The Japanes Army Type 1 Fighter Hayabusa
(Ki-43 Oscar) Research Laboratory. 一式戦闘機 「隼」 研究所 |
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オリジナル資料 栄20型発動機(栄エンジン,Sakae-21(Ha-115))図面。中島飛行機武蔵野製作所 図統19 2.29 出図 昭和19年2月27日 極秘「図面番号明細表」より。集成図面集は非常に大きな出図群となっており精緻に作成されている。当時の設計レベルが高いことが見て取れる。 |
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■日本軍用機の発動機の系譜 下記の図は陸軍兵科乙種幹部候補生のノートをそのままにスライドにした資料「日本軍用機系統」です。後年の関係者・研究者が纏めたものではなく当時の軍部での各社の発動機系統に関する認識・教育ついて初出の資料となりとても興味深いものです。なお、このノートの持主は主に二式単座戦闘機鐘馗の整備に係わることになります。 原文ママに記載しておりスペック等について疑義があろうかと思いますがオリジナル故、容赦をお願いいたします。このように中島系統の発動機は米国系として教育・認識されており、隼発動機の系譜は米国系ハ25系統に連なる発動機でした。 ■一式戦闘機「隼」発動機(エンジン)概説 隼には中島飛行機の14気筒複列空冷星型発動機を搭載しました。よく米国の模倣であるとされるのですが、当時は世界的に空冷発動機の時代であり、世界標準としてライト社やプラット・アンド・ホイットニー社の技術が各国で模倣されていました。米国製発動機の源流は欧州製の模倣ですから、当時の状況からハ25(栄)発動機は模倣と言うより世界標準に準拠し日本独自に発展させた発動機という表現の方が良いのではないでしょうか。 なお、現在の復元というよりファブリケーションモデル(工業模倣品という意味)での隼及び零戦にはプラット・アンド・ホイットニー社のR-1830-94ツインワプス(DC-3輸送機に使用1,650hp)やライト社のR-2800 ダブルワスプ(F6F等に使用)が使用されており、発動機の重量とバランスを取るために尾部に150Kg程の錘を載せるというアンバランスな構造を取らざる得ない機体構造となっています。 本家のハ25(栄)発動機はR-1830よりも一回り小さく(発動機直径で110mm程小さい)、また、120kg軽いのでR-1830は隼の純正のカウリングサイズに入れることができません。中島飛行機の発動機がいかに小さかったかが判ります。R-1830の排気量は1830キュービックインチつまり30リットルなのですが、ハ25は28リットルで排気量も小ぶりとなります。 復元隼や零戦はカウリングの成形に苦労しており、とうしても頭でっかちとなって不恰好となります。それをオリジナルの機体としてムック本に紹介される現状には残念な感があります。なお、ハ25(栄)オリジナル発動機に米国製のプラグや艤装類(パーツ)がそのまま付いてしまうことはご愛嬌となります。
■隼への搭載発動機の種別と呼称 ムック本では一式戦闘機「隼」及び零戦の発動機について各々のタイプの違いにより搭載している発動機の名称がそれぞれ違うことから構造が異なる複数種類の発動機を搭載しているように感じてしまうと思います。しかしながら、実際は同系列の1種類の発動機であり、発電機、ポンプ類、過給器やエタノール噴射等の補機類の付加種類や減速機構造の相違によるバリエーションにすぎないのです。 隼に搭載された発動機については陸軍名称、正式名称、海軍名称、陸・海軍統一名称の四つがあるため、混同されることが多々ありますので、下に整理をしておきます。一番生産され使用された発動機ですので、この整理について思い出していただけると良いと思います。