ヒトミの飼育日記  2000年6月
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6月1日(木)


今日は、お休みさせてください。
ちょっといろいろなことがあって、混乱しています・・・



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6月2日(金)


いったいなんなのだ!!



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6月3日(土)


動かなくなっていたヒトミは、
動かないまま、忽然と消えたり現れたりを繰り返す。
今ここにいて、ふと目をそらした隙にいなくなる。
嫌な予感のこともあり、必死になって探していると、
いつのまにか、もとの場所にじっとしている。
安心して目をそらし、振りかえるとまたいない。
そんなことを、日に10回以上繰り返す。
気が狂いそうだ。
しかも、繰り返すごとに、いない時間のほうが長くなる。
このままいなくなってしまうのではないか。
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。

石の分析依頼をした研究所は、
その後まったく連絡がない。
昨日、痺れをきらして電話をしたところ、
留守番電話が、週末からの調査旅行の予定を告げる。
K に聞いても、くびを捻るばかり。
イライラし、受話器を叩きつける。

1日に、ひとみからメール。
「しばらく会えません」 の文字だけが、
モニターに映し出される。
携帯も通じない。
自宅の電話さえも、常に話中だ。
気が狂いそうだ。

夜中に、いなくなったヒトミをそのままにして、
フラフラと、散歩に出かける。
降っているのかどうかもはっきりしないような雨の中を、
ただまっすぐに歩く。
以前ヒトミと訪れた公園には、だれもいない。
こわれかけたベンチに座り、懐かしい歌を口ずさむ。
残念な事に、Bメロが思い出せず、
しかたなく帰路につく。
部屋にはいると、ヒトミはいつものところにじっとしていた。
「お早いお帰りで・・・」 と、声をかけた。



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6月4日(日)


ヒトミは、午後8時23分、
本日8度目の消失から、今だ、帰って来ない。

1月28日、ヒトミを購入してから半年弱、
不思議に充実していた日常は、これで終わりを告げるのだろうか。

ひとみとも、このまま連絡が取れないならば、
明日から、何をしてすごせばいいのだろうか・・・


いや、まだヒトミがいなくなって数時間、
ひとみだって、しばらく会えないといっているだけではないか。
なにを弱気になっているのか。
週があければ、やる事はいくらでもある。
I から聞いたことも、まだ未整理ではないか。
今日のところは、これ以上なにも考えずに、
寝ることにしよう。

明日の朝にはヒトミが、何事もなかったかのように、
チーチーと鳴いて起こしてくれるかもしれない。
そうかもしれない、
そうであってほしい、
そうでありますように・・・



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6月5日(月)


I から聞いたことを少し整理しよう。
まず、I 実家から持ちかえったものについて。

白紙の学術書。
K とまったく同じルートで手にしたらしい。
これについては、別に新しい情報を得ることはできなかった。

うちの付近の地図。
甲殻虫を購入した翌日に、同じ場所で拾ったらしい。
ちなみに甲殻虫購入は、2月6日、値段は1260円だったそうだ。
ヒトミを購入してから11日後、値段は400円甲殻虫のほうが高い。
日付の日に露天商がその場所に出現していたかどうかの確認は、していないそうだ。

石。
ある日朝起きると、甲殻虫が抱えるようにして持っていたらしい。
まれにカタカタ動いたり、暖かくなったりするらしく、
きみが悪いので捨てようとしたところ、
甲殻虫に攻撃されそうになったそうだ。
しょうがなく、大事に保管していたものらしい。
普段甲殻虫は、石のことは別に気にかけていなかったようだ。

大学ノートについては、
長くなるのでまた後日。


やはりヒトミは、昨夜以来帰らない。



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6月6日(火)


やはりそうだ。
I の実家から持ちかえった、うちの付近の地図にある筆跡は、
確かに I のものだ。
いちどは、I のいうことを信じたものの、
わたしの受けた第一印象は、間違っていなかったようだ。
高校時代文芸部だった I の、手書き原稿を印刷した小冊子を、
押入れの奥から引っ張り出した。
この右上がりの癖字は、間違いなく彼のものだ。

なぜ彼は嘘をついたのだろう。
話している時は、まったく気がつかなかった。

I は、むかしから嘘をつく男ではあったが、
上手につけるタイプでは、まるでなかった。
時が彼の嘘を上達させたのか、
それとも、
・・・記憶自体がおかしくなってしまっているのだろうか。

これでは、ほかの事実の信憑性も怪しくなったきた。
もう一度 I にあって、話をしなければいけないようだ。




ヒトミ・・・、ひとみ・・・
どこへいってしまったんだい。
寂しいよ。



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6月7日(水)


