歌
誰も聞かない恋愛歌
密やかな密やかな
恋愛歌