もっとも、マニアの間では陸・海軍機を問わずこれらのシリーズを単に“栄”と呼んでいます。 なお、陸軍のパイロットである空中勤務者や整備を担当する地上勤務者からはもちろん陸軍名称で呼ばれますが、発動機や機体の取扱説明書では正式名称で書かれており、資料を確認する際にこれもまた紛らわしい所があります。なお、統一名称のハは発動機を現し、3は複列14気筒であることを現しています。 (1) 一型 陸軍名称 : ハ25発動機 正式名称 : 九九式九五0馬力発動機 海軍名称 : 栄12 海軍略号 : NKIC 統一名称 : ハ35−12型 (2) 二型 陸軍名称 : ハ115発動機 正式名称 : 一式一一五0馬力発動機 海軍名称 : 栄21 海軍略号 : NKIG 統一名称 : ハ35−21型 (3) 三型 陸軍名称 : ハ115U発動機 正式名称 : ニ式一一五0馬力発動機 海軍名称 : 栄32 海軍略号 : NKIF-S 統一名称 : ハ 35-32 型 ■ 発動機構造 ここでは、「中島飛行機発動機写真帳」、「発動機工技教程(案)(九九式九五○馬力発動機)」昭和17年7月陸軍航空整備学校、「飛行学生用零式艦上戦闘機(二一型)整備術教科書」昭和18年2月大分空 桃田大尉及び「一式戦闘機説明書」昭和17年1月陸軍航空本部や中島飛行機発動機史中川・水谷両氏の共著酣燈社1983年)、「栄発動機(ニ○型)部品明細」昭和19年2月27日、陸軍兵科乙種幹部候補生のノート)を読み解きながら栄発動機について今まで語られていなかった発動機運動動作以外の部分も含めて具体的にその構造を解説をして行きます。 (1) 前部構造 @ シリンダ シリンダはシリンダヘッドおよびシリンダボティからなり、シリンダヘッドはアルミニュウム合金鋳造で出来ています。シリンダヘッドには冷却フィンを埋め込んでいます。シリンダボティは窒素鋼鍛造品でシリンダ内面は窒化して強化してあり、外周に削形成した冷却フィンを持っています。シリンダヘッドをシリンダシリンダボティに螺込して一体化しています。 この一体化したシリンダは熱放熱効果を目的に黒色エナメルを焼き付けています。したがって、プラモデル等で発動機を再現する際にはシリンダ部は黒色が正しいことになります。 シリンダが前部7個、後7個互い違いにクランク室に12本のスタッドボルトで取り付けがされます。スタッドボルトを使う構造は1980年中盤までの空冷ポルシェ発動機と同じ構造です。なお、クランク室はジュラルミン鍛造製であり、前部・中部・後部に分割され、リーマーボルトにて正確に組み合わされています。 シリンダ番号は前列最下部を前1番として回転方向に順次前2番、前3番と呼称し、後列は最上部を後1番として回転方向に順次後2番、後3番と呼称します。戦記物で発動機始動前にオイルシーリングが不完全なため下部シリンダに溜まったオイルを抜くため「1番の点火詮(プラグ)を抜き潤滑油を落とした」とされるのはこのシリンダ番号の事を指します。 なお、回転方向とは空中勤務者から見て(発動機後方から)ということになりますので、下の写真での番号付で間違いありません。また、互い違いとなって埋め込みされている前部シリンダと後部シリンダですが、後部シリンダを空気で冷却するため、導風板を使用しています。導風板はジュラルミン製、やはり黒色エナメルを焼付けています。
Aピストン、コンロッドとパワープラント このシリンダーの中に内径(ボア)130mmのジュラルミン鍛造ピストンがコンロッドに繋がれてシリンダボディ部を150mm上下する(ストローク)行程をもっています。このように、シリンダーボア(内径)よりピストンストローク(行程)が長いので、ハ25(栄)発動機はロングストローク・発動機なのです。 ロングストローク・発動機の特徴は低回転でも、ピストンスピードを高く保てることで、効率の良い爆発が得られるということです。ハ25(栄)のシリンダ容量は1,990CCと1本で約2,000CC、14本で27,860CCつまり、28リッター発動機であるといえます。1本で中型の普通乗用車並みの排気量なのですから、これ以上のボアアップやロングストローク化は限界ですので、性能向上には多気筒化の道を歩むことになります。 実際、奇跡の発動機と呼ばれるハ45(誉)発動機についても、ピストンはハ25(栄)と共用しており、ボア130mm×ストローク150mmでした。
