一式戦闘機 「隼」 研究所 The Japanes Army Type 1 Fighter Hayabusa (Ki-43 Oscar) Research Labo.
隼二型 フライトマニュアル The Japanes Army Type 1model 2 Flight manual

※ この画像はオリジナルの立川陸軍航空整備学校の一式戦闘機二型飛行工術教程を参考に一式戦闘機「隼」二型のコックピットを再現したものです。再現に当たってはUBISOFT "IL2 STURMOVIC 1946"のスクリーンショットをベースに計器の追加・変更を行っています。Special thanks 1C:Maddox Games and Ilya Shevchenko,UBISOFT.This screen shot based on UBISOFT "IL2 STURMOVIC 1946".



























































































































































































































































































 本マニュアルはオリジナルの明野陸軍飛行学校の一式戦闘機取扱マニュアルをもとに作成しております。なお、計器及び操作機器の名称については極力オリジナル名称を使用し、その後、現代の航空用語に置き換えております。ブラウザをもう一つ立ち上げ上記イラストの番号と合わせて見ると判りやすいと思います。
 なお、零戦も同じエンジンを使用しておりますので、計器類の単位等を読み替えれば基本的には同様な操作で飛行可能と思われます。

               <一式戦闘機「隼」フライトマニュアル>



■始動準備

  
1.
機外より車輪止めが確実にななされていることを確認します。

2.
格納脚切り替えコックが中立ポジションを確認します。

3.
安全鍵が確実になされていることを確認します。

4.
プロペラを最高ピッチにします。

ピッチ角44°とします。図には出ていませんが瓦斯槓桿(23)の傍にガバナー(恒速調速器)の操作レバーがありそのレバーを上に引きます。プロペラピッチ角は24°から44°と20°の可変恒速式となります。ちなみに「ピッチ」とはプロペラが1回転するとき、理論上前に進む距離を表しています。

5.
高空槓桿(30)を全開にします。

高空槓桿(30)とはミクスチャ・コントロール・スロットルのことで、燃料の濃度をコントロールします。全開するにはエンジン操作装置(高空槓桿があるボックス)に“常時”の文字ステンシルが張られていますので、その方向に動かすことになります。

パイロットから見ると手前に引くことになります。離陸、上昇、空中戦闘時には燃料は濃く(リッチ)します。
なお、巡航時には“巡航”の位置としてパイロットから見て手前に押すことになります。そうすると燃料はリーンバーン(薄く)となり燃費が良くなります。

6.
点火開閉器(10)は“閉”の位置にセット

イグニッションスイッチになります。一般に航空機のエンジンは信頼性を高めるためダブルイグニッションになっています。イグニッションスイッチはロータリー式で左から“閉”“左”“右”“両”と切り替えます。

したがって、今回は一番左の位置に切り替えます(イラストでは“止”となってなっていますが実機では“閉”の表記が正しい)。

7.
カウルフラップを全開にします。ただし、極寒時を除きます。

カウルフラップとはエンジンカウリングの後部・全周部にあるスカートの部分です。環型フラップ開放操作はパイロットから見て右側側部にある小型のハンドルを回します。

開放操作は時計周りが開放操作となり、最大で全閉位置から30°が開きます。時計と逆方向に回し全閉した場合には5°内側に凹みます。これはよく写真で見る姿ですね。

8.
燃料計(31)によるタンク油量点検

左右の燃料計(31)をチェックし必要なガソリンの量を確認します。左側の燃料計は前方ガソリンタンクの量、右側の燃料計については後方ガソリンタンク量を表しています。

9.
主燃料タンク及び主タンクコック通

左側前部燃料計の右側、右側後部燃料計の左側にそれぞれ燃料コックがあります。スイッチはロータリー式で左から“左”“閉”“右”と切り替えます。

10.
手動ポンプ動作・燃圧3.5kg

手動ポンプ(17)で空気入れのように繰り返し燃圧を3.5Kgまで燃料を加圧します。もちろん隼はフュエルインジェクション(燃料噴射)ではありませんが、戦闘時ロールや反転等急激な動作でも燃料が途切れないようにタンクを加圧しておく必要がありました。

11.
瓦斯槓桿(23)を一回ニ回開閉して1分割で止める。

瓦斯槓桿(23)とはスロットル・レバーのことで、全開するにはパイロットから見ると手前から奥に押すことになります。ステンシルプレートの表示位置みるなら、瓦斯槓桿(23)がもっとも手前が“全閉”の表示にあり、押し切って“開”の表示位置にあることになります。
なお、このストットル・レバーをエンジン始動前に一、二回煽り、1分割の位置で止めることは始動時の儀式ではなく、とても重要な意味がありました。
判りやすい身近な例として私は以前、キャブレター付きのイタ車を持っていたのですが、この車もコールドスタート時にはアクセルをニ・三回煽ってイグニッションを入れないとエンジンに火が入りませんでした。