身体がだるい。
以前、ヒトミにシンクロしていたときと、
まったく同じ感じだ。

まさか。
ヒトミと同じような事になるのだとすると・・・



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6月8日(木)


H からメール。



mail arigatou.

warui ga ima niongo ga yomikaki dekinai tokoro ni irunode

kimi no mail wo yomu koto ga dekinai.

ro-ma ji de yominikui toha omouga yurushite hosii.

kyuuni kimikara mail ga kita to iukoto ha tabun

ano ikimono no hanashi darou to yosou ha dekiru.

tabun kimimo i kara yuzuriuketanodarou.



tonikaku ima kimi no motteiru ikimono ga douiu joutai ka

oshiete kurenaika?



henji wo matteiru.

kondo ha ro-ma ji de tanomu.



H



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6月9日(金)


H のメールからすると、
どうやら、H は I から何らかの生き物を譲り受けたようだ。
そしてそれは、H のもとで何らかの形状変化をしていると言うことか。
I は、ヒトミの事を H に話したのだろうか。

考えだけが、グルグルと回る。
身体は、相変わらず石のように重い。
考えている事も、なにもまとまらない。
今日の午後、2時間ほど記憶がなくなった。
その間、自分が存在したのか、消えていたのか、
定かではない。



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6月10日(土)


例の研究室から、宅急便で石が返却されてきた。
同封されたレポートには、なにやら専門的な言葉の羅列と、
難しい分析データなる数表。
結局結論としては、
なにか、特定出来ない生物の卵で、
年代は、白亜紀(?)のものと思われるが、
数値が一定しないので、確定は出来ない。
つまりは卵の化石である事意外は、よく解らない、
と、いうことらしい。

今日、記憶があったのは、朝の2時間ほどと、
夕方の3時間ほど。
今、AM 0:12 。
つい先ほど気がついた。
昨日より頭ははっきりしているが、身体はだるいままだ。
H にへんじをださなけ



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6月11日(日)


昨夜の日記を書いている途中からの記憶がない。
気が付いたのは、翌日の AM 1:00 。
丸1日の記憶が飛んでいる。

しかし、書きかけの日記は、AM 8:00 にアップされ、
日記猿人、Read Me !! への更新報告までされている。

そして、今、足元に、ヒトミがいる。



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6月12日(月)


日々は過ぎてゆき、
やらなければならないことたちだけが、増えていく。

I に連絡を取った。
明日、I の家の近くで会う予定。
あえて電話では、なにも聞かなかった。
顔を見て話がしたい。

H に返事を書いた。
ローマ字にて、ヒトミの事を説明する。
彼はどこにいるのだろう。

K に電話をする。
明日の夜尋ねてくるそうだ。
足は、だいぶよくなってきたらしい。

身体はまだ、だるく重い。

ヒトミは、昔のままだ。
この数日間の事など、知った風もない。
今日は、窓の外に降る雨を、
興味深げに、飽きることなく眺めていた。

ひとみ・・・
あいたい。



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6月13日(火)


I と会う。
やはり、彼は少しおかしくなっているのだろうか。
喫茶店の扉を開けた彼の姿は、
透明のビニール傘に、雨合羽、黒のゴム長。
どこか、ちぐはぐだ。

話している内容は、いたってまともではあるが、
前回語った事で、彼の記憶は確定してしまっているようだ。
現物を見せ、かなり厳しく追及したつもりだが、
彼も首を捻るばかりだ。
騙されているのだろうか。

一応、もう一度、大学ノートの内容について確認をする。
I は、記憶のないままに書き綴ったと言っている。
I が知っている名前は、4人。

H、

ひとみ、

I の親戚の子ども。小学校5年生の男の子。

例の生物講師

今回は、I の親戚のうちの住所をきく。
鞄から取り出されたアドレス帳の色は、鮮やかなピンク色だった・・・

身体は以前だるいままだ。
しかし、なれというものは恐ろしい。
それなりに行動できるようになってしまった。
しかし、I と会った喫茶店で突然の嘔吐に襲われ、
トイレで大量にもどす。
吐瀉物に黄色い膿のような物が少し混じっていたようだ。

夕方から、K の訪問。
せっかく持ってきてくれたワインにも口をつけられず、
ベットに横たわったまま話をする。
これ以上 I に関わっても得るものがないということで一致。
定期的に連絡をして、変化がないかだけを確認する事にした。

ヒトミが、K の持ってきたコンニャクを食べた。



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6月14日(水)


やはり、無理をしすぎたようだ。
ベッドから起きあがれない。
枕もとのゴミ箱にもどすこと2回、
やはり黄色い膿のような物が混じっている。

薄暗い部屋の天井を眺めながら、
ひとみの名前をつぶやく。
ヒトミが戻って嬉しいはずなのに、
考えるのは、ひとみのことばかりだ。
ひとみ、ひとみ、ひとみ、ひとみ。
どうして・・・