栄発動機の燃焼室についは、半球型燃焼室となります。半球型燃焼室の特徴は、燃焼の圧力が均等に広がる流体力学的に理想的な形状として当時のレシプロ航空機に一般的に採用されている構造でした。 ■シリンダ アルミニュウム鍛造合金で1.5mmの冷却フィンを持ち、フィンの間隔は3.54mmとなっており、冷却効率が最大と なるような間隔で埋め込まれています。 ■バルブ 75°の取付角をもっています。 バルブ直径は67mmと大きく、ステム径が11mmであることから、残存しているバルブはインテークバルブであることが 判ります。 ■ピストン 直径130mmでアルミニュウム鍛造合金製。 内部上部に栄を特徴付ける格子状の冷却フィンがあります。 なお、ピストン上部にある切欠はプロペラピッチのコントロールが上手く行かず発動機が過回転(オーバレヴ)した場合にバルブジャンプを起こしますが、その場合バルブがピストンにヒットしないようにするためのものです。 B点火詮(プラグ) 点火詮は陸軍型番;丙202(丙20ノ2)を使用していました。海軍型番ではTIBまたはTIA(ムック本ではT1Bとなっていますが制式型番ではローマ数値の”T”、TIBが正しい)となります。点火詮の個数は28個。シリンダ1個につき前部点火詮1、後部点火詮1の合計2個のプラグを使用します。つまりツインスパーク(ダブルイグニッション方式)となります。さらに、安全対策のため点火系も磁石発電機(オルタネータ)から二重化する機構を取っており、電装系の飛行中の故障による発動機停止を防止しています。 なお、一式戦闘機ニ型の発動機であるハ115(栄21型)については、上の写真のように丙203(丙20の3)の4極タイプのプラグが使用されていました。海軍型番ではYIH(これも同じでY1Hではありません)となります。
C点火詮コード(プラグコード) 点火詮コードはチオナイトゴム被覆高圧電纜、つまり耐熱ゴム製の被覆の下にアルミ編線シールドを行ったプラグコードを使用しています。これを磁石発電機(オルタネータ)から点火詮電纜管(無線遮断可撓鎧管)、現代で言うアルミフレキ管の中を通して無線に雑音が入るのを防止しています。 Dプロペラ調速器(プロペラガバナー) 一式戦闘機「隼」は金属製二翼(一型)および三翼(二型・三型)のハミルトン式油圧定回転恒速プロペラを採用しています。定回転恒速プロペラとは、この調速器のコントロールによってプロペラの回転数を任意の回転数にコントロールしています。 調速器は駆動系・弁バネ・油圧操作弁で出来ており、発動機の回転数が上がれば操作弁が上がり、プロペラ内の油筒の高圧油が制限されることでプロペラピッチが高ピッチとなり、回転数を落とせば操作弁が下がりプロペラ内の油筒に高圧油が送られることで低ピッチになるように油圧操作弁にてコントロールする機能を持っています。
(2)後部構造 @ 気化器(キャブレター) 中島の二連降流100甲気化器(ハ25は中島二連昇流100甲気化器)を装備していました。この気化器は中島低圧燃料噴射装置ニ型が出るまでは当時のほとんどの星型発動機を積む戦闘機及び爆撃機に官給品として装備されていました。 このキャブレターの特徴として戦闘行動中の特殊飛行(背面飛行や宙返り等)でも正常な燃料噴射ができるように自動でオーバーフローしないよう調整してくれ、複雑なGがかかったとしても、常に一定のガソリンをシリンダに噴霧することができました。 また、同キャブレターに高度弁自動装置(AMC オートマチック・ミクスチャ・コントロール)を備えたことによって、空中勤務者は燃料混合比についてオートで混合比が設定されることで、面倒な高度による燃料混合比のレバー調節(高空弁調整)から開放されました。