理屈は冷え切ったエンジンを始動する場合、通常よりも混合気を濃くしてやらないとエンジンが始動にくいためアクセルをニ、三回煽ることでキャブとシリンダー間に濃い混合気が滞留し、シリンダーに送り込まれることになるので、通常よりも濃い混合気の状態で始動させることができるからです。

なお、この動作は旧車でのチョーク機能と同様な効果を手作業で行う事です。



※特別コラム

 <陸軍機の瓦斯槓桿(23)スロットル・レバーは引いて全開が正しい?>

 陸軍機において、スロットル・レバーは海軍機と真逆であるとは良く言われます。つまり引いて「スロットルが全開」、押して「全閉」となる、ということです。これは過去何度も熱い論争となっているネタです。

もともと、陸軍機は伝統的にアンリ・ファルマンのようなフランス式であり、引いてスロットルが全開でした。海軍機は英・独逸方式でしたので、押して「全開」で現在のジャンボジェットもこの方式です。

 ややこしいことに、一式戦闘機「隼」の空中勤務者の手記においても「引いて全開・増速」と「押して全開・増速」の両方式の手記がありますので、前述のような論争が起こってしまいます。

 実際はどうなのでしょうか。実はキ43の試作機、増加試作機までは「引いて全開・増速」であり、制式採用機であればキ27までがその形式です。一式戦闘機「隼」の制式機及び二式戦闘機「鍾馗」からは海軍同様の「押して全開・増速」なります。

 つまり、一式戦闘機「隼」において両方式について手記に記述があったのは理由があり、実戦部隊の空中勤務者の手記においては「押して全開・増速」になり、明野の飛行実験部の空中勤務者の隼のリビューについては試作機を二年ばかり運用していたので、「引いて全開・増速」という手記となっていました。

 もちろん、三式戦闘機「飛燕」や四式戦闘機「疾風」、五式戦闘機「五式(ゴシキ)」についてはいうまでもなく「押して全開・増速」となります。



■始動

1.
慣性始動機を回転させる

ハ25発動機の起動については機付の整備兵が 慣性始動機を回転させるため、エナーシャハンドルを主脚収納孔に差し込み、手動にて慣性始動機のハズミ車(フライホイール)を回転させることが一般的でした。

また、ムック本の写真でよく見る日本陸軍のみで採用されていた発動機始動車(回転棒が付いた軽トラック)でスピナー・ハックス(始動鈎のことでスピナの先頭にジュラルミン深堀の鈎)を車の動力で強制的回転させエンジンを掛ける方法がありましたが、エンジンの主軸がブレることや車自体が少なかったことで活用しない部隊もあったようです。
2.
機付の「点火」の声を聞き点火開閉器(10)を入れる

機付とはその機専属の整備兵のことで一機に数名配備されていました。機付整備兵が慣性始動機を回転させフライホイールを十分に回転させた時に空中勤務者に対して大声で「点火」と告げます。

空中勤務者はその場合、必ず一号点火開閉器のロータリースイッチを"閉"⇒"右"⇒"左"⇒"両"と順番に切り替えて行きます。特に"右"⇒"左"⇒"両"に切り替えた際に発動機の回転数が落ちた場合、つまりどちらかの発電機に問題がある場合には発進中止となります。

3.
足踏桿(34)の足踏制動装置を踏む

機のプロペラが回転しても前進しないようにするための措置です。
構造的には足踏桿(34)の足踏制動装置つまりペダルを踏み込むとオイルを通じて主脚のホイールのドラムシュウがタイヤのリムに押しつけられブレーキがかかります。

現代のバイクで言えばオイルポッドを持ったディスクブレーキとワイヤー式のドラムブレーキの中間みたいな構造です。なお、ブレーキの利きはいわゆるカックンブレーキで簡単にロックしてしまうため、整地の悪い飛行場では棹立する事故が多かったとの記述が見られ、事実、米軍も捕獲機についてはブレーキを交換対象にしていたようです。

ベテランになるといとも左右の足踏桿のベダルを微妙に操作し、簡単に飛行機溜りでクルリを回転し格納できたようです。
 

■運転

1.
最低回転にて油圧の点検(16)