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6月15日(木)


ヒトミが、ひとみの声で、
「わたしよ。どうしてわからないの。」
と、話しかける夢を見た・・・

夢から覚め、
泣きながら、ヒトミに枕を投げつけた。
ヒトミは、ひらりとかわし、
チーチーと鳴いた。



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6月16日(金)


午後7時50分。
洗面器いっぱいの黄色い膿を吐いた。
このままなにも解らずに死ぬといのは、
どういう気持ちだろう・・・



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6月17日(土)


少し気分がいい。
昨日の膿で、身体の老廃物を、
排泄したということなのだろうか。
あの、人間ドックの結果は、そう言うことなのか。

気晴らしをと思い、
久しぶりに、ワインショップへと出向く。
ヒトミを、リュックの中に入れて連れていく。
始終チーチーと鳴き、暴れるが、知ったことか。
幸運なことに、今日はセールの日であったらしく、
お気に入りのワインが、とても安く売られていたので購入する。
2980円也。
少しは、運が向いてきたのか、
足取りが軽い。

町の雑踏の中で、何度かひとみを見かけたような気がして、
足早に追いかける。
人違い、2回。
見失うこと3回。
向かいのホームに到着した電車に乗っていた、
あれは、ひとみではなかったのだろうか。



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6月18日(日)


ひとみからメール。


もうすこしであえるから、
しんぱいしないで。
だいじょうぶだから。

あいしてるわ。



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6月19日(月)


ヒトミと一緒に、久しぶりに公園へ出かける。
梅雨の晴れ間は、すっかリ初夏の陽気だ。

久しぶりの晴れ間のせいか、
公園は、子どもと母親でおお賑わい。
芝生の上で遊ばせていたヒトミは、
何度か、走りまわる子ども達に踏まれそうになっていた。
しかし、あの足でどうやってと考えてしまうほど、
そういうときのヒトミは、俊敏だ。
まるで、瞬間移動でもしているかのように、
子ども達の足の下をすり抜けていく。
どうやら途中からは、それが面白くなったらしく、
わざと子ども達の群れに向かっていく。
子ども達もきゃあきゃあ言いながら、
ヒトミを追いかける。

なかよきことは、うつくしきかな。



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6月20日(火)


ひとみからメール。


明日、あのレストランで、PM 7:00 に・・・



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6月21日(水)


PM 7:00、あの、イタリアンレストラン。
ヒトミは、家においてきた。
ひとみが現れたのは、7:20。
彼女が約束の時間に遅刻するのは、2回目だ。
複雑な表情で、それでも少し微笑みながら席につく。
メニューを受け取り、言葉少なにオーダーを決める二人。
グラスでスプマンテをたのむ。


・・・あの時と一緒だ。
彼女が別れを切り出した、あの時と。
付き合いだして4年目の記念日、
乾杯した後に、彼女がうつむきながら切り出したのだ。


「ごめんね。」
デジャヴが、襲ってくる。

「でも、もうダイジョブだから。
もう、どこにもいかないから。
わたしの事も、甲殻虫の事も、もう、ダイジョブだから。
心配しなくていいから。
もう、なにもおこらないから。
だから、お願い、なにも聞かないで。
聞かれても、何も話してあげられないの。
本当に、ごめんね。
でも、信じて。
本当に、ダイジョブだから。
安心して。
本当に、本当に、ダイジョブだから。」

瞳に涙をためながら、話すひとみ。
・・・何も聞けなかった。

涙を拭きながら、無理に笑顔をつくり、
無邪気に、二人でディズニーランドに行きたいという彼女。

左手の小指に包帯。



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6月22日(木)


このまま全ての事に目をつぶり、
ひとみと、ヒトミと、幸せな日常を暮らしてゆく・・・
いいのだろうか。

ひとみは、一緒に暮らしたいといっていた。
いいのだろうか・・・

いいのだろうか、いいのだろうか、いいのだろうか、いいの だ ろ う か ・・・



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6月23日(金)


思考が停止している。
考える事から逃避しているということは、わかっているのだが・・・

何日かぶりの梅雨の雨。
窓を開けていると少し肌寒い。
ヒトミに話しかける。

おまえはいったい、何なのか。
甲殻虫は、何をしようとしているのか。
ひとみはどこに行っていたのか。
I に何があったのか。
H は、生物講師は、カメラ屋のオヤジは、
そして、露天商の老人は・・・