A 慣性始動機 栄発動機説明書には、「起動装置として本発動機は電動起動装置を装備する。又慣性起動装置をも装備することができる。起動装置は発動機後蓋後面中央部に8本のスタッドボルトにより取り付けられ、起動爪は起動軸に噛み合い、直接クランク軸を回転させる。」としています。 一式戦闘機「隼」や零戦には電動ではなく、ハンド・クランキングタイプの手動の慣性始動機が装備されていました。
実際の動きについては、地上勤務者が2名程で慣性起動装置に差し込んだクランク棒(転把−てんぱ、エナーシャハンドルとも言います)を毎分75〜80回転まで回転させます。といっても、 上記の銘板については「二号慣性起動機 特許第77038號(エクリップス會社)東京計器製作所製造」となっています。二号慣性始動機は栄21型以降に装着されていたこと、陸軍のマークが付いていることから、一式戦闘機「隼」U型以降にも同様な銘板が付いていたものと思われます。 一式戦闘機「隼」や零戦に装着されていた起動機については、東京計器製作所製造が米国のエクリプス マシーン カンパニィからライセンスを受けて生産していたことが判ります。ちなみに、当時のBENDIX ECLIPSE MACHINE COMPANY AIRCRAFT ENGINE STARTERの製品群を見ると、3番の製品零戦に実際に積まれていたのは、3番の製品のライセンシーでフライホイールを手動クランキングで回転させるタイプです。の先は増速ギアでフライホイール(ハズミ車)と結合され、フライホイールを約200倍に増速して毎分約12,000回転まで持ってゆくことになります。 ですから、転把を回転させた場合、サイレンのような唸り音が出ることになります。12,000回転となったら、地上勤務者が空中勤務者に合図を出して、地上勤務者がクラッチ転把を引き、発動機のクランク軸と結合させると発動機が回転する仕組みです(コックピットにもクラッチ転把が装備されています)。 そこで、空中勤務者は始動押鋲を押しながら、一号点火開閉器を右、左、両へと位置させると、発動機が重い息継ぎをしながら轟音とともに目覚めることになります。なお、電動起動装置は単に人が回すクランク回転動作をモーターに置き換えたものになります。つまり、この原理については車のセルスタートと同じなのです。。 なお、一式戦闘機「隼」の場合、零戦と違いこの慣性始動機からジョイントがついたロッドが付いて延長されており、エナーシャハンドルはちょっと遠方から、つまり主脚収納孔に差し込みからフライホイールを回転させることができました。 B 磁石発電機(始動発電機) 磁石発電機はその名前の由来の通り磁石を回転させて発電する装置のことで、車で言えば整流器が付いていない昔のオルタネーターと思って差し支えありません。構造は永久磁石を回転させて、コイルの内側の磁界の強さを変化させて、コイルに電流を発生させる電磁誘導型の発電機でシンプルで故障が少なく熱にも強いのが特徴です。 ここで発電される電気は交流電流であり、スパークプラグを発火させる高圧電圧を生み出すのみに使用されます。1気筒に二つのプラグが付いていると先に記載しましたが、右側の磁石発電機が気筒前方用で、左側が気筒後方用になります。 飛行中、どちらか一方の発電機が壊れたとしても、同じ気筒の前後のプラグで発火するため、火花は間違いなく飛ぶので発動機は停止することはありません。空中勤務者は発動機スタートにおいて、必ず一号点火開閉器のロータリースイッチを"閉"⇒"右"⇒"左"⇒"両"と順番に切り替えて行きます。特に"右"⇒"左"⇒"両"に切り替えた際に発動機の回転数が落ちた場合、つまりどちらかの発電機に問題がある場合には発進中止となります。 