頼りなげに飛びて
初夏の夜空
静寂の内に彩り
蚊の鳴き声さえ
どこか淋しげに消え入った
何を今まで見てきたのだろうと
この小さな蟲は
私に問う
刹那の拍で風を撫で
頼り無げに手足を動かす
そこに生の躍動の熱さ
と言うよりも
私の見えざる心の羽ばたきだけが
素直に光り始める
何を今まで見てきたのだろうと
この白い蟲は
私に問う
ゆっくりと
心の底に染み入る様に
心の中を飛ぶ様に
額に噴出す汗は
夏の入り口
今宵も頼り無げに
飛んで飛んで飛んで
私は自分の中で唯ひたすら
何を今まで見てきたのだろうと
このか弱い蟲の
羽音に魅せられ
何度も反復の念を
打ち返す
何を今まで
見てきたのだろうと
何を今まで
見てきたのだろうと