答えるはずもない。
わかるはずもない。

ベッドの枕もとに小さく丸まって眠るヒトミ。
これからどうなって行くのだろう。
これからどうしたらよいのだろう。

ひとみに電話をかけてみる。
7月中にでも、2人でディズニーランドに行こう。
何もなかった、昔のように。



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6月24日(土)


部屋の模様替えをする。
さすがに暑くなった窓際から、タンスの上へ、
ヒトミ用クッションを移動。
全体的に、風の通りがよいように家具の配置を考慮した。
小動物に、過度の冷房はつらい。

押入れの一部を改良し、
゛ ヒトミBOX ゛ なる空間を造る。
前回、ひとみが訊ねてきた時の教訓を生かし、
ちょっとヒトミに席を外していただきたい時に、
使用する予定だ。

ヒトミは、模様替え途中の散らかった部屋がおもしろいらしく、
物から物へ、ぴょんぴょんと飛び移っていた。
そういえば、K の部屋に遊びに行った時も、
あの、素敵な散らかり具合が、お気に入りだたっけ・・・



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6月25日(日)


しょぼしょぼと降る雨の中、ヒトミを連れて公園へ出かけた。
濡れたベンチに腰掛け、
芝生の上で水滴と戯れるヒトミを、ぼんやりと見つめる。
傘は、ささない・・・

しばらくそうしていると、ヒトミと仲良しの猫が現れ、
おいかけっこを始める。
たのしそうだ。
無邪気に戯れる2匹に、軽い嫉妬を覚える。
何も考えなくてよい世界にいるというのは、
どんな気持ちだろう。

小雨とはいえ、2時間も座っていれば、
からだはぐっしょりと濡れてしまう。
濡れたTシャツが体温を奪っていく。
このまま、雨に溶けてしまえないものだろうか。
今こうしていることは、なんの意味があるのだろうか。
何をしなければ、いけなかったのだったっけ。



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6月26日(月)


風邪をひくことさえもできないのか、この身体は。



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6月27日(火)


この身体の忌々しさを少し試してやろうと思い、
今日1日、なにも口にしていない。
いつまで食べないでいられるものだろうか。

おなかが空く、という感覚はあるにはあるのだが、
昔のような耐えがたさにつながってこない。
小腹が空いた、という感じが延々続くのみ。
喉も乾かない。
少し寒いような感じがするのは、
やはりエネルギー不足なのだろう。

ヒトミはどうなのだろう。
興味があるにはあるが、
絶食につき合わせるのは、やはり気が咎める。

買い置きのカップ麺を食べさせてみる。
人が冷ましてあげてる途中に覗き込むものだから、
熱いスープがはねかかり、
驚いたヒトミは、大きな声でチーーー、と鳴き、
驚くほどの跳躍で、タンスの上のクッションまで帰り着き、
鼻 (実際には、確認されていないが) をこすりつけていた。



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6月28日(水)


絶食続行中。
やや、動作が緩慢になったようには思うが、
それ意外に、日常生活に支障はない。
延々と続いていた小腹が空いたという感じも、
夕方ぐらいには慣れてしまい、気にならなくなってしまった。
絶食中は、食べ物の匂いに過剰に反応し、
イライラすると聞いていたが、
精神的にも、安定したものだ。
ただ、物事を深く考えようという気力はない。
願ったりかなったりだ。

うすぼんやりしながら、たらたらと昼寝をする。
ヒトミが腹の上に丸まっている。
少し暖かく感じるのは、
体温が低くなっているせいだろうか・・・



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6月29日(木)


今日はさすがに、水分の補給だけはした。
体調は、相変わらず。
体重が減る事もない。
光合成でもしているのだろうか、この身体は。

実はここ何日間、電話の線を抜いている。
外部と連絡を取れば、必然的に行動を起こさなくてはならない。
今は、K のアドバイスさえも欲しくない。
ひとみの声を聞くのは、さらに耐えがたい。

もうすこし・・・
もうすこし時間が欲しい。
落ちるところまで落ちれば、上がっていく気力もわいて来るに違いない。
今はただ、この甘美な堕落に身を任せたい。
全ての事から逃げ出した先には、いったい何があるのだろう。



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6月30日(金)


さすがに身体が重い。
足腰が立たないという感じか。
少しは人間らしいではないか。

問題なのは、ヒトミの餌のことだ。
さすがに食料のストックも底をついて来た。
かといって、買い出しに行く体力は、
残念ながらのこっていない。
K やひとみに連絡を取れば簡単なのだが、
怒られたり、心配されたりするのはうっとうしい。
考えた末、I に電話をいれてみる。
明日訊ねてきてくれるそうだ。

・・・ I に頼る事になるとは、思わなかった。
それもいいだろう。
今は、I 程度の人間がお似合いだ。



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