また、機上バッテリーが上がって、あるいは撃ち抜かれたとして機内の電気が供給されなくなっても、この発動機に艤装された二つの発電機の内、いずれか一方が動いていれば飛行になんら影響がありません。 C 機上発電機 機上発電機とは機上で使用する電気を発電する直流発電機で、発動機の高圧スパーク以外の照明電球及び無線機、爆弾投下装置、機関砲や「電気系構造」で説明する全ての電子機器の電源を発電するものです。実機の機上発電機は、一式戦闘機「隼」一型においては、九七式一号機上発電機を、一式戦闘機「隼」ニ型・三型については百式1キロワット機上発電機が使用されていました 【百式機上発電機のスペック】 形式:外部強制通風型直流分巻発電機 電圧:30V 電流:33A 容量:1KW 機上発電機は上記写真のように栄発動機の軸歯車と1:1.44の比で直結され、発動機の回転数が1,250回転の時、発電機の回転数は1,800回転となり650W(二型は1000W)の発電を行います。 発電された電気は防火壁に取り付けられた「挿入栓座箱」を経て配電盤内部を通過して座席後部にある「機上発電機用電圧調整機」にて電圧変動及び電流変動を整えられ、機上配電盤に導かれ機上蓄電池(バッテリー)へと繋がれます。ただし、一型初期の場合にはバッテリーは装備されておらず、配電盤に直に供給されます。 一型後期から二型以降についてはバッテリーから配電盤に設けられた種々の開閉器(スイッチ類)により分配、供給されることになります。 九七式一号機上発電機のスペックは発電容量650W、電圧27V、電流24Aとなり、電熱服の使用においてはあまり余裕がない発電量ですが、二型になり1000Wの十分な発電量となりました。 D 空気ポンプ 空気ポンプは燃圧等を維持するための空気圧力を供給するものとなります。 E 真空ポンプ 真空ポンプは98式人工水準器(二型以降に装備)、98式旋回指示器等航空計器の内、計器内にジャイロ(コマ)を装備する機器にバキューム圧を供給しました。 F 減速装置 一式戦闘機「隼」の一型の減速装置はアルミニュウム合金鋳造製、遊星平歯車式となっており、減速大歯車1、中間歯車6、固定歯車1からできています。構造は固定歯車の周囲にプロペラ軸に支持された中間歯車6をクランク軸にかみ合わせて回転させるもので、減速比は11/16つまり、0.6875となっています。二型はハ115となり傘歯車減速装置となり減速装置部が巨大になりました。ちなみに零戦でもまったく同じ減速比である11/16でした。ですから一式戦闘機「隼」の零戦の栄の違いは無く基本的なスペックは同じであった、と言う事が言えるのではないでしょうか。 なお、減速装置は、発動機の進化により高回転化するクランク軸に対してプロペラ回転を減速させる効果と、プロペラの振動を直接クランク軸に伝えない効果を狙ったもので、高性能発動機に必須の装置となっています。傘歯車減速装置の方がプロペラの振動対策上、効率が良かったと思われます。 ■過給器(スーパーチャージャー) ガソリンが燃焼するには酸素が必要です。航空機は3次元で機動しますから、高度が高くなるについて空気が薄くなり、当然酸素量、つまり空気中に含まれる酸素の濃度も著しく減少してしまいます。 下の表でも判る通り、高度5,000mでは酸素濃度は約半分になるため、空中勤務者は酸素瓶から酸素が供給されないと失神までは行かないまでも物を考えることができませんし、発動機の出力も論理上は半分になってしまい、浮いているのがやっとの状態になり戦闘どころではありません。