94式滑油圧力計(16)にてエンジンの油圧が4Kg/2cm以上となっていることを確認します。

2.
回転安定

エンジンの回転が安定していることを確認します

3.
「プロペラ」最低ピッチ

瓦斯槓桿(23)の傍のガバナー(恒速調速器)の操作レバーを最も下に押し下げます。

4.
暖機運転

1式滑油温度計(22)つまりオイルの温度が60°になるまで暖機運転を実施します。なお、油温は120°が限界温度です。

5.
機能点検運転

機能点検運転を実施する。100式回転計(12)での回転数1,400回転を維持し機能点検を実施します。

6.
点火開閉器(10)切替点検

ロータリー式のイグニッションスイッチを切り替えダブルプラグであるので“左”“右”“両”を切り替え左右の点火プラグの状況に異常がないか確認します。

7.
プロペラ最高ピッチ

瓦斯槓桿(23)の傍のガバナー(恒速調速器)の操作レバーを最も上に引き上げます。プロペラピッチ角は44°となり、エンジンの回転数は900回転低下します。

8.
プロペラ最低ピッチ

瓦斯槓桿(23)の傍のガバナー(恒速調速器)の操作レバーを最も下に押し下げます。プロペラピッチ角は24°となり、エンジンの回転数は900回転上がります。

9.
与圧力自動調整装置点検

与圧力自動調整装置を点検します。

10.
機上配電盤のスイッチを入れる

パイロットの右側にある機上配電盤のスイッチを入れます。羅針盤灯、信号灯、照明灯、ピトー管電熱、下げ翼、脚標識、電流電圧計切り替え等々。

11.
下げ翼機能点検

蝶型下げ翼つまり空戦フラップが操縦桿の押釦開閉器(26)もしくは配電盤スイッチにより空戦フラップの出し入れが問題ないか状況を確認する。

12.
脚信号燈(24)の点検

脚信号燈が正しく点灯するかチェックする。主脚が格納されている場合には左側の“赤”が点灯し、主脚が出されている場合には右側の青が点灯する。

13.
油系統の点検

オイル系統の確認を実施する。オイルで駆動されるのは主脚操作(出入)、主脚ブレーキ、下げ翼(空戦フラップ)、機関砲の装填等。したがって、高圧油ポンプの稼動状況から脚下翼油圧計(11)、94式潤油圧力計(16)をチェックする。

14.
ペーパーロックに対する処置

離陸前に瓦斯槓桿(23)を2・3回急激に操作し「ペーパーロック」の有無を点検します。必要であれば、燃料注射ポンプ(17)を使用します。

離陸に際しては瓦斯槓桿(23)の急激な操作を避けるとともに燃料タンク加圧計(27)で燃圧を確認します。燃料タンク加圧計(27)が振れるまたは低下(0.2)程度するようであれば機を失せないで燃料注射ポンプ(17)を使用します。

ペーパーロックとはヴェイパーロック(vapour lock) のことで気温が高い場合、エンジンへの燃料管に気泡が生じて燃料供給が閉塞することです。最悪、墜落に繋がり現代でもパイロットはヴェイパーロックについて最も注意すべきことの一つとして教育を受けています。

■地上滑走

1.
カウルフラップの規正

カウルフラップとはエンジンカウリングの後部・全周部にあるスカートの部分です。環型フラップ開放操作はパイロットから見て右側側部にある小型のハンドルを回します。
始動準備にて全開としていますので、熱地(東南アジア)寒冷地(アリューシャンや北方)での運用に応じてエンジンがオーバークールあるいはオーバーヒートしないよう開度を設定します。

2.
防塵網の点検

図には出ていませんが瓦斯槓桿(23)の傍に(パイロットから見て左側)に防塵覆槓桿(レバー)があります。それを手前に引くと“閉”押し出すと“開”となります。コンクリの滑走路の場合や上空では閉で良いのですが板敷や整地されていない滑走路の場合には開とします。

3.
配電盤スイッチ類の確認

パイロットの右側にある機上配電盤のスイッチの状態を確認します。チェックポイントは羅針盤灯、射撃、蓄電池、発電機、信号灯、照明灯、ピトー管電熱、下げ翼灯、脚標識灯、潤油計灯、電流電圧計切り替え確認等々です。

4.
機関砲二方コック通

図には出ていませんが瓦斯槓桿(23)の後方に(パイロットから見て左側)に機関砲のコックがあります。ホ103機関砲(5)については油圧式ですので、機関砲用油圧ニ方コックを上方に抽出し後方に倒すことになります。

5.
無線機の確認

図には出ていませんが配電盤スイッチの後方に99式飛3号送信機(機体内に格納)及び同受信機(燃料計(31)の上部に設置)の起動器がありますので、ボルテージでの起動を確認します(24V〜29V)。また、そのさらに後方には電鍵、送話器、受話器のジャックがあり確実にジャックインされているか確認します。なお、99式飛3号無線機の通信距離は対地上で約100Kmでした。

6.
タブの正規

バランスタブ(平衡舵)を当該機に有った設定を行う。ちなみにタブとは一般的に昇降舵、および方向舵のに取り付けられた小さな翼で、操舵力を小さくしたり、あるいはトリムをとることによりパイロットの負担を軽くする。タブにはプロペラトルク舵面を修正するための固定タブもある。

7.
制動機の効き点検

主脚油圧ドラムブレーキの利きについてテストします。
8.
前後左右上下に注意

地上走行時には視界が悪いため、発進前には前後左右上下に注意する。

9. 安全バンド装着

安全バンドは座席の腰掛部に固定された幅数センチ、2穴式の皮ベルトで、自動車でいえば後部座席の安全ベルトの構造によく似ています。なお、腰掛の高さは調整できますが、スライドはしません。その代わりに足踏桿(34)の奥行きを調整しました。したがって、乗機は一度調整すると変更することは少ないため専用機的な要素が強いものでした。



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