スーパーチャージャーはこの薄くなった空気をコンプレッサーの力で圧縮して発動機のシリンダの送り込む装置になります。栄発動機が採用していたコンプレッサーは、クランクシャフトから直接ギアで大きな扇風機のような翼車を回転させて、気化器(キャブレター)からのガソリンと空気の混合気を風圧で圧縮し、各シリンダへ導流翼で導き送り込むものでした。 シンプルな機構故、高い信頼性がありましたが、スーパーチャージャーとしては原始的(原型的)で連合国が使用していた発動機後部に艤装していたツインブロワー式のスーパーチャージャー(形状がターボチャージャーに似ており発動機に詳しくないライターの方ですとターボチャージャーと記載してしまいがちです)に比較して圧縮効率が悪いものでした。 圧縮効率が悪いと書きましたが、誤解していただきたくないのは必要な混合気の圧縮ができなかったということではなく、必要な圧縮は得られたが犠牲にするエンジン出力が不相応に大きかったということなのです。なんと言っても栄のスーパーチャージャーは簡単に言うと発動機内に設置した大きな扇風機1個で混合気を送風する機能しか持っていないからです。 大きな筒の中で回転している扇風機を思い浮かべて見て下さい。低回転で翼車を駆動するには軽い力で良いでしょう。しかし、高い過給圧を得たい時には話しは別です。翼車で前方に押し出した圧縮された混合気が戻ってこようとする抵抗が発生します(逆流圧)。 この逆流圧が抵抗となって翼車を回すためには大きな力が必要となってきます。戦闘時に必要な最大過給圧を得ようとした場合には、この逆流圧をさらに押さえ付け翼車と言う大きな扇風機で送風する必要があるため二次関数的に飛躍的に大きな駆動力が必要となります。 栄の過給器はクランクシャフトから直接ギアで駆動力を取り出す方式ですので、エンジン出力の数%以上が犠牲なって、圧縮効率が悪いのです。また、高熱となる発動機内部に圧縮工程があることで、吸気及び混合気が熱で膨張して圧縮し難いこともデメリットです。 栄12型発動機の圧縮工程は1段1速のみとなります。つまり圧縮する工程が一回のみで、回転翼も一つの大きな扇風機みたいな翼車をギアで直接回転させるのみですから、1段1速ということなのです。自転車で言うならママチャリみたいなもので、ペダルの漕ぐ力=シャフトスピードがダイレクトに圧縮風力の性能に関係してきます。 栄21型以降では、1段2速を導入しました。これは、変速ギアを介することで、翼車を更に高速で回転させる仕組みを導入して、圧縮風力を増速させました。つまり、圧縮工程は一回で変更がないため一段で変わらず。ギアにより風力を増加させる2スピードで2速ということになります。先ほどの自転車の例で言うなら変速ギアをもつスポーツ車となります。ちなみに高度4,070m(回転数2,600回転の時)で二速に増速します。 先ほど記載した通り、栄のスーパーチャージャー式過給器はクランクシャフトから直接動力を取り出す方式ですので、エンジン出力の数%以上を犠牲にしますし、直径30.5cmの大きな扇風機を回すので、回転数にも限界が生じて効率的ではありません。 ちなみに、栄の場合どのぐらい翼車が回転するのでしょうか。本ページの発動機スペック・性能表を見て下さい。回転数・曲軸というのがクランクシャフトの回転数です。常用は2,480回転ですね。二段増速の場合、初出ですが翼車の回転数は「曲軸ノ8.5倍ニ搗ャセラル、即ち毎分20000回転の高速回転ヲナス・・・」と記載されておりますので、なんとあの大きな翼車が2万回転する訳です(ちなみにハ25(栄12型)一速の場合には17,800回転、ハ115(栄21型)は15,800と同じ一速でもハ25はワイドレンジとなりますが、与圧高度に限界がある訳です)。 ちなみに家庭用扇風機の"強"の回転数は毎分1,600回転ですからその13倍以上の高速で回転させる訳です。ちょっとしたタービン並みで発動機の駆動力もかなり食われる訳ですが、軸回りに高耐久の材料や高い工作力が必要となります。 連合国側の最新鋭戦闘機は、スーパーチャージャーを二段として、内部ギアにて2速で回転数を切り替える方式、つまり2段2速方式を採用しており、さらにその先の技術として発動機の出力をロスしない排気圧でインペラーを回転させて空気を圧縮するターボチャージャー方式に移行することになります。 ■水メタノール噴射装置 後期の一式戦闘機「隼」を特徴付ける機構として水メタノール噴射装置の装備があります。零戦では1機のみ試作機が製作されたまま、とうとう実用化に至らなかったのですが、一式戦闘機「隼」では三型として1,153機が装備していました。 三型については、推進排気管(単排気管)、メタノール噴射、気化器空気吸気管の効率向上により、大島設計主務をして、「速度は零戦の各型より優速となり、上昇力、航続距離、操縦性何れも上回り、劣っているのは武装のみという生まれ変わりようであった」と感慨させる程で、特に水メタノール噴射による約100馬力の馬力向上については、優速に大きく貢献しました。 この水メタノール噴射とは、水エタノールを直接燃焼させることによって、爆発cal(カロリー)を得る事ではなく、発動機を従来より高圧縮・高回転させた場合の高熱発生による異常爆発(デトネーション)を水メタノールによって冷却することで抑制し、ガソリンの対爆性を向上させ、ピストンやバルブの溶解・破壊から守るための装置です。 本来は水の噴霧だけでも良いのですが、熱地以外では高高度まで上昇しますと、0度以下になり水が凍るため、メタノール(メチルアルコール)を加え凝固点を下げ不凍液としている訳です。装置としては、ブースト圧+200mmHg以上で水エタノールをガソリン対して一定量をベローズを使った補助噴射調量装置で噴射し、シリンダ内に混合気とともに導入し制爆するものですが、巡航時等低ブースト時には全く水エタノールは噴射されない構造としていましたので、戦闘行動等ここ一番の時に効果を発揮していました。 なお、発動機はピストン、シリンダ、シリンダボディと全てアルミ合金製で出来ているため、水+メタノールに加えてアルミ防蝕用のため、重クロム酸カリを少量加えていました。 この装置の導入により操縦士をして「私が今健在で居られるのは、一式戦三型に乗っていたからで、他の機種であったら、おそらく命が無かったでしょう」とまで言わしめる効果を発揮しました。
■発動機スペック ハ25の発動機スペックをオリジナルからそのままの形式で載せています。ムック本でもよほどのマニアではない限り表は読み飛ばすものですが、一度しっかりと読んでみると以外が発見があろうかと。例えば、プロペラって離陸も巡航総度でも一分回に1,800回で変わらないんだなあ、なんてです(ペラのピッチが重要なんですね)。なお、判りにくいものは()書きにて私が追記していますので注意下さい。 ○緒元表
○性能
○使用限度(使用制限)
■発動機の特徴 上記の当時のオリジナル・発動機スペックだけでは今一歩発動機特徴が判りませんので下記に具体的な発動機の特徴を記載しました。
■ 発動機種類別性能比較表 一式戦闘機「隼」で使用された発動機の種別毎の性能の比較表を掲載いたします。この表については前出の陸軍兵科乙種幹部候補生のノートから原文ママに作成しました。したがって、ムック本や栄10型及び栄20型取扱説明書と相違し、文書には落とさない口頭で説明する軍秘匿要項の記載もあり、とても興味深いものです。したがって、スペック等について疑義があろうかと思いますがオリジナル故、容赦をお願いいたします(もちろん、面白いことにムック本よりこちらの資料の方が論理的に合致していると思われる箇所も多くあります)。 なお、表中「ハ105発動機」についても記載されており、これも原文ママとして記載をさせていただきました。「ハ105発動機」はキ43(一型)と並行して増加試作機として作成され、後のニ型の原型となる増加試作5号機及び9号機用に、中島飛行機が最初の2速過給器(与圧器)をハ25発動機(栄12型)に装備したものです。これはハ25同様にダウンドラフト式(降流式−キャブを上に設置するものです)キャブレター(気化器)及び、ハ25同様オイルクーラーは環状滑油冷却器を持ちます。 しかしながら、「ハ105発動機」は与圧高度が低く戦闘機用とは適さなかったことと、吸気管の下にある点火詮の交換に半日掛るという整備性の悪さとも相俟って、一式戦闘機「隼」への本格的な搭載は見送られています。 このハ105の欠点を改善して製作されたエンジンこそがハ115(栄21型)であり、第二次大戦中最も製作されたベストセラー発動機となりました。
(1) 全体 全長1.3m、直径1.2mと14気筒としては非常にコンパクト。シリンダのボア&ストロークは130mm×150mmのロングストロークでこれ以上のボアアップは限界。全行程容量は27,900CC。大型トラックはV10気筒3万ccなので同じくらいか。 (1) OHV 2バルブである オーバー・ヘッド・バルブで、4ストローク機関の吸気1バルブ、排気1バルブをシリンダヘッド上に備えている。構造的にはカムシャフトがシリンダの横に位置し、プッシュロッドとよばれる長い棒を介してロッカーアームを押し上げバルブを開閉させています。単車のハーレーがOHV2バルブ。レシプロ航空機にはOHCやDOHCは構造が複雑になり重量が過重となるため、現代でも利用されておりそんなに古い構造ではないのです。 (2) ツインスパークである 1気筒あたり2本スパークプラグを配置することにより、気筒内の燃料に火炎が行き渡りやすいようにし、ノッキングを回避しながら圧縮比を上げることが出来、出力の向上を図っています。また、これにより1本のプラグ不良では着火ミスが発生しない仕組みとなっており、信頼性向上にも貢献しています。イタリヤのアルファロメオやフェラーリはツインスパークなのだ。 (3) 空冷星型14気筒である クランクシャフトを中心にシリンダーを星状に並べ、ひとつのピストンがマスターロッドを介してクランクピンに繋げられ、他のシリンダーはサブロッドでマスターロッドを介して繋げられています。前列が7シリンダーと奇数であるのは、点火順序を一つおきとすると爆発(燃焼)間隔が等間隔となるため、奇数気筒としているのです。前列に7シリンダ、後列に7シリンダとなっています。シリンダを前後の複列に配置し燃焼をコントロールすることで、発動機を非常にコンパクトにすることができました。 なお、緒元表・形式に複列固定星型空冷式とありますが、その中の“固定”と書いてある部分はその昔、極めて初期の航空機発動機は発動機自体が回転しプロペラを回していたことによります。 (4) 二連降流100甲気化器(キャブレター)を装着したこと この発動機の特徴はなんといっても中島の二連降流100甲気化器(ハ25は中島二連昇流100甲気化器)を装備したことでしょう。原文では以下の通り書かれています。 「気化器は二連昇流気化器にして吸気室下部に取り付けられ気化室、浮子室の二部により成り発動機を潤滑せる還油にて保温せられ加速「ポンプ」、「エコノマイザ」及び与圧自動調節装置を有す」 つまり、当時の単純なキャブレターの常識を超え、中島の二連降流100甲気化器を備えた隼は戦闘行動中の特殊飛行(背面飛行や宙返り等)でも正常な燃料噴射ができるようにキャブレターが自動でオーバーフローしないように調整してくれ、複雑なGがかかったとしても、常に一定のガソリンをシリンダに噴霧することができました。 以外なことに米機は空冷式発動機において、終戦までこのような機構をもたなかったため、日本機の機動にはついていけなかったようです。捕獲機においては、十分なメンテンスをしてから米軍のパイロットが飛びますが、この複雑な機構を理解できなかったため、このフラフラする浮子類を固定してテストしてしまい、同機構の有用性については気付くことはありませんでした。なお、液冷式発動機については燃料噴射装置を装備していたため特殊飛行に問題はありませんでした。 また、同キャブレターに高度弁自動装置(AMC オートマチック・ミクスチャ・コントロール)を備えたことによって、空中勤務者は燃料混合比についてオートミクスチャとなり、面倒な高度による燃料混合比のレバーによる調節(高空弁調整)から開放されました。 |
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